ガイドライン2010の心肺蘇生一覧

需要が広がるAHAハートセイバーCPR-AED講習

アメリカ心臓協会AHAのハートセイバーCPR AEDコース
 
これは医療従事者以外の職業人のために作られた、世界で初めてのAED講習プログラムです。世界中の市民向け心肺蘇生法&AED講習の原点がここにあります。
 
日本では心肺蘇生法やAED操作に関してサティフィケート certificate を求められることは医療従事者ですらありません。
 
しかし、米国においては、学校教職員や警備員、警察官、スポーツトレーナーなどは、法規制に基づいた2年間に1回のCPR AEDトレーニングの受講と certificate の更新が義務付けられています。
 
BLS横浜は、ハートセイバーCPR AEDコースを国内で公募継続開催している唯一のAHA活動拠点です。
 
そのため、日本で働く米国人教師や、外資系企業職員、国際的な技術証明が求められるフライトアテンダントやツアーナースなど、Heartsaver CPR AEDカード発給を求める人を全国から受け付けてきました。またヨガやスポーツトレーナー、ヨット、ダイビングなどの米国系の団体が主催するインストラクターになるための要件としてCPR AEDステイタスを求めていらっしゃる方も少なくありません。
 
同じ心肺蘇生法講習修了証でも、日本のガイドラインに準拠した日本語の修了証では通用しない、そんな場面も目立つようになってきました。特に2020年、東京でオリンピックが開催されます。そこに向けて警備業界でも国際水準の安全対策を、ということでAHA講習の需要も高まっているようです。
 
もともとは横浜でないと受講するチャンスがなかったAHAハートセイバーCPR AEDコースですが、現在はBLS横浜と提携する下記の地域・団体で受講できます。
 
どこも公募開催だけではなく、施設への出張講習や少人数での企画講習にも対応していますので、興味があればぜひ、問い合わせてみてください。
 
 
 
・いのちのバトン浜松(静岡県)http://libham99.blog.fc2.com/
・BLSくまもと(熊本県)http://bls-kumamoto.com/
・ファーストエイド沖縄(沖縄本島)http://www.ofan.jp/
・サーフガード久米島(沖縄県久米島)http://blog.canpan.info/surfguard/
 
 

 

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急変対応教育の3本柱にPEARS、BLS、ACLSを!

「院内で起きる心呼吸停止のほとんどは原疾患とは関係のない予期せぬ偶発的な発症というよりは、『救助の失敗』と分類すべきである。これには医療機関内での文化的な大きな転換が必要とされている」

 
蘇生ガイドライン2010の国際化で大ブレイクしたAHA-ACLS。
 
「急変」を心臓突然死にフォーカスして、アルゴリズムを大胆に単純化したことで、標準化された二次救命処置が日本の医療文化にも根付きました。心停止対応システムともいえる、いわゆるコードブルーやハリーコールなど、今ではあたりまえになっています。
 
しかし、SCA(sudden cardiac arrest)を強調するあまり、心停止は不可避な偶発事故という印象が固定されてしまった点が反省されるようになってきています。
 
ACLSが大切なのは疑問の余地はありませんが、それが急変対応概念の一部に過ぎません。
 
病院の急変対応システムとしてはコードチーム(心停止対応チーム)だけではなく、迅速対応チーム(RRTやMET)の必要性と、心停止を予防する早期発見・早期対応教育が叫ばれるようになりました。
 
先ほどのACLSプロバイダーマニュアルには院内心停止の75%以上はVF/VTではないと書かれています。(p.30)
 
そして、院内心停止の80%がその8時間前から異常なバイタルサインを示していた、つまり予兆があり、予防できる可能性を示唆しているのです。(p.26)
 
そこで、医療施設内において、不慮の死を防ごうと思ったら、全体の3割以下の心臓突然死「以外」の部分に着目することが必要であることに気づきます。
 
そこに対応するのが、AHAでいえばPEARSプロバイダーコースです。
 
 
 
病院の患者急変研修として、BLSを中心として、ACLS、PEARSで両脇を固めて、3本柱でいくというのが新時代の提案です。
 
 

 
 

