ACLS(二次救命処置)一覧

「質の高いCPR」の評価指標 BLSとACLSの違い

今日は横浜で BLSプロバイダーコース でした。

受講者さんから質問があったのは、胸骨圧迫の深さについて。

BLSプロバイダーコースでは、基本的には成人傷病者の胸骨圧迫は「少なくとも5cm」と教えています。

大人であっても体格差はあるし、実際のところどうなのか? というのが質問の趣旨。

体格差があっても5cmでいいの?

このことを考える上で大切なのは、BLSはあくまでもBasicなレベルであるという点です。標準化されている、つまりなるべく幅広く適応できるように平均化されたものであるという点を理解しておく必要があります。最大公約数的にこうしておけばいいんじゃない? という程度にまとめられています。

体重何キロ以上だと深さ何センチで、何キロ未満だったらどれくらい、という区分もできるのかもしれませんが、あえてそのようにはしていません。

BLSレベルでは、そのような細かなカスタマイズは期待されていない、とも言えます。

とりあえずは細かいことは考えずに、言われたとおりにやってくれればいい、というのが本質的なコンセプトです。とにかく単純化しています。

胸骨圧迫の目的は冠動脈灌流圧を15mmHg以上に保つこと


しかし、体格差などの個別性に着目するのも大事です。ACLSプロバイダーコース では、そこも含めて学びます。

そもそも胸骨圧迫の目的は何なんでしょうか?

血流を生み出すため、です。特に冠動脈灌流圧が心拍再開と相関していますので、第一義的には、冠動脈灌流圧を15mmHgより高いレベルに保つのが、質の高いCPRの要件となります。

そのための平均的な指標が、


  • 少なくとも5cm
  • 100〜120回/分
  • リコイル
  • 中断を最小限に

 
というわけですが、上記は絶対的なものではなく、あくまでも平均的な指標です。

いま目の前でCPRを受けている傷病者にとって、本当にそれでいいのかどうかは、結局のところ蘇生中に冠動脈灌流圧を測ってみなければわかりません。

しかし、現実問題、冠動脈の血圧なんて測れない! そこで、ACLSの中では、冠動脈灌流圧が15mmHgに達していることを類推するための代理指標という考え方が出てきます。

冠動脈灌流圧15mmHgの代理指標


  • 大動脈拡張期圧 20mmHg
  • 呼気終末二酸化炭素分圧 10mmHg

 

血圧のうち、拡張期圧が冠動脈灌流圧と相関することがわかっています。そこでA-Lineの拡張期圧が20mmHgあれば、冠動脈灌流圧も15mmHgはあるだろうと考えられます。

また蘇生中の二酸化炭素排出量は循環に依存しています。そこで呼気中のCO2の値が10mmHgを超えていれば十分な灌流があると考えられるのではないか?

このように質の高い胸骨圧迫を、5センチとか100〜120回とかで判断するだけではなく、きちんと定量的にコントロールしていこうというのが二次救命処置の考え方です。

BLSインストラクターなら知っておきたいACLS


このあたりのことは、二次救命処置に関わる人以外であっても、BLSインストラクターは知っておいてもいいかもしれません。

一般にACLSプロバイダーコースは医師・看護師・救急救命士など、二次救命処置に携わる人以外は受講対象となっていませんが、BLSを教える立場の人であれば、学ぶ価値・意味はあるのではないかと考えています。


ACLSとモニター心電図の基礎理解Seminar【2月19日(火)18:30-】

ACLSとモニター心電図の基礎理解イブニングセミナー

横浜では久々の開講となる「ACLSとモニター心電図の基礎理解」イブニングセミナー。

最近では、熊本や岡山、香川などで開催、またBLSコースを定期開催している千葉の病院では毎月開催していて、好評頂いている心電図と二次救命処置の勉強会です。

ACLSは、病院勤務の看護師にとっては常識的に知っておいてほしいものなのですが、どうしても医師のためのものというイメージが強いのと、「難しい!」という先入観から敬遠されがちなのが残念。

