指導員養成と教育工学一覧

BLSコースにおける真正性の課題

ガイドライン2015版のBLSプロバイダーコースDVDを見て感じる点ですが、現場での判断力を養うためには、講習の中でも「
真正性」を追求していくことが重要と思います。
 
例えば、BLSマネキンや模擬患者相手に練習をしているときに、「大丈夫ですか?」と受講者が反応確認をした際に、インストラクターは「意識はありません」と言ってしまう場合があります。

この場面で教育すべきは、反応があるかないかを弁別して、それぞれのときにどう行動するかを決定する能力を養うことです。
 
「意識がありません」とインストラクターが言ってしまうと、受講者から、自分で反応の有無を判断するのだという思考回路を閉じてしまうことになります。
 
BLSマネキンは、単純な人形ですから、反応がないに決まっています。だから、単純なマネキン相手に反応確認を練習させるのは、基本的に無理です。1千万円近くするような、反応を示すというパターンを再現できる高規格のマネキンを使う必要が出てきます。
 
こう考えると、BLS講習のハードルは上がりますが、そこまでしなくてもイマジネーションに働きかけるような講習展開である程度はカバーできるかもしれません。それが今回のG2015版BLSプロバイダーコースDVDに出てくる数々のリアルなシチュエーションのデモ映像なのでしょう。
 
さらに言えば、そういった映像に頼らなくても、受講者が自身の経験の中から想起できるようなストーリーを語り、イメージをもってもらってから練習を行うというやり方もあります。
 
または、もっとシンプルにはインストラクターが模擬患者として演技をすればいいのです。顔色や心拍のコントロールはできませんが、反応の有無や呼吸の有無に関して言えば、パーシャルタスクにはなってしまいますが、マネキンよりはマシなトレーニングができるのではないでしょうか?
 
BLSマネキンには限界がありますが、それをどう認識して、別の方法でカバーしていくか?
 
それがG2015時代のインストラクターに求められる工夫ではないかと思います。
 
 


BLSマネキンが服を着ていないといけない理由

先日、BLS横浜の講習会に手伝いに来てくれたインストラクターの方に言われました。
 
「わざわざマネキンに服を着せているんですね!」と。
 

AHA-BLSマネキンには服を着せる必要がある

 
心肺蘇生法練習用マネキンを購入すると、専用の前開きのシャツがついてきます。
ただ、ジッパーの部分が壊れやすく、壊れたらそのまま使わなくなる=裸のままの状態で使用、ということが多いようです。
 
BLS横浜では、マネキン専用の服が壊れた後は、写真のようにお古の服を着せています。マネキンを並べると、みんな違う色とりどりの服を着ているものだから、パッと見で目立つんでしょうね。
 
さて、BLS横浜の心肺蘇生法講習で、きちんとマネキンに服を着せている理由ですが、ひとつはアメリカ心臓協会の講習開催基準で定められているからです。
 

ハートセイバーCPR AEDコースの必要機材準備リスト

 
これは対応義務のある職業人のためのハートセイバーCPR AEDコースのインストラクターマニュアルの必要機材リストの一部ですが、manikin with shirtと書かれています。
 
ただのマネキンではなく、「シャツを着た」という指定が付いているんですね。
 
これを基準として、BLS横浜の講習では、原則的にすべてのBLS系講習でマネキンと服はセットで考えています。
 
実は、主に医療従事者向けのBLSプロバイダーコースのインストラクターマニュアルでは、(シャツを着ている)マネキンという限定はされていません。
 
ただ、マネキンとしか書かれていないのです。
 
そこで、BLSプロバイダーコースしか開催しないトレーニングサイトでは、とかく衣服には無頓着になるのだと思います。
 
ハートセイバーコースであえて、服を着ていることが求められている理由ですが、医療者にとっては、AED使用の際に衣服をハサミで切るのは、そうハードルの高い行為ではないかもしれませんが、学校教職員や警備員、一般の方など、いわゆる市民救助者にとっては、見ず知らずの人を衣服をはだけるという動作は日常的なことではありません。
 
