ファーストエイド一覧

エピペン注射をする優先順位

保育園で園児がアナフィラキシーショックを起こしました。その子はエピペン(アドレナリン自己注射器)を携帯しています。
 
今、救急車が到着し、現場には保育士と救急救命士がいますが、まだエピペン注射をしていません。
 
さて、そんな状況では誰がエピペン注射をすべきでしょうか?
 
救急救命士?
 
それとも保育士?
 

アドレナリン自己注射器エピペンepipen

 
恐らく保育士は救急救命士が注射をしてくれると期待していることでしょう。
 
しかし、実は救急救命士は保育士が注射をするもの、と考えているかもしれません。
 
エピペン注射をする場合の優先順位。
 
実は、
 
本人 → 家族 → 保育所職員(学校教職員) → 救急救命士
 
という順番が妥当と考えられます。
 
保育士からすると、救急救命士は医療の専門家だから、注射は専門家に任せるべきと考えますが、救命士の視点からすると、患児からみて救命士は赤の他人でいちばん遠い存在。
 
保育士は親の代わりとして、どういう症状のときどんなタイミングで注射をするか、親から信託を受けた立場なわけですから、保育士や学校教職員の方が優先度が上といえます。
 
現場に到着したばかりの救急救命士からしたら、そのエピペンが本当にその子のモノなのかも確認しようがないわけで、あまりに情報が無さすぎ。そんなところで保育士に言われるままに注射という医行為を責任ある立場で行うのは怖いと感じることもあるでしょう。
 
現場の保育士さん、学校教職員は救命士に頼りがちですが、救命士からは「あなたが打ってください」と言われる可能性があります。
 
ぜひ、エピペン代行注射を行う可能性のある立ち場の方は、そんなことも考えてみてください。
 
 

 
 
 

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ノロウィルス対策【感染性胃腸炎の予防と対応】

横浜市では12月6日付で「ノロウイルスなどによる感染性胃腸炎の警報」が発令されました。
 
ノロウィルスは経口感染する非常に伝染力の強い病原体。100個以下の少ない量であっても感染が成立します。
 
ノロウィルスによる腸炎の症状は激しい下痢と嘔吐ですが、飛び跳ねた目に見えない吐瀉物の一部や、トイレから出てきた手に付着したウィルスが、ドアノブや水道の蛇口などを媒介して、爆発的に広まっていきます。
 
今流行のアルコール手指消毒剤はノロウィルスには無効と言われていますからやっかい。予防は、流水で手を洗って物理的にウィルスを洗い流す方法しかありません。
 
手洗いは最大の感染防御
 
公共のトイレを利用した場合は、誰がそこを利用したかわからないので特に注意をしましょう。トイレのドアノブや鍵の金具、水道の蛇口にはノロウィルスがついていると考えて警戒したほうが無難です。
 
最近は、自動水栓、温風乾燥機の公衆トイレが増えています。そうでない場合は、ペーパータオルを活用しましょう。蛇口を閉めるときもペーパータオル越しで行う、また最後に手でトイレ出口の扉を開けなくては行けない場合も、ペーパータオルを使って開ける。(それをどこに捨てるのかが問題ですが、、、)
 
吊り下げてあるような使い回しのハンドタオルは絶対使っちゃダメ!
 
やむを得ない場合に備えて、ウェットティッシュや、ファミリーレストランにおいてあるような単包パックになったおしぼりを常備しておくのも手です。ウィルスはアルコールで殺せないので、拭きとって物理的にウィルス数を減らそうという作戦。(流水がベストなのは言うまでもありません。あくまでも気休めですが)
 
 
 
さて、不幸にしてノロウィルスに感染してしまった場合はどうするか?
 