苦手、、、と言って避けていられればいいのですが、業務対応では知らないでは済まされない部分もあるやもしれません。

 

そこで、二次救命処置ACLSのエッセンスと、ナースが苦手意識を持っている心電図について、わかりやすくまとめたのが本セミナーです。

皆さんに伝えたいメッセージは次の2点。

 

1.ACLSは、BLSに毛が生えた程度のもの
2.心電図から循環動態がイメージできたらめっけもの

 

難しいものを無理やり理解してもらおうとは思っていません。

思ったより簡単じゃん! ということに気づいてもらうための90分です。

 

ACLSとモニター心電図の基礎理解

2019年2月19日(火)18:30~20:00

詳細・申込みは BLS横浜web

 


AHAプロバイダーカードは手作りする時代に 米国eCard事情

AHA-ACLSやBLSコースを受講したことの証、プロバイダーカードですが、米国ではすでに廃止されて電子認証のeCardに切り替わっています。

アメリカ国内トレーニングセンターの直轄で活動しているBLS横浜でも、今年の10月からeCardに移行して、2ヶ月で約100枚のeCardを発行してきました。

eCardは電子資格ですので、インターネット上でその資格の有効性を確認・証明するものです。水戸黄門の印籠のごとく、スマートフォンに My eCard page を表示して提示するようなものなのですが、このスタイルは日本ではなじまないだろうなというのは目に見えています。

米国でのBLS/ACLSプロバイダー資格の意義と使われ方

そもそも米国ではBLSプロバイダーやACLSプロバイダー資格は、病院職員の就業条件として病院が管理するものです。全職員のBLS資格の有無と有効期限を把握、チェックしているのです。

有効期限は2年ですから、職員が数百人、千人といれば、毎日のように資格が失効する人がいて、それをカバーするために米国の病院では専属のAHAインストラクターがいて、職員の資格維持のために毎日講習を開催していたりするわけですが、、、

そんな米国事情を考えれば、電子認証に移行したわけも納得です。

紙媒体のカードのコピーの提出を求めて、その有効期限を書き出してリストアップして、という病院管理部の手間はたいへんなものになります。それを解消するために導入されたeCard、その真骨頂は12桁の eCard Code にあります。

eCard Code は受講者の持つ資格に固有の番号です。この番号をAHAの専用ウェブサイトに入力すると、その資格の有効性が1瞬で確認できるのです。もちろん、複数件の一括照会ができます。

ですから、実は電子認証は紙の代わりにパソコンやスマホの画面表示というよりは、この一括して資格の有効性を確認できるようになる、ということに意味があるのです。

そういった医療従事者の資格認証を第一義としたときに、紙のプロバイダーカードがいかに不合理なものであったかということがわかるかと思います。

日本では資格証明より、達成感?


一方、日本では、JCI認証を取る病院とか、循環器や麻酔科の専門医資格取得以外では、資格証明を求められることはないのが現状。

日本の受講者の大半は、自分自身のスキルアップのためだったり、勉強の目標として資格を取得するという意味合いが大きく、確実な資格証明というよりは、病院の職員証の裏に入れておけるような紙のプロバイダーカードを欲しているというのが現状だと思います。

だからこそ日本では、eCardはなじまない、と考えています。

日本国内でもeCard移行が決まっています


今は、両手で数える程度の日本で活動する米国トレーニングセンター所属(提携)のAHAインストラクターが、ほそぼそとeCardを発行しているだけで、メインストリームはITCが発行する紙媒体のプロバイダーカードです。

しかし、来年の1月以降、日本のITCでもeCardへの移行が始まっていきます。

さて、組織だって日本の国際トレーニングセンターがeCardに移行したとき、本当に電子認証だけで終わらせるのか、それともいまBLS横浜が行っているようなカード印刷サービスを行っていくのか、それが大いに気になるところです。

