PEARSのシミュレーションってどんなもの?

今日は、横浜で PEARSプロバイダーコース with シミュレーション でした。

PEARSプロバイダーコースのシミュレーション風景

気づけば、いつの間にか日本国内のPEARSプロバイダーコースは、シミュレーションを「省略」するやり方が一般化してしまったので、PEARSのシミュレーションと言ってもなんのことかわからないPEARSプロバイダーさんが多いのが現状かもしれません。

G2010版のPEARSコースのシナリオ進行は、「ラージグループ・ディスカッション」と「スモールグループ・シミュレーション」の2つのやり方から選べることになっています。(参考まで、今後移行していくはずのG2015版ではシミュレーション省略のオプションは撤廃されました)

教育工学を学ぶ立場である、私たち日本医療教授システム学会ITCメンバーとしては、シミュレーション抜きの「ラージグループ・ディスカッション」だけで終わらせることはありえないという考えから、旧来のG2005-PEARSのやり方を踏襲して、シミュレーションありの選択をしています。

PEARSのシミュレーションとはどんなものかを紹介しますと、、、



PEARSシミュレーションの例


PEARSのシミュレーションというのは、BLSを2人ないしは複数人で行うことではありません。PEARSの体系的アプローチ(アセスメント)をマネキンの前で展開し、障害のタイプを判定し、介入し、再評価を行うことを言います。


まずは、症例DVDの映像をちらっと見てもらいます。第一印象はパッと見の評価ですから、そう長々とは映像は流しません。数秒間、患児の様子を見てもらった後、第一発見者の受講者さんはマネキンの前に立ってもらいます。

先ほど見た映像の子が目の前にいますよ、どうしますか? という設定で、シミュレーションを始めていきます。

第一印象の評価で、自分1人の手に負える状態じゃないと思えば、他の医療スタッフ(受講者)たちに応援要請し、3人程度のチームでアセスメントを進めていきます。

第一発見者の指示で、チームメンバーが心電図モニターを装着すれば、手元のモニター画面に心電図波形と心拍数が表示され、パルスオキシメーターを装着すれば酸素飽和度が表示されます。(BLS横浜では iPadのシミュレーター を使っています)

それらのモニターの値や、映像で見た児の呼吸の様子から、呼吸数や努力呼吸の有無などをアセスメントしていき、判定をしつつ、必要な介入を行っていきます。

例えば、小児は舌が大きく、気道閉塞が起きやすいという解剖学的特徴があります。その為、体位を整えるという気道確保が極めて有用です。肩枕を入れたり、抱っこをしたり、ということを実際に試していきます。

酸素投与という話になれば、実際に手元にあるデバイス(経鼻カニューラ、マスク、リザーバー付きマスク、BVM)を選択肢、酸素流量を具体的に指示し、マネキンに装着してもらいます。そうするとリアルタイムにモニターの酸素飽和度が変化していきますので、それを見ながら流量や投与経路を調整します。

吸引も大切な気道確保の手技ですが、小さな子ども相手の吸引は難しく、泣いてしまったらより状態は悪化してしまうかもしれません。また酸素マスクを当てようとしても子どもは嫌がるかもしれません。机上のディスカッションではなかなか考えが及ばない部分です。

講習の前半で知識として学んだことを、マネキン相手ではありますが、アクションとして実施し、結果や反応を見ながら、考え、悩むのがシミュレーションです。

シミュレーションのゴールは?


障害の「タイプ」と「重症度」を判定するのがPEARSコースのゴールと思われがちですが、臨床で使うスキルとしては、判定結果をもとに自分がどう行動するか? が重要です。

判定だけで終わってしまったら、ただの診断ごっこです。

特に、BLS横浜では、看護師向けにPEARSを展開しています。

看護師としては、例えば患児の呼吸障害のタイプが「下気道閉塞」で重症度は「重症」と判断して、すぐに酸素投与と気管支拡張剤のネブライザー投与が必要だとわかっても、ナースの判断で勝手に薬剤を使用することはできません。