家族にうつさないように、消毒剤を用意して、家のトイレの便座やドアノブを使用後に消毒します。嘔吐した場合は、処置には必ず手袋を使って、素手では触らない! また飛び散った部分を拭きとった後、消毒をします。思いのほか広く飛び散っています。こんなところまでは大丈夫だろう、というところまでしっかり念入りに拭いてください。
 
消毒薬の作り方は簡単。漂白剤を薄めるだけです。
 
500ccペットボトル1杯の水に、ペットボトルのキャップ2杯の台所用漂白剤を入れる
 
家庭内の誤飲の可能性を考えると、本当はペットボトルで作ることはお勧めしません。ラベルをはがして「毒!」とマジックで大書きするなどの安全対策を忘れずに。
 
漂白剤の成分は次亜塩素酸ナトリウムといって、思いのほか強力な消毒剤です。抗菌スペクトルが広いのが特徴。ただし、漂白剤として使われるくらいに漂白作用がありますので、絨毯や生地に使うと色が落ちます。また金属を腐食する作用がありますので、ドアノブなど金属部分を拭いたときは、しばらくして水拭きした方がいいかもしれません。また作りおきすると効果が落ちますので、1日毎に新しく作ってください。
 
 
さて、ノロウィルスによる腸炎に対するファーストエイドですが、ポイントは呼吸状態の確認と、水分補給
 
小さな子どもやお年寄り、体の弱った人は、ノロウィルスによる腸炎で命を落とすこともあります。原因はいろいろありますが、相重なる嘔吐で、吐いたものが気管に入ってしまって窒息する場合や、誤嚥性肺炎を引き起こすもの、そして脱水によるショック死。
 
吐いた場合は、救急の原則に則って、ABCの評価を。
 
Airway、Breathing、つまり気道が開通していて、呼吸は安定しているか、です。
 
ついでC、つまりCirculation、循環です。
 
嘔吐や脱水で体の水分が足りなくなると、身体を巡る血液の量も減ります。すると生きるのに必要な細胞でのガス交換が困難になってきます。これが発展すると「ショック」という循環不良の状態となり、最悪、死に至ります。
 
脱水のわかりやすい目安としては、おしっこの回数が減る、おしっこの色が濃いなどで、循環血液量がある程度判断できます。唇の乾きなどもわかりやすいかも。
 
脱水は命に関わる問題に発展します。
 
なので水分補給が大事。ただの水を飲み過ぎるとかえって脱水を増強することがあるので、電解質を含めた水分補給が大切。簡単にいうと塩分です。
 
脱水になるとスポーツドリンクでは塩分が少なすぎるために、ORSと呼ばれる経口補水液の出番です。OS-1とかアクアライトといった商品名で薬店で売られているものです。小さなお子さんがいるうちでは、日頃から常備しておいてもいいと思います。
 
なければ手作りも可能。
 
 水:1リットル + 塩:3 g + 砂糖:40 g
 
 水:1リットル + 塩:小さじ1/2杯 + 砂糖:大さじ4と1/2杯

 
少しずつ飲むのがポイント。
 
それでもどうしても吐いてしまうこともあります。
 
場合によっては時は病院に行って点滴をしてもらう必要もありますので、過信して自己治療で済まさない勇気と決断も重要です。
 
 

 
 

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失神発作のファーストエイド

日常生活でもよく見られる失神。そのファーストエイドをご存知ですか?
 
失神発作への対応は、米国職業衛生局OSHAのファーストエイド基準にも含まれている基本的なもので、
 
「横になるのを助ける、気分がよくなるまで付きそう、転倒した場合はケガがないかをチェックする」
 
といった程度のことで十分なのですが、目の前で人が急にうずくまる、倒れるといったことが見られるため、周囲の人はしばしば驚いてパニックになりがちです。
 
確かに失神は、痙攣発作と紛らわしい場合もありますし、心原性失神のように重篤な不整脈が原因の危険な場合もあるので侮れません。
 
しかし失神の大半は神経調節性失神、中でも血管迷走神経反射によるものが多いと言われています。これは悪い知らせを聞いた場合、恐れ、痛み、感情的なストレスなどによっても引き起こされます。そうした原因によって迷走神経が刺激されると、脈拍が遅くなります。その結果、脳に行く血液が一過性に少なくなって、目の前が真っ暗になって気を失うという現象が起きるという仕組み。
 
