「山と渓谷」誌 ウィルダネス・ファーストエイド関連記事の問題点

昨日は、アウトドア雑誌Garvyに掲載された「ウィルダネス・リスクマネジメント・カンファレンス」のレポートを紹介しましたが、山岳雑誌「山と渓谷」でも同じ話題が載っていました。

山と渓谷社 ウィルダネス・ファーストエイド記事

ウィルダネス・ファーストエイドの医行為に関するシンポジウムの下りは下記のようにまとめられていました。

「山岳事故の法的課題などに詳しい弁護士の溝手康史さんは緊急事態下では『医療行為』に該当する応急処置を一般人が行っても医師法には反しないとの原則を説明した上で、『ガイドなどは職務上の注意義務があるが、本来なすべき処置を行っていれば、責任を問われることはない』として、対応を恐れないように呼びかけた。」

(山と渓谷, 2017年8月号, p.187)

1ページだけの簡単な記事で、非常に簡略化されている印象ですが、前後の文脈はなく、当該部分はこれだけです。

昨日のGarvy誌の掲載内容についての記事をご覧頂いた方は、お気づきと思いますが、主たるメッセージがまったく違います。ほぼ正反対に近い印象を受けるのではないでしょうか?

山と渓谷誌の記事:
一般人が行う医療行為は医師法には反しない → 本来なすべき処置を行えば責任は問われない → 恐れるな

Garvy誌の記事:
一般的なファーストエイドを緊急時対応として行うことは問題ない → ウィルダネス・ファーストエイド(医行為を含む)は万が一の場合は傷害罪になる → 今後の課題

山と渓谷誌の記事では、先のカンファレンスでの展開と同様、ファーストエイドと医行為の関係性が明確になっておらず、日本の既存概念の応急処置と北米のウィルダネス・ファーストエイドの違いが混沌としています。

一般人が医療行為を行ったとしても「反復継続の意志」がなければ医師法違反を問われないのはよく知られた既知の内容です。

しかし、日本の一般的な応急手当の概念では、医行為は行わない、教えないことになっており、応急手当に医行為が入るのはありえないことです。

ですから、本来なすべき処置 ではない 医行為を行っている以上、2番目の「本来なすべき処置を行えば責任は問われない」という文脈の意味が通りません。本来はなすべき立場にない人(医師免許を持たない人)が行う行為なわけですから。

短い文脈の中でも論理が破綻しており、結局何をいいたいのかわからず、そこに残るのは「恐れるな」という、根拠性のない空虚なメッセージだけです。

・医師法の問題
・刑法の問題(傷害の罪と緊急避難)
・ガイド等の注意義務

シンポジウムで話されていたこの3点が混在となって意味不明な一文になってしまっています。

なにより、医師法違反は問われないとしても、傷害の罪を問われる可能性があるという弁護士の重要な発言部分がまったく触れられていないのは、恣意的なものか、大きな問題と考えます。

字数制限ゆえの「舌っ足らずさ」なのかもしれませんが、非常に重要な部分だけに配慮と責任が感じられず、あまりに残念です。

無駄に大きい写真の意味が気になるばかりです。

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ウィルダネス・ファーストエイドに含まれる医行為は傷害罪?

2017年に6月16日にお台場で開催された ウィルダネス・リスク・マネジメント・カンファレンス の様子が、アウトドア雑誌Garvyに掲載されました。

Garvy 野外救急法の最前線 ウィルダネスファーストエイドの危険性

このカンファレンスに関しては、医療や法律に明るくないアウトドア専門家たちをミスリードする危険をはらんでいたことは以前にブログでも書かせていただきました。

カンファレンスには、メディア関係者も来ていたため、どのように報じられるかを懸念していましたが、Garvy誌に関しては、きちんと正しく伝えてくれていたため、一安心。

どのような内容だったのかは、ぜひ Garvy誌2017年8月号 の106〜107ページを御覧いただきたいのですが、かいつまんで要点だけを確認し、補足をしておきます。

(ウィルダネス・ファーストエイドが)「一般的に知られる救急法と異なる点は、救急車が来ないようなウィルダネスエリアで、より高度な救急処置を行うことです。例えば、一般的には救急隊員が判断し、医師が処置するような頚椎保護の診断や、脱臼の整復深い創傷の洗浄や、注射の使用などがこのウィルダネス・ファーストエイドには含まれます」

