BLS(心肺蘇生法)一覧

ついに日本でも認可された全自動「オートショックAED」とその指導法

8 月に入ってから、救命法の指導員界隈がざわついています。

原因は、厚生労働省からのこの通知。

厚生労働省通知:ショックボタンを有さない自動体外式除細動器(オートショックAED)使用時の注意点に関する情報提供等の徹底について

オートショック AED、つまり全自動式の AED が、ついに日本でも認可されてしまったというのです。

市民が使用する上で混乱や危険が生じる可能性があるので、今後の救命講習の中では、旧来の AED と全自動式 AED を区別してきちんと教えて下さいね、という内容の通達になります。

この通達が、都道府県宛、ならびに総務省消防庁経由で、各消防本部に拡散されていき、その通達を見た現場の消防職員たちが「これ、なに?」と SNS でざわついているという次第です。

全自動式のオートショック AED とは

今までの AED は、実は半自動式

AED とは、Automated External Defibrillator、自動体外式除細動器と翻訳されています。

AED はもともと自動なのですが、これは 心電図解析から充電まで が自動というだけで、最後の電気ショックの実行は、人間がボタンを押す必要があります。つまり、自動と言いつつも、実は半自動だったのが、これまでの AED です。(フルオートではなくセミオート)

ショックボタンを押す必要がない

それが今回、日本でも認可・販売が開始されるオートショック AED は全自動で、最後の電気ショックを実行まで、自動で行われてしまうのです。

電源スイッチを入れて、音声指示に従って心停止状態の人に電極パッドを装着すると、心電図解析が始まります。電気ショックが必要と判断されると、離れるような指示とブザー音などの合図のあと、ドカンとショック実行が実行されます。

一見便利なようですけど、「誰も触っていませんね」という、人間が目視で行う最終安全確認を待つことなく、AED の勝手な(?)タイミングで電気ショックがされてしまう、という点で、怖い、危険という側面があります。

なぜ、今になって全自動 AED が認可された?

実は全自動式の AED は、決して新しいものではなく、米国では昔からありました。AHA の BLS ヘルスケアプロバイダーコースのG2005年版の映像教材でも登場していたのを覚えている方もいるかもしれません。

今回、日本で販売認可が下りたのは、「サマリタンPAD 360P」で日本ストライカー社から発売されます。このモデルは米国では 2014 年から販売されているものになります。

なぜ、今このタイミングでオートショック AED が日本で認可されたのか、厚労省の通知を見ても書かれていませんが、上記のプレスリリースによると「処置が遅れるリスクを低減」というのが主たる理由であることがわかります。

ショックボタンが押されない、という事故事例

実際にこれまでも、ショックが必要なのにボタンが押されない、もしくは遅れるという事故がしばしば発生していました。(最悪内部放電されます)

例えば、有名な下記の AED 使用時の音声記録の映像をご覧ください。(3分23秒から再生される設定になっています)


AED が「ショックを実行します」とショックボタンを押すことを促しているにも関わらず、周りの声にかき消されて、直ちにショックがなされていない様子がわかります。

このような事態を防ぐ、ショックを遅らせないためにも、全自動式の AED の必要性が日本でも認められたということなのでしょう。

ショックを遅らせないことと安全性の天秤

しかし、しかし、です。

上記の動画の場面で、オートショック AED が使われていたらどうだったでしょうか?

詳細は不明ですが、周りの救助者や仲間が必死になって傷病者に呼びかけています。肩を揺すっていたり、手を握っていたりということはなかったでしょうか?

心電図の解析が正しくできていたということは、おそらく余計な電気ノイズが乗るような接触はなかったのだと考えられますが、ショックボタンを押すようにという音声メッセージを聞き逃しているくらいですから、着実な堅実に AED 指示が守れていたかというと疑問です。

AED 指導の原則を守れば、なんら変わらない。けど…

AED の使い方を教える上で必要なことは2つだけ。

1.電源を入れる
2.音声指示に従う

これを守れば、全自動式の AED で怖いことはないし、今までと何らかわかることはありません。

これは事実。

しかし、実際の救命講習で指導員が上記を正しく伝えているかというと、残念ながら否です。

AED 操作練習の目的を履き違えて、講習会場にある練習機を固有の手順で使うことを教えてしまっていませんか?

聞いて従う、と言葉では教えつつも、指導員のデモンストレーションを覚えさせて真似させる、そんな形骸化した講習になっているケースが多くないでしょうか?

現場でどんな機種に遭遇するかわからないバイスタンダー向けの救命講習であればあるほど、汎用性を高めるために「聞いて従う」を強調しなければなりません。

ただ、それを言葉でいくら言っても、たぶん、実用レベルでは伝わりません。

指導法を抜本的に見直す

言われてわかった気になるのと、体験を通して納得するのは大違い。

そのために、BLS横浜では、事前練習なしに複数人のシミュレーションの中で、いきなりAED練習機を使う体験をしてもらう場合があります。

複数人が集まり、誰かが胸骨圧迫をしたり、人工呼吸の準備をしている中で AED を使ってもらうと、その雑然とした雰囲気で「聞く」ということがほとんどできません。

そのため、トンチンカンな結果に終わることがほとんど。(ショックボタンを押さずに内部放電されてしまう事態もよく起きます)

これだけだと、失敗体験で終わってしまいますので、この先からが本番。

実際に対応した皆さんで振り返り(デブリーフィング)をしてもらうのです。

事前に知識として知っていて簡単だと思っていた、

1.電源を入れる
2.音声指示に従う

ということが、ちっともできなかった現実。

なぜか? どうしたらいいのかをみんなで振り返ってもらい、次に向けた作戦会議をしてもらうのです。

その上で、もう1回同じことをやってもらいます。

そうすると、完璧ではないにしてもどうにか形になります。

ある意味、失敗から学んでもらう、わけです。

聞いて従う、という簡単なことが、現場では難しい。

そのことをまず理解してもらう必要があり、そのレディネスが整わない中で言語情報として「聞いて従う」を連呼したところで、まったく響かないのは当然のこと。

形だけ教えるのと、ちゃんと教えるの違いはこういうことで、どうしても手間と時間は必要です。この教育・学習手法が 経験学習 です。

まとめ

2021年8月から、日本でも全自動式AED(オートショックAED)の発売が開始され、AED 機種ごとの多様性の説明と、原則通りの「聞いて従う」という実践的な指導が求められます。

