小児の心停止の原因は大人と違う

昨日は、胸骨圧迫だけの心肺蘇生法の話を絡めながら、大人に多い心停止の原因と仕組みついてお話ししました。

大人は心臓突然死(不整脈)が多いけど

大人の場合、心室細動という心臓のリズムの不調が原因で突然倒れることが多い(心臓突然死)。倒れた直後には血液中に酸素が十分溶け込んでいるから、人工呼吸をためらうよりは、胸骨圧迫心臓マッサージだけでも遜色なく効果がある。

これに対して、子どもの場合は心停止になる原因が大人とはちょっと違います。

心臓突然死は、塩分撮りすぎの高血圧だったり、コレステロールのとりすぎによる血管内にゴミが溜まることなどが原因だったりします。これらは生活習慣病とも言われていますが、子どもの場合、こういった生活習慣病になるには早すぎます。

子どもの心停止の原因で多いのは、ずばり、呼吸のトラブル です。

子どもに呼吸のトラブルが多い理由

心臓は、お母さんのおなかの中で生命を宿した直後からできあがり、それからずっと動き続けています。そのため産まれてきたときには心臓の機能は十分に安定しています。

しかし呼吸はというと、母胎の中では臍帯を通してガス交換をしているため、赤ちゃんの肺は機能していません。

この地上に生まれ出て、最初にオギャーと泣いたときが呼吸の始まり。これから自身の肺で呼吸をし始めるのです。

このように、人間の発達の過程を考えると、子どものうちは呼吸機能が未発達で弱いということは理解できます。

具体的には子どものうちは喉の奥の空気の通り道がとても狭く、ちょっとした炎症などで腫れ上がって、空気が通りにくくなってしまいます。また喘息や、口に入れたものが喉に詰まってしまうというのも子どもにありがちな呼吸のトラブルです。

