BLS横浜一覧

愛と勇気? いいえ、練習と自信です。

 
人命救助、ときたら「愛と勇気」。
 

誰もが違和感を感じない言葉の組み合わせだと思います。

実際、救命講習を受講するとたいてい耳にします。

 

しかし、この背後にあるのは次のような前提です。

・救助の原動力は隣人愛

・不測の事態

こう考えると、「愛と勇気」は同じ救護でも「業務対応」には当てはらまない、という点にお気づきでしょうか?

 

例えば、救急隊員。

彼らにとって救助行動の原動力に隣人愛もあるのかもしれませんが、それよりはむしろ責務・使命です。

あらゆる事態を想定して備えていますから、勇気というよりは、冷静な判断です。

 

救急隊員が勇気を主たる原動力として行動しているとすれば、非常に危険です。

もちろんリスクと対峙するときにはいくばくかの勇気は必要ですが、勇気を前提とするとき、その鏡像にあるのは自信のなさ です。

訓練し、自信を高めることで、勇気に依存する割合は減っていきます。

つまり見方を変えれば、勇気に依存した行動というのは、訓練が足りていないのです。

 
 

心肺蘇生法講習で、「愛と勇気」と言ったときに違和感を感じない私たちですが、これを救急隊員のトレーニング、医療従事者のトレーニングに持ってくると少しおかしな話になってきます。

愛に基づいた行動というのであれば、そもそも手出ししないという選択肢を秘めています。

しかし業務対応の医療者は、心停止者を目の前にして何もしないという選択肢はないのです。そこにあるのは愛云々ではなく使命だけ。

足がすくんで動けなかった。現実そういうこともあるとは思いますが、それは言い訳になりません。いくら勇気がなくてもやらなくてはいけないのです。そのためには、自信を持てるまでの訓練あるのみ。

 

世の中、いろんなタイプの救命講習がありますが、講習プログラムの組み立てそのものが、市民向けとプロ向けではまったく違う、という点、少しはご理解いただけたでしょうか?

愛と勇気で受講者を送り出す救命講習は、自信という粋にまで達することを前提としていないわけです。

この違いは、市民と医療者というくくりだけではありません。

医療資格を持っていない市民の立場であっても、学校教職員や保育士、ライフガード、プールの監視員、福祉施設職員などは、「愛と勇気」の人ではないはず。

それは仕事なのですから。

 

愛と勇気が許されるのは、責任を伴わない人、つまり素人だけです。


応急救護、免責されるのは「法的に義務のない第三者」

救命講習を開催していて、よく聞かれます。

間違えたり、うまくいかないと責任が問われませんか?

同じ疑問は誰もが感じるようで、SNS 上でも似たやり取りはよくされています。

定番の答えは、「大丈夫です。そういった裁判が起きた事例もありません」というもの。

根拠としては、

 民法 第698条 緊急事務管理
 刑法 第 37条 緊急避難

がよく挙げられています。

日本の蘇生ガイドラインによると

市民が行う救命処置の法的責任ついて、本邦の蘇生ガイドラインである 日本蘇生協議会JRC蘇生ガイドライン でも解説されています。

第8章 普及教育のための方策(EIT)の p.65 です。

JRC蘇生ガイドライン2015普及教育のための方策p.65

確かに「悪意または重過失がなければ、実施者である市民が傷病者等から責任を問われることはない」と書かれています。

しかし気をつけたいのが、その前提条件です。

ここで取り上げている「市民による救命処置」とは、「法的に義務のない第三者」によるものであるという点です。

すなわち、業界用語でいうところの バイスタンダー、たまたまその場に居合わせた通りすがりの人を前提としているのです。

業務上の救護は別枠

学校教職員や警備員、福祉施設職員などは、いわゆる市民であっても、この免責には該当しないと考えられます。

業務中の安全管理下で起きた事案として事故対応にあたる責務があるからです。そして、なにより第三者ではなく、当事者です。

「法的に義務のない第三者」という表現は少しわかりにくいですが、「見て見ぬ振りできる立場の人」というとイメージしやすいかもしれません。

責任のない善意の救護と、注意義務が問われる職務上の救護

つまり、世間一般で言われる「市民は応急救護で責任を問われることはない」というのは、医療従事者に対しての一般市民という意味ではありません。

偶発的に善意から任意で行う救護は免責されるということであり、医療資格を持たない人であっても業務対応の場合はこの限りではない、ということに注意が必要です。

参考まで、「【弁護士に聞いてみた】AEDを使ってもし人が亡くなったら罪になりますか?」という Web 記事中でも、弁護士の見解として「引率者や医療従事者である医師、看護師、教師、保護者、イベントの主催者やプールサイドの監視員など」は別枠で考えられる可能性が示されています。

実際問題、応急救護を巡っては、スポーツ指導者や警察官、学校教職員が訴追されたり、書類送検されたというニュースは珍しくはありません。

最近の大きな事例だと、2018年に大分県の養護教諭や校長が書類送検された事案 がありました。窒息に対して適切な応急措置を取らなかったなどで業務上過失致死で書類送検されています。

適切な救命講習を選ぶ

救命講習では、とかく「訴えられません。大丈夫。自信がなくてもいいから勇気を持って」と教えられがちですが、受講対象が市民であっても業務対応する立場の人であったら、話はまったく違ってきてしまいます。