(小清水哲郎:野外救急法の最前線, Garvy 2017年8月号, p.106, 実業之日本社)

記事の中では、まずは日本の一般的なファーストエイド(救急法)とウィルダネス・ファーストエイドの違いを明確にしていました。

この点は、先のカンファレンスではまったく言及されていなかったという問題点は以前に指摘したとおりです。

パネラーとして登壇した弁護士や医師が言及する「ファーストエイド」が日本の一般通念によるファーストエイドなのか、北米の特殊なウィルダネス・ファーストエイドなのかはっきりしないまま議論が進んでいたため、オーディエンスに誤解を与える問題点となっていました。

  • 日本の一般的なファーストエイド(日赤や消防で教える内容)……医療行為は含まれない
  • 北米発祥のウィルダネス・ファーストエイド……注射や脱臼整復などの医療行為を含む

まずは、この違いをきちんと区別して考えることが重要です。

それがウィルダネス・リスク・マネジメント・カンファレンスでは抜けていました。

その点、Garvy記事はきちんと補足してくれています。

その上で、法的な視点ということで次のようにまとめています。

「一般的なファーストエイドを緊急時対応として行うことは問題ないが、『ウィルダネス・ファーストエイドの場合は、実際の個々の案件による』とのこと。事例が多くなく、また判例もないことから、現時点では万が一の場合は『医師法違反にはならないが傷害罪になる』可能性がある、という話でした」

(小清水哲郎:野外救急法の最前線, Garvy 2017年8月号, p.107, 実業之日本社)

この部分ですが、前回のBLS横浜ブログ記事で書いたとおり、フロアからの質疑応答によって初めて言及された部分でした。つまり、たまたまの質問がなければ全くスルーされていた部分です。ここをきちんと拾ってくれた記者の方には感謝です。

医師法違反が問われるのは、「反復継続の意志」を持って医行為を行った場合ですから、単発の偶発的な医療行為が医師法に抵触しないのは、AEDやエピペンの市民解禁ですでによく知られているとおりです。

しかし、医師以外が行う医行為は、その正当性を担保するものがありませんから、社会的相当性によって判断され、否となれば、人を傷つけたという傷害の罪が問われる可能性は十分にありえます。これは医師法とはまったく別の問題としてウィルダネス・ファーストエイド・プロバイダーの前に立ちはだかっているのです。

一般の方はあまり考える機会がないかもしれませんが、医療行為のほとんどは、目的や妥当性を誤れば、人を傷つける行為、傷害と紙一重です。

つい先日も、睡眠導入剤を飲み物に混ぜた(薬剤投与した)准看護師が傷害容疑で逮捕されたという事件が記憶にあたらしいところでしょう。

人に薬物を投与したり、針を刺すという行為は、基本的には傷害です。

しかし、高度に訓練を受けて免許を与えられた「医師」が医学的な妥当性をもって行うときに限り、その判断と行為が正当化されて、診断・治療という名前に変わるというのが法的なロジックです。

ここで3つのポイントがあります。

1.行った行為(処置:医行為)は正しく実施されたか?
2.行為を実施するという判断(診断)は妥当だったか?
3.実施者は、1と2を行うだけの訓練をされた人間であったか?

日本では、医学部に入学し6年間の教育を受け、医師免許を取得することで上記の1〜3が担保されるとみなされます。

つまり、傷害と医行為を区別するポイントは、一言で言えば「免許」です。

緊急避難ということで大目に見たとしても、「教育・訓練」が問題となるのは必至でしょう。

今は、判例がなく、なんとも言えませんが、今後は、この教育・訓練の妥当性が焦点となっていくはずです。

Garvy誌の記事の中で、「ウィルダネス・ファーストエイド講習に参加した医療者は、対処法に問題はないと考えています」「医師も学ぶ点が多いなど、好意的な話や」と言った一文があり、医学的な妥当性があることを示唆していますが、医学的に正しいことであっても、それをウィルダネス・ファーストエイドという国家資格とは無縁の外国の教育を受けることで、基礎知識のない一般人が、妥当な判断をできるように人材に育つのか、また技術の保証がされるのか、ということこそが問題です。

そこに関しては、カンファレンス中でも言及はされませんでしたし、記事にも書かれていません。

だからこそ、記事の結論として、「現時点での考え方は、従来からの現場課題であり、カンファレンスだけで問題解決する話ではありませんでした」としているのは妥当だと思います。

