履修主義と習得主義の違いーAHA講習は習得主義です。

ちゃんとしたACLSコースは2日

1日コースはインチキ

 

というような意見をインターネット上で拝見しました。

BLS横浜では1日コースが基本なので、苦笑してしまいました。

1日とか2日とか、日数にこだわるのは極めて日本的だなと感じます。

端的にいうと、履修主義なのか、習得主義なのか、という違いなのでしょう。

日本社会は基本的に履修主義で動いています。

小学校・中学校では飛び級がありませんし、総務省消防庁の普通救命講習は3時間、応急手当普及員講習は24時間と、規定された時間をこなすことが絶対条件となります。

一方、習得主義は、ゴールに達することが目的なので、時間には拘泥しません。米国の飛び級というのはそういうことです。要はできればいいのです。

アメリカ心臓協会AHAの講習は、とうぜん後者、習得主義に立脚しています。

ですから、ACLSが1日で終わるなんてインチキだとか言われると、実に日本的な発想だなと思う次第です。

このあたりの教育背景は、教授システム学を勉強していただくとわかると思いますが、究極に言えば、「できる」人であれば、講習カリキュラムを受ける必要もなく、試験に合格すれば、資格を発行できる、というのがAHAの基本的な教育の考え方です。


服を切るトレーニング【AEDパッド装着】

今日は病院からの依頼でBLSプロバイダーコースを開催しています。

10分間のチーム蘇生では、いつもマネキンの服を3重くらいに着せて、いちばん内側は前開きにできないTシャツにしています。

いつもだと、皆さんは、なんとかシャツの裾をたくし上げてAEDパッドを貼ることが多いのですが、今日は、とまどっているのAED担当を見た胸骨圧迫役の方が「ハサミを探して!」と建設的な介入。AEDのケースの中にあったハサミを見つけて、サクッと服をカット。

襟元から少し切れ目を入れた後は、手で引き裂くという時短ワザ、すばらしかったです。

AEDトレーニングに必要な服を切るという練習

実際の現場を想定した練習、大切ですね。

胸骨圧迫中断の時間を短くし、CCF(胸骨圧迫比)を上げようと思ったら、着衣の人に対して服をはだけるか、ハサミで切るかの判断をさせて、実際にやってもらうトレーニングをしておかないと、実際の現場でハサミで服を切るという発想、ふつうの人にはありませんし、無理です。

今日のケースでは、ハサミを使うという判断はたいへんすばらしかったのですが、服の正中を切ったため圧迫の中断が生じてしまいました。

胸骨圧迫を続けながら、服を着るならどこにハサミをいれたらいいか?

この部分は、シミュレーション後のデブリーフィングで皆さんで考えていただきました。

こういう体験をすると、忘れませんし、次回は実際に「できる」可能性も高まります。


血液感染&教育工学セミナー in 日本医療教授システム学会

先日、埼玉の越谷ラーニングスタジオで日本医療教授システム学会セミナーを2本立てで開催させていただきました。セミナーの全内容をお伝えすることはできませんが、概要をご紹介します。

救命法インストラクターのための教育工学ワークショップ&AHA血液媒介病原体講習

1.救命法インストラクターのための教育工学セミナー

教育工学セミナーは、今はなき AHAコア・インストラクターコース の内容をベースとしたワークショップとして企画しました。

今となっては古典的な印象もありますが、成人学習の基本を再確認する内容です。

日本医療教授システム学会の最近の話題はAI(人工知能)ですが、コースインストラクターの場合は、教材設計というよりは、それ以前の末端の指導スキルの方に関心があるだろうということで、学習意欲の促進や、デブリーフィングとフィードバック、現場への転用といった話題を、日頃の指導を振り返りながら考えていただきました。

また、ガイドライン改定の変遷を歴史的に追うことで、現行のガイドライン2015講習の本質を理解しようという話題も盛り込みました。

AHAガイドライン2015の教育の章を見てもらうとわかりますが、AHA講習はインストラクショナル・デザインに基づいて教材設計されています。

  • 認知スキル
  • 態度スキル
  • 運動スキル

この3つの統合が重要で、そのためには現実味のあるシミュレーションと、その振り返り(デブリーフィング)が欠かせません。

G2015 の BLS からは、10分間のチーム蘇生とデブリーフィングという革新的な新しいコンテンツが盛り込まれました。

これは、単に CCF(胸骨圧迫比)を高くするのが目的ではありません。CCF はチーム蘇生の有効性評価ファクターのひとつであって、シミュレーションは、認知スキル・態度スキル・運動スキルの統合を体験する場であり、講習会場での真似事を現実社会に転移させるための重要な教育手法なのです。

