ファーストエイド一覧

ABCDEアプローチの順番-酸素の流れを追う

PEARS/PALS、ACLSでもおなじみのABCDEアプローチ。
 
これは救急医療で標準の考え方でもあります。
 
D(神経学的評価)とE(全身観察)の評価内容と介入の中身については、外傷系や神経系では若干の方言がありますが、根本的な考え方は変わりません。
 

ABCDEアプローチ【体系的アプローチ】

 
生命危機というゼネラルな考え方の中で特に重要なのは、大気中の酸素が体の中の細胞に届くまでの過程を追っているという点です。
 
その上ではABCDという順番を無視することができません。
 
傷病者がパット見で「意識障害あり」と判断された場合、ついつい神経系の観察を優先してしまいがちですが、その意識障害がショックや呼吸不全による脳細胞の酸素供給不足だとしたら、どうでしょうか?
 
ですから、どんな場合でも、気道が開通していることと、呼吸機能が保てていること、循環機能が保てていることを、この順番で確認していくことが大切です。
 
 

 

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ファーストエイドのシミュレーション

昨日は、久々の開催となるハートセイバー・ファーストエイドコースでした。
 
心停止以外のあらゆる急病やケガへの対応を学ぶ米国労働安全衛生局(OSHA)規格のプログラム。
 
BLS横浜では、部分的にシミュレーション・トレーニングを取り入れて、救急対応を「しっかり学びたい人」向けの展開を行っています。
 
ファーストエイドは、失神への対応、やけどの対応、など、ミクロな視点でいくと、内容があまりに膨大すぎてとても覚えきれるものではありません。
 
そこで、「呼吸、循環、神経系」という生命維持の3大要素と、優先順位の考え方という原点に、すべての処置を帰着させることを強調した展開を行っています。
 
ハートセイバー・ファーストエイドのDVDでも、どの処置を見ても最後は「CPRの必要を確認する」となっています。これは結果的には、反応と呼吸の確認を常に行うことの必要性を言っています。
 
いわゆるファーストエイド処置は、実は行っても行わなくても生命という点ではそれほど重要な問題ではありません。どんな状態からでも、いつでも心停止に移行してしまうという可能性を意識してCPRに備えるというのが、根底にあることを忘れてはいけません。
 
例え軽症に見えたとしても、もしこの人が命を落とすとしたらどんな経路を取るか? それを想像しつつ、いつも最悪に備えて監視するというのがファーストエイドの本質です。
 
 
ファーストエイドコース終了後に1時間半ほどかけて行った複合シミュレーションでは、ありがちな落とし穴をたくさん仕込んでいたのですが、皆さん、そこには引っかからず、命に関わる優先順位の高い問題に着目して行動していたのが印象的でした。
 
意識障害と呼吸障害の両方があった場合、どっちを優先した対応を考えるか?
 
ケースバイケースで明確な答えを示すことは難しい状況でも、どこに原則を置いて考えるか、というノンテクニカルな思考の部分が少しでも伝わったのかなという、手応えが嬉しい講習会でした。
 
ご参加いただいた皆様、傷病者役としての迫真の演技、またシミュレーション後の活発な意見交換、ありがとうございました。
 
インストラクターも含めて、学びの多い8時間でした。
 
 
 

 
 

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ファーストエイド講習で学ぶこと|【知識ではなく考え方】

先日開催した、ハートセイバー・ファーストエイドコースにご参加頂いた方から感想のメールを頂きました。ご本人様の了承を頂き、一部をご紹介させていただきます。
 
今までは、講習の中でもおっしゃっていたように、傷病名ありきの対応で学んでいたので、実際現場では応用がきかないなと感じていました。今回の講習で、シュミレーションから知識と行動がともなわずこんなにも何もできなくなるのかと自分の状況を実感することができましたし、また、何を優先にして考え対応していけばいいのかを、繰り返し伝えてくださったので、そのことが感覚としてわかったのがものすごくよかったです。
 