また日常的によく起こるのは、起立性低血圧による失神です。これは漢字を見れば想像できるとおり、いわゆる立ちくらみ。寝た状態から立ち上がると足や下腹部の静脈に血液が鬱滞して、全身を回る血液量が700cc程度減少するといわれています。ふつうの状態ならうまく体が調整してくれるので問題ないのですが、脱水だったり調整器官がうまく働かないと失神を起こします。
 
いずれにして失神というのは、「一過性で急速に発症し、短時間で自然に元の状態に戻る」ものです。一時的に脳への血流が低下するのが原因ですから、座るか横になるかして体を低くして休めば自然に良くなります。
 
ただそれが本当にただの失神なのか、そうでないかの判断は難しいかもしれません。そんな時はBLSやファーストエイドの基本に立ち返って、
 
反応確認 → 呼吸確認
 
で命にかかわる緊急事態を除外していきましょう。
 
原因はなんであれ、反応がなく10秒以内に正常呼吸が確認できない場合は胸骨圧迫開始です。
 
呼吸がしにくそうなら呼吸の補助、いわゆる気道確保ですね。それも必要ないくらいだったらとりあえず処置として特別なことは必須ではありません。様子を見て、目を覚ます気配がなければ119番。
 
こう考えると、実は失神発作だから、という特別なファーストエイドの技術・知識は必要ないことに気づきます。
 
傷病者アセスメントの基本だけで十分対応できるのです。
 
 

 
 

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熱中症対策~水の飲み過ぎに注意!

熱中症が大きな社会問題になって数年が立ちますが、今年の目立った傾向として「水の飲み過ぎ」という問題が出てきているそうです。
 
熱中症予防として、こまめに水を飲む、ということは十分社会啓蒙されました。しかしそれがあまりに強く印象づけられたせいか、今度は逆に水を飲み過ぎて「低ナトリウム血症」という症状を来す例が増えてきているそうです。
 
低ナトリウム血症は、別名「水中毒」とも呼ばれていて、水を飲むすぎるあまりに血液が薄まってしまって、体に必要なナトリウム(簡単にいうと塩です)が相対的に不足することで起きる症状。体の怠さや吐き気、ひどくなると意識障害や昏睡、痙攣を起こすこともあります。ふつうの人にはめったに起きる症状ではないのですが、近年、増えているそうです。
 
熱中症を警戒するあまりに、汗や不感蒸泄(体から自然に蒸発していく水分)として出ていく水以上にたくさんの水を飲み過ぎてしまっているということと、水分補給として飲むものに電解質(ナトリウム等)が足りないという2つの問題が関係しています。
 
これを防ぐための一つの方法は、大量の水を一気に飲まないこと。予防的に飲み過ぎるというのも考えもので、普通の生活をしているのであれば、1回あたりせいぜいコップ一杯、そして喉が乾いたら更に飲むという程度で十分です。
 
そしてもうひとつはスポーツドリンクを過信しないこと。真水に比べるとナトリウムなどの電解質が入っているため、体にとってはいいのですが、実はそれでも電解質の量が少なすぎ。
 
軽い発汗にはいいのですが、大量に飲む場合や、脱水状態の補正として飲む飲料水としては塩分濃度が薄すぎるのです。この事実があまり知られていません。
 
そこで登場するのが経口補水液(ORS)。「飲む点滴」とも言われている電解質バランスに優れた飲み物です。
 
これは水1リットルに食塩3gと砂糖40gを溶かすことで簡単につくれますが、飲んでみるとスポーツドリンクよりはるかにしょっぱいのがわかります。発展途上国でコレラで脱水になった子どもたちを救うために開発されたWHO推奨の飲み物で、同じ配合で作られた市販品もあるのでご存知の方も多いかもしれません。(最近、テレビCMでもやってますよね)
 
熱中症を恐れるあまり、二次被害ともいうべき低ナトリウム血症という引き起こすのはナンセンス。
 
ただし、この経口補水液も本来は脱水の補正に使うもので、予防的に飲むものではありません。塩分が濃いため、血圧が高い人や心臓が悪い人には多い摂取は良くないこともあるので、ご注意を。
 
なにごともほどほどに、ということですね。
 

 