ガイドライン2015 での重要な変更点といえば、筆記試験でテキスト持込可能になったり、昔は禁止されていた一人法 BLS でもバッグマスクを使うことを解禁したり、かなり劇的な教材設計の変更がありました。

これらの変更には1本の筋が通っており、それが Life is why に象徴されているわけですが、そんな謎解きの4時間を過ごしていただきました。

近々控えた G2020 の教材改定にスムースに対応するためにも、ガイドライン改定の歴史を理解しておくことは重要です。

そんなインストラクショナル・デザインを専門分野とする日本医療教授システム学会AHA国際トレーニングセンターのインストラクターのための勉強会でした。

2.血液媒介病原体講習

ハートセイバー血液媒介病原体(Heartsaver Bloodborne Pathogens)コースは、AHAインストラクターなら誰でも開催できるプログラムですが、日本ではほとんど開かれていないのが現状です。

しかし、この4月から市民向けに、止血帯(ターニケット)までも含めた出血コントロールを教える教育がスタートしました。

AEDと並べて軍用ターニケットを語る論調が出てきているため、救命法の指導員としては血液感染対策についても正しく教えられるアビリティが必要になってきます。

そこで、改めてAHA公式の血液感染対策講習を体験してもらう機会を作らせていただきました。

 
 

医療従事者であれば感染対策は常識的に知っていると思いますが、それを市民向けに伝えようと思ったときには、文化背景がまったく違いますので、医療者教育とは別のアプローチが必要です。

市民向け血液感染対策講習は日本には存在しないため、医療者向けの教育方法との違いなどを感じていただけたことと思います。

併せて、軍用ターニケットの適応とその市民教育上の課題についても、触れさせていただきました。ハートセイバー・ファーストエイド講習では G2010 から軍用ターニケットの使用について言及されるようになりました。

今、日本では、既成品のターニケットは医療機器承認がされており、緊縛止血法は医行為とみなされています。

AEDやエピペンと同様、医行為を市民に教えるという図式となり、その指導員の責任は重いものと言えます。

現実、ファーストエイド指導を行っているBLSインストラクターは多くはない印象ですが、BLS、ACLS、PALSインストラクターの中で、いちばん指導範囲が広いのがBLSインストラクターです。

医療者向けBLSプロバイダーだけではなく、応召義務のある市民救助者向けの ハートセイバーCPR AEDコースハートセイバー・ファーストエイドコースHS血液媒介病原体コース小児ファーストエイドなど、実に幅広い指導が可能な資格です。

BLSインストラクターの皆様には、ぜひその資格を余すところなく活用して、施設や地域の安全に寄与していただけたらと思っております。


心肺蘇生CPR/BLS 傷病者の服をはだけるタイミング

ここ数日、女性に対してAEDの使用率が低いという話題が飛び交っています。

女性に対してはAED装着をためらう傾向がデータ的にはっきりしたわけですが、心停止に対する救命処置では、どうしても服をはだける、脱がす、はさみで切るなどの処置が必要となります。

さて、その服をはだけるタイミングですが、日米では少し違っています。

米国 胸骨圧迫を始めるとき
日本 AEDパッド装着のとき

もともと心肺蘇生法は米国から入ってきましたので、日本でも以前は胸骨圧迫の手の位置を乳頭間線としており、服をはだけて手の位置を確認すると教えていた時代もありましたが、いつしか「想像上の乳頭間線」ということで服の上から胸骨圧迫を行う方向にシフトしていきました。

日本国内でもメジャーなプログラムであるアメリカ心臓協会のBLSプロバイダーコースやハートセイバーCPR AEDコースでは、最新ガイドライン準拠の講習でも引き続き、服をはだけてから胸骨圧迫を行うようになっています。

蘇生ガイドラインは5年毎に改定されてきましたが、その歴史的推移をみると、AHA2010ガイドラインからは医学的な正しさより現実社会で実行できること(implementation)に重きを置く方向にシフトし、さらに最新のAHA-G2015では、実行性を高めるためには、講習の進め方にもreal life situationを重視する現実主義の方向性がより強化されるようになっています。

この流れの中で、呼吸確認のための気道確保を求めないことや、人工呼吸よりは胸骨圧迫を先に開始するC-A-B手順が導入されたりしました。

この機運からすれば、CPR開始のハードルを下げるという意味でAHA-G2010で胸骨圧迫のために服をはだけるという手順が是正されるかと考えていましたが、その他の大胆な改定とは裏腹に、いまも変わらず、胸骨圧迫のまえに胸をはだけるような手順が残ったままとなっています。

BLS横浜では、主に米国のAHAガイドライン準拠の講習を多く開催していますが、その指導の中では、胸骨圧迫のために服をはだけるようにという指導は行っていません。

DVD教材では、そのように言及していますので、ときどき受講者さんからは質問されます。

そんなときは、こんなふうに答えています。

「マネキンと違って、実際の人は服を1枚しか着ていないことはないし、前開きとも限りません。現実問題、できそうですか? 重要な概念として、心停止を認識したら10秒以内に胸骨圧迫を開始することが強調されていますが、10秒以内にできますか?」

