とある中学校でAEDと一緒にバッグバルブマスクが用意されているのを見つけた、というSNSの投稿をきっかけに「過換気になるから危険」というニュアンスの意見を見ました。
人工呼吸の弊害として、空気の入れすぎによる異膨満からの嘔吐や、胸腔内圧上昇による静脈還流低下からの生存率低下などのリスクはよく知られています。
ただ、それはバッグバルブマスク(BVM)特有のリスクなのでしょうか?
呼気吹き込み式と用手送気
救急蘇生としての人工呼吸法には、デバイスの違いとして下記のようなバリエーションがあります。
1.口対口人工呼吸(ダイレクト)
2.口対口人工呼吸(フェイスシールド使用)
3.ポケットマスク人工呼吸
4.バッグバルブマスク人工呼吸
前者3つが市民向け救命講習で指導されていて、呼気吹き込みによる人工呼吸法。
最後のバッグバルブマスクは主に医療者向け講習で教えられている方法で、用手的にバッグを押すことで送気しています。
どのやり方でも空気の入れ過ぎは同じ
BLS横浜では、上記のすべての方法で指導をしていますが、初めてやってもらうと総じて送気量は多すぎ、つまり過換気であることがほとんどです。
その割合は口対口でもバッグマスクでも変わりません。
特に呼気吹き込み式の人工呼吸は、昔は深呼吸して吹き込むと教えていた時代の名残なのか、めいっぱいに吹き込む人が多いのが特徴です。
そこで、指導方法としては、どのやり方でも、まずは漏れなく空気がはいることを目標に練習します。それができたところで、次に送気量を減らして胸が上がる程度の少なめの量に最適化する練習をしています。
送気の量はマネキン(傷病者)体格によって違いますから、何ccという言い方はできません。
吹き込み具合やバッグの押し具合、でもなく、胸の上がりを目で見て判断するという点は、どの人工呼吸法でも同じです。
以上の点を考えても、過換気のリスクはバッグバルブマスク特有のものとは言えないと考えます。
コロナ渦の練習制限の現状を考えると
人工呼吸の練習は、マネキンに対して実際にやってみて、胸の上がりを目で見て量を調整するという練習が欠かせません。
さて、いま時代はコロナ渦。
市民向けの救命講習の場で、息を吹き込んで練習する、ということがほぼほぼできなくなっています。
日本で最も多く開催されている消防の普通救命講習 I でも、カリキュラムでは人工呼吸は外されていませんから、マネキンに口はつけずに吹き込む「ふり」をするという形で練習が行われているようです。
つまり今の時代、受講者は「どれくらいの量を吹き込んだらいいか」という部分は実地体験としては練習できていないのが現状です。
そうなると、呼気吹き込み式の人工呼吸をするとなると、過換気にしてしまうリスクは非常に高いと言えるでしょう。
であれば、コロナ渦であっても送気練習が確実に行えるバッグバルブマスク人工呼吸の方が、過換気リスクに対しては安全 といえるのではないでしょうか?
人工呼吸をそもそもしない、とするのでなければ、つまり小児救命や溺水、低酸素前提の現場で人工呼吸を欠かせないとするのであれば、現実的にできるトレーニングとしてはバッグバルブマスクしかなさそうです。