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呼吸確認法が「見る」だけに変わった理由

蘇生ガイドライン2010になって呼吸確認法が変わりました。
 
「気道確保」+「見て聞いて感じて」から、「見る」だけに変わりました。
 
この理由のひとつとして、死戦期呼吸を「呼吸あり」と見誤らないため、というのがあります。
 
死戦期呼吸は心停止直後に起きる生体反応です。顎がしゃくりあげるように動いたり、全身が引きつるように収縮して、なんとか酸素を取り込もうという反射的な動きをします。
 
心停止になると体は微動だにしないというイメージですが、直後は体が動くのです。
 
一般の方にとっては「動いてる」という時点で、その人が心停止かも!? という発想には至らないでしょう。
 
そして動いている顎に指をかけて頭部後屈顎先挙上気道確保を行うことは非常に困難です。ましてや死戦期呼吸では呼吸雑音のようなものが聞こえることがありますし、市民救助者にとっては旧来の呼吸確認法では、死戦期呼吸を心停止と判断するのは極めて困難だったと言わざるを得ません。。
 
そこで顎の動きや顔などには拘泥しないで、正常呼吸運動という胸の動きだけに着目させようというのが、ガイドライン2010の新しい呼吸確認法「胸から腹の動きを見る」です。
 
この際、ただ動いているか動いていないかを見るのではなく、普段通りの規則正しい胸郭運動があるかを判定します。
 
死戦期呼吸でも引き攣れるように胸や腹が動くこともありますが、しっかりとした上下運動ではないはずです。
 
10秒以内(市民向けプロトコル)で「ふだん通りの呼吸」であると「確信」できなければ、胸骨圧迫を開始します。
 
 
疑わしければ胸を押せ! です。
 
 

 
 
 
 

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BLSの気道確保法、いろいろ

用手的に行える気道確保の仕方はいろいろありますが、一般に推奨されているのは頭部後屈あご先挙上法。普通の救命講習やBLS講習で練習する、あのやり方です。
 
医療者や救命のプロに関しては、高エネルギー外傷では頚椎に負担をかけにくい下顎挙上法が推奨されていますが、現実的には外傷コース以外では訓練されていません。
 
BLS講習でよく使われているマネキン、リトルアン(レールダル社)でもいちおう下顎挙上法の練習はできます。ポケットマスクを頭側から両手で保持して下顎挙上して、頚部を動かさずに呼気を吹き込むことがかろうじて可能。
 
下顎挙上法で口対口人工呼吸をするやり方も昔の文献では紹介されています。下顎の引き上げに両手を使うために鼻を塞ぐことができません。そこで自分の頬を傷病者の鼻に押し当てて塞ぐというかなり荒っぽいやり方。これも一応リトルアンで練習可能。でも相当難しいです。
 
口の中に指を入れて、舌と下顎ごと掴んで持ち上げる「舌引き上げ法」は、最近の教科書ではほとんど見ることはありません。唾液に触れる感染のリスクと、反応が残っていると噛まれる危険、更には嘔吐反射を引き起こすリスクなどから、基本的には勧められません。
 
 
このように気道確保法はいろいろありますが、大事なことは、いくら頚椎損傷の可能性があっても、気道確保が優先されるということ。下顎挙上法は難しい手技です。練習して習得しておくことが望ましいですが、それが有効に行えているという評価の仕方を知っていることも重要です。
 
下顎挙上法が効果的に行えなければ、ためらわず頭部後屈顎先挙上法に切り替えるべきです。
 
 
処置を行った以上、それを評価して、必要なら修正する責任が生じます。
 
産業界やビジネス界で言われているPDCAサイクルと同じです。
 
 

 
 

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窒息解除:ハイムリック法と背部叩打法、どっちがいい?

BLS横浜のオリジナル勉強会「心肺蘇生法の仕組みを理解する」ワークショップにご参加いただいた方はご存知と思いますが、蘇生ガイドラインは国によって違います。
 
日本では、日本版ガイドラインの他、医療者を中心には米国版ガイドラインが普及しているというねじれ現象が生じています。
 
で、その2つのガイドラインの差異に私たちは惑わされることがあります。
 
そんなときは、ガイドラインの大元になっている心肺蘇生法国際コンセンサス CoSTR 2010 に立ち返ると、見えてくるものがあります。
 

心肺蘇生法国際コンセンサスCoSTR2010

 
窒息の解除法、日本では背部叩打法とハイムリック法(腹部突き上げ法)の両方を教えるのに対して、医療者にとって標準的なAHA講習では、ハイムリックしか教えません。
 
このあたりを私たちはどう理解したらいいでしょうか?
 