医学的正当性を検証するだけでは不十分です。教育的な妥当性も検証されなければならないのです。

「この先の良き前例の積み重ねによって、ウィルダネス・ファーストエイドへの理解と必要性を作り上げていくことの確認がなされました」

この当事者になる覚悟は重いです。

簡単にいえば、訴追される、裁判になるという覚悟です。

そうして、裁判や、社会問題として検討されていく積み重ねが、今後必要だということです。

次回は来年の6月に長野でウィルダネス・リスク・マネジメント・カンファレンスが開催される予定です。

このカンファレンス自体は、ファーストエイドに特化したものではなく、あくまでも野外リスクマネージメントという視座の中のひとつとして、今回たまたまファーストエイドが選ばれただけです。ですから、次回のテーマは、遭難かもしれませんし、落雷かもしれません。

しかし、今回、懸案だったウィルダネス・ファーストエイドの現状確認の第一歩が行われたわけですから、この先のウィルダネス・ファーストエイドの日本国内定着に向けての議論は、今後も続けていってほしい永代のテーマだと思っています。

WRM関係者ならびにすべてのWFA講習提供者の方たちには、この点、切にお願いしたいと思います。

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ウィルダネス・ファーストエイドの法的問題考

2017年6月16日(金)に開催された 第1回ウィルダネス・リスクマネジメント・カンファレンス に参加してきました。
 
初回開催の今年のテーマは「日本における野外救急法の現状と課題」
 
主に北米で発展してきた Wilderness First Aid 講習プロバイダー(提供事業者)が日本にもいくつか入ってきていますが、野外救急法が一般の救急法と違うのは、救急車が来てくれる環境ではないという点。
 
そのため、通常だったらプロの救急隊員や医師に委ねるべき判断や医療処置(脱臼整復、アドレナリン注射、ジフェンヒドラミン投与、創洗浄、頚椎保護解除診断など)までも含むのがウィルダネス・ファーストエイドの特徴です。
 
そのため、北米の講習プログラムをそのまま日本国内で展開したときの危険性や法律に抵触する可能性がしばしば問題となってきました。
 
今回は、複数のウィルダネス・ファーストエイド講習展開事業者が集い、実現したカンファレンス。
 
野外教育の専門家、弁護士、医師による野外救急法をテーマにしたシンポジウムで、ウィルダネス・ファーストエイドの日本での法的な位置づけがはっきりすることを期待しての参加でした。
 
 

●新しいことはなかった

さて、参加させてもらっての感想ですが、「なにも新たな知見はなかった」、というのが結論です。
 

  • ファーストエイドは医師法に抵触しない
  • しかし、ウィルダネス・ファーストエイドに含まれる医療行為の実施は傷害罪を問われる可能性がある
  • アウトドアガイドなど業務で処置する人は、一般人に比べて結果責任を問われる可能性が高い

 
 
従前から知られていたとおりのことが再確認されただけでした。
 
当初、弁護士の話として、ファーストエイドの実施は医師法違反にならない、という点が強調されており、ウィルダネス・ファーストエイドの実施にはなんら法的問題はないという論調が形成されました。
 
しかし、その後の質疑応答の中で、「ウィルダネス・ファーストエイドに含まれる、本来は医師しか行えない医療行為を無免許者が行えば傷害罪になるのではないか?」というフロアからの意見に対しては、個別のケースは事後に検証しなければわからないが、傷害罪をとなる可能性はあるというのが弁護士からの回答でした。
 
つまり、医師法違反にはならないが、刑法(傷害罪)に抵触することは否定できないという結論です。
 
 