 
ファーストエイド(応急処置)講習は、とかく病名やケガの羅列になってしまい、雑多な知識の押し付けで終わってしまいがちです。
 
そんな情報の海の中に一本筋を通すのが大切かなと思ってコース進行しています。
 
枝葉に目を向けると難しい印象のファーストエイドですが、幹に着目すれば、意外とシンプル。どんなケガや病気であれ、それが原因で命を落とすとしたら、原因はなにか? 人が生きる仕組みの破綻という視点や、酸素の流れで考えていくとわかりやすいです。
 
ファーストエイドは病名当てクイズではありません。幅広い知識がなくても、エッセンスさえ抑えておけばどんな場面でも、考え、行動できるようになります。
 
そこに気づき、納得し、考える姿勢を学べるのがシミュレーションという経験型の学習です。
 
ファーストエイド講習では、知識ではなくそんな「考え方」を、なるほどと思って体感してもらうことが最大の目的かなと思っています。
 
 

 
 
 

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窒息対応ホントにできますか?【シミュレーションでわかること】

窒息解除法といえば、救命講習の中でも定番で、度重なるガイドライン改訂でもほとんど変わらない古典的な技術です。
 
一般の救命講習でも、ほぼ必ず扱っている内容なので、なにをいまさらと、感じる方もいるかもしれません。(特に指導員は)
 
しかし、訓練方法を変えて、シミュレーションベースでやってみると、様相は一変します。
 
 
誰もできないのです。
 
 
日頃救命法の指導員をしているような人でも、セオリー通りに動ける人は、ほとんどいません。
 
 
こうした現状を見ると、しばしばニュース報道でも見るような、現実の気道異物窒息事故で適切に行動できなかったのは仕方ないことなのかなという気にもなります。
 
 
 
ということで、BLS講習や救命講習を手がけている方は、ぜひ窒息解除法のシミュレーションを講習の中に含めることをお勧めしたいです。
 
特別な道具は必要ありませんし、時間もほとんどかかりませんから。
 
 
 
私達がやっている窒息解除のシミュレーションのポイントは、
 
1.テーブルの前に椅子に座った状態
2.苦しがる演技(できれば派手目に)
 
です。
 
演技の迫真さ(?)が大切ですので、傷病者役はデモンストレーション的にインストラクターがやっています。
 
 
受講者の中で誰か一人救助者役をやってもらいます。
 
腹部突き上げや背部叩打は”振り”だけで、力を入れないようにお願いしておきます。しかし、それ以外のことは本気でやってほしいことも。
 
その他の受講者はその場に居合わせた通りすがりの人ということにしておいて、なにか頼まれたら、嫌でなければ協力してもらうことにします。(拒否するというハプニングのシミュレーション的にはアリです)
 
そんなブリーフィングをしてから、職場の食堂などで食事中に喉にものを詰まらせたという設定で、インストラクターが気道完全閉塞の演技をはじめます。
 
そこで救助者は教わったとおり、腹部突き上げ法(ハイムリック法)や背部叩打法をしようとしますが、問題となるのは傷病者の姿勢です。
 
椅子に座った状態でどうやって、腹部突き上げ法や背部叩打法を実施するか?
 
そこでとまどう方が多いです。
 
教わったはずの立位の姿勢でないために、どうしたらいいかわからなくなってしまうのです。
 
 
助け舟を出す場合は、窒息介助の手順を思い出してもらいます。
 
いきなり背中を叩いたり、お腹を押したりはしないですよね?
 
まずは状況評価と救助の宣言。
 
「詰まったんですか? 今から助けますね」という事になってましたよね?
 