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人間の持つ恒常性(ホメオスタシス)とバイタルサイン

「走ると心臓がドキドキして、息があがるのはなぜ?」
 
こんなことの理解がファーストエイドにも、とても大切だったりします。
 
激しい運動をすると、筋肉など体の細胞がエネルギーをたくさん燃やすため酸素が足りなくなります。それを補うために体は自然と呼吸回数を増やして、そして血液に溶け込んだ酸素を体各部の細胞に送るため心臓の動きも強めます。
 
つまり呼吸回数が増えて、脈拍数も増える。
 
体が酸素不足になると、このような自動調整能(恒常性=ホメオスタシスといいます)が働いて、体の中の状態を一定に保とうとするのが人間の体です。
 
実は、ケガしたときも同じ機能が働きます。
 
例えば車にはねられてわき腹を強くぶつけて、お腹の中で大出血していた場合。体の中の出血は目に見えません。
 
しかし大量の出血をすれば、血液の酸素運搬量は減りますから、体は酸素が欠乏します。するとそれを補おうとする自然の力が働きます。つまり、激しい運動をしたのと同じように、呼吸数が早くなって心拍数も上がるのです。
 
体の中の出血は見えない。でも、脈拍数、呼吸数でその兆候を知ることができる。
 
これら体の中で起きていること、状態を外から知ることができる指標のことを生命兆候(バイタルサイン)といいます。
 
バイタルサインには、脈拍数、呼吸数のほか、意識の状態、皮膚の色、体温、血圧、発汗の状態などいろいろあります。
 
体の中で起きていることは目に見えない。でもそれを知る手がかりは実はたくさんあるのです。
 
 

 
 

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RICE…打撲、骨折、脱臼、捻挫への応急処置

打撲、骨折、脱臼、捻挫に対するファーストエイドの基本は、RICE
 
Rest(安静)
 
Immobilize(固定)
 
Cold(冷却)
 
Elevation(挙上)

 
です。
 
腫れてくるので冷やすことで血管を収縮させて内出血を抑えます。挙上というのも同じで、高くすると血の巡りが減りますので、内出血を抑えることができます。
 
患部を上げるとズキズキする感じが和らぎます。そんな経験をした人も多いんじゃないでしょうか。
 
骨折にせよ捻挫にせよ、患部が揺れ動くと痛いので固定。そして安静に。
 
このRICEの解釈が少し変わったことに気付いた方はお目が高い!(以前も取り上げたことがありますが、、、)
 
Compression(圧迫)がなくなったんです。
 
救急隊員や医療従事者の皆さん、打撲、骨折、脱臼、捻挫への処置として圧迫ってしてますか?
 
むしろ締め付け過ぎに注意するのではないでしょうか? 固定のために包帯を巻く場合でも、患部は腫れてきますから、だんだんきつくなってきます。きつくなると血の巡りが悪くなって、先が冷たくなったりしびれてきたり、、、
 
ということで、四肢のケガの時は、怪我した直後と処置した後は継続的に観察を行なうことが大切です。
 
そのときのアセスメントのポイントとしてCSMを覚えておくといいと思います。Circulation(循環)、Sensation(感覚)、Motion(動き)です。
 
四肢のケガの場合、それが原因で死ぬことはあまりありませんが、例えば骨折の場合、骨がずれて神経や血管を傷害したり圧迫して、その先の知覚が失われたり血の巡りが滞ることが問題。
 
そこで怪我した部位から先の血液循環があるかチェックします。具体的には脈を取ったり、触って温度を確かめたり、指で押して血色の戻りをみたり。
 
感覚というのはわかりますね? あと自分で動かせるかどうか。
 
このCSMのチェックは、四肢のケガの直後だけではなく、包帯を巻いた後、それがきつすぎて問題を起こしていないかのチェックにも重要です。特に腫れてくるとどんどんきつくなってきますので、こまめなCSMチェックが必要。
 

 
 
 

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BLS評価からファーストエイド・アセスメントへ

BLSにおける「大丈夫ですか?」「反応なし!」「呼吸なし!」という評価手順は、一般的に心停止を判断するためのものと思われています。確かにそのとおりで、最悪の事態である心停止をできるだけ早く認識する、逆の言い方をすると「心停止でない」ことを確認するために、最低限にシンプルな内容になっています。
 
しかし、実際に一般の立場で救急対応する場合、心停止であるケースはきわめて稀なはずです。
 
で、あるなら最初から心停止以外の想定も踏まえて傷病者評価をしていくという視点は、きわめて現実的だとは思いませんか?
 