蘇生の国際コンセンサス CoSTR 2010 では次のように勧告されています。
 
Treatment Recommendation
Chest thrusts, back blows, or abdominal thrusts are effective for relieving FBAO in conscious adults and children 1 year of age. These techniques should be applied in rapid sequence until the obstruction is relieved.
 
More than 1 technique may be needed; there is insufficient evidence to determine which should be used first. The finger sweep may be used in the unconscious patient with an obstructed airway if solid material is visible in the airway. At this time, there is insufficient evidence for a treatment recommendation specific for an obese or pregnant patient with FBAO.
 
 
FBAOというのは「気道異物による窒息」の省略語です。
 
書かれている内容は、1歳以上の子どもと成人傷病者に対する窒息解除法としては、胸部突き上げ法、背部叩打法、腹部突き上げ法のいずれも有効であるという点。
 
またひとつ以上の方法を試す必要があるかもしれないという点。そしてどれから最初に試すべきかという十分な根拠はないという点。
 
これが蘇生科学でわかっていることです。
 
これを受けて各国が自国の事情を加味して決めたのが各国ガイドラインです。
 
それをどう運用するかは、、、あなた次第。
 
米国では昔から腹部突き上げ法を教えていて、それなりに効果を上げてきた文化があります。つい先日も、俳優・映画監督のクリント・イーストウッド氏が、チーズを喉につまらせた人を助けたという報道が記憶に新しいところです。
 
複数の方法を試みる必要があるかもしれないという国際コンセンサスの記述からすると、日本の2つの方法を教えるのは妥当にも思えます。
 
とかく固形物の喉づまりが多い欧米では、勢いでスポンと飛び出すハイムリック法をシンプルに教えるのがいいと考えたのかもしれません。
 
日本では、餅文化も含めて、欧米と同じでいいのか、というところが関係しているのかもしれませんね。
 
 

 
 

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蘇生ガイドラインG2010からG2015へ

もうガイドライン2015を意識する時期に入っているんですね。
 
救急医学2012年11月号G2010からG2015へ
 
蘇生ガイドライン2010が発表されたのが2010年10月28日。
 
今回は日本語版ガイドラインもドラフト版ということでしたが、その翌日に発表。
 
しかし、正式版が出るまでには1年近くがかかり、普及レベルでG2010が広まりだしたのは、今年の1月とか4月から。しかし、国際的にはもうG2015を考える時期なのです。
 
さて、今月号の救急医学誌の特集記事、とても参考になることがたくさん書かれていました。
 
いくつかご紹介しましょう。
 

1.口対鼻人工呼吸の可能性

普及レベルで口対鼻人工呼吸が推奨されているのは、現時点、乳児(口と鼻を同時に自分の口で覆う)のみですが、成人に対してでも口対鼻の方が口対口よりメリットがあるのではないかということが書かれていました。
 
まだ研究中ということで、次回ガイドライン2015でどのように勧告されるかはわかりませんが、口対鼻の最大のメリットは気道確保をしなくても人工呼吸ができて、かつ、換気量が多いこと。また、口対口と違って直接粘膜に接触するわけではないので、感染対策的に有利かもしれないという点。ただ、これは口対口法の感染に関する研究自体が進んでいないので比較検討は難しいだろうということでしたが。
 

2.乳児心停止とPBLS(太田邦雄)

PBLSとはPediatric Basic Life Support、小児一次救命処置のことです。
 
日本の医療従事者の間では事実上標準のAHA(米国版)ガイドラインと日本版ガイドラインで、大きく違う部分は小児・乳児の扱いです。端的にいうと、AHAは市民向け教育の中でも子どもには子どもの心停止の特徴に合わせた蘇生法を推奨しているのに対して、日本版ガイドラインでは、市民向けには事実上子どもの蘇生は教えず、すべて大人と同じ手順に統一するという、ある意味大胆な施策を取っています。
 