救命法の指導員は、安全上の責任として「聞いて従う」ことを身に着けさせる実践トレーニングを行う必要があり、恐らくそれは教育手法として【経験学習モデル】を採用しない限りは難しいでしょう。

経験学習の手法については、過去にもブログで解説していますので、ぜひそちらもご覧ください。

救命講習を受けても「できる」ようにはならない その理由
https://blog.bls.yokohama/archives/6934.html

経験学習 デブリーフィングのコツ
https://blog.bls.yokohama/archives/7772.html

生きている人に電気ショックされてしまうリスクの増大

これはフルオート式に限った話ではありませんが、AED 講習の不適切な指導で、必要のない人にAEDを装着して、誤って電気ショックがされてしまう懸念は日本でも現実のものになってきています。

今回、全自動式のオートショック AED の導入で、不要な電気ショックをされてしまう事故が増えるのではないかとの懸念も聞かれています。

これについては、また今度、別項で取り上げようと思います。


AHA-BLS実技試験ーバッグマスクで実施するには

バッグマスクは一人法 BLS では推奨されていなかった

バッグバルブマスクは、救助者一人による心肺蘇生では推奨しない。

 
これは AHA 蘇生ガイドライン 2010 で強調されていたポイントでした。(過去の話です)

当時、BLSヘルスケアプロバイダーコース の筆記試験でも問われていた部分だったので、印象に残っている方も多いのではないでしょうか?

その理由は、胸骨圧迫の中断時間が長くなる から。

頭側から側方への移動が問題

通常、バッグマスクは患者の 頭側から E-Cクランプ法 で使います。

患者の頭側からのバッグバルブマスク換気

救助者が一人の場合は、胸骨圧迫のために患者の側方に移動する必要があり、胸骨圧迫の中断時間が長くなってしまいます。AHA-BLS においては、許容される胸骨圧迫の中断時間は10秒以内。

この実現が困難なため、「一人法 CPR ではバッグマスクは推奨しない」ということになっていました。

そのため、AHA講習は、BLS でも ACLS でも PALS でも、BLS 実技試験のデモ映像ではポケットマスクが使われています。

ポケットマスクは、患者の側方、つまり胸骨圧迫の位置から使うことができるため、圧迫の中断を最小限にするためには、一人法ではバッグマスクよりポケットマスクが望ましいということが暗に例示されていました。

病院の医療者がポケットマスクで呼気吹き込み人工呼吸をしますか?

しかし、現実問題として、医師や看護師、救急救命士が業務中にポケットマスク人工呼吸をしますか? という話になります。

保育園やスポーツ施設ならいざしらず、医療機関内で呼気吹き込み人工呼吸というのはありえません。特に病院ではバッグバルブマスク換気以外の選択肢はない、と言っても過言ではないですよね。

ですから、例えば ACLS プロバイダーコース内の BLS 実技試験で、ポケットマスクを使った CPR をやらせるのは、不自然なこと、でした。

トレーニングサイトによっては、ACLSプロバイダーコースの受講要件としてポケットマスクを購入させているところもあるようですが、現実を考えると、やや謎です。

G2015で変わった潮目 人工呼吸の実技試験は現場で使うものにするようにと

そんな不自然な流れが修正され始めたのが、AHA蘇生ガイドライン2015 からです。

G2015の教材改定で、BLS でも ACLS でも、BLS 実技試験においてはポケットマスク一択ではなく、「使用する防護具は受講者が現場で使用するものと同じようなものでなければならない」と変更されたのです。

これは、BLSインストラクターマニュアル G2015 の 34 ページからの抜粋ですが、さらにこんな記述もあります。

「バッグマスクしか利用できない現場もある。このような場合、受講者はバッグマスクを使ってスキルテストを受けてもよい」

バッグマスクしか使えない現場と言ったら、病院はまさにそうですよね。

となると、G2015 からの新ルールでは、日本の医療者向け BLS 実技試験はバッグマスクで実施するべき、ということになります。

BVMを側方から使えればいい

問題は、頭側と体側の移動時間。

移動に時間が掛かるのでであれば、バッグバルブマスクを患者の横側から使えればいいわけです。

正式な方法ではありませんが、側方からでもきちんと E-C クランプ法でバッグマスクを使うことはできます。

手の置き方はいろいろありますが、いちばん基本に忠実なやり方は下の写真のようになります。

バッグバルブマスクを患者の側方から使えば中断時間10秒を越えない

頭側の手を、向こう側に回しこむようにします。

こうすると、患者のあごに3本指が掛かり、あごを引き上げることができます。(頭部後屈-あご先挙上にするにはあごに指をかけることが必要)

コツは肘を床につけること


やってみると、肘がつっぱる感じになってちょっとつらいところもありますが、ポイントとしては自分の肘を床につけるくらいにして、体をかしげること。

こうすると、肘の突っ張りが解除されて、比較的自然に患者のあごを引き上げつつ、マスクを密着させることができます。

実技試験、皆さん合格しています


BLS横浜で開催しているBLSプロバイダーコース、ACLSプロバイダーコース、PALSプロバイダーコース、PEARSプロバイダーコースは、今はほぼすべてこのやり方でBLS実技試験を受けてもらっています。

もちろん、練習はします。

側方からの BVM 換気の手技と、その後、中断時間10秒でできるかを反復練習してもらっています。時間にしたら5分くらいでしょうか。

その後で実技試験に臨むと、皆さん、ふつうに合格しています。

どんな感じになるかは、下の動画をご覧ください。16秒ほどの短い映像です。

正式なやり方ではないけれど

患者の横からバッグマスクを使う方法は、AHA の公式な指導項目ではありません。

医療界でも手技として確立したものでもないかと思います。

またマネキンだからできるんだという意見もあるでしょう。

ただ、実際のところ医療現場にはバッグマスクしかなく、病院内のベッドは頭が壁側についていることが多いです。

またベッド柵が邪魔で、ベッドを引いて柵を外さない限り、レギュラーな BVM 換気が開始できない現実を考えると、バッグマスクを横から使うという選択肢があるかないかは意味があるのではないでしょうか?

AHA講習としてはどうする?