この時に、座ったままで背部叩打や腹部突き上げ法がしにくいようであれば、立ちあがってほしいという旨を伝えればいいわけですね。
 
もしくは自分が膝をついて傷病者の腹部圧迫を行うというのも手です。
 
肘掛けがある椅子の場合や、老人ホームの設定で車いすの場合は、自分で立ってもらうのも困難で、座位での腹部突き上げも難しければ、座ったまま出来る方法として、背部叩打法ということになるでしょう。
 
 
つまり、チョーキングチャーリー(窒息介助練習専用マネキン)相手に腹部突き上げや背部叩打の技術(テクニカル・スキル)を練習しても、問題となるのはその手前のノン・テクニカルな部分が重要な鍵だということです。
 
 
 
 
シミュレーションの中では、背部叩打や腹部突き上げ法だけでは終わらせません。ファーストエイドの基本は常に最悪の状態を想定すること。つまり、そのまま意識を失う演技を続けます。
 
意識を失うタイミングは、現実の時間で言うと1分~2分の間くらいです。
 
窒息解除法は意識(反応)がある場合とない場合でやり方が違ってきます。そこをきちんと認識して対応できるか、というのも、このシミュレーションのポイントです。
 
市民向け講習の中には、意識消失した場合の対応をきちんと教えていない講習もあるようですが、反応がなくなった場合は、床に寝かせて胸骨圧迫からCPRを開始するのが国際コンセンサス。
 
それがわかっていても問題となるのは、どうやって椅子から床に下ろすのかという点です。
 
ここで固まっていたり、試行錯誤しているうちに平気で数分が経過してしまいます。
 
人が息を止められるのは何秒か? そんなことを考えるとこの時間の遅れの重大さがよくわかると思います。
 
シミュレーションで学んでほしいのは、窒息介助は時間との戦いであるという点です。
 
この点と合わせて通報をどのタイミングで誰が行うかというのも問題です。
 
このあたりを受講者全員でディスカッションして、考えられるといいですね、
 
 
やっていることはあくまでもシミュレーションであって、リアルな現場ではありません。
 
シミュレーションゆえにどこまで本気になっていいかわからないからこそ、うまく行かなかったという部分もあるとは思います。
 
しかし心肺蘇生法の国際コンセンサスCoSTR2010のEIT(教育、実行性、チーム)の章でも明記されているように、いざCPRができなかった最大の要因は「パニックになった」という点です。
 
あたまが真っ白になる。それはリアルな現実でも起きることです。
 
知っているはずの技術がいざというときに使えないという現実をシミュレーションで知ることで、本当に動けるためには何が必要なのかが見えてくるはずです。
 
窒息解除もCPRとおなじで、決して難しい技術ではありません。
 
しかし、それはお作法をこなすだけの講習では使えるレベルでは身につかないという現実を直視すべきです。
 
ほんのすこしだけ踏み込んで、5分程度でできるシミュレーションを取り入れることで、受講者意識は劇的に変わるはずです。
 
せっかくの学びの時間をムダにしないために、、、、
 
ぜひ、指導法を検討してみてください。
 
 

 
 

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ファーストエイド・インストラクター育成の方法論

企業から、ファーストエイド・インストラクター育成の相談を受け、取り組んでいるのですが、やはりファーストエイドの指導ができる人材を育てるというのはなかなか難しいです。
 
応急処置は心肺蘇生法ほど単純じゃありませんし、扱う範囲が広い。そしてまた、明確な答えがないという点が大きな要因です。
 
やけどの処置とか、喘息発作の対応など、ひとつひとつを切り分けて、標準的な対応を伝えるだけなら簡単ですが、実際のところ、「何が問題なのか?」を特定する観察法や視点、考え方ができていなければ、個々の処置にはいたりませんし、また複数の問題が合併している場合の優先順位の付け方など、処置以前の問題が山積しています。
 
そこをどう伝えるかが問題です。
 
人が生きる仕組みと死ぬ仕組みを理解して、まずは心肺停止という最悪の事態になっていないかを判定し、次いで心停止につながりかねない危険な状態(生命危機状態)の可能性を吟味し、それから具体的な個々の処置が登場します。
 
この理屈を理解することと、その判断能力を身につけることはまた別問題。
 
頭でわかったことを実践する体験・訓練を経て、初めて「できる」ようになります。
 
簡単にいうと、基礎知識を「レクチャー」で頭で理解したら、すぐにシミュレーションでそれを使えるか試してみる。その繰り返しで知識と技能を結びつけていく作業が必要となります。
 
こうした学習構造を理解して、講義、タスクトレーニング、シミュレーショントレーニング、デブリーフィングといった学習プランを組み立てられるのが、ファーストエイド・インストラクターです。
 
指導者としてゼロの状態からスタートして、どうしたらここまでできるようになるか?
 