この部分をどう理解するかが日本で活動するAHAインストラクターとしては重要なところですが、そこが詳しく解説されているのがこの記事です。
 
「呼吸の重要性を強調したPBLSは保護者や教育関係者にも推奨する」
 
結果的にはこのように推奨されていますから、AHAのファミリー&フレンズCPRやハートセイバーAEDコースは、市民向けではありますが、保護者や教育関係者向けコースということで、日本での開催は可能です。
 
ファミリー&フレンズCPR【小児・乳児編】は、本来は消防の普通救命講習や日赤基礎講習に相当するもっともベーシックなプログラムなはずですが、日本では皮肉なことに一歩上のハイレベルな講習ということになりそうです。
 

3.普及・教育のための方策/実行

ガイドライン2010の最大のテーマは「実行性」です。今回から新しく入ってきたガイドラインの主軸のひとつ。ガイドライン2000で蘇生法の国際的な統一が作られ、2005年には簡略化が図られました。そこに加えて今回は蘇生科学的な理想論を脱却して、実際にできるためにはどうしたらいいかということで、大改革が加えられました。
 
そのため、この雑誌特集記事の中でも、普及と教育の部分に多くページが割かれています。学校教育としてどう教えていくか、市民教育の現状と課題など。
 
ガイドライン2010の本質は決してCABとかそういう話ではありません。ガイドラインの本質と今後の展望を理解する上でも、ぜひインストラクターには目を通してほしい内容です。
 
 

 
 
 

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CPRやファーストエイドは、きれいごとではない

バイスタンダーとして他人に対して行う救護処置、とても難しいと思います。
 
講習を企画する立場として、これが一番ハードルが高いです。
 
逆に教えるのが簡単なのは医療従事者です。助けるのが当たり前。逆に助けられないと問題になるような立場、ご本人もそのことを自覚しています。ですから、学ぶことのモチベーションへの働きかけはほとんど不要で、ただ技術と知識を提供すればOK。
 
もう一つ簡単なのは、家族や親しい人の緊急事態を想定した講習。これも「何が何でも助けたい!」という受講動機やモチベーションがはっきりしていますから。
 
逆に難しい場合があるのは、学校の先生とかスポーツインストラクター、警察官などの「市民救助者」の立場の人たち。社会的には救護義務があるのですが、日本の風土的に、また職業意識的にあまりそれを意識していない場合が多いようです。素人が余計なことをしない方が良い、という誤った事なかれ主義でいる場合が多いようです。
 
こういった対応義務がある市民に対しては、まずは「自分がどうにかしなくてはいけない」という危機感を持ってもらう働きかけをして、学ぶ動機を整理しておかないと効果的な学習には結びつきません。
 
 
さて、すでにお気づきかも知れませんが、救命講習も含めて大人がなにかを学ぼうとするときに、真っ先に問題になるのが、その動機、モチベーションです。
 
なぜ学ぶのか? それを身につけたらどんなメリットがあるのか? 自分の日常に何が変わるのか?
 
このあたりがはっきりしていないと、効果的な学習にはならないと言われています。
 
ですから、私たちインストラクターは受講対象に合わせたモチベーションアップの働きかけをあれこれ工夫するわけです。
 
 
そんな流れで考えたときに、教える側としていちばん難しくて苦労するのが、職業義務はなく、家族ではない第三者を助けたいと考える人たちです。つまり、道ばたで倒れている人がいたら助けたい、といういわゆるバイスタンダーとしての活躍を想定している場合。
 
きっかけは、なにか実体験があってあのとき思うように動けなくて悔しかったから、とおっしゃる方が多く、それはとても頼もしく、嬉しくも思うのですが、「動機」という点で突き詰めていくと、いろいろと難しい場面が出てきます。
 
簡単にいうと、CPRやファーストエイドは、きれいごとではない、という点です。
 
テレビドラマであるようなヒロイズムで、気持ちと物資の準備なしに取りかかると後悔する場合が多いかもしれません。
 
血液や唾液、体液による感染のリスク。C型肝炎、B型肝炎、HIV。自分自身が発症しなくても家族に病気を移すキャリアになる可能性があります。
 
そうでなくても、救護にあたり服や手、膝が汚れるのはあたりまえ。場合によっては会社に遅刻する、とか。
 
また、駅や公共の場で救護活動を行うと、野次馬が集まってきて、茶々を入れられたり、「素人が世余計なことをするな!」と脅されたり、無遠慮に写真を撮られてTwiiterやfacebookに投稿されたり。
 
いわゆる心肺蘇生法講習は、善意に満ちた協力者しか想定していませんが、現実は厳しいものがあります。私自身、見ず知らずの人への救護で、本人や仲間から拒否されたり、脅されたことは何度もあります。
 
そんなリスクを負って、嫌な思いをしてまで、助ける必要があるのか?
 