「本当に服を脱がせていいのか? 切っていいのか?」
 
この所作が心理的に障壁が大きいことは想像に固くありません。
 
そこで、CPRを開始するときやAEDを装着するときに、服をはだけるという動作を意図的に練習させているのです。
 
そんな意図を考えたら、たかが服一枚ですが、あるなしでは大きな違いですよね。

 
 
 
一般講習では、練習の簡便さとのバランスで前開きのベストを1枚着せているだけですが、警備員さん向け講習など、リアリティが求められる講習では、Tシャツを着せた上にベストを着せたり、より現実に近い設定にして行うこともあります。
 
その場合は、AED練習機に入れてあるハサミで、実際にTシャツを切ってもらう練習もしています。
 
やってみるとわかりますが、練習とはいえ、CPRをしている状態で、襟元からハサミで服を切ってもらうという体験は受講者にとってはインパクトが大きく、大抵の方がためらいを示します。
 
その様子を見ていると、練習とはいえ、服を着る体験というのが、現実の行動への期待を考えた時にはとても意味のある練習だと思います。
 
たかが服1枚ですが、救命法指導員の方は、再考してみてはいかがでしょうか?
 
 


ポケットマスク人工呼吸、指導の動機付け(教育工学的視点から)

2010年版からBLSヘルスケアプロバイダーコースでは、口対口人工呼吸の練習がなくなりました。
 
AHA-BLSコース は、救命のプロのための一次救命処置講習です。
 
米国では労務省の労働安全衛生局(OSHA)の勧告で、業務上の蘇生では感染防護具を使うことを義務付けられています。そこで医療者レベルの教育では、練習するのはバッグマスクとポケットマスク(フェイスマスク)換気だけになってしまいました。
 
ただ、日本の医療現場では、ポケットマスクは知られていませんし、病院として用意しているところもほとんどないでしょう。
 
AHA-BLS講習で、初めてポケットマスクの存在を知ったという医療従事者も多いことと思います。
 

小児BLSマネキンとポケットマスク:成人用と小児用

 
米国で作られた講習DVDでは、ごくあたりまえのようにポケットマスクの練習が始まりますが、この点、日本では「医療従事者であっても知らない人が多い」という事情に合わせて、一歩踏み込んで説明しておいたほうがいいと思っています。
 
特に、見たこともなく、どこで使うのかもわからないポケットマスクの練習をさせるなら、教育工学の動機付けモデル(例えばARCSモデル)を考慮して、学ぶ意義は伝えるべきかと思います。
 
そこで、BLS横浜では、この写真のようなケースをお伝えしています。
 
 

町中のAEDと共に配備されたポケットマスク
↑ 横浜市内の公民館に置かれていたAEDとポケットマスク

 
 
これは、とある公民館に設置されていたAEDの写真です。
 
赤いAED本体の上に、黄色と黒(青?)の物体が置かれているのが見えますか?
 
ポケットマスク、がきちんと用意されていたのでした。
 
このように、「病院では見たことないかもしれないけど、街中に設置されているAEDの中には、ポケットマスクが準備されている場合があるんですよ」とBLS講習の中で伝えることは大切かなと思っています。
 
なので、BLS横浜で開催するBLSプロバイダーコースやハートセイバーCPR AEDコースでは、AED本体だけではなく、収納ソフトケースも示して、「もし、街中で救命する機会があって、AEDといっしょにこんなケースがあったら、これだ! と思ってぜひ使ってくださいね」という話をしています。
 
 
 
BLSプロバイダーコースを受講に来る方の大半は、病院業務で活かすためと考えていますので、勤務先病院にポケットマスクがなければ、練習を行う意義について空虚になりがちです。
 
ですから、インストラクターは、「学習内容が自分にとってどのように役立つのか?」という ARCSモデルの Relevance(関連性)を提示しつつ、学習を進めることは大切だと思っています。
 