日本のユーザーの大半は、物理的に手にとることができるカード状の資格認証を求めるでしょう。

eCardは印刷可能 誰が印刷加工する?


eCardは、PDFデータとしてダウンロードして自分で印刷してカードを作ることは可能です。

A4用紙に印刷して、ハサミで切って二つ折りにすれば、いちおうカード状にはなりますが、コピー用紙に印刷するのではカードと呼べるほどの質感は得られません。厚手の光沢紙を使うか、ラミネート加工をするなどの工夫が必要です。

また家庭で一般的なインクジェットプリンターで印刷した場合、どうしても発色や印字精度という点では、満足のいく仕上がりにはなりにくいです。

そこでBLS横浜では、旧来のプロバイダーカードに劣らないクォリティで、印刷とラミネート加工をする無料サービスを提供することで、日本で先行してeCardに切り替えましたが、実際のところ、かなりの手間と時間を要しますので、大手ITCが同様のサービスを提供するとは考えられません。

日本国内のITCがeCardに移行し、カード印刷は受講者自身が自分で行うもの、ということが日本国内で周知されるようになった暁には、BLS横浜でも、印刷サービスは廃止ないしは完全有償サービスに切り替える予定でいます。

以上、AHAインストラクターでもあまり知られていない最新のeCard事情について書かせていただきました。



一般向け:AHA eCard(イーカード|eカード)印刷ラミネート加工の代行サービスを開始しました。

BLS横浜でAHAコースを受講した方以外であっても、ご希望があれば、eCardのプリント&パウチ加工を有償で承ります。詳細は下記ページをご参照ください。

AHA eCard(イーカード|eカード)印刷ラミネート加工の代行サービス

BLS横浜のACLS1日コースは、循環器専門医受講要件を満たします

BLS横浜のACLSプロバイダー1日コースは、循環器専門医の受験要件を満たすのか? というご質問をいただきました。

答えは「もちろんです」。

ACLSプロバイダー資格が国内ではなくハワイから発行されるという点が他と違いますが、これまで問題なく循環器専門医申請に使っていただいています。

 

ACLS資格を1日で取得可能、BLS資格不要という点を不安に思う方が多いようです。

確かに専門医認定を行う日本循環器学会ITCが主催するACLSプロバイダーコースは2日間であり、有効期限内のBLSプロバイダーカードの提示が求められています。

しかし、この点はAHAルールではなく、トレーニングセンター単位の独自ルールである点は、ACLSインストラクターマニュアルに規定されているとおりです。

(こちらをご参照ください。→ ACLS受講にBLS資格は不要です【アメリカ心臓協会】

 

今回、改めて 日本循環器学会認定循環器専門医制度規則(PDF)を確認しましたが、そこで求められているのは、

「AHA ACLSプロバイダーコース」「AHA ACLS-EPコース」「AHA ACLSインストラクターコース」「AHA ACLS-EPインストラクターコース」のいずれかを受講し、受験年度の4月1日現在有効な認定を受けていること。

であり、BLSプロバイダー資格の提示は求められていません。また、日本循環器学会ITCが発行するACLSプロバイダー資格に限定するという要件もありません。

ということで、BLS資格不要の1日コースであっても、AHA公式ACLSプロバイダーカードが取得できる講習であれば、なんら問題はありません。


AHA ACLS/PALSガイドライン2018アップデート

先日、アメリカ心臓協会のACLSとPALSのガイドラインがアップデートされました。

あれ? ガイドラインって5年毎の改定じゃなかったっけ?

