BLS(心肺蘇生法)一覧

救命講習|マネキンの洗浄・消毒法

新型コロナウィルスの関係で、日本の救命講習の多くが開催見合わせとなっているようですね。

1体のマネキンに対して、複数人が呼気吹き込み練習を行う心肺蘇生法トレーニング。ふつうに考えてリスクが高いといえると思います。

だからこそ、救命講習の指導員や指導母体は日頃から感染対策には敏感であったはずです。

コロナウィルスに限らず、冬場はインフルエンザにノロウィルスなど、感染症は毎年の問題であり、日頃から適切に対応していれば、新型コロナウィルだからと言って慌てることはないはず。

指導員の皆さんは、インストラクターコースでマネキンの肺の交換やフェイスの洗浄消毒法など教わっていると思いますが、この度、BLSマネキン製造メーカーとして有名なレールダル社が、ホームページのトップからマネキンメンテナンス法ページへのリンクを貼って、改めて衛生管理についてアナウンスをしてくれています。

ぜひ、下記をご覧いただきたいのですが、この正しい洗浄法の「なぜ?」をいくつか解説したいと思います。

レールダル社ホームページ
https://www.laerdal.com/jp/support/helpdesk-web/hygiene-and-cleaning-procedures-for-cpr-manikins/

マネキンフェイスは洗剤で洗ってから消毒する

病院内のAHAトレーニングサイトでも、たまに間違った洗い方をしているケースが散見されますが、マネキンフェイスやレンタル・ポケットマスクをいきなり次亜塩素酸ナトリウムのバケツに漬けるのはNGです。

これらは脂汚れが付着していると考えてください。手の脂や唾液、唇からの汚れ付着など。

これらの汚れを落とすのに界面活性剤、つまり洗剤による洗浄が必要です。

汚れを落とさないまま消毒液に漬けると、消毒剤は蛋白成分を固める働きがありますから、汚れがこびりついて落ちなくなります。しかもその汚れの内側には菌がいっぱい。

なので、消毒の前には温水と洗剤による洗浄が必要なのです。なぜお湯かという点は、冬場の食器洗いを考えてもらえばわかりますよね?

マネキンの顔の洗浄・消毒

マネキンのボディも洗剤で拭く

講習中はマネキンの胸部をウェットティッシュで拭くことが多いと思いますが、これも使用後のきちんとした洗浄としては洗剤を使うべきです。

ウェットティッシュの多くはアルコールが含まれています。汗や手の脂がついたマネキン胸部をアルコールで処理すると、、、、もうわかりますよね? 汚れがこびりつきます。

使い込んだマネキンの胸部は黒ずんでいることが多いですが、これはアルコール清拭だけで洗剤を使わないと起きやすいです。

この機会に講習の衛生管理の再考を

救命講習を介して病気がうつったという事態は避けたいものです。だからこそ、いわゆる救命法指導員養成の中にはマネキンメンテナンスが重要事項として扱われているわけです。

救命講習に関しては、マネキンメンテナンスだけではなく、受講者の行動まで完璧にコントロールすることは不可能で、感染リスクをゼロにすることはできませんが、闇雲に恐れる必要もないかと思います。

救命講習の開催見合わせをした場合、その再開時期の見極めはなかなか難しい気がします。

日頃、マネキンメンテナスにあまり注意していなかったところでも、これを機にマネキン整備と衛生対策を再考して再開の日に備えてはどうでしょうか?

AHA講習ではフェイスシールドの使用が禁止に

参考まで、世界の救命講習のフラグシップ団体であるアメリカ心臓協会が先日リリースした指針では、受講者毎にマネキンフェイスを交換する方法を推奨しており、フェイスシールドや直接の口対口人工呼吸は禁止となりました。

人工呼吸練習を行う場合は、ポケットマスクかバッグマスクのみが推奨されています。


胸骨圧迫だけで助かったとしたら、なぜ?