 
さて、街中のAEDにポケットマスクが用意されているのは普通のことなのか、という話ですが、これはなんとも言えません。
 
AEDを購入ないしはリース契約をする際に、販売業者はさまざまなオプションを勧めてきます。服を切るためのハサミやタオルやカミソリをまとめたポーチや、予備のAEDパッドなど。
 
この中の一つとしてポケットマスクがあるわけですが、それを追加購入するかどうかを決めるのは、施設の設置者です。
 
知り合いのAED販売をしている人は、医療・福祉系施設に納入するときはポケットマスクの追加配備を強く勧めて、練習もしてもらっている、といっていましたが、一般の販売員がどこまでポケットマスクの重要性を認識しているかによって温度差はあると思います。
 
 
先ほどの写真の施設は、業者から勧められるままにポケットマスクを配備したというよりは、おそらく中身をきちんとわかった職員や第三者によって整備されたもののように思います。
 
というのは、AEDの脇にジップロックに入ったガーゼやタオルが見えますが、明らかに「手作りキット」だからです。
 
別の例として、とある小学校を訪問した際には、ポケットマスクだけではなく、バッグバルブマスクもAEDケースの上においてあって驚きましたが、ポケットマスクは、ケースに収めた状態ではなく、すぐに使えるように立体的に組み立てた状態でジップロックに入れてAEDとつなげておいてありました。
 
これは学校内でシミュレーションを行った際に、ポケットマスクの組み立てが時間がかかって現実的ではないと気づいたからだそうです。
 
 
AEDを配備するのはいいですが、その施設ごとの特性や訓練内容と合わせて、AED付属キットのアレンジを考えていくのは大切なことと思います。
 
 


AEDトレーニングに適した練習機とは…

AED講習でAEDの「使い方を覚えさせる」ような教え方をしてはいけません。
 
AED操作で教えるべき唯一の動作は電源スイッチを入れること、ただそれだけです。
 
現在日本で認可されているAEDのほとんどは、蓋を開ければ自動でスイッチが入るタイプですから、もはや「技術」としてAEDを教える内容はなくなったといってもいいかもしれません。
 
AEDは機械の設計として、「音声指示に従って操作する」ことを前提として作られた機械です。つまり、訓練を受けていない人が使う道具である、という基本を思い出しましょう。
 
AED講習で教えるべきなのは、パッドの貼り方などではなく、「音声指示に従う」という「態度」なのですが、このことはあまり理解されていません。
 
施設職員向け研修などでは、施設に配備されたAEDの操作を「覚える」ような講習展開もありと思いますが、不特定多数向けの一般講習で、あるメーカーの特定機種の使い方を覚えさせても、受講者が遭遇するのが同じ機種とは限りません。
 
以前は「AEDは機種が違っても操作は大きくは変わりません」という点を強調していましたが、いろんなメーカーの様々な機種が認可されてきた今、直感的に使えるAEDだけではなくなってきていますので、分かった気になってAEDの指示を聞かずに操作することは危険です。
 
そこで大事なのは、音声指示を先回りしてでも早期除細動を目指すような指導ではなく、機種固有の音声メッセージをよく聞いて従う、という態度を醸成することです。原則論に立ち返るべき、とでもいいましょうか。
 
 
そう考えた時に、一般向けのAED訓練に使うAEDトレーナーの機種選定では、実機が存在するかどうかという点は重要な問題ではありません。
 
むしろ実機の存在しない練習用オンリーの機種の方がトレーニングには適しているといえるかもしれません。
 
 


AED装着のタイミング、勘違いしていませんか?

「いざという時にはAED!」という意識が根付いてきたのはうれしいことですが、不正確な理解が広まっているのが気になるところです。

特に、AEDを装着するタイミングは、驚くほど誤解されています。

AEDは医療機器ですから、使用条件(適用)がきっちりと定められています。

市民救助者の場合、

1.反応なし
2.呼吸なし

上記の条件を満たした場合、つまり心停止を疑う場合にはじめて使用する道具です。

「大丈夫ですか?」と呼びかけて反応確認をした後、「あなたAED持ってきて!」となりますが、すぐにAEDが届いたとしても、呼吸確認をするまでは、AEDは装着しない、ものなのです。

もう一度いいます。「AEDは心停止が疑われる人」に使用するものであって、具合の悪い人に念のため装着する、というものではありません。

AEDを装着するという決断をするのであれば、すべからく胸骨圧迫が行われているはずです。

胸骨圧迫はいらないけど、AEDだけは貼っておこうということは、ありえない状況です。

日本光電AED添付文書

日本光電AED-3100添付文書より

明らかに生きている人にはAEDは装着しない!