「お作法」を教えるだけの講習であればそこまで考える必要はないかもしれません。しかしガイドライン2010のメインテーマでもある implementation (実行性)の向上を考えたときに、応急救護に関する現実的なリスクについて講習会で伝えることは有用とされています。
 
そこで私たちは、Advanced CPR講習として、シミュレーションを中心としたリアルな対応を体験してもらうことがありますが、そこで妨害的な野次馬への対応などを体験してもらうと、皆さん、とても意気消沈してしまいます。
 
例えシミュレーションとわかっていても、もうやりたくない、という思いに駆られます。
 
そうなったときに浮上してくるのは、「何のためにこんなことをしているだろう?」という応急救護の根源に関わる問いです。
 
そう、モチベーション、動機なのです。
 
家族を助ける、顧客の命を救う。
 
そんな大義名分があればいいのですが、バイスタンダーCPRやファーストエイドには、実は明確な理由、動機がないのです。
 
ゆえに軽く表面をなぞるだけならともかく、中身のある講習展開をしようと思うと、一番難しいのが善意の応急救護なのです。
 
 
しかし日本国内の応急救護普及の現場を見てみると、その大半が「善意」や「隣人愛」を全面に出しているものが中心です。
 
逆に、日本では職業義務としての救護を教える講習はほとんど目にしません。(本来は自動車教習所や運転免許試験場での応急救護は義務であり、善意を前提とする講習とはまったく別物であるはずですが、その区別は私には感じられませんでした)
 
翻って米国を見てみると、米国にある講習プログラムは「家庭向け」「対応義務のある市民救助者向け」「医療従事者向け」の3つです。
 
そこに、見ず知らずの人を善意で助ける、というプログラムはないのです。
 
「対応義務のある市民救助者向け」ファーストエイド講習の中で、必ず言われるのは「職務中は救護にあたる責務がある。しかしプライベートでそのスキルを使うかどうかは任意」という点です。
 
つまり命を助ける技術を持った人は、いついかなるときでも助けなくてはいけない、のではなく、リスクをふまえた上で、覚悟を決めて臨め。助けないというのも選択肢だと明言しているのです。
 
心肺蘇生やファーストエイドを崇高なものとして、高見に置くのではなく、その現実を伝えるという点で日本にはないスタンスです。
 
これをアメリカ的なドライで冷めた考えと感じる方もいるかも知れません。
 
このあたりの価値判断は皆さんにお任せしますが、少なくとも日米で救命や応急処置を教えるスタンスは明確に異なっている、という事実はぜひ知っていていただきたい点です。
 

 

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AHA 2012オフィシャル・ハンズオンリーCPR動画

2012年5月31日に ネットで公開されたAHAのハンズオンリーCPRの動画 に日本語字幕を入れてみました。
 

Hands only CPR ハンズオンリーCPR動画

目の前で人が倒れたら、119番通報して、救急車が来るまで胸の真ん中を強く速く押す!
 
とにかくシンプル。
 
たった2つのステップで、人の命が救えます。
 
大丈夫ですか? という反応確認も行ないません。
 
もし、なにかの間違いで心停止でなければ、一発目の胸骨圧迫の段階で、痛がって逃げるなどの”反応”が現れて、自然と気づくはずです。
 
とにかくシンプルに、突然の心停止を見逃すことが絶対にないように。
 
 
 
少し解説をしますと、このハンズオンリーCPRの適応は、英語でいうところのteenager以上の年齢が対象となります。
 
ビデオでは中学生くらい以降と訳してしまいましたが、思春期以降を示しています。体の成熟がほぼ完成し、子どもにありがちな「未熟な呼吸器官」ゆえの呼吸原性心停止のリスクを第一に考えなくてよくなった年齢層、という意味です。
 