地面に倒れた人の服をまくりあげて胸骨圧迫の部位を露出させるのを10秒以内に行うことは、どう考えても現実的ではありません。

それに、もともと「胸骨圧迫前に服をはだける」というのは指導マニュアル上の話であり、ガイドラインによって明確に規定されているようなものでもありません。もちろん、医学的根拠(エビデンス)もありません。

ですから、BLS横浜での講習指導の上では重視はしていません。

強いて言えば、傷害を防ぐために正しい手の位置を確認するという意味合いがあるものと思われますが、服の上から胸骨圧迫した場合と服をはだけた場合での誤差の違いや、胸骨圧迫開始までの時間の違い、そしてそれが患者アウトカムにどう影響するか、という点が研究されているわけでもありませんし、それほどこだわる理由もないというのが現実ではないでしょうか?

ということで、チームシミュレーション・トレーニングの中では、あえて何重にも服を着せて、簡単には脱がすことができないようにして、服をはだけるタイミングについては、受講の皆さんで考えてもらうようにしています。

現実的には、AEDが届いてパッドを貼るタイミングで、はさみで切るというのが確実な気がします。

答えがないことは、経験学習とデブリーフィングで学んでもらうのがいちばんです。


日本の医療従事者はBLSの半分しか知らない

最近では、看護大学など医療従事者の養成校でBLS教育がきちんと行われるようになり、病院に就職時の新人研修でもBLS練習があたりまえになって、「BLS、知ってます。できます」という人が増えてきました。

お蔭で BLSプロバイダーコース の指導も、皆さんの技術を補強する程度で済み、1からしっかり教えるということは少なくなってきました。

しかし、それでもやはり感じるのは、「日本の医療従事者はBLSの半分しか知らない」という点です。

医療者が基礎教育で教わっているBLSは、BLSではない

医療従事者が、その教育課程で教わっているBLSは、Basic Life Support(一次救命処置)というよりは、実は「AED講習」ではないでしょうか?

  • 胸骨圧迫
  • AED
  • (人工呼吸)

AEDの心リズム解析結果は常に「ショックが必要です」であり、除細動をすれば助かるという前提の研修ではありませんでしたか?

また人工呼吸の練習はきちんと行われていたでしょうか?

医療現場での業務対応ですから、口対口人工呼吸やフェイスシールド人工呼吸は論外です。ポケットマスクも医療従事者の通常業務では考えにくいので、バッグバルブマスク換気のトレーニングが必要です。

こう考えたときに、医療従事者が基礎教育や新人研修で習得する「BLS」なるものは、心臓突然死(心室細動)に焦点化した「AED講習」であって、心停止全般を見据えた Basic Life Support とはいい難いのが現状です。

看護師はBLSの半分しか知らない。教わっていない。

心停止には4種類ある

ご存知のとおり、心停止には4種類あって、AED(除細動)が有効な心停止と、除細動が無効な心停止の2種類に大別されます。

この両方の概念を内包して「心停止対応」といえるわけですが、AEDありきの対応しか知らないとなると、BLSの半分しか知らないのでは? というのが記事タイトルの意味です。

心臓突然死(突発性の心室細動)は、発生頻度が高く、適切な処置により救い得る可能性が高い病態なので、優先的に習得するべきものであるのは事実です。

ですから、市民向けの救命講習が、実質的にAED講習であることに異論を唱えるつもりはありません。

しかし医療従事者が習得すべき BLS としては、アンダースペックであると考えます。

電気ショック(除細動)不適応の心停止が多い

というのは、医療に従事している方はご存知の通り、病院内でも病院外でも、AEDが「ショックが必要です」というケースはあまり多くはありません。「ショックは不要です」と言われるケースが大半です。

つまり、4種類の心停止のうち、心静止/無脈性電気活動(PEA)が現実的に多いわけですから、AEDでは救命できない場合の理解と対応を含めた【フルサイズの一次救命処置】を学ぶ必要があります。

PEA/心静止の対応というと、二次救命処置ACLSの範疇になってしまいますが、BLSであっても小児のBLSをきちんと学んでいれば、それが除細動が無効なタイプの心停止として、心停止の総合理解に繋がります。

 

AHAの小児の救命の連鎖には、AEDが含まれません。

また、成人の救命の連鎖とは違って、通報よりもCPRが優先されます。

 

実は、これは小児に限った話ではありません。小児に多いAEDでは救えない心停止、すなわちPEA/心静止の理解そのものなのです。大人であっても病院内で多いとされる呼吸のトラブルやショックからの心停止の場合は、これに当てはまります。