意識・反応がない人がいたら、胸から腹にかけての動きを目で見て、「正常な息をしている」と10秒以内に確信が持てなければ、胸骨圧迫を開始しますし、AEDがすでに届いていれば、この時点でAEDの電源を入れて装着します。

呼吸をしていない!(もしくは普通じゃない、ヘンな呼吸をしている)

この確認を守らないと、酔っぱらいや、朝の電車でありがちな失神発作で倒れた人が、みんな服を切られて、公衆の面前で裸にされることになってしまいます。

意識がなければAED手配と119番通報するのは正解ですが、AEDが手元に届いても、明らかに呼吸がある場合や、朦朧としていてでも反応がある場合はAEDを装着する必要はない、ということも知っておいてください。

また指導員は、このAED使用の原則についてきちんと知っておく必要があります。

普及促進という点ではまどろっこしく感じる部分もあるかもしれませんが、胸骨圧迫と違って除細動は紛れもない医療行為であるという認識を、指導員は忘れないようにしたいものです。


窒息解除法指導をめぐる複雑な事情

喉にものが詰まることで生じる窒息。
 
窒息解除法も「救命処置」のひとつであり、心肺蘇生法と並んで、「救急車を待つのでは間に合わない」超緊急事態です。
 
そして、おそらく、心肺停止より遭遇する可能性が高い、リアリティを持って学び身に付けるべき処置と言えます。
 
しかし、そのやり方やバリエーションが、心肺蘇生法ほどシンプルではないので、正しい知識と技術が伝わっているかというと、CPR以上に厳しい現実があるように思えます。
 
そこで、いまさらではありますが、【乳児以外の全年齢】の窒息解除法(反応がある場合)のポイントを整理してみます。また、ガイドラインによる違いについても簡単に説明したいと思います。
 
反応のある成人・小児に対する窒息解除法として、国際コンセンサスにより推奨されているのは、
 
・背部叩打法
・腹部突き上げ法
・胸部突き上げ法
 
の3つです。
 
米国では、腹部突き上げ法がメインで指導されており、妊婦や肥満により相手の腹部に両手がまわらない場合は、胸の真ん中(胸骨圧迫と同じ位置)を自分側に強く引き寄せる胸部突き上げ法が指導されています。
 
日本では、背部叩打法が中心に指導されており、腹部突き上げ法も併せて指導することが多いようです。反対に胸部突き上げ法はテキスト的に示されることはあっても口頭で指導する場面は少なくないようです。
 
この3つの方法が蘇生科学的に推奨されているわけですが、どの方法がよいのか、と誰もが気になる部分については勧告はありません。結論として書かれているのは、2つ以上の方法を試す必要があるかもしれないということだけです。
 
いくつか気になる研究データは示されており、腹部突き上げ法は致死的な合併症の報告があること、また腹部突き上げ法と胸部突き上げ法を比較した場合、胸部突き上げ法の方が強い気道内圧を得られるという点です。
 
だからといって、腹部突き上げ法より胸部突き上げ法が推奨されるということはなく、勧告に反映されるほどの根拠とはなっていないようです。
 
こうした根拠性は国際会議での論文ベースの検討によって国際コンセンサスとして示されます。
 
その国際コンセンサスを元にして国単位で作られるのが「蘇生ガイドライン」です。
 
そしてその各国ガイドラインにもとづいて、作られるのが、日本でいえば「救急蘇生法の指針」であり、各団体はそれに基づいて救命講習を立案しています。
 
ですから、ガイドライン作成団体で国ごとの着眼点や解釈の違いが生じますし、さらには各団体の指導要録の段階でも多少の差異が生じるというわけです。
 
日本で、純粋に日本版ガイドラインだけで教えられていればそんな苦労はないのですが、医療従事者の世界ではAHAガイドラインが標準となっている実態があり、結果的に日本では日本と米国のふたつのガイドラインが混在しているのが現状だからです。
 