という方がいるかも知れませんが、2015年の改定以後は、5年毎ではなく、改定事項がまとまれば、その都度、こまめにアップデートする方針に転換しました。(参考まで、日本のJRCガイドラインは引き続き5年毎に改定するというスタンスを取っています。)

今回のガイドラインで変わったこととといえば、抗不整脈薬としてリドカインが復活したことです。

除細動が必要な心停止のアルゴリズムでは、2回目の電気ショックでもVFかpVTが続いた場合は、抗不整脈薬としてアミオダロン300mgの投与が推奨されていました。

これに対して2018 updateではリドカイン1~1.5mg/kgでも構わないとする記載が、アルゴリズム図上に追加されました。

まあ、なんてことはありません。表記上、G2005時代に戻っただけです。

もともとはガイドライン2005時代には、抗不整脈薬は何種類かの選択肢があったんです。それが、ガイドライン2010の改定で、アミオダロンの推奨レベルが上がって、アルゴリズム上の記載からはリドカインが消えました。

しかし、日本ではアミオダロン(アンカロン)がそこまで一般的な薬ではなかったので、G2010以降も臨床的には引き続きリドカインを使用していたケースも多かったと思います。

実際のところ、ガイドライン2015になっても、引き続きアミオダロンの代わりにリドカインの考慮してもよいという点も記載されていました。ですから、今回のアップデートがあっても、臨床的にはなんら変わるところはないのではないでしょうか?

 

今回、大規模試験により、リドカインのROSC率と生存入院率を向上させることが確認されたため、正式な推奨表記にリバイバルしてきたという次第です。

 

 

その他、今回のアップデートで、マグネシウムやROSC後の抗不整脈薬の使用についても記載がありましたが、結論としては従来からの変更はありませんので、ここでは触れません。

 

 

さて、皆さんが気になるのは、ACLSのテキストが改定されるの? いま、買って大丈夫? 待ったほうがいい?

ということだと思いますが、この点は心配いりません。
ACLSプロバイダーコースで使用する教材(DVD、テキスト等)は変わりません。

この点は、AHA公式のFAQでもはっきり書かれていたので大丈夫です。ご安心ください。

 

今回のアップデートの要点をまとめたハイライトが、公式日本語版としてPDFでリリースされています。

心肺蘇生と救急心血管治療のためのガイドラインの成人/小児の二次救命処置に対する重点的アップデート2018表紙

American Heart Association
心肺蘇生と救急心血管治療のためのガイドラインの
成人/小児の二次救命処置に対する重点的アップデート2018

(PDF)

 

 

その他、細かい原著情報は、AHA公式の専用ホームページ からたどってみてください。

 

 

ACLS/PALSの講習内容としてはほとんど変わりはありませんが、BLS横浜としては、講習用に新しい心停止アルゴリズムのポスターを制作しようと思っています。

 

BLS横浜 ACLSプロバイダー【1日】コース 

11月29日(木) 熊本
12月20日(木) 川崎
1月16日(水) 横浜

12月3日(月)の横浜コースは締め切っていますが、復習参加やチームメンバー参加(無料)は引き続き、参加者募集中です。

詳細 → ACLSプロバイダー【1日】コース


デブリーフィングは誰のもの?

先日のBLSプロバイダーコースでは、受講者にICLSのインストラクターの方がいらっしゃったので、講習の指導テクニックという視点も盛り込んだ展開をしてみました。

BLSプロバイダーマニュアルには、「デブリーフィング」の解説が載っています。インストラクターの指導手法の解説がなぜ? と感じる方もいるかもしれませんが、これは実臨床の出来事に対して受講者自身がデブリーフィングを行っていくといいですよ、というメッセージです。

実際の出来事や模擬体験の中での限局的な経験を、汎用性のある「知」に高めるための手法が、デブリーフィングです。

単純に白黒つけられない問題に対しての、問題解決手段とも言えるかもしれません。

BLSにしてもACLSにしても、デブリーフィングは、最後までインストラクターが行っていくのではなく、最終的には受講者たちが自然と自らディスカッションを始め、自己経験学習を行えるような道筋を作っていくのが目標です。


体系的アプローチは、すなわち臨床推論

ACLSの体系的アプローチですが、論理的な思考過程を整理したものと考えると、すなわち臨床推論のアプローチ過程とも言えます。

 