BLSプロバイダーコースの内容は、あくまでも Basic なので、心静止や無脈性電気活動(PEA)というキーワードは出てきませんが、AEDではなく「人工呼吸を含めたCPRを優先する」べき場合があることを明示しているのは非常に大きいと言えます。

BLS総合理解のセルフチェック

BLSについて、正しく理解しているかどうかのセルフチェックとして、下記のクイズを考えてみてください。
 

  1. 人工呼吸を省略できるのはどのような場合ですか? 生理学的観点から説明してください。
  2. 呼吸不全から心停止に陥った人にAEDを装着したら、どんな判定になるでしょうか? それはなぜ?
  3. 除細動の後の2分後のパルスチェックで、AEDがショック不要と言ったとき、傷病者の生命状態としてどんな可能性が考えられますか? 2つないしは3つ挙げてください。

 

日本の医療者の大半は小児BLSを知らない ≒ BLSの半分しか知らない

医療従事者教育の中で、小児のBLSを学ぶ機会は十分とは言えません。医師や救急救命士教育の中では小児領域の学習も含まれますが、その他の医療専門職教育では、ほぼ皆無でしょう。

医療従事者の中で最大人口を誇る看護師の教育カリキュラムにも小児BLSは入っていません。ましてや二次救命処置レベルで、PEAや心静止について学ぶ機会もありません。

そう考えると、医療者の大半はBLSの半分しか知らないと言わざるを得ないのが、いまの日本の教育現状です。

BLSは知っている。

そう自認している医療者であっても、心停止の概念を正しく理解している人は極めて少ないのが現状ですし、医療者であっても人工呼吸はしなくても良いと誤って理解している人も少なくありません。

そう考えると、心停止初期対応の全体像を学べる機会は、残念ながら AHA-BLSプロバイダーコース しかないというのが、今の日本の現実と言わざるを得ないのが残念です。

医療従事者レベルのBLSとしては、下記の項目もぜひ知っておきたいところです。
 

  • 呼吸停止時の対応(補助呼吸+2分毎の再評価)
  • バッグバルブマスク換気
  • ポケットマスク(町中のAEDに付属している場合があるため)
  • 小児・乳児へのCPR
  • 呼吸原生心停止の機序と人工呼吸の意義の理解
  • 気道異物による窒息解除のメカニズム(特に反応がなくなった場合)
  • 2人法BLSの意義とチーム蘇生

まとめ

小児のBLSをきちんと学びましょう。成人にも使えるフルサイズの一次救命処置BLSの理解につながります。


九州にBLS横浜の新サテライトが誕生「EMS熊本」

九州・熊本に新しいAHA-BLSトレーニングサイトができました。

九州熊本でAHA-BLSプロバイダーコース、ハートセイバー・ファーストエイドCPR AEDコース受講ならEMS熊本

EMS熊本
https://ems-kumamoto.com/
 

EMSという言葉は病院関係者には少し馴染みが薄いかもしれませんが、Emargency Medical Service(救急医療サービス)の略。

米国においては救急車運行業務を意味することが多いですが、広義で言えば、業務対応として健康面における緊急事態に対応するファーストレスポンダーから救急隊、そして病院での初療までを意味します。

プレホスピタルであるバイスタンダー救護から、救急隊員、さらには病院における救命処置や治療まで、救急全般に関した教育・トレーニング展開を行っていく組織として設立されました。

いまのところ5月31日(金)に プレホスピタル版のAHA-BLSプロバイダーコース が予定されていますが、今後は学校教職員や業務対応プロバイダーとしての市民救助者向けのAHAハートセイバー・ファーストエイドや、ハートセイバーCPR AEDコース の展開も予定しています。

九州地区はPEARSプロバイダーコースの盛り上がりなど、救急に対する熱量が多い地域な印象がありますが、市民向けの教育に関しては意外と未開発な気がします。

特にファーストエイドに関しては、九州での展開はほとんど見かけません。(わざわざ横浜まで受講にいらっしゃる方がときどきいます)

実際に使う頻度で言ったら、心肺蘇生法よりもファーストエイドなわけですし、医療従事者教育だけではなく、地域から病院までの救命の連鎖を幅広く扱う教育組織というのは、あるようで、実はほとんど見かけません。

救命法の指導・普及団体は公的機関・民間団体を含めて多くありますが、市民向け教育から医療従事者教育までを一貫して実施している組織は多くはありませんが、でも、その連携が、実際には重要な部分です。

その点でも、EMS熊本の九州地区での存在意義は大きいと思います。

BLS横浜では、地域の要請や、時代や世相からニーズを読み取り、ファーストエイドの日本国内定着やPEARSの普及、エピペン講習の在り方、最近では止血教育や血液感染教育、さらには implementation を意識した救命法指導員養成や、教育工学の応用など、独自の取り組みをしてきました。