その試行錯誤をしているところですが、まず大きな壁は、指導する/教えるということの経験値の絶対的不足があるように思います。
 
いきなりファーストエイドを教えようとすると、そのコンテンツの多さと答えのないつかみどころのない感じに打ちのめされてしまいます。
 
そこでまずは、教える内容(コンテンツ)が確立している心肺蘇生法に特化して指導経験を積むことによって、成人学習の組み立て方やシミュレーションの設定方法の経験値を上げていくのがいいのではないかと考えるようになりました。
 
まずはシンプルなCPR講習を気負わずにできるようになるまで経験を積む。次いで、受講者対象に合わせたCPRのシナリオトレーニングを組み立てられるようにする。
 
このへんまでくれば、学習支援ということの意味や、学習者の反応を見ながらインタラクティブに講習をアレンジする能力が身についていますので、心停止対応を少しずつ拡張する形でファーストエイド指導に幅を広げていくことが可能になっていくことが期待できるのではないか?
 
そんなことを考えて、いま、進めているところです。
 
ファーストエイド・インストラクターには、コンテンツとしてファーストエイドの知識と技術が必要ですが、それ以上にシミュレーション訓練のノウハウがなければ、単なる情報横流し屋に終わってしまいます。(このレベルならビデオ教材で十分です)
 
ファーストエイド講習の目的は、ファーストエイドの知識の流布ではなく、ファーストエイドスキルを持った人材の育成です。
 
それ自体、かなりハードルが高い内容ですが、それを指導する指導員育成をどうやっていくか? 課題は大きいですが、やりがいのある仕事だと思っています。
 
 

 

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防災 ―DMAT増強と地域のファーストエイド力底上げ

昨晩、東日本大震災で初動にあたっていた救急の医師複数とお話する機会がありました。
 
DMATの立ち上げがいくら早くても、交通路が確認されて現地に到達できるまでには24時間〜48時間はかかるという現実。
 
政府としてはDAMT隊を増やすという施策を打ち出していますが、いくら部隊が増えても、東日本並みの災害では、発災直後の肝心な部分は、被災地の人たちや現地の医療者による自助、共助的な部分が生命線になるのは間違いないようです。
 
外部から支援をどう入れるかという発想も大事ですが、それ以上に地元の医療者の防災意識とスキルを底上げすることに力を割くべきではないかという意見。まさにそのとおりだと思いました。
 
医療従事者であっても、免許取得までの間にファーストエイドを学ぶ機会はありません。病院という整った箱の中で立ち回る術は学ぶだけです。ファーストエイドはもともとは市民レベルの応急手当ですが、それすら医療従事者は身につけていないという現実に目を向けるべきです。
 
この部分でBLS横浜はファーストエイド講習の老舗として、果たせる役割があるのではないかと感じた次第です。
 
 

 