特にACLSの2次アセスメントなどは、まさに臨床推論の考え方ですね。

 

2次アセスメントの目的は、心停止の原因を特定して、治療に向かうことにあります。

心停止の原因としてACLSでは、10個ないしは11個が列挙されています。

その英語の頭文字をとって、”H”s & T’s”と呼ばれていますが、これらのうち、目の前の患者の心停止の原因がどれが該当するかを探るために、SAMPLE聴取というツールを使っていきます。

この場合のSAMPLEは、「焦点を絞った患者の病歴の収集」と表現されています。

つまり、ACLSにおけるSAMPLE聴取は、一般論的な闇雲の病歴聴取ではない、ということです。

常に頭の中にHとTで表現される心停止の原因を思い浮かべていて、それを同定するという目的をもったプロセスとして情報を集めましょう、ということです。

例えば、初期情報や心電図波形から、HとTのうち、これじゃないかと仮説を立てます。

すると自ずとSAMPLEで情報を集めるときには、意図的なものになるはずです。そうして仮説に対して集めた証拠(情報、根拠)により、その仮説が肯定できるか否定できるかと推論していき、原因に迫っていくのです。

 

例を挙げて考えてみましょう。

心停止で運ばれてきた患者にモニターを接続したら、130回/分の洞性頻脈によるPEAでした。とりあえずやるべきことはBLS評価と一次評価にもとづいて、質の高いCPRを確立することです。

PEAですから、除細動は適応外で電気ショックでは救えません。2分間のCPRと心電図解析、そして3−5分毎のアドレナリン投与をしても心拍再開は得られません。

そこで出てくるのが二次評価です。

PEAで洞性頻脈ときたら、まっさきに疑うべきは循環血液量減少です。(ACLSプロバイダーマニュアルG2015 p.40-41)

となると、受傷起点や発見時の情報などから、出血の可能性、脱水の可能性などをイメージした質問が出てくるはずです。つまりSAMPLEのE(イベント)ですね。

工場内でフォークリフトにぶつかって意識不明で運ばれてきた、という情報が得られたとしたら、どこをどうぶつけたのかとか、特に胸部や腹部の内出血の可能性、大腿部の骨折の有無などに視点が行くかもしれません。

その結果によっては、エコーなどの検査の必要性が出てくるかもしれません。

このように、HとTの中から、仮説を立てて、そこに向かって情報収集を進めていくのが、ACLSにおける2次アセスメントの目指すところです。

これは近年、看護師の特定行為研修などでも話題になっている臨床推論のプロセスの中でも「仮説演繹法」と呼ばれているものと同じです。

ACLSプロバイダーコースを受講する中でも、一歩視野を広げて、臨床推論と考えると、単純な心停止対応トレーニングに留まらない臨床に役立つ視点を得ることができるかもしれません。


医療者にありがちなAED使用法の勘違い(充電中の圧迫)

 
AEDの解析とショックの間の充電中に胸骨圧迫を行うことは危険です。
 

なに言っているの? あたりまえじゃない? と思われる方は、ここでページを閉じてください。この先を読む必要はありません。

おそらく市民救助者の方の大半は、上記の点を正しく理解しているはずです。

 

しかし、なぜか医療従事者の中には、AEDの充電中に少しでも胸骨圧迫を行うことが正しい、と勘違いしている人が少なからずいるのです、そこで、このような記事を書かせてもらいました。

この勘違いの原因は、AHA の BLSプロバイダーコース で使われているDVDにあります。

AED使用に関するデモ映像の中で、心リズム解析のためにいったん患者から離れたのに、充電の最中に胸骨圧迫を再開している場面が描かれているのです。

さらにはDVDのナレーターの解説として、下記のような言葉が入っています。

 

「この圧迫担当者は、AEDの充電時間すら無駄にせず、数回、圧迫を行っています。これはとても重要なことです。」

 