先日、埼玉で路上で 救命処置をしてくれた看護師を探しているというニュース がありましたが、本日の報道によると、看護師さん、見つかったみたいですね。

職場でそのニュースのことが噂になっていて、自分が探されていることに気づいたのだとか。

さて、今日はその報道の中から一部を切り抜いて考察してみたいと思います。

 

呼吸ない…偶然近くにいた看護師、妻の命救って立ち去る 夫が看護師探すと…看護師から連絡「無我夢中で」
 
 近づくと男性は電話片手に興奮した様子で助手席の女性の心臓マッサージをしていた。女性は呼吸がなく、脈も取れない状態。根生さんは「看護師なので代わります」と声を掛け、救命措置に当たった。

心臓マッサージを続けると、徐々に反応が戻り、弱いながらも脈が触れてきた。気道を確保して声を掛けると、女性は少しずつ言葉を発するようになってきたという。「会話ができるようになり、ちょっと安心した。救急車もすぐ来てくれた」と根生さん。

埼玉新聞 2019年12月17日より部分抜粋)

AEDも人工呼吸もせずに助かった

一言でいうと、心臓マッサージ(胸骨圧迫)だけで蘇生したケースと言えます。人工呼吸もAEDもしていない模様。

救命講習やBLS講習で教わる範囲でいえば、成人の心停止は心室細動の可能性が高いから胸骨圧迫だけではなくAEDが必要、と教えているのが一般的です。

そして、子どもの心停止は呼吸のトラブルの可能性が高いことから、胸骨圧迫だけではなく人工呼吸もきわめて重要、と教えています。

つまり、胸骨圧迫を軸足にして、AEDが奏功する場合と、人工呼吸が奏功する場合、という構図が垣間見れるわけですが、本件のように胸骨圧迫だけで助かったしたら、体の中ではなにが起きていたのでしょうか?

■ 心停止の基本類型 心原性と呼吸原性

まず、基本を整理します。

心原性心停止 心室細動

大人に多い心原性心停止の場合は、心臓のけいれん(心室細動)によって血流が駆出できていないのが心停止の原因。胸骨圧迫で血流を生み出すことは重要ですが、胸骨圧迫では心臓のけいれんは止まらないので、AEDなどによる電気ショックが必要とされています。

呼吸原性心停止 低酸素

子どもに多い呼吸原性心停止は、低酸素によって心臓の動きが遅くなっていって最後は止まってしまうというタイプの心停止です。ですから、胸骨圧迫だけではなく、体内に酸素を取り込ませるための人工呼吸が欠かせません。

■ 胸骨圧迫だけで助かるとしたら、、、迷走神経反射?

典型的な上記の2つだけを考えると、胸骨圧迫だけで助かるのは不思議に思えますが、実際のところ、胸骨圧迫だけで助かるケースは少なくない印象です。

これらは、結論からいうと、迷走神経反射による極端な血圧低下もしくは一過性の心停止だったのではないでしょうか?

迷走神経とは

迷走神経(副交感神経)は、交感神経と対になって血圧をコントロールしている神経で、迷走神経が過度に働くと、心拍数が低下+血管拡張により血圧が下がります。

心拍数が一気に20回/分などに落ち込み、血圧が低下すれば意識は保てなくなります。血圧がゼロにならなくても、(医療者向けプロトコルでは)頸動脈で触知できるほどの血圧がなければ心停止と判断し、胸骨圧迫を開始することになっています。

迷走神経反射は、強い痛みによって起きることがありますし、悪い知らせを聞いたときにも起こります。病院でありがちなのは採血によって意識を失ってしまう血管迷走神経反射など。

なんらかの原因で心拍数が上がるとそれを抑えようとして迷走神経が働き、それが極端に作用してしまうことで失神に繋がります。

迷走神経はいわゆる自律神経なので、日頃の疲れなどによってもうまく機能しなくなることがありがちです。朝の通勤電車で体調不良を訴える人の多くもこれに該当するものと思われます。つまり、けっこうありがちな出来事。

通常は一過性のものなのですが、迷走神経反射によって心静止(心電図がフラットになる状態)になることも報告されています。

多くの場合は、心静止まではいかずに徐脈性PEA(無脈性電気活動)か、そのもっと手前の「血圧低下」状態なのではないかと思います。

これらであれば、心静止であっても一過性のことが多いですし、血圧が低い原因が心臓のポンプ機能の一過性の低下であれば、胸骨圧迫によって血流をつなぎとめておけば、しばらくして血圧が戻って意識・呼吸が戻ってくることが期待できます。

つまり失神発作の重症例

迷走神経反射といえば、ファーストエイドを勉強したことがある人は、失神発作の原因のひとつとして理解されていることと思います。

失神なのか、心停止なのかという点ですが、そこはあまり深く考えなくていいと思います。

目の前で倒れたとか、倒れている人を見つけた場合は、反応(意識ではなく)を確かめて、普段どおりの呼吸をしていると10秒以内に確信が持てない場合は、セオリー通りAED手配と合わせて胸骨圧迫開始でOKです。