このような呼吸のトラブルが発生し、呼吸停止になり、それに伴って心臓も止ってしまう、というのが子どもに最も多い心停止の原因です。

子どもの蘇生で人工呼吸が重要な理由

このような理由から、子どもへの蘇生では、人工呼吸の役割が大人の場合より重要となります。

例えば、倒れている子どもを発見したとします。意識がなく、呼吸がありません。

原因はなんだかわかりませんが、子どもということで一番考えられるのは、呼吸が止って、それから心臓が止ってしまったのだろう、ということ。

であるならば、発見した時点ですでに血液中の酸素は使い切られてしまっています。残っていません。

ですから、胸骨圧迫だけでは、酸素が含まれていない血液を巡らすだけになるので、あまり効果は期待できません。この場合は、人工呼吸も必要なのです。

「人工呼吸で肺に酸素を送りこみ、肺の中で血液に取り込まれた酸素を、胸骨圧迫心臓マッサージで脳と心臓に送り込む」

こうした流れで蘇生を行ったときに最大限に効果が発揮されるのです。

ですから、子どもの場合は、胸骨圧迫だけではなく、人工呼吸も行うべきです。

Hands only CPRは子どもは適応外

昨日、紹介したアメリカの Hands Only CPR は子どもの場合は適応外というのは、こうした理由によります。

ただ、人工呼吸は技術的にもやや難しく、練習しないと上手にできないかもしれません。

また、倒れたときに口の周りから出血していたりしたら、口を付けるのをためらうかも知れません。

そんなときは、何もしないのではなく、胸骨圧迫心臓マッサージだけでもいいので続けてください。

何もしないよりは、胸を押すだけでも全然違います。それは明らか。

でも、子どもの緊急事態に遭遇する可能性がある人は、できればきちんと講習を受けて、人工呼吸の方法もマスターしておいてほしいなと思います。


胸骨圧迫(心臓マッサージ)だけの心肺蘇生法

最近、新聞やテレビ報道などでも、人工呼吸を行わない心臓マッサージ(今は胸骨圧迫といいます)だけの心肺蘇生法の話題を耳にすることがあります。
 
実はこれはアメリカ心臓協会AHAが2008年3月末に発表した ハンズ・オンリーCPR Hands only CPR が大もとになっています。
 
成人(大人)が目の前で卒倒するのを目撃したら、119番通報(アメリカでは911ですが)をして、すぐに胸を押すように、というもの。
 
アメリカではテレビCMなどで盛んにこの簡略化された心肺蘇生法をPRしています。
 

 
人工呼吸を行わないこの新しい心肺蘇生法は、成人(大人)が突然に倒れた場合に行う場合に限って、人工呼吸を伴う蘇生法と遜色がないとされています。
 
他人の口に自分の口を当てて呼気を吹き込むという口対口人工呼吸は、気持ち的に抵抗があるのと、また手技的にも難しいということで、心肺蘇生法を実践する上での大きな障壁となっていました。
 
そこで人工呼吸をしなくても、蘇生率に大きな違いがないのであれば、最初から人工呼吸を省略した方がリーズナブルでは? というのが、このハンズ・オンリーCPRです。
 
実はこの人工呼吸を省略しても蘇生率は変わらないという根拠となる医学論文は、主要なものが2本あっていずれも日本人が書いたものです。
 
日本医大の長尾先生と京都大学の石見先生という心肺蘇生法普及に尽力されている先生の論文が国際的に評価されて、先進的なアメリカが世界に先駆けてこのHands only CPRを発表しました。
 
 
 
この人工呼吸をしなくてもいいという理由を、すこし掘り下げて説明しようと思います。
 
人工呼吸を省略してもいいという前提条件として、実は次の2点があります。
 
 1.大人であること
 2.目の前で倒れた

 
大人が突然卒倒した場合、いちばん可能性が高いのは心室細動と呼ばれる心臓のリズムの異常です。これは生活習慣病なども関係していて、大人によく見られる状態です。
 
簡単にいうと心臓が細かく痙攣して血液を送り出せなくなりますので、事実上、心停止。そうなると血液に溶け込んだ酸素が脳に行かなくなりますので10秒程度で意識を失い倒れます。
 
これは突然起きますから、血液の中にはまだ十分酸素が溶け込んでいます。問題は心臓が機能停止して血液が巡らないために、その酸素を重要臓器(脳と心臓)に供給できないということ。
 
特に脳組織は数分間でも酸素供給が途絶えると細胞が死んでいってしまいますから、どうしようと考えるよりまえに胸を押して、あなたの手で心臓の代わりをしてあげることが大切です。
 
心停止中は体の臓器は機能停止しています。酸素が必要なのは重要臓器である脳と心臓だけですから、必要な酸素量は普段より少なくて大丈夫です。
 
ですから、目の前で倒れた場合に限って、人工呼吸は行わなくても胸骨圧迫だけである程度の時間は酸素供給が行えるのです。
 
 
こうした蘇生の仕組みを考えると、人工呼吸省略がすべての場合に当てはまるわけではなく、大人が目の前で倒れた場合のみ、という理由が納得いただけるのではないでしょうか?

胸骨圧迫だけの蘇生法、日本国内での位置づけ


通常、心肺蘇生法はILCORと呼ばれる蘇生法の国際会議を経て5年毎にやり方が更新されています。しかしこのハンズオンリーCPRは、ILCORの国際的な合意に基づいたものではありません。
 
日本からの論文を元に、American Heart Associationというアメリカ心臓病学会(世界的に影響力を持った学会です)がアメリカ国内基準として独自に発表したものです。
 
そのため、日本をはじめ、ヨーロッパ諸国などは、この胸骨圧迫のみの心肺蘇生法を正式には採用していません。というのは、このやり方が間違っているとかそういうことではなく、もう少し時間をかけて国際会議の場での検討を重ねた方がいいのではないかという慎重な考え方からです。
 
Hands only CPRが発表されたのは2008年。
 
ILCORのコンセンサス2010の発表予定は、2010年10月。
 
きっと、今回の国際コンセンサスでは、この人工呼吸省略の話が正式に盛り込まれてくるのでは? と予想されています。(国際会議には日本からも参加していますが、発表までは内容を極秘にするよう誓約書を書いているため、情報の先行リークはありません)
 