これが受講者を混乱させ、誤解を生じさせている原因です。

さらに悪いことにインストラクターの中にも、これを真に受けて、「DVDのようにAED充電の間、少しでも圧迫するように」と指導し、実際に練習時にもそうさせている指導員がいる(らしい)ということも問題を増長しているようです。

しかし、結論から言います。

 

日本のAEDは、充電中に胸骨圧迫をしちゃダメです。

 

じゃ、AHAのDVDが間違っているのか? というと、そういうわけでもありません。

先ほどのナレーターの言葉には、前置きがあります。画面に表示されるクローズド・キャプションが途中で切れているので分かりづらいですが、つなげるとこのような一文になります。

 

また、AEDの指示に従うことも大切です。この圧迫担当者は、AEDの充電時間すら無駄にせず、数回、圧迫を行っています。これはとても重要なことです。」

 

つまり、この場面は、とある固有のAEDが充電中に圧迫するように指示を出したので、それに従って行動した、という場面なのです。

一般論の話ではありません。米国には、充電中に圧迫を指示するようなAEDが、数ある中の一つとして存在するということです。

参考まで、英語の原文では、このように言っています。

 

“And it’s also important to follow your device’s prompts. You may have noticed there that the compressor took advantage of the time the device was charging to deliver a few crucial compressions.”

 

言うまでもなく、AED操作の基本は、音声メッセージに従って行動することです。これはBLSプロバイダーコースであっても同じです。

BLSプロバイダーマニュアルG2015 の 35ページにはっきり書かれています。

 

「聞こえてくるAEDの指示に必ず従うこと」

そして、2018年現在、日本国内で承認されているAEDの中で、充電中に圧迫を再開するように指示を出す装置は存在しません。

ですから、今の日本ではAEDの充電中に少しでも胸骨圧迫を行なうように、という指導は適切ではない、ということになります。

この先、日本でもそのような機種が承認される可能性はありますが、現時点は少なくともありませんし、米国においてもすべての機種がそうだというわけではなく、あくまでも個別のAEDの指示としてそう言われたのであれば、それに従えというだけの話です。

このあたりはDVDの訳語が不親切なので、インストラクターが正しく整理して伝え直す必要がある部分と言えるでしょう。難しくはありません。「とにかく音声メッセージに従って下さい」とテキストに書いてあるとおりに伝えればいいだけです。

 

それでは、実際のところ、日本国内において、AEDの充電中に(指示もないのに勝手に)胸骨圧迫を行ったとしたらどうなるかというと、胸骨圧迫の刺激を「体動あり」と検出して充電がキャンセルされる可能性があります。

つまり、ショックが必要な心電図波形なのに、ショックができないという事態になりえるのです。

ご存知のように除細動は1分遅れると、助かる可能性が10%近く低下すると言われています。

AEDの指示を無視して勝手なことをして、それが救命の可能性を下げたということになったら、、、、

 
 

あくまでもアメリカ心臓協会のプログラムは、米国のものですから、社会環境や通念の違いをきちんと埋めてフォローアップするのが日本人インストラクターの役割です。

二次救命処置(ACLS)における手動式除細動器の充電中の圧迫とは、条件が違いますので、この点を混同しないように、きちんと日本の法的側面や機器としてのAEDの使用説明書にも習熟しておくことが必要でしょう。


オピオイドによる呼吸停止とナロキソン投与【G2015】

AHAガイドライン2015アップデートにより、BLSの範疇にナロキソン注射というのが新たに登場しました。結論から言えば、日本では無視していいものですので、一般の方は気にしなくていいです。
 