救命法の指導員は、こうした国際コンセンサスレベルで理解をしておくことが望ましいのかなと思います。(日本版ガイドラインは、ほとんど国際コンセンサスの直訳みたいなものなので、とりあえずこれだけでも読むことをおすすめします)
 
このややこしい現状、どうにかしてほしいとは思うのですが、いろいろ難しい問題があるので、それについてはまた機会があったら書きます。
 
 


救命法/ファーストエイド講習、シミュレーション組み立てのポイント

最近、既存のBLS講習や救急法講習のようなスキル・トレーニングだけではなく、シミュレーション学習を取り入れているという報告をよく目にするようになりました。
 
そこでBLS講習やファーストエイド講習でシミュレーションを取り入れる場合のコツをいくつか書いてみようと思います。
 
1.意図をもってよく練られたシナリオ
2.前提条件の事前オリエンテーション
3.模擬体験を振り返り、一般化する作業・・・デブリーフィング
 
シミュレーション・トレーニングは、経験学習理論に沿って進められます。とにかくやらせればいいんだというのとはちょっと違います。
 
まずは、シナリオは意図をもってしっかり練られたものであるべきです。
 
シミュレーションのなりゆきは、参加者の判断と考えによってどう転んでいくかわかりません。そこをしっかりとコントロールしなければ、意図した学習効果は得られません。場合によっては逆効果に終わる場合もあります。
 
特に、どこまで実施してほしいのかを明確にしておかないと、受講者としては戸惑いだけで終わってしまう場合も少なくありません。
 
例えば119番通報する場面があったとします。シミュレーションの意図としては通報も模擬体験をさせたいと考えていても、前提条件をきちんと伝えて、「インストラクターが通信指令員の役をしますので、想定される住所をきちんと声に出して通報してください」、という点をはっきり言っておかないと、「119番通報しました」という通報した体で先に進んでしまいがちです。
 
また模擬患者を設定する場合、傷病者役に実際にどこまでを処置を行っていいのか戸惑う場面が多いため、「胸骨圧迫だけはやったふりだけにしてください。その他、体の向きを変えたり、移動することは実際に出来る範囲でやってください」などと具体的に示しておくことが重要です。
 
また講習参加者には、受講者同士で模擬傷病者と救助者の役割を演じてもらうということをあらかじめ示しておかないと、急に演技をしろと言われてもそれは無理難題です。
 
また、いきなり難易度の高い演技(役どころ)を指示するのも避けたいところです。成人学習理論に則り、参加者のストレスに敏感でありたいものです。参加者同士の親和性を高めつつ、段階的にステップアップしていくような講習展開を心がけるべきでしょう。
 
講習参加者に傷病者の役を演じてもらうためには、求める演技をどのように指示するかも問題です。
 
徐々に経験してもらうことでうまくいくこともありますが、基本的に凝った演技や微妙な役どころを講習参加者に求めるのは難しいです。
 
その場合、インストラクターが傷病者役をしたり、あらかじめ打ち合わせを行える人を準備しておくことが無難です。
 
もしくは最初のシミュレーションの演技を、インストラクターが派手にやって、ある意味、模範演技を示してから、参加者に模擬傷病者をお願いするというのも手です。
 
他人同士の前で演技を行うというのは、なかなかハードルの高い行動です。そのハードルをストレスなく越えられるような配慮と段階的な進め方、それがポイントといえるでしょう。
 
 
経験学習理論での学びは、よく練られたシナリオで模擬体験をし、その体験を振り返り、良かった点、改善点などを抽出して、それを一般化し、次の模擬体験に活かしてみて、評価を行うサイクルを繰り返すことから得られます。
 
