歯科医院の救命講習は、バイタルサイン評価と酸素が標準

今日は歯科クリニックでの救命講習でした。

歯科クリニックのBLS研修で必須の酸素ボンベ:外来環救命研修

歯科には歯科外来診療環境体制加算(通称:外来環)というものがあり、その条件の一つに、

救命救急の器具や薬剤などを常備している。
(AED、パルスオキシメーター、酸素、血圧計、救急蘇生セット)

ことが定められています。

医療機器メーカーでは、外来環セットのような名称でこれらの機器をパッケージ化して販売してもいるようです。

そんなこともあり、歯科医院から救命講習のご依頼をいただくときは、AEDとバッグバルブマスクだけではなく、パルスオキシメーターや酸素の使い方も含めて指導してほしいということがほとんどです。

外来環 救命講習の内容

歯科外来診療環境体制加算を意識した救命講習はどんな内容を含むべきか、というような基準はまったく示されていません。

そこでBLS横浜では、医療者向けの救命講習に加えて、歯科でありがちな緊急事態を想定し、パルスオキシメーターと血圧計、酸素投与器具を絡めて独自の救命講習を提案しています。

また外来環には含まれていませんが、歯科ではアナフィラキシー対応としてエピペンを準備しているところが多いため、

AED、パルスオキシメーター、血圧計、バッグバルブマスク、酸素投与器具、エピペン

という前提で進めることが多いです。

まずは普通のBLS

心停止対応は基本中の基本なので、まずは普通にBLSを練習します。

最初のうちは胸骨圧迫とAEDを基本に。

心臓突然死を前提にAEDで除細動(電気ショック)を体験してもらったあとは、「ショックは不要です」というケースを織り交ぜていきます。

歯科でありがちなアナフィラキシーや迷走神経反射、過鎮静などが原因で心停止に至った場合は、初期波形は無脈性電気活動(PEA)でしょうから、ショック不要というアナウンスの意味も理解しておく必要があります。

人工呼吸とAED準備を同時進行にできるのが理想ですが、人手が足りなければ、成人傷病者であれば一般論としてAEDが優先。そこで、AEDがショック不要と言ったら人工呼吸が欠かせない状況であると判断する、ということを伝えています。

血圧計、SpO2計の登場は後半 非心停止対応

血圧計やパルスオキシメーター、酸素が出てくるのは後半の非心停止対応です。

これは講習展開上、かなり重要な部分で、急変ときたらまずは心停止を疑ってBLS対応から行動し、明らかに意識・反応がある、呼吸をしているなど、心停止を完全に否定できたところからパルスオキシメーター・血圧計は導入するべきものと考えています。

意識がないからといって、心停止かどうかも判断できていないうちからパルスオキシメーターや血圧計を装着するのは致命的な大失敗に繋がります。

パルスオキシメーターでは、呼吸の有無はわからない
心臓が動いていても呼吸が停まっていることはあります。生命兆候としてパルスオキシメーターをつける前に目視で呼吸の有無を確認することは重要です。誤判断を誘発する可能性、不慣れな人は器具を使わない方がいいかもしれません。

酸素ボンベのバルブの開け方から投与器具の選択と酸素流量

歯科クリニックの中でも、セデーションを取り入れているところは、日常的に酸素ボンベも使っていることが多いですが、そうでないと酸素ボンベ一式はホコリをかぶっていることが多く、バルブの開け方、締め方からして説明、練習してもらう必要があります。

また医療機器メーカーが外来環パッケージとして販売しているものの中には、酸素ボンベとバッグバルブマスクが含まれていても、ふつうのフェイスマスクがない、というケースもあるようです。

これは販売側の問題がある気がしますが、この前提だと陽圧換気をする場面(≒心停止)でないと酸素が使えないということになりますから、現実的ではありません。

自発呼吸がある場合の酸素投与器具は、経鼻カニューレ、単純マスク、リザーバーマスクの3種類があるのが理想ですが、歯科外来での急変を考えれば、最低限、単純マスクでしょうか?

単純マスクの場合、最低何リットルの流量が必要か、という情報も重要です。

実際の準備は歯科衛生士さんが行うことを考えれば、フェイスマスクで酸素流量1リットルなどはあり得ないという感覚を持ってもらうことも重要です。

歯科クリニックでは、酸素ボンベの残量計算までは説明はしていませんが、リザーバーマスクを使って10リットル/分を流すとボンベが満タンでも50分しか持たない、5リットル/分なら1時間半程度というざっくりした感覚はお伝えしています。

パルスオキシメーターと血圧計

ファーストエイド的な視点でいうと、パルスオキシメーターと血圧計は中途半端な理解で使うことでの弊害が大きく、不慣れな人はあまり勧めたくない代物なのですが、外来環の主役として入ってしまっている以上、その使い方と数字の解釈、また機器としての限界をお伝えするようにしています。

大事な理解は、心停止判断は人間が五感を使って判断するものであり、パルスオキシメーターや血圧計では心停止は判断できないし、あくまでも「生きている」という確信のもと、「参考程度」に使うという点は強調しています。

クリニックで準備している血圧計とパルスオキシメーター、めったに使うものではないので、受講者同士でお互いに計測する体験をしてもらって、最終的なトレーニングとしては、数値を自在に変化させられるシミュレーターを使って、急変アセスメントの模擬体験をしてもらっています。

歯科外来 急変シミュレーション

酸素の使い方、バイタルサインの基準値の把握と、呼吸困難と循環障害の兆候について理解してもらったあとは、総まとめとしてのシミュレーションです。

インストラクターが呼吸困難や意識障害の演技をして、そこへのチーム対応を体験してもらいます。

呼吸回数や呼吸努力の変化の認識して記録できるか? パルスオキシメーターや血圧計をつけた後は、シミュレーターで数字を変化させて、現状維持なのか、改善なのか、悪化なのかを評価し、酸素投与や流量、体位などの調整ができるか? またエピペン注射を決断できるか?

最後は救急隊が到着したときに、途中の変化を含めて報告ができるか?

そんな症例をアナフィラキシーや迷走神経反射、心臓発作などで体験してもらっています。

外来環 歯科救命講習のまとめ

外来環を意識したときに、いわゆる普通のBLS講習だけでは十分とは言えません。

せっかくあるなら、それらの機器を有効に活用するための実践トレーニングが必要。

時間が1時間と言われたら、無理です。一般的なBLSがせいぜい。

2時間半から4時間程度いただければ、シミュレーションを多用したそれなりにきちんとした形でトレーニングができます。

歯科における救命講習と言えば以前はDCLSというのがありましたが、あまり広まらないまま立ち消えてしまった印象があり、その中でもあまりこのあたりの実践例は表に出てきていない気がします。

そこで今日の研修を思い出しながら、BLS横浜としての外来環講習を書き起こしてみました。

今後、歯科における急変対応研修を考える方の参考になりましたら幸いです。

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