AHA 講習内の BLS の実技試験に関して言えば、実技試験の合格率を考えたら、ポケットマスク人工呼吸がいちばん簡単だと思います。

ただ、実際に病院内勤務の医療者が現場で使う道具ではないので現実的ではないという点、また、今のコロナ禍を考えたときには、もともとポケットマスク練習が含まれていない ACLS や PALS、PEARS プロバイダーコース で呼気の飛沫を飛ばすことは避けたいという問題があります。

BLS横浜としては、技術としてやや難しいということは認めつつも、受講者の皆様には側方 BVM を練習してもらっています。

どうしても難しければ、床ではなくベッド(講習会場ではテーブル等)にマネキンを置いて、救助者が立位で CPR するようにすれば、立ち位置移動のタイムロスは減りますので、頭側からのふつうの BVM 換気でも10秒以内という実技試験項目はクリアできます。

また、プレホスピタル・プロバイダーの場合は、希望によってはポケットマスクで実施してもらう場合もあります。

試験に受かるのが目的ではなく、臨床現場で使える技術を学ぶのが受講目的のはず。

現実を考えると、お作法だけではなく、臨機応変な工夫が大切、と考えています。


人工呼吸の重要性が見直された G2020 BLS 

日本語版の映像教材がまだリリースされていないので、まだ暫定版という形で展開されているAHA-BLS-G2020。

暫定コース教材としてAHAから提供されているG2015テキストの修正箇所一覧には記載されていませんが、実は密かに小児の蘇生アルゴリズムが変更されていることに、皆さん、お気づきだったでしょうか?

AHA蘇生ガイドライン2020で改定された小児BLSのアルゴリズム

小児は脈拍60回/分未満でCPR開始 脈のカウントはいつする?

思春期未満の小児の場合は、中枢の脈拍が触れていても、脈拍数が60回/分未満で灌流不良の兆候があれば胸骨圧迫を開始するわけですが、その脈拍触知をするタイミングが明示されるようになりました。

10秒以内で(呼吸確認+脈拍確認)をするときは、あくまでも触知の 有無 だけをみます。

そこで、(呼吸なし+脈拍あり)と判定した場合は、まずは補助呼吸を開始します。

2~3秒に1回(G2020変更点)の人工呼吸を開始するほうが先です。

そして、補助呼吸をしながら、脈拍数をカウントして、60回/分未満と判定したら、胸骨圧迫を始めてCPRに移行する、という形です。

 

もしかしたらG2015でも同じことを言っていたのかもしれませんが、アルゴリズムの表記上わかりづらく、脈と呼吸を同時にみつつ、脈拍数もカウントするように解釈されることが多かったのではないかと思います。

人工呼吸を急げ、というメッセージ

この変更から強調されたのは、(呼吸なし+脈拍60回/分未満)であっても、いきなり胸骨圧迫ではなく、まずは人工呼吸! という点ではないでしょうか?

ここは PALS や PEARS の理解からは当然かもしれませんが、BLSプロバイダーコースでは、全体として成人蘇生とC-A-B手順が強調されているため、やもや小児に対しても胸骨圧迫のみの Hands only CPR でいいと誤解される可能性を想定しての、あえての強調なのではないかと考えました。

 

溺水者の脈拍確認は後回し まずは人工呼吸

人工呼吸の重要性の強調が見て取れるのは、G2020版BLSコースで初登場の溺水者に対するCPRの項目でも明らかです。

そこでは、

Rescue Actions Based on Cause of Cardiac Arrest

という見出しの下、BLSプロバイダーは心停止の原因によって救助手順を変える必要があるとされています。

突然の卒倒であれば心室細動を疑って通報&AED手配ファーストでいいものの、溺水の場合は、脳と心臓に酸素を送ることが優先事項であるとはっきり書かれています。

G2020-AHA-BLSプロバイダーマニュアルの溺水の救命法

これは近年はACLSプロバイダーコースで言われていたことですが、それがBLSレベルにも下りてきたわけですね。(実はG2005まではBLSにも含まれていた内容なんですけどね)

さらに、ここはAHAガイドラインとしてまったく新しい部分だと思いますが、溺水者の救助手順が下記のようにドラスティックに規定されました。

溺水者発見 → 呼吸確認(なし)→ 気道確保し補助呼吸2回 → 脈拍確認(なし) → 胸骨圧迫開始(30:2)

G2010で華々しく登場し、いまでは誰もが疑わなくなった C-A-B 手順を覆すこのやり方!

重要な概念として、「まずは人工呼吸を! 溺水者への最も重要な処置はできるだけ早く人工呼吸を行うこと」とまとめられていることが物語っています。

まとめ

G2020のBLSコースの変更点からわかることは、G2010から始まった心原性心停止に偏りすぎた方向性の修正、ということじゃないでしょうか?

これは日本の保育現場などで救命法指導をしていても感じますが、今は胸骨圧迫とAEDが強調されすぎてしまい、とりあえずAEDを貼っておけばいい、胸を押しておけばいいという、心室細動以外の原因を無視した流れが主流となってしまい、小児蘇生や溺水の救助がないがしろにされています。

BLSプロバイダー教育は、バイスタンダー教育とはわけが違います。

業務対応として目の前の傷病者を救う責務がある。

そのためには、最大公約数的に一般化されたCPR習得だけでは不十分で、ちゃんと考える蘇生ができるように、という点がはっきり打ち出されてきたのだと考えています。

そして、これは、これまでのBLS横浜の BLSプロバイダーコース 開催コンセプトとまったく同じです。

BLS横浜では、ファミリー&フレンズCPRハートセイバーCPR AEDコースなど、フルサイズでAHA-BLS講習を展開しているからこそ、BLSプロバイダーコースの存在意義を、理解と応用 だと確信を持って伝えていきたいと考えています。


子どもの心肺蘇生法 ー新型コロナウイルス感染疑いの場合

アメリカ心臓協会が発表した COVID-19(新型コロナウイルス感染症)感染対策を盛り込んだ心肺蘇生法のうち、今日は市民向けの小児CPRについて解説します。

こちらは、AHAが公開している “COVID-19 and Child and Infant CPR” というフライヤーを独自に日本語化したものです。(AHAの公式日本語版がでるまでの暫定公開です)

新型コロナウイルス感染症が疑われる子どもへの救命処置

 
もともと米国の市民向け小児蘇生を知っている人からしたら、どこにコロナウイルス対策が入っているんだ? と不思議に感じるかもしれません。これまであったら小児CPRとなんら変わるところがないからです。

