2026年7月13日、日本蘇生協議会からJRC蘇生ガイドライン2025が発表(刊行)されました。
国際的には2025年10月に蘇生ガイドラインがアップデートされたのですが、日本では調整作業が遅れて、国際蘇生連絡協議会(ILCOR)の情報解禁から10ヶ月を過ぎてようやくガイドライン改定を迎えました。
さて、今日話題にしたいのは、2つの蘇生ガイドラインが混在している日本の特殊性について。

ここは日本ですから、当然、日本蘇生協議会JRCが策定したJRC蘇生ガイドラインが適応されるのですが、なぜか医療者の多くはアメリカ心臓協会が米国民向けに作成したAHA蘇生ガイドラインで教育を受けているという不可思議な現象が起きています。
端的にいうと、下記のような図式になっています。
病院勤務の医療従事者・・・アメリカ心臓協会AHAガイドライン
消防職員(救急隊員)が実施する救命処置と消防や日本赤十字社の救命講習はJRCガイドライン。これは当然というか、当たり前の話ですよね?
消防職員の蘇生教育は内部的に自己完結しており、消防職員が実施する住民への応急手当講習も当然JRC蘇生ガイドラインに準拠しています。一般市民向け救命講習の最大手が消防。2番手の日本赤十字社もJRC蘇生ガイドラインで教育指導されています。
医療者向け救命処置研修の担い手がいない
しかし、病院勤務の医療従事者の多くは、日本とはまったく関係ないはずのアメリカ標準の救命教育を受けているという現状。なぜかというと、、、
教育システムがない、というか、需要に対して指導体制が整っていない、教える人が少ない、学ぶ機会がないからです。
日本独自のガイドラインはあっても、それに基づいた救命処置を学ぶ場(講習プログラム)が極めて限定的なのです。
市民向け救命講習は、全国的に消防や日本赤十字社によって提供されています。
しかし、医療従事者向けの救命処置研修プログラムと言えば、、、
・JMECC(日本内科学会)
の2つがJRC蘇生ガイドラインに準拠していますが、どちらもシステム化に課題があり、一般公募講習として開催されることは限定的で、ディレクター資格を持った医師が自施設内でほそぼそと開催しているというのが現状。
つまり、コネがない一般の医療従事者が BLS や二次救命処置を学ぼうと思ったら、全国展開で公募開催されている AHA トレーニングサイトに頼るしかないのです。
JMECC はもともと学会員でないと受講できませんし、看護師にとって二次救命処置までを含む ICLS はハードルが高く、BLS だけを学ぼうと思ったら、AHA-BLS 以外の選択肢はありません。(日本救急医学会が BLS コースを策定していますが、開催数は極めて少なく、しかも成人のみで小児・乳児蘇生は含みません)
教育システムの課題
米国では、ガイドラインを策定する団体が、教育システムをも含めて提供しています。
インストラクター制度や資格認証、トレーニングセンターというシステム。インストラクターマニュアル、プロバイダーマニュアル、講習プログラム。これらをすべて一元的に策定し、ガイドラインが医療者や国民に行き渡るようなネットワークを構築しています。
日本では、ガイドラインこそ独自のものを作ってはいますが、その普及がシステム化されていないということが課題です。
日本蘇生協議会自体は教育プログラムを持っておらず、日本救急医学会や日本内科学会などが、学会認定資格としてJRC準拠で教育活動をしているだけ。
JRC準拠の小児BLSコースが存在しない
成人領域はまだいいのですが、医療者向けの小児BLSを教えるプログラムは日本国内には存在しない、という致命的な問題も起きています。
小児科医のほとんどは、アメリカ心臓協会 AHA の PALS プロバイダーコースで学ぶのが事実上の標準になっているという現状があります。(新生児領域だけは別で、NCPR というプログラムを独自に作り、AHA-NRP を完全に駆逐しました)
麻酔科医と循環器/心臓血管外科は、JRCではなくAHAを採用
麻酔科と循環器科は、専門医取得要件として AHA-ACLS 資格を必須としています。ICLSやJMECCではダメ。つまり学会として JRC ではなく AHA 蘇生ガイドラインを標準と据えている実態もあります。
しかし、考えてみれば、日本麻酔科学会も日本循環器学会も、日本蘇生協議会の構成員(理事学会)です。
つまり、JRC蘇生ガイドラインを策定する立場なのに、自分たちが作ったJRCガイドラインではなく、AHAガイドラインを採用しているという不思議な状態。
日本の医療者の間でJRC蘇生ガイドラインが普及しないのも当然な気がします。
いつまでもAHAに頼っていていいわけがない
AHAのトレーニングサイトは、各都道府県すべてにあり、神奈川県内では10箇所以上の活動拠点があります。
日本とは慣習も法律も違う外国のガイドライン準拠の講習なのにこれだけニーズがあるというのは、本来のJRC準拠講習が足りていないことの証左と考えます。
しかし、その現状は日本にとって決して好ましいものではありません。
日米の法律の違いから、AHA講習をそのまま鵜呑みにすると、日本では違法行為となるようなこともあります。
また医療系の学生の場合、国家試験はJRC準拠で出されますので、AHAで学ぶと間違えるという落とし穴も。実際に看護師国家試験でそのような問題が出題されました。

これは当時のJRC蘇生ガイドラインで言えば「1.気道確保」が正解なのですが、AHA-BLS/ACLS講習では、呼吸確認時に気道確保は不要なため、「解なし」もしくは「2.胸骨圧迫」となりがち。
日本国内なのに異国のAHAガイドラインで学ぶ人が多いという現状への問題提起での出題だったのではないかと想像しています。
最後に
ここは日本ですから、JRC蘇生ガイドラインが標準であるべきです。
そのためには、現状で言えば ICLS がもっと開催数が増えてほしいですし、一般公募を標準としてほしい。それが叶わないのがディレクターと経費の問題。
ICLSコースの開催にはディレクター認定された医師が必要です。BLSコースであっても必ずディレクターである医師が必要。救急救命士、看護師、歯科医師ではダメという点。開催数が増えない最大要因と考えます。
またインストラクターに十分な報酬がでていないケースが多いようで、長期的には続けるのが難しいという声も聞きます。
JRC蘇生ガイドライン普及の空白地帯、小児BLSに関しては、小児系の学会が講習プログラムを作る等の流れができることを期待しています。特にBLSであれば小児看護系の学会に期待します。ICLSのように開催権限が医師に限定されると広まらない可能性が高いので。
できれば JRC が主体的に講習プログラムを作ってほしいところですが、学会の寄せ集め団体であり、収益性やハンドリングという点で難しいのだろうと思います。
そもそも日本には蘇生ガイドラインが存在しなかったところに、ILCORに加盟し、2010年から独自にガイドラインを作るようになってまだ4期。もともとはCoSTERの直訳に近いものから、次第に独自性がはっきりしてきたと感じています。
今後、組織的な発展も期待しています。