責任がない一般市民向けの救命講習は、救命の連鎖をスタートさせるスイッチになってほしいというのが最大のポイントで、その中身や質はあまり重視されません。

対して、注意義務が発生する業務対応下の市民の場合は、ある程度、その実施内容と質は問われますし、間違いなく説明責任は出てきます。

つまり、同じ市民であっても両者の救命講習のゴールは違いますし、ここを掛け違えてしまうと、助けられる側も助ける側も、また教えた側にとっても残念な結果になりかねません。

まとめ:

市民であっても職務上行う救護活動は責任を問われます。

一般市民向けではなく、業務レベルのトレーニングを受けましょう。

難しいからやらなくていいですよ、というのは責任の発生しない素人向け。

難しいのであれば、時間をかけてでもきちんと習得するまで練習する。

それが命に関わる業務トレーニングというものです。


15秒前のプレ充電とは・・・最新 ACLS-2020 解説

確立されたサイエンスとしては、大きな変更がなかった ACLS の 2020 年度改定。

しかし、ACLSプロバイダーコースの教材が出揃ってみると、講習内容としてはややクリティカルな変更というか、方向性が示されていました。

G2020版 ACLS プロバイダーコースの最大の特徴ともいえるのは、

 

「除細動器の事前充電」 です。

 

ACLS-G2020最新情報:心電図解析15秒前の除細動器事前充電

 

これは ACLS プロバイダーマニュアル G2020 日本語版 では、p.92 に重要な概念として記載されています。

概略を示しますと、

 

  1. 2分ごとの心リズム解析の15秒前に、除細動器の事前充電しておく
  2. 事前充電中(つまり胸骨圧迫中)に脈拍をチェックしておく
  3. 解析のタイミングになったら、胸骨圧迫をやめ、心電図波形を確認しつつ脈がないこと手早く確認し、除細動適応ならすぐにショックをし、直ちに胸骨圧迫を再開する
  4. ショック不要な波形、もしくは 脈あり心室頻拍 だった場合は内部放電し、直ちに胸骨圧迫を開始する

 

これ、わかるでしょうか?

これでもテキストの記載をだいぶ補足して書いているのですが、いまいちイメージしづらいと思います。

つまりは、圧迫の中断を最小限にする究極の工夫

一言で言えば、胸骨圧迫の中断時間を極限まで短くするために、心電図を解析する前に「ショック適応」であるという想定で、あらかじめ充電をしちゃってください、という話です。

前回の胸骨圧迫開始から2分経ったら、圧迫を中断し、瞬時に心電図波形を見て、ショック適応だったらすかさず除細動をして、すぐに胸骨圧迫を開始する。

これによって、充電と解析による胸骨圧迫中断時間を最短にしようという工夫。

ショックが不要だった場合

これは心室細動もしくは、無脈性心室頻拍(pVT)であることを前提にした場合の行動と言えます。

もしそうじゃなかったらどうするか?

それは内部放電すればいいじゃん、ということです。

胸骨圧迫中に脈拍チェックをする理由

ただ判断が難しいのが、心室頻拍(VT)波形が出た場合。

この場合、脈があるかないかで、ショック適応かどうかが変わってきてしまいます。そこで充電中(つまり胸骨圧迫中)から脈拍を触れておくように、というのです。

この場面は、文字だけでは明らかに説明不足で、ACLS 講習中に視聴する動画を見ると納得できます。

映像教材【高い能力を持つチーム:院内】の中では、当該場面が実例として示されています。

 

解析の15秒前であることを、タイマー係が告げると、リーダーの指示で除細動係が波形を見ずに充電を開始します。

その間に(薬剤係に)脈が触れるか尋ねています。

「大腿動脈でなら弱く触れています」との答え。(胸骨圧迫によって得られている拍動)

脈が触れる部位を確認した上で2分が経過。

胸骨圧迫をやめると弱く触れていたはずの大腿動脈の拍動が消えています。

このとき、仮にVT波形が出ていても、脈なしVTということになるので、除細動適応であることが瞬時に判断できる。

 

そんな場面が描かれています。

この場面、テロップがついてきちんと説明してくれているのですが、1回見ただけだとなかなか飲み込みづらく、インストラクターによる補足説明が必要な場面かと思います。

心電図解析前の事前充電、日本の実臨床でどうするか?

今回の ACLS では、蘇生率を改善するための実現可能な具体策として、CCF(Chest Compression Fraction:蘇生中の胸骨圧迫の時間割合)を測定し、80%以上を目指すことを今までになく強く強調しています。

その CCF 改善のための具体策の目玉がプレ充電というわけです。(BLSプロバイダーコースの映像教材の中でも紹介されているほどです。)

ただ、ふつうに考えてみれば、「危なくない?」とは誰もが思うところでしょう。

除細動が必要ないのに、つい反射的にショックボタンを押してしまうリスクや、急ぐあまりに安全確認がおろそかになって、誰かが患者に触れている状態でショックをしてしまったり、急いで胸骨圧迫を再開しようとして、除細動のタイミングとニアミスをしたり、、、

日本で ACLS 2020 講習が始まったのが2021年7月からです。1月半ほど経ちますが、このコロナ渦で、ACLS 講習はあまり開催されていないのが現状。

このプレ充電が日本の医療者の間で認知されているとは言い難い状況です。

 

シミュレーションベースでやっていると、最初のうちはチーム連携という点でぎこちなく、事故に近いことも多発しますが、講習の中盤以降になってくると、スムーズな連携で、胸骨圧迫の中断時間短縮に大きく寄与することも見えてきます。