成人の Hands only CPR のフライヤーでは、胸骨圧迫をする前に傷病者の口と鼻をマスクや布で覆うという「変更点」がありましたが、こちらにはなにも目新しいところがないのです。

子どもの救命にはやっぱり人工呼吸は外せない

結論からすると、COVID-19への危惧があったとしても、呼吸原性心停止を前提に考える子どもの救命の上では人工呼吸は欠かせない、成人CPRとは違って「人工呼吸は省略する」ことをデフォルトとはできない、との意思を見ることができます。

このフライヤーの中で、唯一、新型コロナウイルス感染への対策が感じられるのが、「あなたにその意志があり、可能であれば」という部分です。

原語では、if you’re willing and able となっています。

 

コロナウイルスに感染しているかもしれない子どもに対して、胸骨圧迫と人工呼吸をやろうとする意思があり、可能であれば、やってください。

(その意思がない、もしくは技術的に物理的に装備的に出来ないのであれば、やらなくてもいいですよ)

 

このかっこの中が本当のメッセージなのですが、それをあえて積極的には明言したくなかった、という姿勢が見て取れると思うのです。

CPRを開始しない場合の対応はどうなるのかというと、フライヤーの STEP 2 の前半部分まで、つまり心停止の可能性を探り、心停止が疑われれば 119番通報 するだけでもやってくださいね、ということになります。

フライヤーのタイトル下にある言葉を見てください。

 

それでも、あなたにできることがあります。
you can still help.

 

結局のメッセージはここなんだろうと思います。

こんなご時世、コロナウイルス感染が怖いから倒れている人には近づきたくない。そんな心理が広がりつつあります。

しかし、一目散に逃げるのではなく、意識状態と呼吸状態を分かる範囲で確認して、懸念があれば119番通報だけでもしてほしい。

それだけでも大きな助けとなるのだ、ということ。

立場によって違う if you’re willing and able

このフライヤーの真意を探る上で、同じく AHA が公開している Community FAQ: COVID-19 and Pediatric CPR (PDF) という資料が参考になります。

これを見ると、子どもの心停止対応の救助者は誰かと言ったら、まずは親や家族が想定されていることがわかります。

我が子であれば、感染リスクを考えるより、救いたいという意思が先に立つのは当然でしょう。

であれば、一律、人工呼吸はしなくてよい、とは書くべきではないのは理解できます。

まったく無関係な第三者であれば、119番通報だけでも、胸骨圧迫だけでも、何かのアクションを起こしてくれば、それは尊いこと。

しかし、これが注意義務を持って対応する職業人だった場合は、もう少し踏み込んだ対応が必要です。

 

if you’re willing and able

 

人工呼吸を含めたCPRをする willing (意思)はあるでしょう。しかし、それが able(可能)かどうか。それはひとえに「準備」にかかっています。

つまり、ポケットマスクやバッグマスクなどの感染防護機能が実証された人工呼吸器具を備えているか、そしてそれを使えるように訓練されているかどうか、ということです。

新興感染症罹患が懸念される今だからこそ、立場によっては【備える】ことが重要です。


コロナ感染疑い成人患者へのBLS 変更点の解説

2020年4月9日付で、アメリカ心臓協会の機関誌 Circulation に、Interim Guidance for Basic and Advanced Life Support in Adults, Children, and Neonates With Suspected or Confirmed COVID-19 というステートメントが掲載されました。

コロナウイルス感染症(COVID-19)患者や、その疑いがある人への心肺蘇生法をどうしたらいいのか、という点で、新しい心停止対応アルゴリズムが公開されています。

 
今回は医療従事者向けの成人BLSアルゴリズムの変更点を解説します。(ACLSについては後日取り上げます

一般市民のバイスタンダー対応については、昨晩アップした 「傷病者の口と鼻を覆ってから胸骨圧迫する【コロナ対策のCPR】 」 をご覧ください。

コロナウイルス感染疑い患者への【成人BLS】の変更点

ご存知のAHA-BLSアルゴリズムに、下記のように変更が加えられています。

新型コロナウイルス感染症疑い患者へのBLSの変更

太字で下線がついた部分が変更された箇所です。

日本語はBLS横浜の独自翻訳です。AHA公式のものではありませんが、AHA公式日本語版がでるまでは、高解像度で印刷可能なPDFファイルもダウンロードできるようにしておきます。

1.PPE装着と人員制限

傷病者に取り付く前の安全確認。ここに感染防護具PPE装着も含まれています。今までアルゴリズムとしては記載がなかったところがはっきり明記されるようになりました。(ファーストエイドを学ばれた方にとっては常識だったかもしれません)

業務中のプロであれば備えがありますよね?

少なくとも手袋は必須。昨今であれば業務中はマスクはしているでしょうからいいとして、もうひとつほしいのはアイシールド。目の粘膜からもウイルスは体内に侵入します。

特に人工呼吸担当者は吐息を浴びる可能性が否定できず、目からの飛沫感染リスクが高くなります。

目を保護できないうちは、この点に留意。

BLSアルゴリズムでは明記はされていませんが、市民向けの Hands only CPR のフライヤーによると、胸骨圧迫開始前に傷病者の口と鼻を覆うようにマスクを装着させるか、布でカバーしておくように書かれています。

 

また人員制限というのは、蘇生に関わる人数を減らして、病院組織としてのリスクヘッジをしようという話です。

BLSアルゴリズムには記載されていませんが、ACLS領域の変更点では、機械式の胸骨圧迫装置(LUCAS や AutoPulse 等)の使用が推奨されているのも、蘇生に関わる人を減らして交差感染リスクを少なくするための配慮です。

新型コロナウイルス感染症患者との接触者人数を減らすために機械式胸郭圧迫装置の使用が推奨

2.人工呼吸はバッグバルブマスクで

今まではBLSプロバイダーはその職域に応じて、ポケットマスクやフェイスシールドなどの呼気吹き込み式の人工呼吸も許容されていましたが、新型コロナウィルス感染対策としては、バッグマスク使用に1本化されました。

一方向弁がついたポケットマスクも推奨されない、ということです。

新型コロナウイルス感染症患者にはポケットマスク人工呼吸は推奨されない

3.バッグマスクが使えない場合は受動換気による酸素化

バッグマスクがない、もしくはバッグマスク換気ができない場合は、成人傷病者には人工呼吸はしない、というのが基本方針。

しかし組織細胞の酸素化という救命の基本からしたら、ヘルスケアプロバイダーとしては人工呼吸をしないという選択肢はありえないわけで、苦肉の策としては受動換気による酸素化が浮上してきました。