そしてハンズオンリーCPRが適応されるもうひとつの条件は、「目の前で突然倒れた」場合。
 
突然の卒倒なら、血液中に酸素が十分残っているため、人工呼吸は必ずしも必要ない、というのがその理由です。
 
ということで、このAHAのハンズオンリーCPRは、子どもの場合や、水に溺れた場合、倒れてから発見まで時間がかかっている場合などは、それだけで十分だとは考えられていません。
 
しかしその場に居合わせた人が躊躇なくはじめる最初の救助活動としては最大限に有効な行為です。
 
きちんとした救命講習ということであれば、もう少し踏み込んで教えますが、AHAのハンズオンリーCPRは何の訓練も受けたことがない人が実施することを期待されている内容。
 
どんな条件であっても、特別な訓練をしないでも誰でも実施できるという蘇生行為のユニバーサルなエッセンスを抽出したのが、このAHAのハンズオンリーCPRと言えるでしょう。
 
ちなみに、誰もが耳にしたことがあるこの曲、Bee Gees の Stayin’ Alive。映画サタデー・ナイト・フィーバーで有名です。
 
この曲のテンポが1分間に100回に近いということで、以前から胸骨圧迫のテンポ取りにいいと言われていました。そして数年前にはこの曲をかけながらの胸骨圧迫は質が高くなるという研究論文が発表されて、Stayin’ AliveといえばCPRの曲というイメージが不動のものとなりました。
 
日本でいったら、アンパンマンマーチやドラえもんの歌、中島みゆきの”地上の星”、スマップの”世界にひとつだけの花”などが有名ですが、国際的なStayin’ Aliveにはかないません。また曲のタイトル、「生き続けてる」というのも妙にマッチしている点です。
 
 
(この日本語訳はBLS横浜が独自に行なったもので、AHA公式のものではありません。公式な日本語版が出たらこの動画は削除します)
 
(2015年5月25日追記:日本医療教授システム学会AHA国際トレーニングセンターより、AHAから承認を受けた字幕版動画が公開されることが決定したため、本私訳版の配信は停止します。現在はキャプチャー画像に差し替えてありますが、公式公開されましたら埋め込みリンクとさせていただく予定です)
 
 

 
 

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最新の心肺蘇生法~国際コンセンサスと各国ガイドライン

最近、Facebookで「米国では乳児へのAED使用は市民には教えない」という事実を紹介しました。
 
ご存知、日本の蘇生ガイドライン2010では、乳児へAEDが使えるようになったことを、変更点として市民向け講習でも教えていますが、米国では違うのです。
 
どちらも蘇生ガイドライン2010なのに、なぜ違うんですか? と疑問に思われた方も少なくなかったようです。
 
そこで、今日は蘇生ガイドラインとはなんなのか、その成り立ちについて説明しようと思います。
 
CoSTRとガイドラインの関係
 
たまに間違って言われることがありますが、心肺蘇生法の世界に「国際ガイドライン」はありません。ガイドラインは国や地域単位で作られるものだからです。
 
今回の2010年版のガイドラインは、日本版JRCガイドライン、米国版AHAガイドライン、ヨーロッパ版ERCガイドライン、そしてオーストラリア・ニュージーランド版ガイドラインが広く知られています。
 
これらのガイドラインの大元になっているのが、国際コンセンサス=CoSTRです。
 
国際コンセンサスCoSTRは、世界蘇生連絡協議会(ILCOR)と呼ばれる国際会議で5年に一度作成される心肺蘇生法に関する世界的な合意事項です。
 
この国際コンセンサスを元に、各国の事情を加味して、具体的な蘇生法の指針に仕上げたものがガイドライン。
 
さらにそのガイドラインを元に指導方法、内容が作られ教育プログラムが出来上がる、という仕組みになっています。
 
蘇生に関する科学的な背景や理解はCoSTR 2010で統一されていますが、それをどう解釈してどう採用していくかは各国任せなのです。そのため、同じガイドライン2010と銘打っていても、国によって微妙な差異が生じるわけです。
 
現在、日本の公式な蘇生ガイドラインは、日本蘇生協議会が策定したJRCガイドライン2010で、日本国内では、これに準拠して蘇生が行なわれ、また心肺蘇生法教育が実施されるはずなのですが、、、、
 