 
このような事情がありますので、赤十字社消防など、公的な機関が教える心肺蘇生法では、原則的にHands only CPRは指導されていません。
 
しかし、蘇生法普及団体としてはおそらく日本最大であろう大阪ライフサポート協会はPUSHプロジェクトを展開していますし、厚生労働科学研究として行われたJ-PULSEプロジェクトでは、かなり以前から胸骨圧迫だけの蘇生法を提唱してきました。(動画が見られます
 
 
もちろん、現行のガイドライン2005でも、人工呼吸はフェイスマスクやバッグバルブマスクなど、感染防護具がなければ、省略可となっていますから、他人に対して行う蘇生は胸骨圧迫だけでも構わないとなっています。
 
何もしないよりは、胸骨圧迫だけでも行うだけでも大きな違いです。
 
ただ、それは「目の前で倒れた大人」に対する蘇生法として行えば、通常の蘇生法と遜色がありませんが、例えばいつ倒れたかわからない、とか、水難事故の場合、子どもの場合などは、無意味ではないけど効果に関しては科学的な裏付けはない、というのが現段階での位置づけです。
 
 
さて、次回は、Hands only CPRがあまり奨められていない子どもの心停止の原因について考えてみたいと思います。


ハートセイバーAED講習開催報告

梅雨明け直後の三連休の中日である昨日、横浜駅近くのかながわ県民活動サポートセンターで ハートセイバーAED講習 を開催しました。
 
日本では数少ない「対応義務のある市民向け」心肺蘇生法講習とあって、遠く岩手県からの参加もあり、暑い中でしたが、約三時間半かけてみっちりと心肺蘇生法の技術を習得していただきました。
 
アメリカ心臓協会のハートセイバーAED講習は、アメリカ国内では警備員や学校の先生、スポーツトレーナーなど、いざというときには心肺蘇生法を提供しなければならない立場の人向けに開発されたアメリカ労働安全衛生局(OSHA)基準の法定講習です。
 
いざというときに的確に心肺蘇生法が提供できるように、練習量はかなり多めです。
 
それに加えて、BLS-AED.net横浜では受講者一人に一体の練習用マネキンを使ってもらっていますので、これでもか、というくらいにちょっと大変だったかも知れませんが、確実に自信をつけて帰っていただけたのではないでしょうか?
 
参加された皆さま、お疲れさまでした。
 
今回は、幼稚園の先生、保育園の先生が参加してらっしゃいましたので、小児の心肺蘇生法にややフォーカスを当てて進めました。またオプションになっている乳児の心肺蘇生法と窒息解除法の練習も行いました。
 
ハートセイバーAED講習乳児の心肺蘇生法練習
 
子どもの心肺蘇生法を学べるコースとしても、このハートセイバーAEDコースは貴重です。
 
 
さて、今回の講習で興味深かったのは子どもに対する人工呼吸で使うバリアデバイスについて。
 
通称ポケットマスクなどと呼ばれる人工呼吸用の感染防護具があります。
 
大人用のものは町中のAEDと一緒に配備されていたり、意識が高い方は持ち歩いていたりと広く普及しています。
 
しかし子供用のポケットマスクは、まず見かけることはありません。
 
まあ、子ども相手なら口対口人工呼吸もさほど抵抗がないのでは? という思いもあるかもしれませんが、今回はまた違った意見を受講者の方からいただきました。
 
管理者の立場にある幼稚園の先生だったのですが、
 
「大事なお子さんを預かっている立場として、直接口を付ける口対口人工呼吸はできません。子供用のポケットマスクが必要。どこで買えますか?」
 
とても高いプロ意識を持っていることに感心しました。
 
 
ただ助かればいいというのではなく、その質までも考えて、遠くからこの講習を受けに来てくださり、私たちも良い刺激をいただくことができました。
 
 
今後、BLS-AED.net横浜では、医療者向けのBLSヘルスケアプロバイダーコース以上に、ハートセイバーAEDコースや、家庭向けのファミリー&フレンズCPRプログラムの開催に力を入れていくつもりです。


乳児・小児・成人/心肺蘇生法の年齢区分

「子どもへの心肺蘇生法を勉強したいんですけど・・・」
 
そんなご相談を受けることがよくあります。
 
2004年のAEDの市民使用が解禁されて依頼、日本でもAED講習が広く開催されるようになっていますが、そこで学ぶ心肺蘇生法のほとんど大人(成人)を対象としたものです。
 
ところで、ここでいう大人(成人)というのは、何歳以上のことを指しているか、ご存じでしょうか?
 