そこでBLS横浜では、「傷病者対応コースforバイスタンダーズ」や「傷病者アセスメントコース」という形で、心停止以外のファーストエイド評価も含めた心肺蘇生法アセスメントを提唱しています。
 
これは「大丈夫ですか?」という最初の傷病者へのアプローチの際に、呼吸、循環、神経系という命に直結する3つの視点を持って評価していく方法です。
 
まず、「大丈夫ですか?」と呼びかける段階では「反応」という中枢神経の働きを確認しています。細かく言えば意識レベルをチェックすることも含まれてきますが、この段階では肩を叩いて呼びかける刺激に反応があるかどうか、だけのチェックで構いません。
 
呼吸確認は胸から腹の動きを10秒以内で目視。AHAならびにJRCガイドライン2010の新しいやり方です。原則的に10秒以内に呼吸が確認できないか、死戦期呼吸だったら、この時点で心停止と判断します。(反応なし+呼吸なしor死戦期呼吸)
 
循環に関しては、基本的な考え方は、息をしていれば心臓も動いている、と判断します。そのためあえて脈を取ることはこの段階では必須ではありません。しかし別の視点として、全身をざっと見回しての【大出血の有無】、そして【顔色】の観察をこの項目に含めることを推奨しています。
 
大出血は命に関わるような大出血のことで、放っておけば止まるような出血は問題ではありません。
 
顔色については、もし心停止であれば、顔色が真っ白だったり、どす黒かったりと、心停止を判断する材料にもなりえます。時間をかけて確認するものでもありませんが、「大丈夫ですか?」と呼びかける反応確認時に、顔色についても少し気にしてみる、という程度で見てみることを勧めています。
 
ここまでは普通のBLSで教わることとほとんど変わりありませんが、神経系に関してもう一点、【脊椎損傷の可能性】を考慮するということが、BLSでは終わらないファーストエイドにつながる初期評価としては大切です。
 
これはもしかすると、傷病者に近づく前の【状況評価】の範疇に含まれるといったほうが正確かもしれません。
 
つまり安全確認と合わせて、傷病者の近づきながら周囲の状況を観察し、倒れている原因を考える、その中で強い外力が掛かって頸椎をいためている可能性はないか考えるということ。
 
もし、反応があったり、呼吸があればCPRは必要ではなく、呼吸が止まらないか観察しつつ救急車を待つ、もしくは気道管理を行うことが必要な応急処置になるわけですが、この段階で頸椎損傷の可能性を考慮しないと、とんでもない失敗にもつながりかねません。
 
救急法講習によっては、意識がなく、呼吸があれば回復体位(昏睡体位)にするようにと指導している場合が多いようですが、例えば交通事故で頸椎をいためている可能性がある人、呼吸が安定しているにも関わらず、救急車が来るまでの10分間に体を横向きにする必要があるでしょうか?
 
心停止の場合は、頸椎損傷の可能性が、ということは二の次でいいと思いますが、心停止でない状況が多い以上、呼吸、循環に次いで優先順位が高い脊椎保護という視点は欠かしてはいけないのではないかと考えています。
 
現時点、BLSも含め、心肺蘇生法講習は心停止という一般にはきわめて稀なシチュエーションに特化した非現実的なトレーニングになっています。そこに呼吸、循環、神経系という命に関わる項目を明確に打ち出し、特に脊椎損傷についての知識を盛り込むことで、心肺蘇生法講習はオールラウンドに対応できるファーストエイド基礎講習になり得ます。
 
さらに、心停止を否定できた後は、焦ることなく呼吸、循環、神経系という優先順位にそってさらに詳しく観察、評価していくという拡張性を持たせることができます。呼吸器系のアセスメントは気道と呼吸そのものにわけて考えていけますし、循環に関しては脈拍数や脈の性状、ショック兆候を含めた抹消循環の評価、毛細血管再充満時間、神経系では意識レベルの評価など。
 