これは気管挿管を前提で米国アリゾナ州の救急隊員向けプロトコルとしては昔から知られていたやり方ですが、胸骨圧迫による肺の圧縮・拡張効果で受動的に空気の出入りするのに期待しようというもの。

具体的にいうと、非再呼吸式の酸素マスク(リザーバーマスク等)で酸素を流しながら、胸骨圧迫のみを続けるということになります。

アルゴリズムの上では記載はありませんが、舌根沈下等で気道閉塞が起きていたら意味がありませんので、経鼻/経口エアウェイを挿入した上で実施すべきかもしれません。

なお、このやり方は成人BLSのみの適応です。今日は解説しませんが、小児・乳児のBLSでは、受動酸素化は推奨されておらず、バッグマスクによる陽圧換気が必要とされています。

これらは暫定ガイダンス

詳しくは冒頭にリンクした Curcuration 誌の本文をご覧ください。英文ですが、それほど長くはありませんし、無料PDFで全文読めます。

タイトルのとおり、この内容は Interim Guidance であり、この先、さらに変更・改善されていくかもしれません。

情報が刻々と刷新されていく新型コロナ関連ニュース、ぜひ最新情報を追いかけるようにしてください。


傷病者の口と鼻を覆ってから胸骨圧迫する【コロナ対策のCPR】

世界の救命シーンをリードしてきたアメリカ心臓協会 AHA が、COVID-19(新型コロナウイルス感染症)対策として数々の情報を提供してくれていますが、まずは、一般市民向けの Hands only CPR に関して紹介します。

感染経路を知って正しく畏れる

新型コロナウイルス感染拡大が深刻化している昨今、駅で人が倒れても手出しをしないほうがいい、という意見も散見するようになりました。

もともと救護活動は心的外傷の問題も含めてリスクがある行為ですから、備えのない一般人が無理する必要はなく、119番通報するだけでも立派なことです。

ただ、それが突発的な心停止であれば、その場で胸骨圧迫を開始するかどうかで生存確率が雲泥の差となるため、漠然とした不安ゆえの不着手判断ではなく、リスクヘッジをした上での行動ができる人が増えることが社会的な理想です。

AHAはシンプルに下記のような、COVID-19感染対策を含めたバイスタンダーCPRのフライヤー(PDF:英語)を発表しました。

新型コロナウイルス感染症COVID-19疑いの人への心肺蘇生法

(もともとは英語文書で、日本語はBLS横浜独自のものです。AHA公式日本語版ではない点、ご注意ください)

Hands only CPRですから、もともと人工呼吸はしないものではありましたが、ポイントは傷病者の口と鼻をマスクや布なのでカバーした上で胸骨圧迫を始める点。

これは不用意に触れないようにという接触感染を意識したものではなく、胸骨圧迫時に肺から押し出された呼気によってエアロゾルが発生することに備えるためのものです。

胸骨圧迫だけで飛沫が拡散する可能性がある

このあと、別項でとりあげますが、医療従事者等のヘルスケアプロバイダー向けのBLSアルゴリズムのコロナ対策改変では、バッグマスク人工呼吸が行えなければ、傷病者に酸素マスクをつけた上で胸骨圧迫を続けるように勧告されています。

これは胸骨圧迫によって肺が圧迫されるごとに受動的に空気が出入りすることが多少なりとも期待されているからです。(これが陽圧式の人工呼吸に変わるものとして有効であるとの確定はしていません)

つまり、胸骨圧迫するだけでも口・鼻から呼気が漏れ出て、飛沫となったウイルスが拡散する可能性があるということ。

ゆえに胸を押し始める前に、傷病者の口と鼻をカバーしてください、ということなのです。

救助者自身がマスクをすることは、今の時期、あたりまえとして、倒れている傷病者側にもマスクをさせるというのは、なかなか気づかない点かもしれませんね。

感染対策を意識した救助活動の例

この時期、救助者自身はマスクをつけていることが多いでしょうから、やるべきことはハンカチを折りたたんで倒れている傷病者の口と鼻の上に乗せること。(顔全体は覆わないようにしてくださいね。)

胸骨圧迫を始める前に傷病者の口と鼻をハンカチでカバーする:新型コロナウイルス感染対策の心肺蘇生法BLS/CPR

AHAは特に言及はしていませんが、胸骨圧迫は服の上からがいいと思います。手の位置の正確性はあまり細かいことは気にせず、だいたい胸の真ん中あたりに手の付け根を当てます。

AEDが到着したら胸部の素肌を露出させる必要がありますが、そのときもなるべく素肌に触れないように、まずはAEDケースの中に感染防護手袋が入っていないかを確認して、手袋装着を優先します。

傷病者の命よりも自分の身の安全の方が優先です。急ぎたい気持ちがあっても安全第一。

無理のない範囲で、できる限りのことをしていきましょう。(無理と感じる場合はせめて119番通報だけでも…)

 
 
なお、医療従事者が施設内で対応する場合のBLSアルゴリズムの変更点については、「コロナ感染疑い成人患者へのBLS 変更点の解説」をご覧ください。


救命講習|マネキンの洗浄・消毒法

新型コロナウィルスの関係で、日本の救命講習の多くが開催見合わせとなっているようですね。

1体のマネキンに対して、複数人が呼気吹き込み練習を行う心肺蘇生法トレーニング。ふつうに考えてリスクが高いといえると思います。

だからこそ、救命講習の指導員や指導母体は日頃から感染対策には敏感であったはずです。

コロナウィルスに限らず、冬場はインフルエンザにノロウィルスなど、感染症は毎年の問題であり、日頃から適切に対応していれば、新型コロナウィルだからと言って慌てることはないはず。

指導員の皆さんは、インストラクターコースでマネキンの肺の交換やフェイスの洗浄消毒法など教わっていると思いますが、この度、BLSマネキン製造メーカーとして有名なレールダル社が、ホームページのトップからマネキンメンテナンス法ページへのリンクを貼って、改めて衛生管理についてアナウンスをしてくれています。

ぜひ、下記をご覧いただきたいのですが、この正しい洗浄法の「なぜ?」をいくつか解説したいと思います。

レールダル社ホームページ
https://www.laerdal.com/jp/support/helpdesk-web/hygiene-and-cleaning-procedures-for-cpr-manikins/

マネキンフェイスは洗剤で洗ってから消毒する

病院内のAHAトレーニングサイトでも、たまに間違った洗い方をしているケースが散見されますが、マネキンフェイスやレンタル・ポケットマスクをいきなり次亜塩素酸ナトリウムのバケツに漬けるのはNGです。

これらは脂汚れが付着していると考えてください。手の脂や唾液、唇からの汚れ付着など。

これらの汚れを落とすのに界面活性剤、つまり洗剤による洗浄が必要です。

汚れを落とさないまま消毒液に漬けると、消毒剤は蛋白成分を固める働きがありますから、汚れがこびりついて落ちなくなります。しかもその汚れの内側には菌がいっぱい。

なので、消毒の前には温水と洗剤による洗浄が必要なのです。なぜお湯かという点は、冬場の食器洗いを考えてもらえばわかりますよね?

