BLS 〜成人と小児を「思春期」で分ける理由〜

前回のブログエントリー、ファミリー&フレンズCPRコース冒頭の「用語の定義」に関する続きです。

今回は「成人」の定義と、その背後にある蘇生科学の仕組みについて。

子どもの蘇生、小児BLSは思春期未満。思春期を過ぎた子ども心肺蘇生の世界では成人として扱います。

 
ファミリー&フレンズCPRコースDVDは、成人・小児・乳児にパートがわかれていて、任意の部分だけ再生できるようになっていますが、恐らくみなさんがいちばん目にするのは「成人のハンズオンリーCPR」のパートだと思います。

ファミリー&フレンズCPRを【G2010】では、成人に対しては人工呼吸は行わない胸骨圧迫だけの蘇生法(=ハンズオンリーCPR:Hands only CPR)となっています。

このハンズオンリーCPRが適応となるのは、「成人」だけです。

小児と乳児には引き続き人工呼吸も含めた蘇生法が推奨されています。

そのため、コースの冒頭でハンズオンリーCPRが適応となる成人の定義を説明しているわけです。

成人という言葉は原語では Adult ですが、蘇生に関しては社会通念とはちょっと違った定義がされているので注意が必要です。

成人 Adult と小児 Child の境目は思春期です

日本語版のビデオでは、「思春期の終わりを迎えた」というやや微妙な表現をしていますが、理屈を理解すればさほど言葉には惑わされないはずです。

ここで言う思春期以降というのは、人間としての体の発育の完了を意味しています。

というのは、子どもの心停止の原因の原因がなにか、というのがキーポイント。

子どもに多い心停止の原因は呼吸のトラブル。これはぜひ覚えておいてください。

子どもの場合は、呼吸ができなくなって、そのうち心臓も止まってしまうというパターンが多いと言われています。

故に子どもの蘇生では、発見時にはすでに血液中に溶け込んだ酸素を使い切っている可能性が高いため、人工呼吸も併せた胸骨圧迫が有効とされています。

なので、小児・乳児、つまり子どもには胸骨圧迫と人工呼吸を30:2で行う蘇生法が推奨されています。

 
子どもに呼吸のトラブルが多いのは未発達な呼吸器官に起因しています。心臓に比べて成長が遅い呼吸器官が成長しきって完成すれば、子ども特有の呼吸器系のトラブルは減ります。

ということで、思春期以降の人(体の発育が完成した人)が倒れていた場合、呼吸器系ではなく恐らく心臓のトラブルが原因だろうと推察されるわけです。

心臓のトラブル、端的に言うと心臓突然死の原因である心室細動という不整脈ですが、これは突発的に発生して、あっという間に意識を失って卒倒します。

なので、成人の心停止は血液中には酸素がまだたくさん溶け込んでいるので、胸骨圧迫をして血液を巡らすだけでとりあえずどうにかなる。(=ハンズオンリーCPR)

ということで、大人と子どもで最大公約数的に心停止の原因を分けて、それに合わせて蘇生法を変えているわけです。

この部分はよく混乱する部分ですが、この理屈を理解すると、きっと忘れないと思います。



補足:日本の蘇生ガイドライン2010では、この成人と小児の区別を撤廃して、ユニバーサル化するという判断を取ったため、日本の市民向け講習では小児と成人は区別されません。通報のタイミングも大人と子どもで違うのですが、その点も日本の講習の中では言及されなくなりました。

なお、子どもを持つ親や保育士など子どもの専門家には、医療者向けプロトコルが適応され、小児に特化した蘇生法を修得することが望ましいとされています。

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