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喉にモノが詰まったときのセルフレスキュー

さて、お正月です。
 
この時期話題になるのが、餅による窒息。
 
他人が喉にモノを詰まらせた場合の対応は、救命講習でも指導されていますが、盲点なのは自分が喉に詰まらせたらどうするか? という点。
 
ガイドライン2000の頃は教えられていたのですが、最近はあまり話題にも上らないので参考まで書いておきますね。
 
ガイドライン2000当時、言われていたセルフレスキューの要点は次の二つです。
 
1.気道異物による窒息を起こしたことを周りの人に知らせる
2.救助が得られなければ、自分で自分に腹部突き上げ法を試みる
 
喉にモノが詰まったことを周りの人に知らせて助けてもらう、そのために考案されたのがチョークサインです。喉のところに両手を当てるあのしぐさです。
 
万国共通の窒息のサインなどといっていますが、昔の文献を見ると、このやり方を周知すべきである、と書かれていて、ある意味人為的なサインであることも伺えます。
 
米国ではそれなりに周知されているのでしょうが、日本においてはまだ有用といえるものではない気もします。
 
 
もし救助を得られなければ、自分で自分に腹部突き上げ法(ハイムリック法)を行うしかありません。
 
そのやり方として例示されていたのが、椅子の背もたれや、ドアノブなどの突起物を使う方法です。
 

窒息のセルフレスキュー:椅子を使ったハイムリック法(腹部突き上げ法)

 
突起に自分で腹部を勢いよく強く押し付けて、横隔膜を挙上させ胸腔内圧を上げて喉の詰まったものを飛ばそうという理屈。
 
どれだけ有効なのかはわかりませんが、「藁にもすがる」上での予備知識としては意味があるかもしれません。
 
 

 
 

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ハートセイバー小児ファーストエイドコースの奥深さ

先日、7月末にリリースされたばかりのAHAの最新講習プログラム、Heartsaver Pediatric First AId CPR AEDコースを開催しました。
 

AHAハートセイバー小児ファーストエイドCPR AEDコース

 
Pediatricというのは、「小児」という意味です。
 
つまり、ハートセイバー小児ファーストエイド&CPR AEDコース。
 
AHAコースの中でもハートセイバーシリーズですから、「対応義務のある市民向け」です。
 
米国労働安全衛生局OSHAが定める、職業上必要な救命スキルの、ライセンス認証をするプログラムになります。
 
子どものいざというときに備えなければならない職種、つまり、主には学校教職員や保育士向けのやや高度な応急処置&救命処置講習です。
 
成人傷病者を対象としたハートセイバー・ファーストエイドは、オフィスから工場、作業現場まで幅広い守備範囲がありますが、このAHA小児ファーストエイドコースは、学校や保育所に限局されています。
 
そのためより深く、具体的にファーストエイドの真髄に迫っている感じがあり、’開催していても新たな気づきが多く、改めて「ファーストエイドは個人スキルではなくシステムである」ということを痛感するに至りました。
 
特に小児だからこそ、そうしたファーストエイドの本質が見えやすいのかもしれません。
 
例えば、皆さんもよくご存知の通り、小児の救命の連鎖小児は「予防」から始まっています。(日本版ガイドライン2010では、成人も小児も共通で予防からになりましたが、米国版AHAガイドラインでは、依然成人と小児で違います)
 
子どもは予備力が少なくて心停止に陥ってしまったらほとんど助からない。
 
また、子どもは呼吸原性心停止が多く、いきなり心臓が停まることは少ない。
 
こんなことから小児BLSでも予防、というか心停止に至る前からの介入を教えているのですが、それがファーストエイドになるとさらに顕著になってきます。
 
コースDVDの各論部分の解説でも、必ずprevention、つまり予防から論じられているのです。
 
またファーストエイドはシステムであるという点が何度も示唆されているのも興味深いところです。
 
例えば、学校での授業中に糖尿病による低血糖発作を起こした子どもを救助する場面では、教員は携帯電話で職員室(保健室?)へ電話して、その子の応急救護計画は用意されているかと聞くのです。
 
教員の個人スキルとして、低血糖発作だとは気づいて処置もわかっているものの、糖分の入ったジュースを飲ませるという処置の前には、持病を抱えた子どもに関する情報と事前の打ち合わせ内容を確認しているという場面です。
 
低血糖発作と判断して、糖分を摂らせるというのは、見方を変えれば、診断→治療です。
 
無理矢理飲ませるのでない限り、大きな害もありませんから、ファーストエイドの範疇でいいと思いますが、厳密にいうなら本来は医師にしか許されていない判断です。
 
そんな心理的な負担を現場の教員ひとりに負わせるのではなく、予めリスクがある子どもに関しては対応をプロトコルとして決めておいて、学校のシステムとして子どもを守る準備をしておく。
 
これが本来の学校にあるべき応急救護計画ではないでしょうか?
 