となると、臨床的な実行動としては、状況を医師に報告し、必要な医行為の指示を取り付けるというのが看護師の実務です。

そこでPEARSのシミュレーションでは、医師へ電話で報告する、という介入をしてもらっています。

インストラクターが医師役となり、報告を受けるのですが、実際にやってみると、要領のよい報告はなかなか難しいものです。

そんなときは、AHAコンテンツには含まれていませんが、SBARという報告様式を提案してみると、これがしっくりと収まるということに皆さん気づいてくれます。


看護師は、独断や単独で医療処置を行うことはできませんが、医師の指示があれば薬剤投与を含めた大概の医療処置は合法的に行えます。医師がその場にいなくても、医師の目となるような観察をして報告をし、指示を取り付ければ、救命処置を行えるのが看護師です。

そして、体系的アプローチの視点や考え方は、医師も含めた医療界で標準的なもの。

それに則れば、診断は行わない看護師であっても、状況の先読みはある程度できます。しかしそれを診断として行えない立場だからこそ、主観ではなく、客観的な事実の情報を含めて医師に報告して、科学的な推論をアセスメントとして述べて、必要な処置を提案し、具体的な指示を取り付けること。これがSBAR報告です。

そんな風に、指示を待つのではなく、提案(recommend)するという一歩踏み込んだ思考で考え、行動し、実際に声に出して行動してみるというのが看護師にとってのPEARSシミュレーションの主要なゴールと考えています。

そんな医師への報告までの間は、チームメンバーで情報共有し、意見交換し、記録や処置などの役割を分担しながら、評価を進めていくというチームダイナミクスも体験し、「できる医療者が1人」いるだけでは、物事はうまく進んでいかないという大事なポイントも実感していくのです。

PEARSプロバイダーコースの教育的意義

PEARSコースの画期的なところは、嘘偽りのないホンモノの生命危機状態患者の映像を使って観察・評価の練習ができるところにあります。

これは、AHA-PALSやAHA以外の標準化教育プログラムをもってみても類を見ない、PEARSの唯一無二な部分です。

これにより認知スキルが鍛えられます。

例えば、PALSプロバイダーコースでも、陥没呼吸や呻吟といった異常な呼吸様式は出てきますが、主に言葉として出てくるだけで、「見て判断する」という部分は「できてあたりまえ」として扱われており、教育フォーカスは症状の認知ではなく、その先の診断(二次アセスメントと診断的検査)に向けて重きが置かれています。

PEARSをアセスメントのための認知スキルトレーニングと位置づけるなら、映像を見て、受講者同士でディスカッションしながら理解を深めるという学習方法で十分かもしれません。

しかし、それはアセスメント訓練で終わってしまいます。

生命危機状態に陥っている患者をアセスメントする目的は何か?

もちろんそれは命を救うため。状態が悪化して目の前で命を落とすことがないようにするためです。

安定化のための救命処置という「介入」を行うための方向性を定めるツールとしてアセスメントを行うのです。

アセスメントはゴールではなく、過程です。

アセスメントを現場で使えるツールに格上げさせるのがシミュレーション

BLS横浜でPEARSコースを受講した方たちは例外なくシミュレーションの効用を口にします。


  • 座ってアセスメントするのとマネキンの前で立ってやるのではまったく別物みたいで驚いた
  • さっきはわかった気になったけど、いざやってみると意外とできない、わかっていないのを痛感した
  • やったことの反応がちゃんと返ってくるので再評価の大切さを感じた
  • アセスメントを進めるばかりじゃなくて介入のタイミングが重要
  • アセスメントができても、報告につながらないと意味がないとわかった


「わかる」と「できる」の間には大きな隔たりがあります。
そのギャップに気付けるのが模擬体験であるシミュレーションです。模擬体験と実体験もまたギャップがあるものですが、知と行動の溝を認識して隔たりを軽減できる働きが期待できます。

シミュレーションであっても、慌てますし、冷汗びっしょりになることもあります。軽いパニックになることも。

こうした心の揺さぶりを少しでも体験しておくとは、いざというときのためのパニック対策にもなります。

BLSにしてもACLSにしてもPEARSにしても、受講することが目的になってはいけません。

自分はどうなりたいのか、なにができるようになりたいのか?

その最終的なアウトカムに向けての階段のひとつが標準化教育です。

その研修で得たものは、実臨床で実践するためのどのステップに相当しているのか? そこでカバーできていないのはどの部分か?

そんな学びの構造解析をしてみると、学ぶ意義が違ってくるように思います。

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