マネキンの顔の洗浄・消毒

マネキンのボディも洗剤で拭く

講習中はマネキンの胸部をウェットティッシュで拭くことが多いと思いますが、これも使用後のきちんとした洗浄としては洗剤を使うべきです。

ウェットティッシュの多くはアルコールが含まれています。汗や手の脂がついたマネキン胸部をアルコールで処理すると、、、、もうわかりますよね? 汚れがこびりつきます。

使い込んだマネキンの胸部は黒ずんでいることが多いですが、これはアルコール清拭だけで洗剤を使わないと起きやすいです。

この機会に講習の衛生管理の再考を

救命講習を介して病気がうつったという事態は避けたいものです。だからこそ、いわゆる救命法指導員養成の中にはマネキンメンテナンスが重要事項として扱われているわけです。

救命講習に関しては、マネキンメンテナンスだけではなく、受講者の行動まで完璧にコントロールすることは不可能で、感染リスクをゼロにすることはできませんが、闇雲に恐れる必要もないかと思います。

救命講習の開催見合わせをした場合、その再開時期の見極めはなかなか難しい気がします。

日頃、マネキンメンテナスにあまり注意していなかったところでも、これを機にマネキン整備と衛生対策を再考して再開の日に備えてはどうでしょうか?

AHA講習ではフェイスシールドの使用が禁止に

参考まで、世界の救命講習のフラグシップ団体であるアメリカ心臓協会が先日リリースした指針では、受講者毎にマネキンフェイスを交換する方法を推奨しており、フェイスシールドや直接の口対口人工呼吸は禁止となりました。

人工呼吸練習を行う場合は、ポケットマスクかバッグマスクのみが推奨されています。


胸骨圧迫だけで助かったとしたら、なぜ?

先日、埼玉で路上で 救命処置をしてくれた看護師を探しているというニュース がありましたが、本日の報道によると、看護師さん、見つかったみたいですね。

職場でそのニュースのことが噂になっていて、自分が探されていることに気づいたのだとか。

さて、今日はその報道の中から一部を切り抜いて考察してみたいと思います。

 

呼吸ない…偶然近くにいた看護師、妻の命救って立ち去る 夫が看護師探すと…看護師から連絡「無我夢中で」
 
 近づくと男性は電話片手に興奮した様子で助手席の女性の心臓マッサージをしていた。女性は呼吸がなく、脈も取れない状態。根生さんは「看護師なので代わります」と声を掛け、救命措置に当たった。

心臓マッサージを続けると、徐々に反応が戻り、弱いながらも脈が触れてきた。気道を確保して声を掛けると、女性は少しずつ言葉を発するようになってきたという。「会話ができるようになり、ちょっと安心した。救急車もすぐ来てくれた」と根生さん。

埼玉新聞 2019年12月17日より部分抜粋)

AEDも人工呼吸もせずに助かった

一言でいうと、心臓マッサージ(胸骨圧迫)だけで蘇生したケースと言えます。人工呼吸もAEDもしていない模様。

救命講習やBLS講習で教わる範囲でいえば、成人の心停止は心室細動の可能性が高いから胸骨圧迫だけではなくAEDが必要、と教えているのが一般的です。

そして、子どもの心停止は呼吸のトラブルの可能性が高いことから、胸骨圧迫だけではなく人工呼吸もきわめて重要、と教えています。

つまり、胸骨圧迫を軸足にして、AEDが奏功する場合と、人工呼吸が奏功する場合、という構図が垣間見れるわけですが、本件のように胸骨圧迫だけで助かったしたら、体の中ではなにが起きていたのでしょうか?

■ 心停止の基本類型 心原性と呼吸原性

まず、基本を整理します。

心原性心停止 心室細動

大人に多い心原性心停止の場合は、心臓のけいれん(心室細動)によって血流が駆出できていないのが心停止の原因。胸骨圧迫で血流を生み出すことは重要ですが、胸骨圧迫では心臓のけいれんは止まらないので、AEDなどによる電気ショックが必要とされています。

呼吸原性心停止 低酸素

子どもに多い呼吸原性心停止は、低酸素によって心臓の動きが遅くなっていって最後は止まってしまうというタイプの心停止です。ですから、胸骨圧迫だけではなく、体内に酸素を取り込ませるための人工呼吸が欠かせません。

■ 胸骨圧迫だけで助かるとしたら、、、迷走神経反射?

典型的な上記の2つだけを考えると、胸骨圧迫だけで助かるのは不思議に思えますが、実際のところ、胸骨圧迫だけで助かるケースは少なくない印象です。

これらは、結論からいうと、迷走神経反射による極端な血圧低下もしくは一過性の心停止だったのではないでしょうか?