 
また、DVDで示される別の場面。これは保育園のようですが、乳児をこれから預けようとしているママさんが、園の見学に来て、説明を受けている場面があります。
 
そこで母親は保育園の緊急時対応計画について尋ねています。それに答える保育士の説明が見事で、園で行なっている事故予防対策、救急医療機関との連絡体制などを説明しつつも、「私達も皆訓練を受けています。医療機関に引き継ぐまでの対処は、応急処置の範囲としてはしっかりとやらせていただきます」と毅然とした笑顔で伝えていました。母親は赤ちゃんに語りかけながら、「これで安心してあなたを預けてママは仕事に行けるわ」と。
 
こうしたやりとりの中から読み取れるのは、学校や保育所などにおいて、ファーストエイドは教職員個人のスキルではなく、学校施設全体の安全管理システムとして構築しなければいけないということです。
 
養護教諭や保育園ナースがすべてを背負うのではなく、個々の教員も含めて、皆、システムの一部。それがうまく動くようにするのは「計画」なのです。
 
もちろん学校は医療機関ではありませんので、専門的な対応は求められていません。
 
基本は119番して救急車を呼ぶこと。
 
しかし、その119番にしても対応計画を練っておかないとスムーズな引き継ぎはできません。
 
例えば職員室の電話から119を押しても消防にはつながらないかもしれません。外線のゼロ発信が必要な場合もあるでしょう。
 
また学校のどこに救急車が到着するのか? 普段は閉じているゲートを誰が開けるのか? 誰がどういう経路で学校内を誘導するのか?
 
親御さんへの連絡体制も強調されています。
 
 
これまで、BLS横浜では、子どものファーストエイドは、AHAのファミリー&フレンズ・ファーストエイドforチルドレンを中心に開催しており、学校教職員向けにもそれでいいかと考えていましたが、ファーストエイドを個人スキルとして考えるか、システムとして捉えるか、という点で、両者のプログラムは決定的に違っているということに、いまさらながら気付かされました。
 
学校の先生たちにも、学校現場におけるファーストエイドはどうあるべきか、システムという概念で考えていただくためにも、Heartsaver Pediatric First AId CPR AED(HS-PFA)コースは価値があると思います。
 
 

 
 
 
 

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セアカゴケグモに噛まれたときの応急処置

東京上野にある国立科学博物館にセアカゴケグモの標本が展示してありました。
 

セアカゴケグモ(国立科学博物館展示より)

 
セアカゴケグモは、西日本や九州の方は特によくご存知の毒グモ。
 
もともと日本にはいない外来種で、1995年頃に大阪で発見されて以来、問題となり、日本の各地でその生息が確認されています。数年前に北九州の公園で大量に捕獲されたニュースを記憶している方も多いことでしょう。
 
毒クモというとタランチュラのような大きなクモを想像するかもしれませんが、セアカゴケグモの体調は大きくて1センチくらい。おなかが丸いのが特徴です。足が長いので全体としてはもっと大きく見えるかもしれません。
 
名前のとおり、黒い体に赤いラインがはいているのが特徴。
 
同種の毒グモで、ハイイロゴケグモというのもいて、黒や赤とは特徴が違うこともありますが、形や大きさは似ています。
 
攻撃性のあるクモではないので、触らなければ大丈夫といわれています。
 
気になる毒ですが、死ぬことは稀で、痛みや腫れといった局所反応で終わり、特別な治療は必要としないケースが多いそうです。吐き気や循環動態の変化などの全身症状に至ることも多くはなく、20%程度とのこと。
 
噛まれた場合、痛みの出かたに特徴があって、直後はほとんど痛みを感じず、5分~60分ほどしてから痛みが出現、時間と共に手足(噛まれた肢)に広がり、リンパ節の痛みが出てくるといわれています。熱感や痒みが出ることもあり3時間くらいの間にこれらが起こるそうです。
 
