救命に関するマスコミ報道を見ていると、記者も含めてみんな勘違いしているようです。
すでに修正していただけましたのでメディア名は出しませんが、市民が行った救命処置に関する報道でこんな記載をしている記事を見つけました。
「自動体外式除細動器(AED)を装着したところ、心臓が動いていると確認ができた」
倒れている人に対して、AEDを装着したことで、心臓が動いている≒心肺蘇生法は必要がない、生きている、ことがわかったということを言っているようなのですが、このおかしさにお気づきでしょうか?
結論から言うとAEDには、心停止を判断する機能はないので、生きているとか、心停止しているとか、心肺蘇生法が必要かどうかはわかりません。
察するに、このケースでは、AEDが「ショックは不要です」と言ったことから、「心臓が動いている」と解釈したものだろうと思います。
つまり、この救助にあたった人も、それを記事にした記者も2つの勘違い・誤解をしていたことになります。
- AEDで心停止の確認もしくは胸骨圧迫の必要性を判断できる
- 心停止であればAEDは必ず電気ショックをする。だからAEDがショック不要であれば生きている/救命処置は不要
「ショック不要」は心肺蘇生法 CPR が必要な状況
AED は心電図モニターではありませんから、ざっくりとした結論しか示されません。
・電気ショック(除細動)が必要
・電気ショック(除細動)は不要
AED が教えてくれるのはこの2つだけです。
AED というのは、本来の使用条件は「心停止状態にあること」となっています。ここを理解していないと、冒頭のような誤解に繋がります。
AED 装着は胸骨圧迫の後
救命講習を思い出してください。
AED を装着したのは、胸骨圧迫を受けている人に対して、でしたよね?
市民向けの流れでいうと、「反応なし! ふだんどおりの息なし! 胸骨圧迫を始めます!」のあとに、AED が届いて装着したはずです。
胸骨圧迫がされていない人に AED を装着するというシチュエーションで練習したという人はいないはずです。
このことからわかるように、AED はすでに心停止状態があることが前提で、電気ショックが必要な心停止か、電気ショックが不要な心停止かを判断する道具なのです。
ですから、ショック不要となれば、直ちに胸骨圧迫を始めてくださいという音声メッセージが流れる仕組みになっています。
ショック不要=生きている、ではないのです。
救命法指導員の責任、マスコミが広げる誤解
ここをはっきり伝えないのは、救命法指導員の責任です。ここを認識するような講習展開をしないせいで AED の不適切使用やトラブルが横行し、報道陣も含めて市民が勘違いしている状況が生まれています。
冒頭の新聞記事でも、救助にあたった人は「(学校の)保健体育の授業で習ったため AED の使い方は知っていました」と語っていますが、結果的には間違った使い方をしていたと言えます。AEDをどんな人に装着するべきか、という点はわかっていなかったわけですが、これは教える側の指導不足の問題と考えます。
市民向け救命講習の受講者に細かい理屈までを伝える必要はないかもしれませんが、AEDがそこそこ広まった今、少なくとも下記の点は強調すべきと考えます。
・迷ったら胸を押せ! AED はその後
・胸骨圧迫不要な人には AED 装着も不要
・ショック不要と言われても AED 指示に従って胸を押す!
・胸骨圧迫をやめていいのは、明らかに痛がるなどの拒絶反応に気づいたとき
指導員なら理由も理解しておきたい。マスコミも…
市民には上記の結論だけを伝えればいいかもしれませんが、指導する側の人間や、救命に関する報道をする記者はその背景になるものを理解しておく必要があります。
まずは上記の通り、AEDはメーカーが定める使用条件として、反応確認と呼吸確認によって、胸骨圧迫が必要と判断された人以外には使用禁止とされている事実を知っておくべきです。
日頃ご自身が教えている救命講習の流れを考えても、ここに異論はないはずです。
その上で、次に心停止という言葉の意味を把握している必要があります。
・心停止状態には何種類かある
・心停止の中でも電気ショックが必要な心停止と不要な心停止がある
・AEDは「震えているタイプの心停止」のとき以外は作動しない
胸骨圧迫をされている前提で、除細動が不要というのは、心臓の動きが完全に停まっているか、血圧がほぼゼロに近い状態で胸骨圧迫に加えて人工呼吸が必要な状況です。
つまり、ショック不要と言われたら、AEDでは救命できない心停止なので、フルサイズの救命処置が必要、つまり人工呼吸もするべき状況と理解するべきです。
新案:CPR開始手順の見直し
痴漢と間違えられると言った悪質なデマを含めて、AEDをめぐるトラブルが増えているのは、これまでのAEDありきの偏った救命法普及活動の結果と考えています。
そこで、大胆に心肺蘇生法手順を下記のように変更することを提案します。
- 安全確認・安全確保
- 顔を見ながら肩を叩いて呼びかけ、「反応」を見る。 ← 意識がなくても反応があれば生きている可能性
(会話ができる程度の意識がなければ119番通報とAED手配)- 顔色を見る ← 血色があれば生きている可能性
- 胸の動きを見る ← 普段どおりの呼吸の動きなら生きている可能性
- 反応・顔色・呼吸の判断がよくわからない、自信がなければ、胸を押す
- 痛がらなければAED装着。可能なら胸骨圧迫と同時並行で
ポイントは、意識と反応を区別する点、循環停止の指標として顔色の異常さも判断基準に入れている点。またよくわからなければオーバートリアージで胸を押すことで、最終的には痛み刺激による判断を取り入れた点。
顔色や皮膚色判断は、小児二次救命では昔から言われている点で、これをBLSに取り入れたらどうかという提案です。
胸を押すことでの痛み刺激の反応を見るというのは、2000年頃に提唱された「循環のサイン」の確認みたいなものです。
これらが煩雑で難しいというのであれば、米国AHAが提唱している Hands only CPR の開始基準と同じで、反応も呼吸も確認しなくていいから、119番してすぐに胸を押せ、というのが究極の形になるかと思います。
少なくともAEDではなく胸骨圧迫が先、という点はしっかり根付かせたいところです。