その学習を支えるのが、デブリーフィングです。簡単にいえば振り返りです。
 
振り返りは、シミュレーション体験をした学習者たちが内省することで促進されます。
 
インストラクター(ファシリテーター)は、「内省」と「経験知の一般化」をサポートする促進係であり、教えを与える立場ではありません。この位置づけを理解していることも重要です。
 
シミュレーションを取り入れると言いつつも、この経験学習理論の基本的成り立ちがわかっていないと、シミュレーション教育風古典教育に終わってしまいます。
 
シミュレーション教育のよいところは、ノン・テクニカルな認知判断領域や態度領域のスキルをも鍛えることができるところにあります。
 
自分が求めることはシミュレーション教育で実現できるのか、それとも反復練習や講義など別の学習形態で伝えるべきなのか?
 
なんでもかんでもシミュレーション・ベースにするのではなく、多様な教育方法をよく吟味して、適材適所な学習進行をできるのが理想です。
 
 
 


ハートセイバーCPR-AEDコースの受講に来る方たち

AHAインストラクターハートセイバーCPR AEDコースの日本国内での需要について書いてみようと思います。
 
日本で公募講習をコンスタントにやっているのは、横浜だけだと思いますが、公募をするとコンスタントに申し込みがあり、ほぼ毎回キャンセル待ちがでるほどです。
 
参加してくださる方の多くは、何らかの救命講習受講経験があり、さらにしっかり学びたい、身につけたいという思いでいらっしゃる方が多いようです。
 
一方、初めて心肺蘇生法を学ぶという方は、資格取得のための要件整備として、ということが多い印象です。
 
これまで参加された方は、ヨガやティラピス、ヨットのインストラクター、プロスポーツ選手のトレーナーなど。
 
また外資系企業で、もともと持っていたCPR/AED資格が失効してしまうからというケースも多いです。
 
その他、インターナショナルのスクールナース、米国の教員免許ホルダーなど、日本の救命講習修了証ではダメなので、というケースも。
 
いずれにしても職業的に心肺蘇生法技術の習得と資格更新が必要な方たち。
 
 
こんな本来はあたりまえの商業に根ざした安全対策としての心肺蘇生法。善意の救命処置だけではなく、こうした需要に答えられる人材の養成が日本でも求められるようになってきています。
 
 


心肺蘇生法講習 ―インストラクター不要論

ご存知、5年に1回改定される心肺蘇生法のガイドライン。

BLSの章に目を通した方は多いと思いますが、何気に最終章、「教育と実施、普及の方策」のページもすごく重要です。

AHA版ガイドライン2010の最終章では、こんな記載があります。

アメリカ心臓協会蘇生ガイドライン2010最終章EITより

最近日本でもはやりのミニアンをイメージしてみてください。

風船型の家庭用簡易マネキン。付属のDVDを使って家庭で心肺蘇生法の自己練習。

簡易心肺蘇生法練習用マネキンミニアン

こんなやり方でも、講習会にいってインストラクターに教えてもらうやり方と同じだけの教育効果があった。むしろインストラクター主導型以上に効果的だった、というのです。

なにを戯言を! と感じる方もいるかもしれませんが、ご存知の通り蘇生ガイドラインは、科学的根拠に基いて勧告されているわけで、推奨レベルは最高位のクラスI、根拠性を示すエビデンスレベルもAと最高の信用度なのです。

ガイドラインの中でもクラスⅠの勧告がされているものは、それほど多くはありません。

ということで、BLS講習においてインストラクター不要論、という話が浮上してきます。

現実問題、救命法普及のネックになるのがインストラクターの確保だったりします。人材育成の話もそうですし、人件費の問題もあります。

救命講習はボランティアで教えられるというイメージが強いですが、見えない部分ではお金が発生しています。無料で開催されることが多い消防の講習も、通常は公務員の給料の中でやっているわけですし。