全身症状はかならず出るわけではなく、出たとしても1時間~12時間など比較的ゆっくり発現するようです。全身への痛みの広がり、発汗、振るえ、発心、嘔吐、呼吸困難、めまいなど。
 
それでも死に至ることはあまりなく、治療をしなくても多くは1週間以内に軽快するということを知っておくと安心できるかもしれません。
 
命に関わることは少ない、ひどく急ぐ必要はない。
 
ですから、落ち着いて医療機関へかかる、で、大丈夫です。
 
医療機関にかかるまでの処置としては、一般の虫刺されのファーストエイドと同じです。
 
噛まれた部位をよく洗って、冷やす。
 
切るとか吸うとか縛るといったことは推奨されていません。
 
全身症状を緩和させるための血清も地域によっては置いてあります。
 
もっとも血清は副作用が大きいため、必ずしも使うわけではありませんが、治療方針の決定のために、可能なら噛まれたクモを殺して病院に持参することが勧められています。
 
ただ、クモを殺すために二次被害にあっては本末転倒ですので、殺虫スプレーなどがあり、安全にできるのであれば、です。今の時代、スマートフォンで写真を撮るというのも有効かもしれません。
 
攻撃性はないクモなので足で踏みつけて殺すということもできますが、原型をとどめていないと判断できないので注意が必要です。
 
 
 
余談ですが、セアカゴケグモは漢字で書くと、背赤後家蜘蛛。
 
後家というのは未亡人のこと。この種のクモは、交尾後、メスがオスを食べてしまうという習慣があるためにこう呼ばれるそうです。
 
英語ではRed back spirderですが、文献によっては、Red-back widow spiderとも書かれています。
 
widowは日本語で未亡人。まさに直訳そのまんまですね。
 
 

 
 

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服が燃えたとき(全身熱傷)のファーストエイド

福知山市の花火大会会場で起きた爆発事故の報道では、目撃者のコメントとして、「人が燃えていた」というものがありました。
 
飛び散ったガソリンが体や服に付着して燃えていたものと思いますが、服に引火するという事故は焚き火などのアウトドア・レジャーでも起こりえます。
 
特に最近の衣類は化学繊維が多いため、一度火が着くとあっという間に燃え広がる恐れもあります。
 
もし、服や体に炎が引火している人がいたら、どのように救助ができるでしょうか?
 
AHAハートセイバー・ファーストエイドコースで言われているのは、「地面に倒れて! 転がって、転がって!」と声をかけること。
 
服に火が着いた人は気が動転して、炎をから逃げようとして走り回る傾向があります。
 
走ると風を受けますから、炎はかえって大きく燃え広がります。そこで先ほどのような掛け声になるわけです。
 
転がって地面に燃焼部分を押し付けて火勢を落とします。可能であれば厚手の衣類などをあてがって火を消します。ただ、薄手のナイロンジャケットなどだと逆に引火の可能性もあるので注意。
 
炎をが落ち着くまで転がってもらうというのが、現実できることかもしれません。
 
いずれにしても、救助者の安全が第一。ガソリンがあちこちに飛び散った場所であれば、遠くから声をかけること、しかるべき救助要請をすぐに行うことだけでも十分な援助です。
 
火が消えた後は、通常のやけど処置と違って「冷やす」のではなく、乾いた毛布等や、理想的にはエマージェンシーブランケット(薄いアルミのシート)のような皮膚に張り付かない素材のもので覆い、保温をします。皮膚が破綻すると体温調整が利かなくなって低体温になりやすいのと、全身やけどを負った人が命を落とす主な原因は、感染だからです。
 
体を覆うまえに、指輪などの装飾具をはずす、というのも大事なポイントです。この後、間違いなく腫れてくるからです。皮膚に張り付いておらず無理なくできるのであれば衣服も取り除くことが勧められています。
 
 
 

 
 
 

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