救命講習 心肺蘇生法のコロナ特別対応はいつまで?

2023年3月13日から、マスクの着用は個人の判断による、との政府見解が出されました。

その後、5月8日には新型コロナウイルス感染症(COVID-19)が、第2類感染症相当から第5類に引き下げられました。

コロナによって様変わりした救命講習

一時は完全にストップしていた消防や赤十字等の救命講習も順次再開され、いまは人数の制限もなくなり、以前と同じ規模で開催されているものと思います。

さて、今回、考えたいのは、救命講習の中身についてです。

コロナ渦を経て、心肺蘇生法のやり方が変わったとされています。それがその後、どうなったのか?

新型コロナウイルス感染症流行に伴う心肺蘇生法の変更点(抜粋):

  • 成人の心停止に対しては、人工呼吸を行わずに胸骨圧迫と AED による電気ショックを実施する。
  • 確認や観察の際に、傷病者の顔と救助者の顔があまり近づきすぎないようにする。
  • エアロゾルの飛散を防ぐため、胸骨圧迫を開始する前に、ハンカチやタオルなどがあれば傷病者の鼻と口にそれをかぶせるように変更する。
  • 傷病者を救急隊員に引き継いだあとは、速やかに石鹸と流水で手と顔を十分に洗う。傷病者の鼻と口にかぶせたハンカチやタオルなどは、直接触れないようにして廃棄するのが望ましい。
新型コロナウイルス感染症の流行を踏まえた市民による救急蘇生法について(指針)より

これらの変更点はいつまで続くのでしょうか? それとも恒久的な変更なのでしょうか?

というのは、世の中の動きは一見ふつうに戻った今、救命法指導員の間でもどうしたらいいか、悩んでいるようです。

変更の通達が来たものの、解除するという通達がない以上、コロナ対応をやめることができない、そんな声をよく聞きます。

コロナ対応の通達はあったけど、その解除の通達がない…

そこで、この根拠となる厚生労働省 Web でも公示されていた「新型コロナウイルス感染症の流行を踏まえた市民による救急蘇生法について(指針)」を丁寧に読み解くと答えが見えてきます。

厚生労働省Web新型コロナウイルス感染症の流行を踏まえた市民による救急蘇生法について(指針)

新型コロナウイルス感染症の流行を踏まえた市民による救急蘇生法について(指針)

実は上記に上げた特別対応が適応されるのは「新型コロナウイルス感染症の疑いがある傷病者」であることがわかります。つまり、救急蘇生法そのものが「変わった」わけではないのです。

ここ、大事なポイントです。

そして、その疑いをどう判断するかというと、「新型コロナウイルス感染症が流行している状況においては、すべての心停止傷病者に感染の疑いがあるものとして対応する」とされています。

そのため、緊急事態宣言が繰り返し出されるようなご時世においては、倒れている人がいたらコロナと思え! ということで特別対応が事実上の標準だったということです。

逆説的にいうと、コロナ全盛下であっても感染疑いがない人に対する心肺蘇生法は、従来どおりだったということになります。

今は?

さて、2024年4月現在、今の日本は「新型コロナウイルス感染症が流行している状況」なのでしょうか?

おそらく医療従事者以外の一般の方の多くは “No” と答えるのではないでしょうか?

そうであれば、いま現在は、コロナ前の旧来の心肺蘇生法に戻っています。COVID-19疑いの傷病者に対してのみ、ハンカチを口に乗せたり、人工呼吸省略形の蘇生法をチョイスすればよい、ということになります。

去年3月13日のマスク着用が任意になった時点で、国の見解としては「新型コロナウイルス感染症が流行している状況」を脱したということなのだ考えられます。

指針自体がもともと「新型コロナウイルス感染症の疑いがある傷病者」のための新しいやり方を提示したものですから、COVID-19という病気が根絶されない限り、指針の解除を待っても出るはずがありません。

救命講習のやり方を戻すかの判断を誰がするか?

指針の文書を普通に読めば、今の救命講習は旧来のやり方に戻るのが標準で、そこに必要に応じてCOVID-19疑いがある場合の特別な場合の補足を加えるという形になっているはずですが、実際のところそうではないようです。

コロナ特別対応を標準とするかの判断は「流行している状況」か否かで、この判断を誰がどうするか、が、救命講習がもとに戻るかどうかのポイントとなります。

救命法普及団体内の誰がその判断をし、決断するかが対応の分かれ目になっているのだと思います。

地方の小さな消防本部では、すでフェイスシールドを用いた呼気吹き込み式人工呼吸練習を普通に行っているところもあるようですが、横浜消防や東京消防庁など、規模の大きなところでは依然として人工呼吸練習は行っていない現状。

救命講習を本のやり方に戻す、という組織内での意思決定プロセスの問題なんだろうと思います。

BLS横浜の新型コロナウイルス感染症対策の今

最後にBLS横浜のスタンスについて述べておきます。

これまで書いてきたのは、市民による救急蘇生法に対する国のスタンスの話です。

BLS横浜の開催している救命講習の半数以上は医療従事者を想定したプロ向けの救命処置訓練です。

世論ではなく、医療水準に基づいて判断していきます。

医療現場においてはコロナは終わったとは考えていません。全盛期に比べれば対応は緩和されてはいますが、スタンダードプリコーションの考え方からしてCOVID-19への警戒は引き続き行っています。

そのため、BLS横浜では、今も不特定多数の市民向け救命講習では、呼気吹き込みを行う人工呼吸の実練習は行っていません。

小児BLSなど、人工呼吸が必須の講習の場合は、ポケットマスクを蛇管でバッグとつないで模擬的に人工呼吸練習を行うか、バッグバルブマスク(BVM)を用いています。

どうしても呼気吹き込み練習が必要な人向けには、マネキン相手に手の当て方や、胸骨圧迫と組み合わせた動作で中断時間が10秒以内となるような練習し、実際の送気量の練習は上記のポケットマスクかBVMを用いて体験してもらってます。

同じ機材を使って、市民向けと医療者向けの講習が混在するため、このやり方は当面は変わらない見込みでいます。

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