実は、市民向け救急法でいう大人(成人)とは、8歳以上を意味します。
 
8歳というと、小学校2年生で、まだまだ子どもですが、大人と同じやり方でOKなのです。
 
 
8歳未満の場合は、救急法では「小児」に区分されます。
 
小児は1歳以上8歳未満。
 
この場合、少しだけ大人(成人)と違う所があります。
 
1.AEDより人工呼吸を含んだCPRが優先される(2分間のCPR後にAEDを使う)
2.片手法胸骨圧迫
 
詳しくは、講習を受けていただきたいのですが、まあ、細かな違いなので、難しく感じるようでしたら、大人とまったく同じやり方でも構いません。
 
 
1歳未満は「乳児」に区分されて、成人・小児に比べてもうちょっとやり方が違ってきます。
 
赤ちゃんは体が小さいので両手の手のひらを使って胸骨圧迫するのは無理があります。そこで二本指を使って行います。
 
また「大丈夫?」と方を叩きながら反応を確かめるのも、赤ちゃんは首が据わっていませんから、足の裏を刺激して反応をチェックします。
 
後は口対口人工呼吸では、鼻をつままず、鼻と口をいっぺんに覆って呼気を吹き込みます。
 
さらには、喉に物が詰まったときの解除方法も、大人とはずいぶんと違います。
 
このあたりは講習会に来ていただければ、赤ちゃんの蘇生練習用マネキンを使って練習し、体で覚えていただきます。
 
 
 
このように、心肺蘇生法は、成人、小児、乳児に分れています。
 
アメリカ心臓協会のDVD教材を使った心肺蘇生法講習は、医療者向けのBLSヘルスケアプロバイダーコースでは乳児まで含めた蘇生法をカバーしていますが、ハートセイバーAEDコースやファミリー&フレンズCPRコースでは、乳児はオプション扱いになっています。
 
その時々の会場確保時間の関係から、乳児オプションを行う場合と行わない場合があるので、子どもの救急法を勉強したいと考えている方はお申し込みの時、注意していただけたらと思います。
 
 
余談ですが、1歳未満の乳児の中でも産まれた直後の新生児はまったく別の特別な蘇生法が行われます。
 
新生児は、母親の体から地上に生まれ出て、そこで初めて呼吸を開始します。
 
新生児に蘇生が必要になる場合というのは、ほとんどがこの未熟な呼吸機能の問題なので、人工呼吸の必要性が特別に高いのです。
 
そのため、通常の胸骨圧迫と人工呼吸の比率である30:2ではなく、3:1という特殊な比率で蘇生が行われます。
 
これは産まれた直後に分娩室や手術室(帝王切開時)で行われる蘇生法なので、医療従事者の中でも産科医や助産師、麻酔科医、手術室看護師などの限られた人にだけ必要とされる特殊技術です。そのため市民向けには教えていません。
 
アメリカではこの新生児蘇生法を教えるNRPというプログラムが、また日本でも日本周産期・新生児医学会主催の新生児蘇生法(NCPR)講習会というのがあります。
 
後者のNCPR講習に関しては、今後、BLS-AED.net横浜でも開催(医療従事者向け)していきたいと考えています。

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7月18日~19日、横浜でACLSプロバイダーコース開催決定!