 

日頃、チーム蘇生になれた集団であれば、非常に効果的。

しかしコード・ブルーで集まったような即席チームで実践するには危ないんじゃないか、そんな印象です。

蘇生効率を上げることと、患者と医療スタッフの安全性の担保。

このバランスをどう取っていくのかは、組織としての危機管理の考え方と、経験もしくはトレーニングによって変わっていくのでしょう。

日本でこの G2020 版 ACLS が普及してきたときに、日本での傾向とスタンスが見えてくるのではないかと考えています。


ついに日本でも認可された全自動「オートショックAED」とその指導法

8 月に入ってから、救命法の指導員界隈がざわついています。

原因は、厚生労働省からのこの通知。

厚生労働省通知:ショックボタンを有さない自動体外式除細動器(オートショックAED)使用時の注意点に関する情報提供等の徹底について

オートショック AED、つまり全自動式の AED が、ついに日本でも認可されてしまったというのです。

市民が使用する上で混乱や危険が生じる可能性があるので、今後の救命講習の中では、旧来の AED と全自動式 AED を区別してきちんと教えて下さいね、という内容の通達になります。

この通達が、都道府県宛、ならびに総務省消防庁経由で、各消防本部に拡散されていき、その通達を見た現場の消防職員たちが「これ、なに?」と SNS でざわついているという次第です。

全自動式のオートショック AED とは

今までの AED は、実は半自動式

AED とは、Automated External Defibrillator、自動体外式除細動器と翻訳されています。

AED はもともと自動なのですが、これは 心電図解析から充電まで が自動というだけで、最後の電気ショックの実行は、人間がボタンを押す必要があります。つまり、自動と言いつつも、実は半自動だったのが、これまでの AED です。(フルオートではなくセミオート)

ショックボタンを押す必要がない

それが今回、日本でも認可・販売が開始されるオートショック AED は全自動で、最後の電気ショックを実行まで、自動で行われてしまうのです。

電源スイッチを入れて、音声指示に従って心停止状態の人に電極パッドを装着すると、心電図解析が始まります。電気ショックが必要と判断されると、離れるような指示とブザー音などの合図のあと、ドカンと電気ショックが実行されます。

一見便利なようですけど、「誰も触っていませんね」という、人間が目視で行う最終安全確認を待つことなく、AED の勝手な(?)タイミングで電気ショックがされてしまう、という点で、怖い、危険という側面があります。

なぜ、今になって全自動 AED が認可された?

実は全自動式の AED は、決して新しいものではなく、米国では昔からありました。AHA の BLS ヘルスケアプロバイダーコースのG2005年版の映像教材でも登場していたのを覚えている方もいるかもしれません。

今回、日本で販売認可が下りたのは、「サマリタンPAD 360P」で日本ストライカー社から発売されます。このモデルは米国では 2014 年から販売されているものになります。

なぜ、今このタイミングでオートショック AED が日本で認可されたのか、厚労省の通知を見ても書かれていませんが、上記のプレスリリースによると「処置が遅れるリスクを低減」というのが主たる理由であることがわかります。

ショックボタンが押されない、という事故事例

実際にこれまでも、ショックが必要なのにボタンが押されない、もしくは遅れるという事故がしばしば発生していました。(最悪内部放電されます)

例えば、有名な下記の AED 使用時の音声記録の映像をご覧ください。(3分23秒から再生される設定になっています)


AED が「ショックを実行します」とショックボタンを押すことを促しているにも関わらず、周りの声にかき消されて、直ちにショックがなされていない様子がわかります。

このような事態を防ぐ、ショックを遅らせないためにも、全自動式の AED の必要性が日本でも認められたということなのでしょう。

ショックを遅らせないことと安全性の天秤

しかし、しかし、です。

上記の動画の場面で、オートショック AED が使われていたらどうだったでしょうか?

詳細は不明ですが、周りの救助者や仲間が必死になって傷病者に呼びかけています。肩を揺すっていたり、手を握っていたりということはなかったでしょうか?

心電図の解析が正しくできていたということは、おそらく余計な電気ノイズが乗るような接触はなかったのだと考えられますが、ショックボタンを押すようにという音声メッセージを聞き逃しているくらいですから、着実な堅実に AED 指示が守れていたかというと疑問です。

AED 指導の原則を守れば、なんら変わらない。けど…

AED の使い方を教える上で必要なことは2つだけ。

1.電源を入れる
2.音声指示に従う

これを守れば、全自動式の AED で怖いことはないし、今までと何らかわかることはありません。

これは事実。

しかし、実際の救命講習で指導員が上記を正しく伝えているかというと、残念ながら否です。

AED 操作練習の目的を履き違えて、講習会場にある練習機を固有の手順で使うことを教えてしまっていませんか?

聞いて従う、と言葉では教えつつも、指導員のデモンストレーションを覚えさせて真似させる、そんな形骸化した講習になっているケースが多くないでしょうか?