それらを評価いただき、毎回驚くような遠方からも受講に来てくださっていますが、今後は九州地区でも同種の講習が受けられる場となりそうです。

既存の概念にとらわれない、地域に合わせた実のある教育の新たな風を起こしてくれる組織として【EMS熊本】に大いに期待しています。


現実を考えたら、人工呼吸はやっぱりポケットマスク

子どもの心肺蘇生や、水辺の救命を考えたら、人工呼吸は必須で欠かすことのできないものです。

そのため保育園での救命講習では人工呼吸練習に重点を置いた講習展開をするのですが、そこで使うのは、ポケットマスクです。

(ポケットマスクはレールダル社の商品名で、正確には「一方向弁付きフェイスマスク」というのかも知れませんが、ここでは類似商品を含めて広義でポケットマスクと表記します。)

一般市民向けの講習では、人工呼吸はしなくても良いと教えることもあるようですが、業務対応としてはそれはNGです。

また、フェイスシールドを使った mouth to mouth 人工呼吸であっても、救助者の心的ハードルの高さや、傷病者の口周りがあまり綺麗ではない状況を考えると、業務対応としては厳しいものがあります。

一方向弁がついたタイプのフェイスシールドであっても、医療機器承認を受けたものではありませんし、下の写真のように穴が空いてしまうのは練習中であってもよく経験することです。

練習で穴が空いてしまったフェイスシールド

業務対応の救護はあらかじめ備えておくものですから、「愛と勇気」に依存するところは極力低くして、リスクを減らして無理なくできる体制と準備をすることが重要です。

そこで、結論としては人工呼吸は、ポケットマスク+ニトリル手袋、しかないと考えます。

ポケットマスクに初めて触れた保育士さんは

最近では厚生労働省が推進する保育士等キャリアップ研修でも救命処置の指導をさせてもらっていますが、ポケットマスクを初めて使った保育士さんは、口々に「これならできる!」とおっしゃいます。

それまでは、フェイスシールドしか知らなかったから嫌でもやらなくちゃいけないと思っていたところが気持ちが軽くなったという感想を聞くこともあります。

実はフェイスシールド人工呼吸がいちばん難易度が高い

講習指導としては、例えば ハートセイバーCPR AEDコース では、一人一体のマネキンを用意していますので、ダイレクトな口対口人工呼吸から始めて、フェイスシールド人工呼吸、ポケットマスク人工呼吸まで練習してもらっています。

3つのやり方を比べて、皆さんが苦戦するのは、ダントツでフェイスシールド人工呼吸です。

シートのせいで口との密着が甘くなってしまうからで、市民向けのもっとも標準的なやり方が、実はいちばん難しかったということが露呈する場面です。

人工呼吸を着実に実施してもらうには簡単・安心のポケットマスク

ポケットマスクのいいところは、mouth to mouth に比べて簡単なだけではなく、感染防護具としてしっかりしているという点が大きいです。実際に人工呼吸をした人の体験談として、吹き込んだ後に傷病者の吐息を吸い込んでしまい、自分が気持ち悪くなってしまったという話をよく聞きます。

そうです。吹き込んだら、当然、相手の肺の中の空気が吐く息として戻ってくるわけで、これがマネキン相手の練習とは違う部分です。

蘇生練習のマネキンは感染対策として、吐息は口に戻らず、マネキン内部に排出されるような仕組みになっています(レールダルのリトルアンの場合)。

ですから、mouth to mouth の人工呼吸では、吹き込んだら、一度口を離さないと匂いの混じった吐息を吸い込んで、むせこむことになります。

この点、ポケットマスクは吹き込み口の部分が一方向弁になっていて、傷病者の吐息が自分の口元にはこないしくみになっています。

ポケットマスク人工呼吸:一方向弁のしくみ

これは感染防護として重要な部分です。

蘇生中に傷病者が嘔吐するケースは珍しくありません。この場合も一方向弁が有効と言えるでしょう。さらに、より確実に感染防護を考えると、ポケットマスクに標準でついているニトリル手袋も必ず併用することが重要です。

その他、傷病者の顔と自分の顔の間に距離をおけるというのも心理的な安心度が大きいと言えます。

なぜ日本の救命講習ではポケットマスク人工呼吸を教えないのか?

このような現実問題を考えた時に、業務対応の救護では、フェイスシールドのような雑貨ではなく、きちんとした感染防護具を備えておくのが望ましいわけですが、日本国内でポケットマスク人工呼吸を学べる場所・機会はほとんどありません。

ここが大きな問題です。

なぜポケットマスクを教える救命講習がほとんどないのか?