ただし、AHA版のBLSアルゴリズムの中では言及されているものなので、AHA-BLS教育に携わる人は知っておいたほうがいいでしょう。
 
これはオピオイド過量摂取、つまり簡単にいうと麻薬中毒に関連した話になります。
 
麻薬(医療用であれ非合法薬物であれ)を過剰摂取すると、呼吸抑制が起こります。簡単にいうと呼吸が止まります。
 
この初期状態で傷病者として発見された場合、「意識なし、呼吸なし、脈あり」という状態で認識されます。
 
BLSアルゴリズムに従えば、この場合は5−6秒に1回の補助呼吸(人工呼吸)をして、2分毎に脈拍チェックをして、救急隊を待つということはG2010のときと変わりありません。
 
しかし、傷病者が麻薬の常習者だったり、薬物摂取をうかがわせるような状況だった場合、緊急通報とAED手配の他、オピオイドの拮抗薬であるナロキソン自己注射器があれば持ってくるように周りに依頼することが追加されました。そしてAEDの場合と同様、可能になり次第、ナロキソン0.4mgを筋肉注射するということが、BLSアルゴリズムの延長として提示されています。
 
注射というからには二次救命処置の範疇と考えられますが、AHAガイドラインでは、これはヘルスケアプロバイダーだけではなく、市民救助者にも求めるBLSの範疇というのですから驚きです。
 
米国では2014年に市民救助者向けのナロキソン自己注射器が米国食品医薬品局(Food and Drug Administration : FDA)により承認されているそうです。
 
それだけ米国では薬物中毒が日常的だということなんでしょうね。
 
感染管理で有名なCDC(Centers for Disease Control)でも「市民救助者向けナロキソンプログラムが成功していることを強調している」とのこと。
 
 
米国に習い、日本のファーストエイド領域でもエピペンが入ってきました。そこに加えてナロキソン自己注射器も、ということになるのか、というとそういうことはなさそうです。
 
オピオイド中毒に関しては、ガイドラインの原本ともいうべき国際コンセンサスCoSTR 2015では、ナロキソン投与の効果を認めつつも、少なくともBLS範疇に組み入れることは推奨していません。
 
当然、日本のガイドラインも同じスタンスです。
 
このナロキソンの市民による注射は、米国が自国事情に合わせて独自に組み入れたものですので、その米国基準の講習プログラムを日本で展開する際には注意が必要な部分となります。
 
これまで医療者向けBLS部分では日米で大きな差異はありませんでしたが、今回、各国の独自性が色濃く出てきた印象です。
 
 


パドルよりパッドショックが推奨される理由【ACLSのしくみ】

蘇生ガイドライン2010では、除細動の電気ショックの直前の充電時間中も胸骨圧迫を継続することが推奨されています。これにより、優位に除細動の効果が高まることが明らかになったからです。
 
ところが、手動式除細動器のパドルを胸郭に押し当てて充電している間、胸骨圧迫を続けることは非現実的です。
 
しかしパッドにすればそれは可能です。

パッドというのはAEDと同じ、アレです。
 
充電やショック(放電)のボタン操作は除細動器本体で行いますから、胸骨圧迫の振動で誤ってボタンを押してしまうというようなリスクもありません。
 
つまり、胸骨圧迫の中断を最小限にして、すぐにショックをできるという点で、「迅速な除細動」が可能ということがパッドショックの最大のメリットです。
 
 
さらにいうと、技術のムラがなく誰でも安定した除細動を行えるというのもパッドショックの利点といえます。パドルを使う場合、約10キロほどの力で強く均一に胸壁に押し付ける必要がありますが、これがなかなか難しい。技術によってうまい下手がでてきます。
 
その点、パッドはしっかりと貼り付ければいいだけですから、質が均一です。
 
 
ただ、パッドは消耗品で1枚1万円弱。コストが問題であまり積極的には使われていません。また迅速な除細動ができると言っても、慣れた人にとっては、パドルの方がサッと使えますので、初回のショックに関してはパッドより早いかも。
 
ただ、いちおうAHA公式にはパッドショックが推奨されているということは、ACLSプロバイダーコースを受講する方は知っておいてください。