迷走神経とは

迷走神経(副交感神経)は、交感神経と対になって血圧をコントロールしている神経で、迷走神経が過度に働くと、心拍数が低下+血管拡張により血圧が下がります。

心拍数が一気に20回/分などに落ち込み、血圧が低下すれば意識は保てなくなります。血圧がゼロにならなくても、(医療者向けプロトコルでは)頸動脈で触知できるほどの血圧がなければ心停止と判断し、胸骨圧迫を開始することになっています。

迷走神経反射は、強い痛みによって起きることがありますし、悪い知らせを聞いたときにも起こります。病院でありがちなのは採血によって意識を失ってしまう血管迷走神経反射など。

なんらかの原因で心拍数が上がるとそれを抑えようとして迷走神経が働き、それが極端に作用してしまうことで失神に繋がります。

迷走神経はいわゆる自律神経なので、日頃の疲れなどによってもうまく機能しなくなることがありがちです。朝の通勤電車で体調不良を訴える人の多くもこれに該当するものと思われます。つまり、けっこうありがちな出来事。

通常は一過性のものなのですが、迷走神経反射によって心静止(心電図がフラットになる状態)になることも報告されています。

多くの場合は、心静止まではいかずに徐脈性PEA(無脈性電気活動)か、そのもっと手前の「血圧低下」状態なのではないかと思います。

これらであれば、心静止であっても一過性のことが多いですし、血圧が低い原因が心臓のポンプ機能の一過性の低下であれば、胸骨圧迫によって血流をつなぎとめておけば、しばらくして血圧が戻って意識・呼吸が戻ってくることが期待できます。

つまり失神発作の重症例

迷走神経反射といえば、ファーストエイドを勉強したことがある人は、失神発作の原因のひとつとして理解されていることと思います。

失神なのか、心停止なのかという点ですが、そこはあまり深く考えなくていいと思います。

目の前で倒れたとか、倒れている人を見つけた場合は、反応(意識ではなく)を確かめて、普段どおりの呼吸をしていると10秒以内に確信が持てない場合は、セオリー通りAED手配と合わせて胸骨圧迫開始でOKです。

もし、血圧がある程度保てていて明らかに痛がる素振りがあれば圧迫をやめればいいし、明らかな反応がなければ、心停止だと確信して強く押し続ければ大丈夫です。

実際のところ、この場合は、血圧低下から心停止までは連続的に変化していくものなので、デジタル的な明確な境目はありません。ですから、疑わしければ胸を押せ! で大丈夫。

そのうち血圧があがってくれば徐々に痛みに刺激に反応するようになってくるかもしれませんし。

 
 

ということで、胸骨圧迫だけでも助かるケースがあるとしたら、どんな場合か、ということを考えてみました。

迷走神経反射に限らず、不整脈などほかにもいろいろな原因は考えられますが、比較的日常的にありがちで市民向けファーストエイドで教えられている失神と合わせてみると、見方が広がっていくのではないでしょうか?


パルスオキシメーターでは、呼吸の有無はわからない

パルスオキシメーター、最近は値段が下がって1万円以下でも買えるので、学校やスポーツ現場でも使われることが増えてきているようです。

学校の保健室にもパルスオキシメーターが置いてあるところもあるんじゃないでしょうか?

パルスオキシメーターは、れっきとした医療器具なので、使い方を誤ると危険な場合があります。特に、人間は道具があると使いたくなる、また頼ってしまう傾向があり、道具がない場合に比べてミスジャッジすることが増えがちです。

急変対応にパルスオキシメーターを使うと


意識不明の人が倒れていると呼ばれて行って、その時たまたまパルスオキシメーターを持っていたら、、、

呼びかけても返事がなかったので、すぐにパルスオキシメーターを着けました。結果、脈拍数110回/分と出たらどうでしょう?

なにを考え、どう行動しますか?

パルスオキシメーターでわかること、わからないこと

パルスオキシメーターは呼吸状態を確認する道具、というイメージが強いかもしれませんが、それでわかるのは指先の血流の有無と脈拍数、そして経皮的酸素飽和度だけです。

なんらかの数字が出れば、指先の血流はある、との判断はできますが、今現在、呼吸をしているかどうかはわからない、という点、注意が必要です。

SpO2の数値が出たとしても、呼吸をしていないケースはありえます。

あくまでも血中の酸素とヘモグロビンの結合割合を近似的に算出しているだけで、呼吸停止しても数値が下がるには時間がかかるからです。

つまり、パルスオキシメーターは呼吸をしているという前提で使うものであり、自発呼吸をしているかどうかを確認する道具ではないということです。

パルスオキシメーターの値が信用できない場合

寒冷やショックなどで抹消循環が悪い場合、パルスオキシメーターは正しい数字を示しません。エラーになればまだいいのですが、高めに数値が出てしまう場合非常に危険。

つまり、傷病者の状態が安定している条件下でないと信用できません。

こうした特性を知らない人がパルスオキシメーターを過信してしまうリスクが日常的になっています。あくまでも医療機器、中途半端な知識・理解の人が使うと危険という話。

このあたりの話は、詳しくはブログ過去記事もご参照ください。

実例:パルスオキシメーターの不適切使用

平成28年9月に大分の学校で起きた死亡事故では、意識不明の傷病者に対して目視による呼吸確認をせず、パルスオキシメーターの数字が出たことで「呼吸あり」と判断した結果、気道異物による呼吸停止(窒息)に気づかず死に至った可能性が指摘されています。

大分県立南石垣支援学校における事故調査報告書(令和元年7月)

大分県教育委員会(令和元年7月)


 

本件から学べる点は多々ありますが、今回特に着目いただきたいのは「5.前提となる事実 [PDFファイル/5.36MB]」の p.28 に書かれているパルスオキシメーターを装着したときの事実の描写と、同 p.39 にある学校側が保護者向けに説明した文書の中の下記の記述です。

「呼吸はあったか」という質問への答え
「呼吸、脈等はパルスオキシメーターで確認していましたが、血中酸素飽和度は正確な測定ができなかったということです。」
 
呼吸については、確認していませんでした。

後日指摘により訂正されたようですが、救護対応していた養護教諭らはパルスオキシメーターで脈拍数110回/分と表示されたことで、呼吸できていると誤認していた可能性が伺えます。

冷静に考えれば、酸素飽和度が表示されないことから、呼吸状態(この場合は特に気道開通)を疑うこともできたかもしれませんが、意識不明の傷病者を目の前にして、脈拍がある=心臓が動いている=生きている、という安心感が、呼吸もしているという早合点につながったのかもしれません。

頭部から出血していたなどの複雑な要因はありますが、パルスオキシメーターを持ってきたことが、判断を誤らせた要因として否めない案件ではないかと考えています。

本来の救急対応手順に従えば…

今回の検証の中でも指摘されているとおり、意識不明の人がいたとき心肺蘇生法の手順に従って、「反応なし+呼吸なし」を確認し胸骨圧迫を行っていれば、心停止ではなかったとしても、結果的には窒息解除の手順(胸部突き上げ法)となり、気道異物による窒息を解除できた可能性はありえます。

傷病者の状態が悪いときは、パルスオキシメーターは使い物にならない点は医療従事者は知っています。しかし、市民からしたら「頼れる医療機器」として勘違いしてしまうリスクが露呈された事故ではないでしょうか。

血圧計やパルスオキシメーターを応急救護の備品として用意することのメリットとデメリット。

不慣れな人にとっては致命的なデメリットもあります。逆にメリットはなにかあるでしょうか?