実はそうはなっていないやや複雑な現状があります。
 
というのは、日本にはJRCガイドライン2010に準拠して、医療従事者に蘇生法、特に一次救命処置BLSを教える教育プログラムが存在しないのです。
 
いちおう去年あたり、日本救急医学会が制度的にはBLSコースというのを作りましたが、現実的にはほとんど開催されていないようです。
 
市民向けには消防や日本赤十字社がJRCガイドライン準拠として幅広く教えているのですが、ことに医療従事者向けのBLS教育となると、アメリカ心臓協会AHAの講習が中心というのが、現在の日本の状態です。
 
つまり市民向けにはJRCガイドライン、医療者向けにはAHAガイドラインと、完全に二極化しているという事態に陥っています。
 
根本的な部分では変わりませんので大きな問題ではないのですが、新しい蘇生法を学ぼうとしたときに、それがAHA準拠なのかJRC準拠なのかを把握していないと、もしかすると少し混乱する部分もあるかもしれません。
 

 
 

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呼吸確認にかける時間 【AHA G2010-BLS】

BLSヘルスケアプロバイダーコースで、よく質問されます。
 
「呼吸確認には何秒かけたらいいんですか?」
 
以前のガイドライン2005の時は、呼吸確認も脈拍確認も5秒以上10秒以内ときっちりされていたので、当然の疑問です。
 
ガイドライン2010になって、ヘルスケアプロバイダー向けのBLSの手順では、反応確認と呼吸確認を「ほぼ同時」に行なうことになったため、呼吸確認に要する時間がわかりにくくなっています。
 
結論から申しますと、呼吸確認だけに要する時間はG2010-HCPでは明示されていません。
 
示されているのは、反応確認と呼吸確認に要する時間が5秒以上10秒以内、ということだけです。
 
つまり、「大丈夫ですか?」と呼びかけてから、「誰か来て下さい!」までを10秒以内に行ないましょう、ということです。
 
ヘルスケアプロバイダー向け反応・呼吸確認に要する時間
 
この間に、傷病者の顔を見て反応の有無を確認し、胸から腹の動きを見て、呼吸の確認を行ないます。
 
反応確認に数秒は要するでしょうから、実際のところ呼吸確認の時間は5-6秒といったところでしょうか?
 
 
参考まで、テキストには書かれていませんが、2011年11月にシカゴで開かれたAHAのナショナル・ファカルティ・オリエンテーションでは、脈拍確認時にも重ねて呼吸確認を行なうことが示されていました。脈拍確認時、首もとを見つめている必要はありませんので、胸~腹を見て、改めて呼吸をしていないか見ましょう、ということです。
 
 
ということで、AHAにおいては、市民向け講習(ハートセイバーAED、ファミリー&フレンズCPR)と、プロフェッショナル向け(ヘルスケアプロバイダーコース)では、呼吸確認法と呼吸確認に要する時間の目安が異なっているため、複数コースを受講される方は、ご注意ください。
 
大雑把にいって、市民にとっては「反応・意識がない」というだけで一大事ですから、その時点で119番通報して、心停止の認識は、呼吸をしていない/死戦期呼吸で判断しますので、呼吸確認に専念ししっかり10秒かけて、ということだと思います。
 
それに対して、救命のプロや医療従事者にとっては、反応がないというだけで緊急コールをかけるのは、やや大げさというか情報不足。呼吸がない/死戦期呼吸という情報まで伝えて初めて緊急度が伝わる、ということで、反応と呼吸を併せて確認しています。
 
呼吸確認に要する時間はやや短めになりますが、その後、脈拍確認と併せて呼吸の再確認を行なうことで精度を補完しているとも考えられます。
 
 
 
実際のところ、どれくらいの秒数をかければ呼吸確認はできるのでしょうか?
 
講習会のときに、インストラクターが床に寝て、正常な呼吸の確認を皆さんに体験してもらうことがありますが、服の上からでも皆さんおおむね3秒~5秒くらいの間には呼吸しているのを確認できています。
 
速ければ1秒程度で手が上がる人もいます。
 
マネキンは呼吸をしていなくて当たり前。
 
呼吸確認は人間の実際の呼吸を見る体験をしてもらうことも重要です。
 
ないものをないと確信するのは難しいことです。疑心暗鬼になってしまうからです。そういった意味で10秒を越えないこと、という方が大切です。
 

 
 

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