●医師法違反にならないが傷害罪にはなりうる

この部分のシンポジウムの進め方には、少し危険な部分を感じました。
 
医師法違反にはならないが傷害罪になる。
 
それを持って、大丈夫、法的に問題ないという論旨展開していたことになります。
 
質疑応答で刑法のことが質問されなければ、これで終わっていたと考えると恐ろしさを感じます。
 
そもそも、弁護士が真っ先に言及した「ファーストエイドは医師違反にならない」という言葉の中の「ファーストエイド」の中身が定義されていなかったのも問題でしょう。
 
これを日本赤十字社や総務省消防庁がいうところの救急法とするのであれば、なんの違和感も感じない文脈です。
 
しかし、今回は、町中であれば、医師以外がやってはいけないと認識されている行為を含めた「普通ではない」ファーストエイドを論じているのです。
 
この前提を整えずに、法的に問題ないと結論付けるのは、大きなミスリードを生む危険をはらんでいると感じました。
 
 
医師法が規制しているのは「反復継続の意思」を持って医行為を行うことであって、簡単にいうと偶発的な単回の医療行為は医師法違反となりません。これは事実です。
 
だからと言って、例えば素人がナイフを使って気管切開をしていい、という話にはなりません。
 
他人の体に刃物を突き立てれれば傷害です。
 
いくら緊急事態で刑法37条の緊急避難が適応されるとしても、一般的には無謀な行為とみなされるでしょう。そのような判例がないから、ダメとは言えないという意見もありますが、だからといって素人が人の首にナイフを突き立てることをよしとする通念は日本にはありません。
 
緊急避難にあたるかどうかは社会的相当性で判断されると弁護士は言っていました。
 
日本社会におけるファーストエイドには医行為は含みません。これが日本の社会通念。
 
そんな中で、米国の民間団体が行う数日間の講習を受けて取得した民間資格で、素人が医療行為を行う妥当性があると判断されるものなのか?
 
今回のシンポジウムでも、明らかになりませんでした。
 
 
 
今回のシンポジウムには、アウトドア事業者、医療者、野外教育者など、90名近い方が参加していたと聞いています。
 
この話を聞いた人たちがどのような理解を持って帰ったのか?
 
それが気になるところです。
 
今回のカンファレンスの内容はアウトドア雑誌で2ページに渡って紹介されることが決まっているそうです。
 
「ウィルダネス・ファーストエイドは日本の法律的にまったく問題ないことが確認された」というようなミスリードされた理解に基づいた記事が発信されないことを願っています。
 
 

 
 

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PEARSプロバイダーコースのシミュレーション

PEARSプロバイダーコースのシミュレーション「あり」と「なし」の違いですが、どちらも正式な開催方法です。

PERS with シミュレーション(ペアーズ)

インストラクターマニュアルを見ると、進行方法として、

・Learge-Group Discussion
・Small-Group Simulation

が選べるように設定されています。

大人数の座学で、座った状態でディスカッションして進めてもいいし、少人数に分けてマネキンを前にシミュレーションをしながら進めても良い、と規定されています。

どちらを選ぶかは主催インストラクターの考え方次第。

PEARSを学びに来る受講者のほとんどは、「できる」ようになることを求めているはず。そう考えると、シミュレーションは欠かせない、というのが私達の考え方です。

特に1つまえのG2005版のPEARSでは、シミュレーションを省略するという選択肢はありませんでした。

開発当初のPEARSコースを日本に導入してきた数少ないUSインストラクターの系譜を汲む私たちは、シミュレーションにこだわったPEARSを展開しています。

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AED充電中の胸骨圧迫の是非 AHA-BLS2015

新しいG2015版BLSプロバイダーコースのDVDの中では、シナリオの中でAEDの充電中のわずかな時間でも胸骨圧迫を行うように指示している場面があります。
 
これは、G2010のACLSプロバイダーコースでも見られた場面なのですが、今回は明確な形でBLSコースにも入ってきました。
 
エビデンス的には明解で、G2010のBLSヘルスケアプロバイダーマニュアルでも書かれていたとおり、ショックの直前まで胸骨圧迫をしている方が自己心拍再開の可能性が有意に高いという論拠があります。
 
これは医学的には正しいです。
 
しかし、教育指導の上でどうするかは別問題。
 
日本で認可されているAEDの中には、充電中に胸骨圧迫を行うと、「体動を検知しました」ということで充電がキャンセルされる機種があります。
 
それにどのAEDも、解析のために「患者に触れないで下さい」というメッセージを流し、充電中に胸骨圧迫を指示する機種はありません。
 
ご存じの通り、医師が除細動をする時以外は、AEDの音声メッセージに従うからこそ、医師法違反が阻却されているという法論理があります。
 
ですから、いくら自己心拍再開の可能性が高いという医学的根拠があったとしても、日本国内で認可された医療機器としてのAEDの取扱説明書(添付文書)とその音声メッセージに従うというのが正解です。
 
医療機関内での職員研修で、院内に配備されているAEDが充電中に胸骨圧迫をしても問題ない機種であることが確認できている場合は別かもしれませんが、一般市民向け講習や、どのAEDを使うかわからない公募BLS講習では、充電中に圧迫するように指導するのは適切ではないでしょう。
 