そもそも人工呼吸の重要性があまり認識されていないということもあるかもしれませんし、単純にポケットマスクという感染防具の存在を知らない人が多いということもあるでしょう。

しかし、救命法の指導員ともなれば、ポケットマスクの存在を知らないことはないでしょう。そしてその有用性も知っているに違いありません。

そうであっても指導に盛り込めないとすると、それはおそらくコストの問題があるのでしょう。

ポケットマスクは1つあたり4,000円程。

それを受講者人数分そろえると、例えば30人なら12万円。

練習用なら洗浄・消毒をして再利用は可能ですが、初期投資としてはバカにならない金額です。

しかし業務スキルを教える講習であれば市民向け講習とは違うわけで決してケチってはいけない部分です。

この問題は業務プロバイダー向け研修が法的にも規定されている米国でも切実。そこでアメリカでは交換用のポケットマスクをのバルブが安く手に入るようになっています。

例えばこんな感じです。

米国で買えるポケットマスク用一方向弁交換パーツ

これはポケットマスクの交換用の一方向弁100個。

定価は1つあたり1.25ドル。

フェイスシールドと同じくらいの価格です。

これを人数分だけ用意しておけば、マスクの数はマネキンと同数だけで済むというのが現実的な運用法です。

残念ながら、ポケットマスク人工呼吸法がまったくもって浸透していないので、日本国内ではなかなか流通していません。

そこで、BLS横浜では米国から輸入しています。

輸入なので送料等でかなり割高になるため、実際の運用のうえでは洗浄・消毒の上で繰り返し使用していますが、そのおかげで医療系大学でのBLS演習や保育士キャリアアップ研修など、参加者数が100名を超える研修でも現実的なトレーニングが実施できています。

BLS横浜では、善意の救護のためのトレーニングと、業務対応としての救護トレーニングを明確に区別していますが、その違いの一つがポケットマスク人工呼吸を教えるかどうかです。

家族を救護するのに、感染防護という意味ではポケットマスクは不要でしょう。しかし、業務救護では少しでも不安要素を軽減させた実践トレーニングが必要なのです。

一言で心肺蘇生法講習といっても、それがプロユースに対応しているかどうかの違い。それを指導者側も吟味すべき部分です。


市民が行う応急的に行う医行為ーそのリスクの比較

もともと市民向けの救急法の中には、医療行為は含まれない、というのが原則でした。

しかし、気づけば今はがっつりと医行為が入り込んできています。

  • 除細動(AED)
  • アドレナリン筋肉注射(エピペン®
  • 緊縛止血(ターニケット)

止血帯(ターニケット)とAED、エピペン注射。どれも市民が行う医行為ですが、リスクと危険性は違います

 
いずれも救急車を待つのでは間に合わない緊急を要する処置であるため、特例的に「医師法違反」を問わないという行政見解が出されることで市民向けにも教育がされるようになったものです。

もともと医療行為を医師以外が行うことについては、極めて慎重な姿勢があったのがこの国の特徴でした。

例えば、救急救命士制度が導入されるときの喧々諤々を医療関係者なら覚えているかもしれません。

最近で言えば、看護師に特定行為として医療処置に関する業務拡大についても紆余曲折がありました。

救急救命士や看護師と言った医学教育を受けた専門職が前提であっても、自身の判断で医療行為を行うことはまかりならない、というのが本来の医行為の「重さ」だったわけです。

この本来のスタンスを医療従事者や救命法の指導員は忘れてはいけません。

AEDによる不要な除細動実施のリスク

一般市民がAEDを使えるようになったのは、「反復継続の意図がない」という行政による合議により、医師法違反は問わないという解釈が成り立ったからですが、その背景には、AEDは自動解析機能により、不要な除細動を排除できるという「安全機構の存在」がありました。

必要のない人に除細動を実施してしまうリスクは低いという点が、機械的に保証されていたことが大きいです。(ただし脈ありVTに対して不要な除細動をしてしまうリスクが無いわけではないため、救助者は心停止確認をしてからAEDを装着する必要があります)

エピペン®誤注射のリスク

時系列でみたときに次に市民による医行為として上ってきたのがエピペン®によるアドレナリン自動注射です。

こちらは自動解析機能のようなものはありませんので、注射をする、しないの判断は注射する当事者である一市民が行うことになります。

判断をAEDのコンピューターに丸投げできる市民による除細動と比べたときには、格段にリスクが大きいと言えます。

ただし、現時点、行政文書で言及されているエピペン®注射を行える一般人は学校教職員と保育所職員だけというのがミソです。どちらも施設で預かっている児童・幼児を想定しており、見ず知らずの誰かに対して注射するわけではありません。