7月18日~19日にかけて、横浜駅近くのかながわ県民活動サポートセンターでACLSプロバイダーコースの開催が決定しました。
 
AHA-ACLSプロバイダーコースは、一次救命処置BLSに続いて病院内で行われる高度な二次救命処置を学ぶ医師・看護師向けの高度な心肺蘇生法講習。
 
アメリカ合衆国の認定資格ですが、日本でも評価は高く、内科認定医や、麻酔科専門医、循環器専門医になるためにはACLSプロバイダー資格が必須となっています。
 
 
横浜地区でもいくつかの団体がAHAと契約を結んで、ACLSプロバイダー資格の認定を行っていますが、今回BLS-AED.net横浜が手がけるACLSプロバイダーコースは他とはちょっと違います。
 
何が違うかというと、アメリカ本国で発行される正真正銘のAHA-ACLSプロバイダーカードが取得できるという点。
 
アメリカ心臓協会(American Heart Association)の資格が取れると言っても、通常、日本国内ではAHAと契約を結んだ日本のNPO法人や学会などが、その修了カード発行業務を行っています。
 
しかし、BLS-AED.net横浜でACLSを受講した場合は、アメリカ本国直轄でコース開催しますので、アメリカのハワイから修了カードが発行されます。
 
カードの裏には、Hawaii Regionと書かれて、ハワイに行ってACLSを取得してきたのと同じ扱いになります。
 
おそらく、横浜市内でアメリカのプロバイダーカードが取得できるACLSコースは、公募コースとしては今回が初めてじゃないでしょうか。
 
ACLSに興味があって、都合がつく方がいましたら、お申し込みをお待ちしています。
 
詳細は BLS-AED.net横浜 トップページをご参照ください。


対象別に分れたアメリカ心臓協会BLSコース

BLS-AED.net横浜では、ハワイにあるAHAトレーニングセンターと提携して、日本ではまだ公式開催されていないものも含め、アメリカ心臓協会の各種一次救命処置トレーニングプログラムを展開しています。
 
心肺蘇生法(CPR)コースとしてのレパートリーは下記の通りです。
 
 ・BLSヘルスケアプロバイダー (BLS for Healthcare Provider)
 ・ハートセイバーAED (Heartsaver AED)
 ・ファミリー&フレンズCPR (Family & Friends CPR)
 
今日は、これらの心肺蘇生法講習の違いについてご説明いたします。
 
 
まず始めにおおざっぱにお話しますと、アメリカ合衆国では心肺蘇生法CPR技術ならびにその教育プログラムを大きく次の3つに区分しています。
 
 
 1.家族や友達等親しい人に限定した心肺蘇生法
 2.職業上の責務などを含め、他人に対して行う心肺蘇生法
 3.医療従事者レベルでの心肺蘇生法
 
日本ではこのように心肺蘇生法を区別する考え方はほとんどありませんが、実は「使える心肺蘇生技術」を普及させる上では、この区分は非常に重要です。
 
理由は二つです。
 
ひとつは受講動機とモチベーションの問題。「愛する人を救いましょう」という動機付けは悪くないのですが、例えば警備員のような職種の人は、職業上の責務から急変対応が求められているわけですから、隣人愛を説いても、そこまでウェットには受け止められません。もっとドライに必要性と責任を説く方が自然でしょう。
 
もうひとつの大事なポイントは、血液や唾液などからの感染を含めた安全管理の問題があります。家族や親しい人への心肺蘇生であれば、感染という点は気にせず口対口人工呼吸が行えますが、見ず知らずの他人に蘇生をしなければいけない立場の人がマウスtoマウスの人工呼吸というのはあり得ません。(アメリカ合衆国では法律で禁止されています)
 
反対にいえば、責務として蘇生をしなければいけない人に口対口人工呼吸しか教えないとすれば、それは職務上はまったく役に立たない技術となってしまいます。そして「見ず知らずの人に口を付けるのがイヤだ」というマイナス感情を植え付けることになり、手出しをすることを躊躇させる原因ともなります。
 
 
ほんの一例を紹介しましたが、このように心肺蘇生法を教える上では、赤の他人に対して蘇生を行うことを想定しているかどうかによって、その動機付けの仕方や手技(主に人工呼吸の取り扱い)が変わってくるのです。
 
心肺蘇生法は、ただ技術を身につければいいというものではありません。
いざというときにそれを使えることが重要なのです。
 
そのためには、立場に合わせた教え方、シミュレーショントレーニングが不可欠です。
 
 
さて、こうした点を踏まえて、アメリカ心臓協会の3種類の心肺蘇生法講習の違いについて具体的にお話ししていきます。
 
 
 