現場でどんな機種に遭遇するかわからないバイスタンダー向けの救命講習であればあるほど、汎用性を高めるために「聞いて従う」を強調しなければなりません。

ただ、それを言葉でいくら言っても、たぶん、実用レベルでは伝わりません。

指導法を抜本的に見直す

言われてわかった気になるのと、体験を通して納得するのは大違い。

そのために、BLS横浜では、事前練習なしに複数人のシミュレーションの中で、いきなりAED練習機を使う体験をしてもらう場合があります。

複数人が集まり、誰かが胸骨圧迫をしたり、人工呼吸の準備をしている中で AED を使ってもらうと、その雑然とした雰囲気で「聞く」ということがほとんどできません。

そのため、トンチンカンな結果に終わることがほとんど。(ショックボタンを押さずに内部放電されてしまう事態もよく起きます)

これだけだと、失敗体験で終わってしまいますので、この先からが本番。

実際に対応した皆さんで振り返り(デブリーフィング)をしてもらうのです。

事前に知識として知っていて簡単だと思っていた、

1.電源を入れる
2.音声指示に従う

ということが、ちっともできなかった現実。

なぜか? どうしたらいいのかをみんなで振り返ってもらい、次に向けた作戦会議をしてもらうのです。

その上で、もう1回同じことをやってもらいます。

そうすると、完璧ではないにしてもどうにか形になります。

ある意味、失敗から学んでもらう、わけです。

聞いて従う、という簡単なことが、現場では難しい。

そのことをまず理解してもらう必要があり、そのレディネスが整わない中で言語情報として「聞いて従う」を連呼したところで、まったく響かないのは当然のこと。

形だけ教えるのと、ちゃんと教えるの違いはこういうことで、どうしても手間と時間は必要です。この教育・学習手法が 経験学習 です。

まとめ

2021年8月から、日本でも全自動式AED(オートショックAED)の発売が開始され、AED 機種ごとの多様性の説明と、原則通りの「聞いて従う」という実践的な指導が求められます。

救命法の指導員は、安全上の責任として「聞いて従う」ことを身に着けさせる実践トレーニングを行う必要があり、恐らくそれは教育手法として【経験学習モデル】を採用しない限りは難しいでしょう。

経験学習の手法については、過去にもブログで解説していますので、ぜひそちらもご覧ください。

救命講習を受けても「できる」ようにはならない その理由
https://blog.bls.yokohama/archives/6934.html

経験学習 デブリーフィングのコツ
https://blog.bls.yokohama/archives/7772.html

生きている人に電気ショックされてしまうリスクの増大

これはフルオート式に限った話ではありませんが、AED 講習の不適切な指導で、必要のない人にAEDを装着して、誤って電気ショックがされてしまう懸念は日本でも現実のものになってきています。

今回、全自動式のオートショック AED の導入で、不要な電気ショックをされてしまう事故が増えるのではないかとの懸念も聞かれています。

これについては、また今度、別項で取り上げようと思います。


AHAプロバイダー eCard の印刷サイズが小さくなる問題

アメリカ心臓協会の BLS や ACLS プロバイダーカードが電子認証 eCard(イーカード/Eカード) になって久しいです。

日本国内でもすっかり定着して、必要な人はPDFファイルを自分でダウンロードして、印刷してカード型に仕上げるということがあたりまえになりました。

そこでときどき聞く「お悩み」が、カードの印刷サイズが従来のものよりひとまわり小さくなってしまう、というもの。

例えば、こんな感じです。

PEARSのeCard Eカードの印刷例

下が旧来の名刺サイズ、上が eCard の PDF データを印刷した結果、ひとまわり小さくなってしまったもの。

印刷用PDFファイルの用紙サイズが問題

本来サイズよりひと回り小さく印刷されてしまうのは、プリンタの自動縮小機能が働くせいです。

というのは、AHA から提供される印刷用 PDF ファイルは、もともとの用紙サイズが米国規格の Letter サイズ【8.5 in × 11 in = 215.9mm × 279.4mm】であり、日本の標準的な A4 サイズ【210mm×297mm】より横幅が大きくなっています。

そのため、Letter サイズのデータを受け取ったプリンターは、A4 サイズに収めるために自動縮小してしまうというわけです。

そのせいで、全体が一回り小さく印刷されてしまいます。

AHA eCard イーカードの印刷テクニック

原寸サイズで印刷するには

自動縮小機能を OFF にして印刷する

そこで、プリンターの設定変更ができるようであれば、自動縮小機能を OFF にして印刷すると、本来の大きさで印刷できます。

用紙の左右が途切れる形になるので、警告メッセージが出るかもしれませんが、どのみち余白でなにも印字されない部分なので問題ありません。

自動縮小機能を OFF できない場合 その1

個人でカラーレーザープリンターを持っている人は少ないと思います。

大半の方は、USB メモリを介してコンビニのコピー機(自動複合機)にで印刷すると思いますが、これらの機械では自動縮小機能の on/off 設定ができません。

この場合は、パソコン上で PDF データを編集して用紙サイズ(印刷サイズではなく)を A4 に変更しておくことで縮小印刷を回避できます。

ここから先は PDF 編集ソフトによって操作が異なりますが、用紙サイズを、

 
Letter → A4
 

に変更して再保存できれば、それで OK なはず。

自動縮小機能を OFF できない場合 その2

PDF ファイル編集の本家本元である Adobe の Acrobat では、用紙サイズを Letter から A4 への単純変更はできません。

そこで手間ですが、一度 A3 に用紙サイズを拡大して、余分なマージンをトリミングすることで、印刷サイズはそのままで用紙サイズだけを A4 にすることができます。

AHA eCard eカードが自動縮小印刷されないためのトリミング法

手順をまとめますと、

1.用紙サイズを Letter → A3 に拡大
2.上下をそれぞれ61.58mm、左右をそれぞれ43.52mmトリミングして保存
3.A4サイズ(210mm×297mm)に整形できたのでそのまま原寸で印刷できる

保育園ではAEDは不要?