注射判断は、当該児の保護者だったらいつ打つか、ということを綿密に確認した上で行われるはずです。

また当該児は、アナフィラキシー発症リスクが診断されているからエピペン®を持っているのであって、その子がこういう症状が出たら打つようにという保護者が医師から受けた指示に従うだけです。症状の理解等の医学的な判断が求められているわけではありません。

ある意味、条件反射的に使えるのが、学校教職員と保育所職員のエピペン®注射です。

つまり、「エピペン®を預かる」というプロセスが、安全機構のシステムにもなっており、誤注射の可能性低く担保されていると言えます。

ターニケット誤使用のリスク

市民が行う医行為として3番目に上ってきたのが、止血帯(ターニケット)による緊縛止血法です。

こちらは、2019年4月から市民普及が始まるところなので、実際のところどのように運用されるのかは、今は未知数のところがありますが、使用するかどうかの判断は機械任せではなく、現場にいる人間が行うという点ではAEDと違ってリスクがあります。

またエピペンと違うのは、使う相手が不特定多数であり、エピペン®のような使用すべき個別判断というものはありません。

救助者が、現場とケガの状況を見て、持っている知識や経験の中から判断し、決断しなければなりません。
 
 
止血帯(ターニケット)とAEDの危険性の違い

参考まで、こちらはBLS横浜のターニケット講習の際に示している表です。AEDと同じように止血帯の普及を! という意見を見聞きすることもありますが、AEDとターニケットを同列で語るには無理がある という点がおわかりいただけるかと思います。

拍動性の動脈出血=止血帯適応ではない

一般の人にとっては衝撃的な動脈からの拍動性の出血。見たことがない出血の様子に、止血帯適応と早合点するかもしれませんが、圧迫可能な創面であれば単純な圧迫止血で対応できる場合が多く、止血帯までは必要ない症例が多いでしょう。

例えば、大腿部の切断や、爆創や大型機械への巻込みなどで創面が複雑な場合など、客観的に止血帯が必要な状況というのをリストアップして、機械的な判断ができるようなガイドラインが作成されれば、また別かもしれません。

しかし、現時点では、ターニケットを使うためには、下記の項目を理解して、医学的な根拠をもって、現場でアセスメントして止血帯使用の有無を判断するようにということになっています。

  • 出血に関連する解剖、生理及び病態生理について
  • 止血法の種類と止血の理論について
  • ターニケットの使用方法及び起こりうる合併症について

医学的な理解を持って判断して、医療行為を行うように。

つまり「診断」が求められているという点が、これまでのAEDやエピペンとは決定的に異なる部分です。

市民に診断を求めるというターニングポイント【ターニケット】

「診断」という言葉の重み、医療従事者や福祉専門職にとっては身に染みて感じるところでしょう。

市民が行う医行為について、時系列で考えてきましたが、ターニケット緊縛止血が今までと決定的に違うのは、診断をした上で使うという、これまで市民救急法ではありえなかったことを市民に求めるようになってことにあります。

AEDもエピペンも診断は必要なかったので、そのトレーニング(AED講習やエピペン講習)は、テクニカルな手技をトレーニングするだけでも成り立ちましたが、止血帯は、その適応判断という診断をも教えなければいけないのです。

 
医学の素養のない市民に診断を教える
 

ターニケット講習は、極めてハードルが高いものです。

問題としたいのは、そのカリキュラムだけではなく、指導員の知識と理解、認識です。

本稿を読んでくださっている方は、この先、ターニケットを市民に教えなければいけない立場の方が多いと思いますが、本稿を読み、どのように感じたでしょうか?

教えるだけの知識や理解を持ち合わせていますか?

もしくは指導員のための教育カリキュラムで、これらのことがきちんと伝えられていますか?

現時点、指導員のための伝達講習が進行形で、実際の市民向け教育はこれからかと思います。だからこそ、この時期にターニケット教育に関する情報を集中的に提供させていただいています。


保育に従事する看護職に求められる役割講座 -4/20(土)

BLS横浜の直接の企画ではありませんが、保育園で働く看護師さん向けセミナーのご紹介です。

保育に従事する看護職に求められる役割講座

BLS横浜でもエピペン講習を巡っては、厚生労働省の「保育士等キャリアアップ研修」の講師を努めたり、公募での「エピペン&小児BLS」講習、また保育園からの依頼講習も度々受けており、保育園で働くナースの方と接する機会は多いです。

特にファーストエイド系の講習では、保育園ならではの悩みというか、相談を受けることもよくあります。

保育職(福祉職)の中で、唯一の医療職での重圧だったり、衛生観念などの業界間のギャップ、応急処置に関して責任者となることへの不安、処置方針を巡って親御さんとの意見の相違やトラブル。

 
BLS横浜が関わるのは、主にファーストエイドと救急対応が中心ですが、実際の保育園看護師の業務としては、日々の成長や健康管理であったり、園によっては保育士と同じ保育業務が多いところもあるでしょう。