◆ BLSヘルスケアプロバイダー (BLS for Healthcare Provider)

日本ではAHA-BLSといえばこのコースを指すほど、有名なプログラムです。これまで日本には市民向け講習しかなかったところに、初めてプロフェッショナル向けBLSプログラムとして導入されて爆発的に広まりました。
 
見舞客が病院の前で倒れ、たまたま居合わせた救急隊員二人が駆け寄り救助するという場面から始まります。主に医療現場(病院内)を想定しています。バイスタンダーCPRは想定外となりますので、現場の安全確認などは含まれません。
 
人工呼吸は口対口も軽く練習はしますが、メインはフェイスマスク(ポケットマスク)とバックバルブマスクです。二人法CPRも含まれますので、医療従事者以外でもチームで活動する人、例えばライフセイバーにも最適です。
 
市民の方が受講する場合、想定される状況や動機付けが不適合ですので、まったく初めての方の場合は少し注意がいるかも知れません。他の市民向け講習などを受講済みで技術向上を求めて受講される方にはBLSの最高峰としてすばらしいコースです。
 

◆ ハートセイバーAED (Heartsaver AED)

対応義務がある市民向けの講習プログラムです。職場で同僚が倒れたという導入場面から始まります。いわゆる一般市民向けとは少しニュアンスが異なります。
 
基本技術として口対口人工呼吸も練習しますが、メインとなるのはフェイスマスク(ポケットマスク)と呼ばれる感染防護具を使ったものとなります。(ビニールシート状のフェイスシールドは感染防護の役割は期待できないと言われています)日本でも意識が高い方は持ち歩いていますが、そのほか、町中に設置されたAEDと一緒に配備されていることもあります。
 
とっさの時に動けるようにということで町中での緊急事態の状況映像が沢山使われていて、「その場にあなたがいたらどうしますか?」というイメージでシミュレーショントレーニングを行う教材設計になっています。
 
心肺蘇生法の基本技術の練習という意味では、ヘルスケアプロバイダーコースより練習量が断然多く、安全確認を含めたバイスタンダーCPRを想定するなら、医療従事者が受講しても、とてもためになるコースです。
 

◆ ファミリー&フレンズCPR (Family & Friends CPR)

家族や親しい人など、身近な人を救うという明快なコンセプトで作られた一般市民向け教育プログラムです。屋外でのホームパーティーでおじいちゃんが倒れたという導入場面から始まります。感染防護については触れられていません。口対口人工呼吸だけをシンプルに教えます。
 
DVD教材のエレメントはハートセイバーAEDと同じで、CPRに最低限必要な部分だけに的を絞った内容となっています。
 
アメリカでは公的資格となる修了カード発行がありませんので、アメリカ合衆国では市民向けボランティアコースとしても教えられています。
 
映像教材のクォリティは、ハートセイバーAEDと同レベルですので、一般市民向け無料コースといっても侮ることはできません。場合によっては医療従事者向けにも、シンプルなこのコースDVDを使って基本手技を身につけてもらった後、ポケットマスクやバッグマスクを練習を独自に追加した方が柔軟性を持ったコース展開ができるかもしれません。
 
日本語教材はありませんが、独自の日本語補助資料を使って、受講者の方にストレスなく学んでいただけるように工夫して開講しています。
 


ハワイのAHAプロバイダーカードが届きました

お待たせしました!
 
4月に受講いただいた方たちのハワイAmerican Medical Response TC登録のAHAプロバイダーカードが届きました!
 