子どもの救命には、人工呼吸は欠かせないというのは、これまで何度も書いているとおりです。

withコロナ時代の救命講習(市民小児編)-人工呼吸をどうするか?

子どもの心肺蘇生法で、人工呼吸が大事だと強調して教えてくれる指導員さんは、ちゃんとわかっている方なんだろうなと一安心なのですが、その1歩先としてAEDの位置づけをどう伝えるのかも重要なポイントです。

AEDと小児用キー

 

「子どもの救命はAEDより人工呼吸!」

そう言ったときに、間違いではないのですが、じゃAEDは使わなくていいのか? という疑問が生じます。

実際のところ、保育園の場合、全国的に見たら、自施設内にAEDを配備していない園の方が多いんじゃないでしょうか?

「AEDを置いたほうがいいですか?」との保育施設からの質問が多いのも事実です。

このあたりを今日は解説していきます。

1.子どもの心停止のしくみとAED

例外はあるにしても、子どもの心停止の原因は呼吸のトラブルに起因する低酸素がメインに考えられています。

息ができなくなり、低酸素で心臓が停まるとしたら、それは心臓のけいれん(不整脈の一種である心室細動)ではなく、心臓が弱っていって心拍数が低下し始め、最後は停まってしまうという流れが想定されます。

呼吸停止 → 低酸素 → 徐脈 → 心停止(無脈性電気活動PEA → 心静止)

AEDは「除細動器」ですから、心室細動などの心臓のけいれん状態のとき以外は電気ショックはしません。

ゆえに酸素不足で弱って停まってしまった心臓は、けいれん状態ではありませんから、AEDの心電図解析結果「ショックは不要です」と言われるのは想定できます。

そのため、子どもの心停止はAEDでは救えない、と言われることがあるのも理解はできます。

2.子どもに心室細動はないのか?

小児蘇生科学の一般論からすると、AEDより人工呼吸が大事とは言えますが、子どもであっても突然の心停止(≒心室細動)がないわけではありません。

ありがちなケースとすると、胸にボールがあたったあと卒倒したなど、いわゆる心臓震盪と呼ばれる事故は心室細動が原因と言われています。

また運動中に急に倒れた場合、心臓への負担がかかることで心臓がけいれんを起こしてしまう、という可能性はなくはありませんし、WPW症候群やブルガダ症候群のように、突発的に心室細動を起こしてしまうような体質(持病)を抱えている場合もあります。

3.子どもの心停止にAEDを装着するべきか?

心停止の原因はなんなのか? 発見したときの状況である程度推察することはできたとしても、決定的な判断はできません。

仮に電気ショックが必要な心室細動だった場合、AEDが非常に効果的で、早期に電気ショックを行えば呼吸がトラブルからの心停止より助かる可能性は高いとも言われています。

電気ショックが必要な心停止かどうかを判断してくれるのがAEDですから、AEDがその場にあれば、もしくは届き次第、子どもであってもすぐに装着するべきである、と言えます。

保育園でも胸骨圧迫+人工呼吸+AEDの基本は変わらない

以上のことから、保育園で行う救命講習であっても、胸骨圧迫+人工呼吸+AEDという基本形は他と変わるところはないはずです。

まずは、発見した人は助けを求めつつ胸骨圧迫開始。人工呼吸の感染防護具(フェイスシールドやポケットマスク等)が届き次第、人工呼吸も開始し、30:2の比率で継続。AEDが到着したら、可能な限り胸骨圧迫を続けながら急いでAEDを装着。

こんな流れでトレーニングを行うべきでしょう。

保育園にAEDがない場合

ただし、現実保育園ではAEDを置いていない場合があります。

その場合でも、基本としてAED使用を前提としたトレーニングも含めるべきですが、現実の運用としてどうするか?

AEDを置いていない保育園で尋ねると、近くの ○○ から借りてきます、という答えが多いです。

その場合、さらに次の点を質問します。

1.取りに行って帰ってくるまで何分かかりますか?
2.職員人数が少ない時間帯で現実的に取りに行けますか?
3.いざというよりには借りるという事前承諾は得てますか?

特に 2 が重要です。

人手が十分にあるなら、多少時間がかかっても救急車が到着するより速いと判断したのであれば、AEDを取りに行って装着するべきです。

しかし、夕方や早朝で動けるスタッフが3人しかいないという状況の中で、一人が遠方まで取りに行って離れてしまうというのは現実的ではないかもしれません。

倒れたのが成人(教職員等)であれば、人工呼吸よりもAEDを取りに行くという判断もありかなと思いますが、呼吸原性心停止がデフォルトの子どもの蘇生では、人工呼吸の開始を遅らせてまで AED を取りに行くプライオリティがあるかどうか?