 
この点は、AHA-BLSのDVDの中では日本事情は言及されていません。ビデオだけを見ると、誤解されかねない部分がありますが、BLSプロバイダーマニュアルのAED解説ページを参照すれば、「AEDの音声指示に従うこと」と明確に書かれています。
 
講習中は、この部分にはぜひ着目してほしいと思います。
 
 

 

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幼稚園の救命講習 親向けと教職員向けの違い

先日、横浜市内の幼稚園で親御さん向けに「子どもと赤ちゃんの救急蘇生法」講習を開催させていただきましたが、同園では去年8月に教職員向けの「小児BLS&エピペン研修」を開催しました。
 

BLS横浜オリジナルの子どもCPRとファーストエイドのアルゴリズム

 
小児マネキンを使って、こども(1歳〜思春期まで)のCPRを教えるという点では同じですが、先生向けと親御さん向けで同じ展開をしたわけではありません。
 
それは幼稚園の先生と親御さんでは、立場がまったく違うからです。
 
例えば人工呼吸の方法が違います。
 
親御さん向けにはマウスtoマウスの人工呼吸を指導しますが、幼稚園の先生向けにはポケットマスクを使った人工呼吸で練習してもらいました。
 
唾液などへの接触によって病気が感染するリスクは高くはないとは言われていますが、子どもとは言え他人に口をつける動作を抵抗なくできる人はいません。
 
子どもの蘇生法では人工呼吸が特に大事と言われていますから、着実に人工呼吸をしてほしいと考えたら、フェイスシールド系のものではなく、やはりポケットマスクです。(園には2つ配備されています)
 
また幼稚園の教職員は、業務中の救急対応を想定していますから、一人法CPRだけではなく、胸骨圧迫の交代の仕方も含めて、二人法CPRの連携についても強調して練習してもらいました。
 
また練習をする上での動機づけも、教職員は「救護義務がある」という点で親御さんとは決定的に違います。
 
いざとなったら救命処置を行わなければならないという責務を負っているのが学校教職員です。
 
ですから、職業意識やプロフェッショナリズムに根ざした動機づけや指導が必要です。中身も形だけの体験学習のようなものではなく、「しっかりと身につける」ためにはある程度の練習量と、それに見合ったマネキン配置、スタッフ配置、そして時間が必要となります。
 
命に関わることをインスタントに終わらせてはいけない、そう考えています。
 
 
同じ幼稚園で、続けて2つの救命講習を企画させていただきましたが、そんな違いについて再認識した次第です。
 
 

 

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ポケットマスク人工呼吸指導を、運動スキル・認知スキル・態度スキルに分解して考える

BLS横浜では、BLSプロバイダーコースや、ハートセイバーCPR AEDコースのオプションのシミュレーション練習の中で、ケースに入ったポケットマスクを組み立てて手袋を装着して人工呼吸を行う体験をしてもらってます。

これが、けっこう手間取るんですよね。やってみるとわかります。

これをどのタイミングで、どの優先順位でするかを考え、意思決定するのが、現実の課題かなと思います。ケースバイケースで答えはありませんが、そんな問題に直面し、考える、ということが重要です。

人工呼吸要ポケットマスクと感染防護手袋(グローブ)

既成のポケットマスクを購入すると、ニトリル手袋が標準でついています。

講習会での練習ではほとんど無視されていますが、現実にポケットマスク人工呼吸を行うなら手袋装着が必要と思ったほうがいいでしょう。口から泡を吹いていたり、よだれがついていたり、出血したりと、口周りはあまりキレイではないことが多いものです。

ファーストエイド講習なんかは特にそうですが、「手袋をしたフリ」ではなく、傷病者対応の一連の流れの中で、手袋を身につけさせる体験は絶対にさせたほうがいいです。

意外と手間取るという現実を知ることと、手袋をしながらも声掛けをする、観察をする。そんなノン・テクニカルな技術が重要だということに気くからです。

これは手袋を付ける、外すという、パーシャルタスク(断片的な部分技能)で練習しても意味がありません。それはただの「運動スキル」の練習に過ぎないからです。

状況を判断して手袋をどのタイミングでつけるかの意思決定をするのは「認知スキル」です。

そして傷病者を目の前にして、ただだまって黙々と手袋を装着するのか、なにか声掛けをしたり、観察をしながら平行して行うのか。これは「態度スキル」に相当する部分です。

このように実際の人間の行動は、「運動スキル」「認知スキル」「態度スキル」という3つの技能から成り立っています。これらが統合されて発揮されて、はじめてパフォーマンスとして成り立つわけです。