アメリカン・メディカル・レスポンスAHAプロバイダーカード
 
 ・ハートセイバーAED
 ・ハートセイバー・ファーストエイド
 ・BLS for ヘルスケアプロバイダー
 ・ACLSプロバイダー
 
日本国内の提携組織(International Training Center)ですと、受講当日や遅くとも受講1ヶ月後にはカードをお届けできるのですが、BLS-AED.net横浜は、アメリカ本国のトレーニングセンターの出先機関として活動しています。
 
事務処理がすべてアメリカ国内で行われるため、タイムラグが生じる点はご迷惑をおかけしています。
 
 
 
 
来週初めにはお手元に届くよう書留郵便で配送予定です。
 
大変長らくお待たせしましたが、カードからハワイの空気を感じていただけたら幸いです。
 
 

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ハートセイバーAEDとヘルスケアプロバイダーコースの違い

私共が開催しているアメリカ心臓協会AHA公認の心肺蘇生法講習会について質問をいただきましたので、この場でも共有させていただきたいと思います。
 
ご質問内容は、
 
「BLSヘルスケアプロバイダーコースを受講すれば、ハートセイバーAED講習を受ける意味はないか?」
 
というものです。
 
一言でYes/Noで答えるのは難しく、結論としては、ご自身の必要にあったコースを選んでほしい、また医療従事者であってもハートセイバーAEDコースを受けるだけの価値はある、となるのですが、以下に、もう少し詳しく書きたいと思います。
 
 
BLSヘルスケアプロバイダーコースは、数あるAHAの一次救命処置コースの中でも俗に「AHAのBLSコース」と言われるくらいにポピュラーな代名詞的なコースです。
 
赤ちゃんから大人まで、あらゆる年齢層を対象とした心肺蘇生法と窒息の解除法を主に病院内を想定して、医療従事者レベルで習得します。
 
片やハートセイバーAEDコースは、赤ちゃんから大人まで、あらゆる年齢層を対象とした心肺蘇生法と窒息の解除法を、職場や日常生活を想定して非医療従事者レベルで習得します。
 
これだけ聞くと、ヘルスケアプロバイダーコースの方が高度な内容で、これさえマスターすればすべてOKという印象かも知れませんが、必ずしもそうではありません。
 
実のことをいうと、心肺蘇生法の基本的な実技練習量に関しては、ヘルスケアプロバイダーコース(HCP)よりハートセイバーAED(HS-AED)コースの方が多いのです。
 
ハートセイバーAEDコースでは、救急現場の状況が映像教材の中で沢山例示され、その中で、現場は安全か? どのように通報をするか? など、具体的に考えて練習するようになっています。
 
これがHCPにはない大きなポイントです。
 
急変現場に慣れていない人には、言葉で状況を提示するだけでは不十分で、映像教材を通してイマジネーションを膨らませて、シミュレーションをすることが大切です。それがいざというときに実戦可能な力につながっていくのです。
 
アメリカ心臓協会AHAのDVD教材は、その受講対象に合わせて、必要性を考慮し、また学ぶモチベーションを高めるような教育工学に基づいた教材設計になっているのです。
 
 
また、HCPは医療現場を想定していますので、バイスタンダーCPRの基本となる安全確認に関しては触れられていませんし、小児のCPRの練習はほとんど含まれていという点も大きな違いです。
 
 
そもそも受講対象が明確に違っていて、その教材設計も違っていますので、ハートセイバーAEDとヘルスケアプロバイダーコースはまったく別物と考えていただいた方がいいかもしれません。
 
医療従事者であっても、職場ではなく、町中でバイスタンダーとして動くためにはヘルスケアプロバイダーコースよりハートセイバーAEDコースでのトレーニングの方が実践的と言えます。
 
ヘルスケアプロバイダーコースはバッグバルブマスクという医療現場で使われる特殊な人工呼吸器具の使い方や、気管挿管された場合のCPR、二人法CPRなどを含むため、基本手技の練習に関してはHS-AEDの方がじっくりと練習できます。
 
実はどちらのコースも所要時間はほとんど変わりません。
 
そんなわけで、ぜひ皆さんの目的にあったコースを選んでいただけたらと思います。


AHA-BLSインストラクターコース

6月19日(土)に横浜市内でアメリカ心臓協会AHA公認BLSインストラクターコースを開きます。
クローズドコースなのですが、受講枠が空いています。
 
受講料は無料。
 
別途、テキストは各自購入(6,000円:英語版~2万3千円:日本語版)、インストラクター登録料(5,000円程度)がかかります。
 
その他、インストラクターになるためのAHA国際ルールによる条件がいくつかありますが、それらをクリアしていて、日程が合う方がいましたらご連絡ください。
 
 
 