BLSを中心とした基礎を学んだ人が、さらに本格的なファーストエイド・アセスメントという学ぶべき課題があるということを示すことは継続学習にも人間の成長のためにも意味があるかと思います。
 
せっかく心肺蘇生法が当たり前の世の中になってきたのですが、そこをほんの少し拡張して、倒れている人すべてに対応できる技術を標準に、つまり「普通救命講習」としてとらえて、さらに医療従事者のアセスメントに通じる道筋を示すこと。
 
これがBLS横浜が展開している「傷病者対応スキル」の普及活動の方向性です。
 

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野外救急法はリスクマネージメントの一部にすぎない

昨日は、子どもたちにアウトドア活動を教える団体からの依頼で、指導者の皆さんを対象とした心肺蘇生法&ファーストエイドを開催しました。
 
場所は団体の活動拠点にもなっている山中にある古民家。
 
築240年だそうです。黒光りする歴史的建造物の中で開催する救命講習とあいなりました。
 
築240年の古民家でファーストエイド救命講習
 
15-6名ほどの参加でしたが、皆さん、アウトドアガイドだったり、野遊びを教えるアウトドア活動家。人並み以上に危機管理意識が強く、また野外でのトラブルを何度も切り抜けてきた方たち。
 
講習中に飛び交う質問も非常に具体的で、現実的。私たちも救命講習のあり方を考えさせられました。
 
 
例えば、緊急通報。
 
街中を想定した講習であれば、「あなた119番お願いします! あなたはAEDを持ってきてください」というお作法に+α程度のディスカッションで終わりますが、山の中では根本から考え直さなければいけません。
 
まず携帯電話の電波が通じるのか? アマチュア無線? 伝令?
 
また、救急隊員が入山口から歩いて現場まで来てくれるのか? 着てくれないなら、救急車が入れる最寄のランデブーポイントはどこなのか?
 
実はこのあたりのことは、事故やケガが発生した後に考えるのでは遅い話です。
 
シビアな現実をいいますと、救急車や応援がくるまでに何十分も何時間もかかる場所で、心停止や命に関わる事故が発生した場合、その時点でほぼ運命は決定付けられています。つまり、助からない、助けられないケースが多いという現実。
 
ですから、事故やケガが発生した後の対応(つまりファーストエイド)を知っておくのは大事ですが、それ以前に事故を起こさないための注意と準備の方がもっともっと重要です。
 
山の中での119番通報をどうするのか? 講習会の中では一律な答えは出せません。あらかじめ、活動地域の携帯電話の電波状況、近くの山小屋や民家の場所、救急車が進入できるアクセスポイントのチェックをする、場合によっては地元消防本部に救助体制を相談する、などの事前計画をしておくべき部分です。
 
「山ではAEDがないけど、どうしたらいいですか?」という質問に対しては、ルート上の山小屋にAEDがないか、あらかじめ確認しておきましょう、というのが一般的な答えかもしれませんが、ツアーガイドのような責任ある立場の人からの質問であれば、「顧客の健康状態を把握した上で必要なら持っていくことも検討したらどうでしょうか?」という答えも出てきます。
 
つまり野外救急法は、それだけが単独で存在しているのではなく、アウトドアフィールドでの危機管理・安全対策の数あるパーツのひとつとしてあるのだという認識が重要です。
 
そして危機管理の中で、事後の対処であるファーストエイドは最後の奥の手。それを使わなくていいようにするのが本来の安全対策なのではないでしょうか?
 