ということで、施設にAEDがない場合は、人手に余裕があれば取りに行く、という体制が適当と思いますが、判断に迷う場合は、119番した際に消防の司令員に状況を伝えて指示を仰ぐというのがいいかと思います。

AEDを使わないことのリスク

子どもの救命ではショック不要と言われるはずだから、AEDはあったけど装着しませんでした、というのは、少々まずいと思います。

もしかしたら結果としてはそうなるかもしれませんが、その判断をするのがAEDなわけですから。

学校や施設管理下での救命処置を巡っては、裁判がよく起きていますが、遺族側の訴えとして目立つのが「AEDを使わなかった」「AEDの使用が遅れた」というものです。

世間一般としては、心停止の種類などは認識していませんから、AEDを使えば助かったに違いないという「希望的幻想」があります。

AEDを装着したらショック不要だったと言われば納得してもらえるとしても、装着していないと、その時の心臓がどんな状態だったのかのデータも残りませんから、心室細動であった可能性を主張された場合、証明のしようがありません。

そうした法的なトラブルを考えたときは、とにかくAED があればすぐつける、という救急法の大原則を貫いたほうがいいでしょう。

AEDを外部施設から借りるつもりなら協定と明文化を

子どもではAEDで救えるタイプの心停止が少ないということから、1台30万円以上するAED、保育園に設置するまでもないという組織判断も否定はしません。

しかし、法的トラブルを考えたときに、保育園や運営企業・法人としてのリスクマネージメントをどうするかはきちんと検討しておく必要はあります。

救護をめぐる裁判で指摘されることが多いのは、「予見できることなのに備えていなかった」という点です。実稼働頻度は低いとしても、保険としてAEDを備えてすぐに使える体制とトレーニングをしておく、というのが最善です。

もし近隣施設から借りるという体制で「備える」のであれば、それをきちんと制度化・明文化しておくことです。

事故を巡ってしばしば問題になるのが、事故対応手順が決まっていたか? マニュアルがあったか、です。

事故対応マニュアルの中に、緊急時には近隣施設である ○○ からAEDを借用するという点が書かれていることが重要です。そしてそのためには当該施設との事前承諾があってしかるべきです。それは単なる口約束ではなく協定のようなものを書面で取り交わすのが理想です。

それらがなく、一方的に「いざというときに借りに行くつもりだった」と主張しても、それは「備えていた」ことにはなりません。

まとめ

以上、蘇生科学の視点と、法的なリスクマネージメントの2つの側面から保育園でのAEDについて考えてみました。

結論です。

  • 小児に対してもAEDを装着する価値はある(心室細動の可能性、最善を尽くす努力)
  • 施設にAEDがあり、人手もあるなら、胸骨圧迫をしながら人工呼吸準備とAED準備を同時進行する
  • 施設にAEDがあり、二人しかいなければ胸骨圧迫に加え、AED準備を優先し、可能な限り人工呼吸準備を急ぐ
  • 施設にAEDがなく、人手に余裕があれば多少遠くてもAEDを取りに行く
  • 施設にAEDがなく、取りに行く余裕がない場合は、119番オペーレータに状況を伝え指示を仰ぐ
  • 外部施設からAEDを借りる予定なら、承諾を得た上で、救急対応マニュアルに明文化しておく

東京都内 杉並で BLS/ACLS/PEARS 講習を開催していきます

この度、東京都内でも講習展開をしていく運びとなりました。

いまのところ、下記の講習を予定しています。

西武新宿線の上井草駅から歩いて30秒

場所は、東京都杉並区内、西武新宿線の上井草駅から歩いて30秒という好立地の便利な場所。

これまで、止血法&感染対策講習などでコラボさせていただいてきたミリタリーショップ PKウェーブ さんの店舗が入っている建物の地下1階になります。

CPRも含めて各種研修も手掛けるPKウェーブさんの協力のもと会場をお借りすることができました。

都内でのBLS横浜講習のニーズを見ながら、8月以降の開催を検討していきます。

ハートセイバーCPR AED、感染対策講習も

以上はBLS横浜主催講習ですが、その他、PKウェーブさんとのコラボ企画で、7月20日(木)には AHAハートセイバーCPR AEDコース や、感染対策講習(近日募集開始予定)なども計画されています。

東京都内、23区内の方からのご要望があれば、今後は東京での講習開催も積極的に考えていきたいと思います。


病院内の救急対応を学ぶなら、ACLS より PALS

 
病院内の救急対応を学ぶなら、ACLS より PALS。
 

そんな新しい常識がだいぶ広まってきていますね。

昔は PALS プロバイダーコースを受講に来るのは小児科医か PICU の看護師ばかりでしたが、最近は小児を受け持たない一般病棟の看護師や、ほとんど子どもは受けていないけど、という ER の看護師の受講が増えてきています。

 

ACLS = 標準的な二次救命処置

PALS = ACLS の小児版

 

そんなイメージ・空気感がありますが、中身を考えるとまったく逆であることに気づきます。

むしろ PALS が標準の二次救命処置であって、ACLS が全般的な救急対応の一部を切り取った限定版であるという点。

守備範囲で言ったら PALS のほうが断然広いです。ACLS は成人の二次救命処置と言ってしまうのがはばかれるほどの視野の狭さ。

結局のところ、ACLSは不整脈を前提とした心原性二次救命処置 に過ぎない、ということが日本国内でもだいぶ知られるようになってきたのでしょう。

意識改革のきっかけは PEARS®

日本の医療者、特に看護師の間での意識変容は、おそらく、というか間違いなく PEARS の普及によるものだと考えます。

急変対応というと、今までは BLS → ACLS だった中に、2008年に私たち(AMR AHA US-Cardグループ)が日本に持ち込んだ PEARS® プロバイダーコースが、「急変は急じゃない。防げる」という概念を日本に定着させました。

今では、看護師にとっての急変対応は BLS からでは遅い、というはすっかり定説になりましたが、その始まりは間違いなく PEARS® です。(患者急変対応コース for Nurses もINARS もどちらも PEARS® にインスパイアされてできた教育コースです)

命を落とす原因は組織細胞への酸素化障害

病院内の心停止は、成人であってもVF(心室細動)は2割程度に過ぎない、ということはACLSプロバイダーマニュアルにも書かれています。

防ぎ得る心停止で人が命を落とす原因は、突き詰めれば、組織細胞への酸素化の障害です。

その酸素不足、が呼吸器で起きるのか、循環器で起きるのか?