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私たちが開催するAHA-BLS講習について

私たちの活動についてご質問がありましたので、ブログでもコメントさせていただきます。
 
私たちは、主に横浜地域で活動する心肺蘇生法のインストラクターの集合体として「BLS横浜(BLS-AED.net横浜)」という市民団体を形成しています。
 
心肺蘇生法を始め、救急法の普及に興味がある個人が集まって、勉強会を開催したり、普及活動を行っています。
 
いまは蘇生科学の権威であるAmerican Heart Association(アメリカ心臓協会)の公認インストラクター資格を持ったメンバーが多いため、アメリカ心臓協会公認講習会を開催することが多いですが、それ以外にも、まったくオリジナルの講習会(エピペン勉強会、ファーストエイド初期評価勉強会)や、消防庁基準の普通救命講習なども手がけています。
 
 
公認コースを開く場合は、主催となるキーパーソンがいて、その人の個人資格で修了証の発行申請等を行っています。
 
「BLS-AED.net横浜」としては、その運営サポートを行っています。
 
 
 
よくお問い合わせいただくのは、「BLS-AED.net横浜」はアメリカ心臓協会AHAの公認組織なのか? という点です。
 
はい、というのがその答えではありますが、その背景については若干の説明が必要かもしれません。
 
日本には現在、アメリカ心臓協会と契約をしていわゆるAHA公認コースを開催する団体(日本国内組織)が7つあります。
 
そのうち、横浜地区で活動をしているのは次の5つです。
 
・日本医療教授システム学会
・日本BLS協会
・日本ACLS協会
・日本循環器学会
・福井県済生会病院(ACLS横浜)
 
これらの組織は日本国内の独立した法人ですが、アメリカ心臓協会と提携し、日本国内でAHA公認コースを開催するライセンスを受けています。
 
そして大事な点ですが、これらのAHA提携組織は、それぞれが独自にAHAと契約しているため、基本的に横のつながりはない、ということです。
 
ここが、よく誤解されている点です。
 
ですから日本医療教授システム学会に属している「BLS-AED.net横浜」に関して、例えば日本ACLS協会の本部に問い合わせをしても、「そんな団体、知りません」という回答が帰ってきます。
 
反対に私どもに、○○(別系列のトレーニングサイト)で受講したけどカード発送はまだか? と問い合わせをいただいても、お答えのしようがありません。
 
AHAといえばすべて同じ組織と思われがちですが、実は違うのだという点をご理解いただけたらと思います。
 
 
また、私たちは基本的にAHAインストラクターとして、個人で活動しています。
日本では「トレーニングサイト」と呼ばれる活動拠点毎に活動するケースが多いようですが、アメリカではインストラクターは個人で活動するのが一般的です。
 
「BLS-AED.net横浜」は、インストラクター個人の集合体、そして窓口です。コース運営はディレクターと呼ばれるAHAコース開催権を持った個人(複数人いるため同じコースであっても担当者が異なる場合があります)が、AHAインストラクターとして責任を持って開催しています。
 
 
 
 
以上は主に、日本国内のAHA公認組織について書かせていただきましたが、BLS-AED.net横浜には、アメリカ合衆国で資格を取ってきたAHAインストラクターもおり、その場合は、Hawaii Region、American Medical Responseと印字されたアメリカ純正の修了カードを発行しています。
 
日本国内での開催にもかかわらず、Hawaii Regionと書かれた修了カードが発行されるのは、アメリカ合衆国トレーニングセンター所属のインストラクターが日本で出張講習を開催しているから、ということになります。
 
この点は、他の日本国内AHA提携組織は全く関知していないアメリカ国内事情なので、間違って他団体へ問い合わせをした場合、話がかみ合わない点があるかもしれません。
 
 
 
やや複雑な事情になっており、申し訳ありませんが、ご質問がありましたら、メール送信フォームからお寄せください。