これを逆説的に、身につけさせよう、トレーニングしようと思ったら、バラバラにやるだけでは不十分で、特に認知スキルと態度スキルは、部分を切り取ったものではなく、一連のシナリオのなかで経験をしなければ学べないということが見えてくると思います。

だからこそ、現場で使えるための技術はシミュレーションでないと学べないのです。

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親子で学ぶ救命教室〜地域密着企画講習の意義

今日は、本牧にある「かいじゅうの森ようちえん」での講習会でした。
 
題して「親子で学ぶ救命教室」。
 
毎年この時期に開催させてもらって、もう4年目になります。
 
ようちえんのお子さんと、そのご家族とで一緒に心肺蘇生法を体験・練習しようという企画。家族ごとに成人マネキン1体と小児マネキン1体を用意し、親子ともども一緒に心肺蘇生法を体験してみようという企画です。
 
子どもたちもアンパンマンの音楽に合わせて一生懸命マネキンの胸を押していました。
 
今回は、赤ちゃんを連れて参加された家族が2組いたので、急遽、乳児のCPRと窒息解除法も付け加えてみました。
 
すでに来年の予約も頂いて、次回は2018年2月3日(土)予定です。今回は、遠く埼玉や東京からボランティアでインストラクターが駆けつけてくれました。
 
来年もまた近くなったら募集させていただくと思いますが、直近だと3月6日(月)にも横浜市内の幼稚園で親御さん向けの小児・乳児蘇生法教室を予定しています。
 
現在、お手伝いいただけるボランティア・スタッフを募集中です。
 

かいじゅうの森ようちえんでの親子で学ぶ救命教室
園のパンフレットと園長先生に頂いた朝取れのたまご

 
 
さて、私たちはいろいろな形で救命スキルを伝える講習や普及活動を展開していますが、今日の幼稚園でのご家族向け講習のような機会は、特にやりがいのある仕事だと思っています。
 
日頃BLS横浜でしているような一般公募での講習に来てくださる方は、基本的には意識の高い方、といえます。特に医療従事者向けのBLSプロバイダーコースなどは、もともとある程度できる人が、スキルアップを目指してくるというケースが少なくありません。
 
それはそれで意義のあることですが、地域社会での救命率を上げるという公衆衛生学的な意義を考えたときには、もともとは救命法をまったく知らなかった人たちが、新たに技術を身につける、意識をもつということには、また違った次元での絶大な価値があると思うのです。
 
わざわざ出向いてまで救命講習を受けようとは思っていない方にアプローチするのはどうしたらいいか?
 
それが可能となるのが、今回のような既存の地域コミュニティ内での救命講習の企画です。
 
今回は、幼稚園でしたが、日頃通っている身近な幼稚園の中で救命講習をするなら、参加してみようかな、と思う方もいます。
 
 
そんな、公募講習をしているだけでは決して出会うことができない方たちに、救命法をお伝えできる機会は私たちにとっても非常に意義深いやりがいを感じる時間です。
 
そういった意味で、こうした依頼をいただくことに感謝しています。
 
インストラクターとしても自分たちが持っているスキルが、社会に還元できることを実感できるひととき。
 
感謝です。
 
 
 

 

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最新のAHA-BLSプロバイダーコース、BLS-IFPとBLS-PHPコースの違い

ながらくAHA-BLSとして知られていたBLSヘルスケアプロバイダーコースが、ガイドライン2015改訂に伴い、BLSプロバイダーコースと名称変更され、内容がガラリと一新されました。
 
教材設計的な違いについては、これまでも何度も取り上げてきましたが、今日はシナリオによって2種類の内容が混在していることについて紹介します。
 
すでに日本語化されているBLSプロバイダーマニュアルを見ても、まったくわかりませんが、この新しいBLSプロバイダーコースは、DVD教材の上では、完全に2種類に分けられています。
 