循環器由来で発生する組織細胞の酸素不足をショックと呼んでいますが、ショックの原因の1つが不整脈による循環不全です。致死性不整脈の他、心拍が遅すぎたり、速すぎたりして、血圧を保てなくなっている状態。

ACLS が扱っているのは、この不整脈による循環障害と心筋梗塞だけ、です。いうなれば心原性ショックだけ。

PALS の守備範囲の広さ

しかし、PALSでは、心原性ショック以外に、病院内で圧倒的に多い血液分布異常性ショックと循環血液量減少性ショックをがっつり扱いますし、さらには限定的ながら閉塞性ショックも含まれます。

さらには、循環器以前の酸素の取り込みを問題とする呼吸障害も、

・上気道閉塞
・下気道閉塞
・肺組織疾患
・呼吸調整機能障害

に細分してメカニズムと対応をしっかりカバーしています。

PALS の限界

そんなPALSではありますが、やはり限界はあります。その1つがやはり「子ども」が前提ということで、心筋梗塞と脳卒中が含まれていないという点。

さらに言えば生活習慣病や加齢が想定されていないので、臨床症状が基本に忠実すぎるというか、高齢者にありがちな動脈硬化の影響や、基礎疾患、内服薬の影響などがまったく言及されていないという点。言い換えれば、生理学的な原則をきっちり学べるということではありますが。

もちろん、子ども、特有の臨床症状のクセ、みたいなものはあります。

ただ、今現在、日本で展開されている教育プログラムの中で、これだけ幅広く包括的に救急を扱ったものは PALS をおいて他にありません。(強いて言えば AMLS や概念としての JMECC でしょうか?)

小児という癖を加味しても、小児に限定しない価値はあると考えています。

PALS の前の基礎固めとして PEARS® と ACLS

近年、BLS横浜の講習に参加してくださる方の動向・傾向を見ると、看護師、救急救命士の場合、BLS から始まって、PEARS® へ、そして ACLS を 学び、最後は PALS へ、という流れができつつあるのを感じています。

総合的に救急を学べるのは PALS である、というのは間違いないとしても、いきなり PALS 受講となると、看護師、救急救命士の場合は、2日コースであってもかなり学習負荷が大きいのは否めません。

最後は PALS としても、その前に PEARS® と ACLS を知っておくのは意味があると考えます。

PEARS® で学ぶ体系的アプローチと非心停止対応、そして ACLS の心停止と不整脈のアルゴリズム対応を知った上で、PALS に臨めば、 PALS 本来の総合救急対応というツールの使い分けという PALS 固有の部分を最大限に学べるはずです。


経験学習 デブリーフィングのコツ

シミュレーション学習は、

1.やってみる
2.振り返る(内省)

の2つのステップで構成されています。

やってみて、うまくできたら、「よくできましたね」と、試験合格みたいな雰囲気で終わってしまう場合がありますが、それでは経験学習は成り立っていません。

シミュレーション教育では、うまくできた、できなかった、は本質的な問題ではありません。

この点を、インストラクターは正しく理解し、受講者をファシリテートしていく必要があります。

 

適切に行動できた場合の振り返り

うまくできなければ、なにが良くなかったのか? どうしてできなかったのか? という内省に持っていきやすいですが、うまくできてしまった場合はどうするか?

試験であれば、「合格!」の一言で講評を追加すればいいかもしれませんが、やっていることは、シミュレーション学習、つまり経験から学ぶというプロセスであることを区別しなければなりません。

うまく行ったのはたまたまの偶然だったかもしれません。

なぜうまくできたのか? 受講者たちにそこを考えてもらうのがインストラクターの役割です。

なぜうまくできたのかが解析できれば、次にそこに再現性が生まれます。

個別の事象から、汎用的な知を引き出すこと。

これがデブリーフィングです。

インストラクターの働きかけを単純化して書くととこんな感じです。

 

「うまくできてましたね」(承認・ストレスからの開放)

「特にどこがよかったですか?」

「どうしてうまくできたのだと思いますか?」

「学べたことは? 次回やるときはどんな点に注意したらいいでしょうか?」

 

さらにいうと、受講者にとってはシミュレーションで上手に行動できるのが目的ではなく、臨床現場で救急対応ができるようになるために研修にきています。

となると、経験学習の終着点は臨床現場、受講者それぞれの職場にフォーカスされます。

そこに思いをシフトする一言が、

 

「いつもの職場のメンバーでやったら、同じようにできると思いますか?」

「(できないとしたら)何が足りないのでしょうか?」

「職場に戻ったら、何をしたらいいでしょうか?」

 

となります。

 
 