参加者の皆さんからの質問に、いわゆるファーストエイド講習の範囲で答えようとするとあまりに無理があるのを感じました。
 
ファーストエイド講習では、基本、事故/ケガが発生したという前提で話が進んでいきます。しかし、野山を前提とした場合、八方塞でなにもできないという状況にすぐぶつかります。となると、そもそも事故を起こさない予防措置・対策を、というのはある意味自然な流れかもしれません。
 
公募講習などで、あらかじめ決めたプログラムに沿って教えるのとは違って、具体的なニーズがあっての依頼講習の場合、インストラクターとしても固定観念にとらわれない自由な幅広い発想が必要なことを痛感しました。
 
野外活動する人に必要なのは、ファーストエイドそのものではなく、ファーストエイドを通して考える総合的な危機管理対策、マネージメントなのだと思います。
 
それを培ってもらうためには、私たちはファーストエイド講習を通じて何をどう伝えていったらいいのか? おおいに考えさせられました。
 
幸い、同団体からは、次回は9月にサバイバルをテーマにした合宿での講習も依頼されています。そのときまでには、ファーストエイドの枠に縛られない危機管理としてのファーストエイドが提供できればと思っています。
 

 
 

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ファーストエイド現場で脈を取る意味

救急現場に遭遇したら、大丈夫ですか? と声を掛けながら手首で脈を取る。
 
そんなイメージありませんか?
 
今は市民向けの心肺蘇生法でも、心停止の確認は「正常な呼吸があるかどうか」で判断することになっているので、脈を確認することは教えていません。
 
しかし心停止ではない、呼吸がある、意識があるという場合でも、なんとなく手首に手をあてて脈を確認する人が多いようです。
 
特に医療資格を持っている方にその傾向があります。
 
さて、意識がある人、つまり心停止ではない傷病者の脈を取ることにはどんな意味があるのでしょう?
 
 
 
 
結論から言います。
 
その場で1回だけ脈拍数を計っても、そこからわかることはあまりありません。
 
しかし、脈拍数がその後上がり傾向にあるのか、下がり傾向にあるのか、は体の中で起きていることを推察する上で重要なデータとなります。
 
ここで知りたいのは、その瞬間の心拍数の数字ではなく、この後の心拍数の変化の傾向、つまりトレンドです。脈拍を含めてバイタルサインを撮るとしたら、継続的に図って記録をとっていくことが大切なのです。
 
 
 
例えば、、、


交通事故発生が発生しました。車に横腹をぶつけられて跳ね飛ばされた人が地面で痛がってもがいています。見たところ出血や手足の骨折はなさそうです。安全確保をして、声を掛け、119番と110番通報は済ませました。
 
救急車を待つ間、お腹が痛いと訴える傷病者を励ましつつ何気なく脈拍を測ってみたら120回/分。
 
通常、成人は80回/分程度ですから、速いです。
 
しかし、これは問題でしょうか? 事故の直後、あせって心臓がドキドキしているのは、自然なことですよね? また、その人の基礎的な脈拍数がわからなければ、なんとも評価できません。
 
なので、事故直後の心拍数として120回/分というのを、この場のベース心拍数として記録しておきます。
 
5分後、相変わらずお腹を痛がっていますが、事故直後の興奮は収まってきた模様。ここで再び心拍数を図ったら90回/分に落ち着いていました。これは自然な流れですね。
 
最初に心拍数を図ったときから15分たちましたが、まだ救急車は来ません。傷病者はお腹の痛みが強くなっているといい、息が荒くなってきました。ここでもう一度脈拍を測ったら120回/分に上がっていました。
 
その5分後、130回/分に上がっていました。顔からは血の気が引いて弱々しい感じになっています。


 
 
さて、心拍数の変化をまとめますと、事故直後は120回/分で高かったけど落ち着くと90回/分に下がり、その後、時間とともに徐々に上昇して今は130回/分。
 
一つ一つの数字を見てもなんの意味も持ちませんが、この変化の傾向が重要です。
 
実は、この方は車に横腹をぶつけられたことで内臓損傷を起こしてお腹の中で出血しています。時間とともに出血量が増えて、体を巡っている血液が減ってしまって「ショック」状態が進行してきています。
 
血液が足りないから、酸素運搬能力が落ちているので、それを補うために心拍数を増やして補おうとしている、これが心拍数が上がってきている原因です。
 
お腹の中の状態は見えません。しかし心拍数の変化を見ることで、体の中の血液が足りなくなっているということを間接的に推察できる場合があるのです。
 
これがファーストエイド現場で脈拍を取ることの意義です。
 
非常に単純化して説明してみましたが、なんとなく伝わったでしょうか?
 