BLS for Prehospital Provider
 
BLS for in facility Provider
 
プレ・ホスピタルという単語は直訳すると病院前。
 
傷病者が医療機関に運び込まれる前に対応する人向けのBLSということです。具体的には救急隊員やプライベートで救急対応する非番の医療従事者、スクールナース(日本で言うと保育園看護師や看護師免許を持った養護教諭)などです。
 
in facilityというのは、あまり馴染みがない単語かもしれませんが、Facilityは施設という意味です。ここでも主に病院を主とした医療施設内で緊急対応する人のことを指しています。
 
つまりざっくり言うと、BLSコースが、病院内対応と病院外対応でわけられるようになったということです。
 
AHAガイドライン2015は、Life is Whyというスローガンに象徴されるように、現場主義が強く打ち出されてます。お作法的に技術を教えるだけでは不十分で、それを現場で使えるようにするためには、応用力を培わなければいけない、という考え方です。
 
そこで、これまではあえて避けてきた現実の複雑な状況判断と意思決定の場面を、リアルなシナリオ動画の中で描くことで、身につけるべき基礎技術と、それを現場で使うために必要なノン・テクニカルスキルの例を提示するようになりました
 
その最大公約数が、病院内での急変対応と、病院外での救急対応の2種類というわけです。
 

AHAガイドライン2015正式版BLSプロバイダーコースのIFPとPHPシナリオ一覧

 
どちらを選んでも実技試験、筆記試験は同じで、学ぶコアコンテンツも同じです。しかし、提示されるシナリオ動画が、病院勤務の医療者と、病院外で活動する救急隊やスクールナース、警備員などで、現場をイメージしやすいように分ける工夫がされています。
 
今後、日本でもこのDVDが日本語化されて、公式開催されるようになったら、公募段階でBLS-IFPコースと、BLS-PHPコースが区別されて募集されるようになるのではないでしょうか?
 
これまで、BLS横浜では、FPとPHPをいいとこ取りををして混在型でコース開催していましたが、4月以降は公募段階で明示していくつもりでいます。
 
 
 

 

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CPRをシミュレーションと振り返りで身につける

2017年度最初の講習は、ハートセイバーCPR AEDコース でした。
 
世界中のAED講習の元祖となったプログラムだけに、基本に忠実なベーシックな内容。
 
その分、時間も短時間で終わりますので、BLS横浜では、いつも最後に受講者に合わせたシミュレーションや、おまけの補講を付け加えています。
 
今日は、受講者さんから、「ポケットマスクの組み立てるタイミングはどうしたらいいですか?」と質問があったので、それをシミュレーションでやってもらい、デブリーフィング(振り返り)で考えてみました。
 
現実問題、日本でよく見かけるレールダル社のポケットマスクは、畳まれたマスクを広げて(これが冬場はけっこう固い!)、マウスピースを取り付ける必要があるので、意外と手間です。慌てるとマウスピースがコロコロと転がっていくし…
 
そもそも傷病者を発見した時点で、Myポケットマスクを持っている人もそう多くはないので、AEDを持ってきたら、一緒にポケットマスクがついていたという方がまだ現実的。
 
ということで、やってみました。
 

AEDと一緒にポケットマスクが届いたシミュレーション

 
1人で胸骨圧迫のみのCPRをしているところ、第二救助者がAEDとポケットマスクを持って到着。
 
そんなとき、さっそく二人は壁にぶつかります。二人が行うべきプライオリティの高い行動はどれか?
 
1.胸骨圧迫継続
2.ポケットマスクを組み立て→人工呼吸開始
3.AEDの電源スイッチを入れて、指示に従う
 
3人目がいれば、また違ってきますが、やるべきことが3つあって、二人しかいなければ優先順位を決断しなければなりません。
 
傷病者の年齢や発見時の状況などで違ってくるので、ここでは答え的なものは提示しませんが、こういうときこそ、シミュレーションでやってみて、振り返って、みんなで考える、という経験学習が重要になってきます。
 
答えを見出す、のではなく、考え方を醸成するような教育アプローチが必要です。
 
この日の午後に開催した 新しいG2015教材を使ったBLSプロバイダーコース では、まさにこうした経験学習とデブリーフィングによる学習が新たな手法として正式に取り入れられています。
 
今までは、ACLSやPALS、PEARS(シミュレーションを省略しているPEARSコースを除く)でのみ、採用されていた教育メソッドが、BLSにまでおりてくるようになったのです。
 
 
いままでは武道の演舞のような、型を身につけ模倣する心肺蘇生法教育が標準でしたが、G2015のAHA-BLSから、心肺蘇生法教育が変わっていきます。
 
 

 

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