心肺蘇生法の普及を社会問題として考えた時に、問題は開催数と受入れ人数の少なさにあります。

その打開策として、インストラクターの頭数を揃えなくても、会場にプロジェクターとマネキン(含む簡易マネキン)をおいておき、ビデオを流しっぱなしにて、受講者は思い思いにビデオを見ながら自主練習をする。

そんな機会の提供というやり方も見えてきます。

実はこの概念で作られたのがAHAガイドライン2010版のファミリー&フレンズCPRコースです。

ファミリー&フレンズCPR講習の開催にAHA-BLSインストラクター資格が不要となったのは、ガイドライン2010のこの勧告が根拠となっています。

誰でもいいので、会場に機材を準備してビデオ操作だけをしてくれれば、中身は実質自主練習の救命講習が成り立つのです。そしてそれはインストラクターが教えるよりも効果的かもしれないという科学的根拠がある。

インストラクターが教えるのではなく、ビデオ教材と参加者の中に個々に学習が成り立つのです。その場を設定するのが主催者の役割。ここではファシリテーターと呼びますが、ファシリテーターは心肺蘇生法を知らない人でも構わないとファシリテーターガイドに書かれています。

こんなふうにガイドラインを読み込んでみると、ガイドライン2010時代になって新たな展開がいろいろ見えてきて面白いです。

さて、最後に一点、本当にインストラクターは要らないのか、という点を再考してみようと思います。

結論から言いますと、アメリカ心臓協会AHAが求めている心肺蘇生法習得のゴールを達成するという意味においてはインストラクターは必ずしも必要ない、と思います。

しかし、そのゴール設定が、そもそも本当にゴールなのか、というところが問題。

このゴールというのは、日本の救命法であってもAHAであっても基本的には同じです。

講習会場の中で、インストラクターの介在なしに、自分の力でBLSプロトコルどおりに心肺蘇生法を実施するというのが合格ラインです。

悪い言い方をするとアルゴリズム通りのお作法がこなせれば合格となるのが、世界中ほとんどの心肺蘇生法講習です。

このレベルならはっきりいってインストラクターは不要です。

しかし、人々が救命講習を受けるのは、講習会場内でパフォーマンスをするのが目的ではありません。

実際の現場で、生身の人間に対して救命処置を行うことです。

このギャップをインストラクターがどう認識するか、が問題です。

つまり、技術面というテクニカル・スキルを習得するのはビデオ教材の自習で十分。その技術を現場に応用するための調整をはかり、問題解決思考を鍛えるのは、生身のインストラクターが受講者との対話の中でインタラクティブに導いていく必要がある部分です。

そういった意味ではインストラクターは絶対に必要です。

回りくどくなってしまいましたが、結論です。

・お作法教育だけならインストラクターは要らない
・お作法教育と現実のギャップを埋められるのはインストラクター
・受講者の様子/反応をみながらインタラクティブな働きかけが重要
・生身のインストラクターにしかできないことはなにか?

このあたりを現在指導にあたっている方は考えてみてください。

ビデオに任せればいいこと、自分にしかできないこと。その認識をしっかり持てば、きっとより効果的な指導につなげることができるでしょう。


「効果的な心肺蘇生法講習の組み立て方」ワークショップ

今日、開催した「効果的な心肺蘇生法講習の組み立て方~成人学習理論を活用する」ワークショップ最後のスライドです。
 

救命講習BLS研修:既製服からテーラーメイドの時代へ

 
良くも悪くも救命講習やBLS研修の進め方は王道が出来上がっています。
 
今回のワークショップでは、講習組み立てのロジックの入口を紹介しました。
 
これまでは既製服で肩幅がちょっとあわなくても、それしかないから、疑問にも感じなかった。しかし、服の仕立て方を知ってしまうと、最終的には対象にマッチさせた服を作りたくなってくる。
 
そんな視点の広がりが、今回のワークショップの意図したところです。
 
2010年ガイドラインになってから、子どもの蘇生法を巡って起きている議論もかんがみて、顧客本位の講習の必要性が高まっています。
 
この先、どんどん高まっていくことが予想されるそんなニーズに応えられる人材を増やしていきたい、そう考えています。