以上、シミュレーションのあとのデブリーフィングのコツでした。

インストラクターからの発語は「問いかけ」が中心になるはずです。

講評、ではないのです。


保育・学校での死亡事故対応の実際 〜調査報告書から学ぶ

BLS横浜では、スローガンとして、

 
「実用業務に耐えうるハイエンドな救急救命スキルを」
 

を掲げています。

学校の先生や保育士さんと話をしていると、「毎年救命講習を受けているので大丈夫です」とおっしゃる方が少なからずいらっしゃいます。

しかし、救命講習で実技試験に合格するのと、現場で心停止の疑いを持った子どもに対峙するのは、残念ながらまったくと言っていいくらいに別ものです。

そのギャップをなんとかお伝えしたい、そんな思いでBLS横浜では救命講習を組み立てて展開しています。

事故報告書の記録から現場をイメージする

仰向けに置かれた人形に対して、決められた所作をこなす一般的な心肺蘇生法のイメージと、実際の現場感覚の違い。

それを理解してもらうために活用したいのが、実際に起きた保育園事故に関する事故報告書です。

現場で何が起きて、職員は何を見てどう判断したのか? そしてどんなアクションを起こし、傷病者(子ども)の状態はどう変化していったのかが生々しく描かれています。

 

今日はその中のひとつ、平成29年7月に出された「大阪市たんぽぽの国保育事故調査報告書」を紹介します。

昼食後の午睡中に、1歳児が窒息(嘔吐による誤嚥と推察される)を起こし、死亡した事故です。

大阪市のホームページから、事故調査報告書(PDF)をダウンロードできます。

「大阪市たんぽぽの国保育事故調査報告書」
 https://www.city.osaka.lg.jp/kodomo/page/0000364024.html

 

直リンクも掲載しておきます。

 

今回、特に注目してほしいのが、第二章の「事実経過」の部分、職員が子どもの異変に気づいてからの動きです。

 

「大阪市たんぽぽの国保育事故調査報告書」報告書(本文) p.13〜15
2 主な事実経過 (2)事故日

 カ.異変認知(うつぶせ寝・チアノーゼ)
 キ.緊急対応 I
 ク.緊急対応 II
 ケ.救急隊到着後の経緯

ここは必ず読んでください。

ここだけでいいので、読んでください。

異変を覚知してから、心停止を判断し蘇生を開始するという意思決定が難しい

現場の様子、子どもの様子、慌てふためく職員たちの様子が生々しく描写されています。保育士さんであれば、実際の状況がまざまざと目に浮かぶことと思います。

この対応の良し悪しという点は、ここでは論じません。

見てほしいのは子どもの様子がおかしいと気づいてからも、状態が変化していくこと。

 
「人工呼吸をしたら「ウーッ」という声がした、途中で嘔吐した」
 

また救護処置を始めるタイミングの判断の難しさも感じると思います。

 
「心臓の音を聞こうとしたが自分の音で聞こえず、」
 

 
 
職員が何に見てどう判断して行動したのか、対応の流れを少し書き出してみます。

 

午睡中の児の唇にチアノーゼが出ていることに気づいた
 ↓
ぐったり、ふにゃっとしており、抱っこの刺激に反応がない
口元は紫色、顔は白く、呼吸は不明
 ↓
酸欠だと思い、顔や背中を叩いたらチアノーゼが引いたように思えた
 ↓
人工呼吸を開始
3,4回人工呼吸をしたら「ウゥー」という声
 ↓
耳を当てて心音を聞こうと思ったが自分の音でわからなかった
脈を取ろうとしたができなかった
 ↓
保育室から事務室に移動させた
 ↓
嘔吐
 ↓
119番通報(覚知から約25分)
その4分後、同一建物内にある運営会社に応援要請の電話
 ↓
119番の指令員指示で胸骨圧迫を開始

 

ぜひ、この状況を頭に思い描いてみてください。

異変に気づいて、応援要請や胸骨圧迫や人工呼吸などの救助行動を開始する判断の難しさ。

救命講習で繰り返し練習したはずの下記の手順も、現場判断からすると、実際はかなり難しいというのが実感できると思います。

反応なし → 応援要請 → 呼吸確認 → 10秒で正常な呼吸と判断できなければ胸骨圧迫開始 → 感染防護具が届いたら人工呼吸を併用+AEDが到着したらすぐに装着

逆にいうと100%心停止していることが前提でなんの変化も示さない心肺蘇生練習用マネキンで練習している限りは、まったく気づくはずもない生体の変化。

それを報告書から学べるのではないでしょうか?

このように事故報告書を読み込むことで、救命講習とはまったく違う世界観とも言える現場の実際をイメージできること、これはいざというときに実際に動けるようになるために重要なステップです。

ぜひ、上記報告書を保育園や学校の教職員たちで共有し、職員会議や勉強会の場で皆さんで話し合う場を設けてみることをお勧めします。

それだけで職員の意識が変わり、実際に必要な準備がなんなのか見えてくるはずです。

小学校でのシミュレーションを含めた小児救命講習

 

想定外を模擬体験する シミュレーション訓練

より具体的に備えるためには、ハプニング要素を加えた想定練習を体験し、その後みんなで振り返りことが有用です。

BLS横浜が、保育園や学校からの依頼救命講習で大事にしているのはこの部分です。この点は、詳しくは、ぜひ下記のブログ記事をご参照ください。

救命講習を受けても「できる」ようにはならない その理由
学校教職員に救命処置トレーニングの話をすると、「毎年救命講習を受けているので大丈夫です」と自信満々に言われることがあります。 救命講習を受ければ、心肺蘇生ができるようになるの...