使い方自体は簡単ですが、その解釈や精度の点では不利益も大きい。

あると使いたくなる人間の性を考えると、医療従事者以外は基本的にこうした医療機器は持たないほうがいい、と思います。

 

医療者にとっても、こういう事例を見ると、PEARSやPALSの体系的アプローチで、酸素飽和度の評価が呼吸の一番最後の項目になっている点が、納得いただけるのではないでしょうか?


質の高い人工呼吸とは

昨今、なにかと軽視されがちな人工呼吸ですが、子どもの救命や、水辺での救急対応には欠かせないという点は、皆様、ご理解いただけていると思います。

そこで、今日は、一歩踏み込んで 人工呼吸の質 という話をしたいと思います。

質の高い人工呼吸は、過剰な換気を避けること

吹き込んで胸が上がればいい!?

人工呼吸は、胸骨圧迫に比べると動作がやや複雑で、うまくできた / 失敗した、がはっきりわかる手技です。

そのため、吹き込んでマネキンの胸が上がればとりあえず「よし」としがちですが、それは一般市民向け講習での話。

医療従事者や、救護責務がある市民救助者向けの研修では、人工呼吸にも「質」が求められます。

High Quality CPR

High Quality CPR(質の高い心肺蘇生法)のポイントといえば、

・強く
・速く
・胸壁を元の高さに戻す
・中断を最小限に

ですが、これらは胸骨圧迫の話。人工呼吸に関しては、
 
・過剰な換気を避ける
 
ということが謳われています。

人工呼吸の空気は入れすぎないほうがいい

過剰な換気を避けるためのポイントは2つ。

・目で見て胸が上がる程度の量
・1回の吹込みは1秒かけて

目で見て胸が上がる程度の量

息を吹き込むと胸部が挙上して見えます。それが見える程度のギリギリの少ない量でいいですよ、という意味です。

イメージからすると、空気をたくさん吹き込んだほうが助かるような気がしますが、実は逆です。

空気を吹き込みすぎるとかえって蘇生率は下がります。

理由は2つ。
 

  • 胃膨満 → 嘔吐 → 人工呼吸継続困難
  • 胸腔内圧上昇 → 静脈還流低下 → 心拍出量低下

 

胃膨満の弊害

空気をたくさん吹き込みすぎて、肺から溢れ出た空気はどこにいくかを考えれば簡単です。

気管ではなく、食道の方に空気が流れ込んで「胃」に溜まっていくわけですね。

胃が最大限まで膨らんだらどうなりますか? 吐き出す、嘔吐をしそうな気がしませんか?

胃の内容物を吐かれてしまったら、人工呼吸はもちろん蘇生処置そのものが中断してしまいます。結果、助かる可能性が格段に下がるのは想像できるでしょう。

胸腔内圧上昇の弊害

こちらは直感的にはすこしわかりにくいかもしれません。

ざっくりとしたイメージですが、空気を入れすぎて肺がパンパンに膨らんだ状態を想像してください。肺が目一杯膨らむと、肺の間に挟まれた心臓がギュッと圧縮される気がしませんか?

心臓が押しつぶされた状態になっていると、静脈から戻ってくる血液が心臓に溜まる量が減ります。そうなると、胸骨圧迫によって駆出できる血液量も減るのは想像できるでしょうか?

心肺蘇生法の目的は、酸素化された血液を全身に巡らせることによって、脳や心臓などの重要臓器の細胞に酸素供給をすることにあります。

肺まで空気がたくさん入っても、その先の酸素の運搬媒体である血液の流れが滞ったら、終着点である細胞が受け取る酸素量は少なくなってしまいます。

つまり、空気を入れすぎると血液循環が悪くなって蘇生効率が下がる、というわけです。

(実際のところは、心臓が潰されるというよりは、静脈系の血管の影響なのですが、今回は大まかなイメージということで詳細は割愛します。)

1秒かけて吹き込む

これは、意味がわかりにくいと思いますが、ざっくりいうと、勢いをつけて吹き込むなという意味です。

勢いよく素早く送気してしまうと、口腔内の内圧があがって、ふだんは閉じている食道に隙間ができて空気が胃の方に流れ込んでしまうリスクが増えます。

だから、優しく1秒くらいかけて、ややじんわりと送気してくださいね、という意味です。

参考まで、ガイドライン2005までは、1回の送気に2秒かけるように指導していた時期があります。これは内圧を上げないための配慮だったのですが、その結果、胸骨圧迫の中段時間が伸びることが問題となり、2秒から1秒に改められた経緯があります。

また「1秒かけて」と翻訳された原語は over 1 second です。ときどきこれを1秒以上かけて吹き込むと誤訳しているケースもありますので注意してください。この場合の over は、1秒間に渡って送気を続ける、という意味です。

ですから、1秒かけて吹き込むと訳すのが正しいです。

胸骨圧迫で得られる循環血液量はふだんの1/3

人工呼吸の吹き込み量は思いのほか少ない量で十分なのですが、直感的にはなかなか納得しづらいかもしれません。

そこで、心停止中に胸骨圧迫で得られる循環血液量は、正常時の1/3〜1/4しかないということを知っておいてください。

血流が普段の1/3しかないところに普段の肺活量の空気を送り込んだところで、細胞に届く酸素量は限られます。

だから、あんなに少ない量であっても十分なのです。

人工呼吸で空気を入れすぎると蘇生率/救命率が下がる

まとめ

私達の直感とは裏腹に、人工呼吸で勢いよく多くの空気を入れてしまうと、嘔吐するリスクが上がり、血液循環が低下することで蘇生率は低下します。

人工呼吸で肺に空気が入ることは重要ですが、業務対応として人工呼吸を行う人は、入れ過ぎは良くないということを理解して、傷病者の体格に合わせて吹き込み量を調整できるような練習をしておきましょう。

以上、BLS横浜の ハートセイバーCPR AEDコース や、BLSプロバイダーコース に参加したことがある方はすでにご存知の内容かと思いますが、質の高い人工呼吸について解説しました。