保育園看護師の多くは、どこも一人職であり、業務内容も園によって様々で、なかなか誰かに相談したり、情報を共有するのが難しく、悩みのうちに仕事をしていて、なかなか長続きしないという現状もあるようです。

 
そこで、「保育に従事する看護職に求められる役割講座」。

もと保育園で園長をしていて、今は保育の危機管理が専門の講師による話と、参加者同士の意見交換、ワークショップで構成される2時間です。

 
 
看護師の中にはいつか保育園で働いてみたいという方も少なからずいらっしゃるかと思いますが、保育園ナースにフォーカスした珍しいワークショップです。

ぜひ、参加をご検討ください。

 

保育に従事する看護職に求められる役割講座
4月20日(土)18:30-20:30 横浜みなとみらい 桜木町駅徒歩5分
主催:EMR財団 【詳細・申込み

 

詳細、申込みは、一般財団法人エマージェンシー・メディカル・レスポンダー財団 のホームページからお願いします。

 

当日は、BLS横浜もスタッフとして参加する予定です。


ターニケット(止血帯)教育の課題

この4月から日本の市民向け救急法教育に止血帯(ターニケット)が導入されることが決まったことを受けて、BLS横浜では主に指導員相当の方を対象に止血帯に関する勉強会をなんどか開催してきました。

各方面で救命法指導に当たる方や軍関係者の方など多方面の方と意見交換を行ってきて見えてきた内容について書き留めておきます。

各回での皆様の意見で共通していたのは、

 
「なぜターニケットを教えることが決まったのかが、謎」
 

という点です。

教育団体の内部にいる方からしても、突然の決定指示で、それも性急な動きであり、組織内部でも理解がまったく追いついていないという現状を明かしてくれました。

AEDに関しては、あんなに慎重な動きがあったのに、AED以上に危険が大きく、誤使用のリスクが大きな医療行為なのに、ほとんど検討もないままトップダウンで降りてきたのは不思議というより不自然という印象を持つ方が多いようです。

このあたりはオフレコの内容も多かったので、詳述は避けますが、政治的な理由と国内販売事情が関係していると考えなければ、辻褄が合わないように思います。

教育によりリスクを減らすために

それでも日本で市民向けに教えることが決まってしまった以上、指導員としてはどのように教えていったら良いのかというのが次の課題となります。

この点は、消防庁が出している消防職員向けのターニケット教育に関する指針(テロ災害等の対応力向上としての止血に関する教育テキスト)が原典となっていくことになりそうですが、この文書はあくまでも消防職員向けです。

 

 

教育も責任も立場も、市民救助者とは一線を画するものですから、そのままでは使えません。

日本赤十字社の教本が4月にリリースされますが、その中で、これがどこまで市民向けにモディファイされているかが気になるところです。

ターニケットは簡単、と思われる講習は危険

BLS横浜でのターニケット関係の講習では、その使用判断の難しさと弊害、デメリットについてきちんとお伝えしています。

ターニケットを使えるようになりたいと思って来た方であっても、終了後には止血帯は怖くて使えない、とおっしゃるケースが多いです。

ターニケットは有用かもしれませんが、その使用判断は非常に重いもので、ターニケット止血は間違いなく人を痛めつける行為です。

確実に止血を得るくらいに締め付ければ激痛が走りますし、阻血痛は兵士であっても自ら勝手に解いてしまうくらいの痛みです。それでも心を鬼にして、締め付けなければならないという現状を理解してもらう必要があります。

締め上げることで、辞めてくれと叫ばれても続けることができるか?

そのためには、出血に関するアセスメントとターニケットが必要であるという判断と強い意志が必要です。

ターニケットを使うという選択肢を持っていることは、大型機械を扱う工場や、狩猟関係者、林業関係者など、職種によっては必要かと思います。しかし、そのテクニカルな使い方を知って「簡単じゃん」と思われるような講習展開であってはならないと考えます。

ターニケットは、AEDを含めこれまでの日本の救急法からしたら、ありえないほどのリスクをはらんだ危惧であり手法です。

その怖さをしっかり伝えて、それでも必要であると判断したときにはちゃんと使えるような講習であるべきです。

 
「教える側がそこまでわかっているならいいですけど、けっこう難しくないですか? わからない人が教える危険はないんですか?」
 

BLS横浜でのワークショップでは、そんな声も聞かれました。

おそらくカリキュラム的には、弊害やリスクについても説明するように書かれていることでしょうけど、「教えた」という指導員目線での事実ではなく、受講者にどう伝わったかが問題です。

今後、ターニケットに関する講習展開が始まったとき、受講者に怖さと覚悟が伝わっていないとするなら、大きな問題でしょう。