 
バイタルサイン(生命兆候)と呼ばれる脈端数、心拍数は、ファーストエイド現場では、その瞬間を写真のように記録してもそれだけではあまり意味を持ちません。動画のように時系列がわかるように記録して、初めて意味がでてきます。
 
街中の事故や急病の場合は、10分程度で救急車が着てくれる場合が多いでしょうから、経時変化の記録をする必要性はあまりないかもしれません。
 
しかし、時間がかかる場所にいる場合や、救急車を呼べない環境にいるときは、このことを知っていると、見えない体の中で起きていることを推察する上で有効です。
 
ファーストエイド・プロバイダーとして、更なるステップアップをしたい人にはぜひこんなフィジカル・アセスメントの勉強をお勧めします。
 
 
 
今度、開催する特別企画「WFAに学ぶ傷病者アセスメントの考え方」勉強会では、こんなバイタルサインの取り方と考え方を含めた、一歩踏み込んだファーストエイドのアセスメントを概説します。
 
『WFAに学ぶ傷病者アセスメントの考え方』
 日程:4月28日(土)12:30~14:30 
 会場:横浜市栄区 JR本郷台駅すぐ 地球市民かながわプラザ
 費用:500円(会場費用負担金、資料代金として)
 
お時間がある方はぜひご参加ください。
 
チャイルドライフェス横浜ウェブサイトから申込みを受け付けています。
 

 
 
 

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傷病者対応コースforバイスタンダーズ

今日では、さまざまな心肺蘇生法(AED)講習が開催され、消防だけでもその受講生は年間100万人に達するようです。

おかげで通りがかりの人(=バイスタンダー)によるCPRの実施率は増えてきていますが、それでもまだまだ十分といえる現状ではありません。

CPR講習を受講直後であっても「倒れている人を見かけたら声をかけられますか?」と聞くと必ずしも「はい」という返事は返ってきません。

その理由のひとつとして、「倒れている人が心停止じゃなかったらどうしよう?」「意識、呼吸があった場合はなにをしていいかわからない」という思いもあるようです。

そんなCPRしか知らない故のためらいをどうにかしたいと私たちは考えました。

そこで企画したのが「傷病者対応コースforバイスタンダーズ」です。

CPR/BLSも、非心停止時の対応(ファーストエイド)も、傷病者へのアプローチの入り口は同じです。

最初から心停止を前提にしたマネキンを使うトレーニングではなく、人間が模擬傷病者を演じることで、意識があっても、呼吸があっても対応できる柔軟さを培うというのが「傷病者対応コースforバイスタンダーズ」の特徴。

最初に最新のAHA蘇生ガイドライン2010に基づいた成人への心肺蘇生法(CPR)を身につけた後、心停止ではない場合の対応をシミュレーション・トレーニングを通して体験し、そこから傷病者との関わりを学んでいきます。

内容的にはファーストエイド講習と近いものがありますが、包帯の巻き方や添え木の仕方など各論的な話はほとんど含まれません。ファーストエイド講習では、ケア(処置)に重きがおかれがちですが、「傷病者対応コースforバイスタンダーズ」は、傷ついた人、病んだ人との「関わり方」を中心に学びます。

以前に開催した「BLSから始まるファーストエイド傷病者評価の基礎」ともコンセプトは似ていますが、誰でも使える技術をモットーに、救急法教育としては極限までシンプルに内容を絞り込んでいます。

命に関わる問題点がないかをまずクリアにし、救急車を待つ間に人間として出来ることを考えていきます。

傷病者の不安な気持ちにどう応えるか、看(み)て護(まも)るという看護の視点に根ざしたファーストエイドの入り口を原点に返って考えていきたいと思います。

心肺停止者だけでなく、意識がある人、呼吸がある傷病者にも対応できるオールラウンドなスキルは、結果的にはCPR実施率向上にもつながるものと信じています。

公募コースとしては第一弾を1月8日(日)、横浜駅近くのかながわ県民センターにて開催予定です。(2012年3月4日にも公募で開催します! 申込みは下記リンクより)

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