もし、血圧がある程度保てていて明らかに痛がる素振りがあれば圧迫をやめればいいし、明らかな反応がなければ、心停止だと確信して強く押し続ければ大丈夫です。

実際のところ、この場合は、血圧低下から心停止までは連続的に変化していくものなので、デジタル的な明確な境目はありません。ですから、疑わしければ胸を押せ! で大丈夫。

そのうち血圧があがってくれば徐々に痛みに刺激に反応するようになってくるかもしれませんし。

 
 

ということで、胸骨圧迫だけでも助かるケースがあるとしたら、どんな場合か、ということを考えてみました。

迷走神経反射に限らず、不整脈などほかにもいろいろな原因は考えられますが、比較的日常的にありがちで市民向けファーストエイドで教えられている失神と合わせてみると、見方が広がっていくのではないでしょうか?


パルスオキシメーターでは、呼吸の有無はわからない

パルスオキシメーター、最近は値段が下がって1万円以下でも買えるので、学校やスポーツ現場でも使われることが増えてきているようです。

学校の保健室にもパルスオキシメーターが置いてあるところもあるんじゃないでしょうか?

パルスオキシメーターは、れっきとした医療器具なので、使い方を誤ると危険な場合があります。特に、人間は道具があると使いたくなる、また頼ってしまう傾向があり、道具がない場合に比べてミスジャッジすることが増えがちです。

急変対応にパルスオキシメーターを使うと


意識不明の人が倒れていると呼ばれて行って、その時たまたまパルスオキシメーターを持っていたら、、、

呼びかけても返事がなかったので、すぐにパルスオキシメーターを着けました。結果、脈拍数110回/分と出たらどうでしょう?

なにを考え、どう行動しますか?

パルスオキシメーターでわかること、わからないこと

パルスオキシメーターは呼吸状態を確認する道具、というイメージが強いかもしれませんが、指先の血流の有無と脈拍数、そして経皮的酸素飽和度だけです。

なんらかの数字が出れば、指先の血流はある、との判断はできますが、今現在、呼吸をしているかどうかはわからない、という点、注意が必要です。

SpO2の数値が出たとしても、呼吸をしていないケースはありえます。

あくまでも血中の酸素とヘモグロビンの結合割合を近似的に算出しているだけで、呼吸停止しても数値が下がるには時間がかかるからです。

つまり、パルスオキシメーターは呼吸をしているという前提で使うものであり、自発呼吸をしているかどうかを確認する道具ではないということです。

パルスオキシメーターの値が信用できない場合

寒冷やショックなどで抹消循環が悪い場合、パルスオキシメーターは正しい数字を示しません。エラーになればまだいいのですが、高めに数値が出てしまう場合非常に危険。

つまり、傷病者の状態が安定している条件下でないと信用できません。

こうした特性を知らない人がパルスオキシメーターを過信してしまうリスクが日常的になっています。あくまでも医療機器、中途半端な知識・理解の人が使うと危険という話。

このあたりの話は、詳しくはブログ過去記事もご参照ください。

実例:パルスオキシメーターの不適切使用

平成28年9月に大分の学校で起きた死亡事故では、意識不明の傷病者に対して目視による呼吸確認をせず、パルスオキシメーターの数字が出たことで「呼吸あり」と判断した結果、気道異物による呼吸停止(窒息)に気づかず死に至った可能性が指摘されています。

大分県立南石垣支援学校における事故調査報告書(令和元年7月)

大分県教育委員会(令和元年7月)


 

本件から学べる点は多々ありますが、今回特に着目いただきたいのは「5.前提となる事実 [PDFファイル/5.36MB]」の p.28 に書かれているパルスオキシメーターを装着したときの事実の描写と、同 p.39 にある学校側が保護者向けに説明した文書の中の下記の記述です。

「呼吸はあったか」という質問への答え
「呼吸、脈等はパルスオキシメーターで確認していましたが、血中酸素飽和度は正確な測定ができなかったということです。」
 
呼吸については、確認していませんでした。

後日指摘により訂正されたようですが、救護対応していた養護教諭らはパルスオキシメーターで脈拍数110回/分と表示されたことで、呼吸できていると誤認していた可能性が伺えます。

冷静に考えれば、酸素飽和度が表示されないことから、呼吸状態(この場合は特に気道開通)を疑うこともできたかもしれませんが、意識不明の傷病者を目の前にして、脈拍がある=心臓が動いている=生きている、という安心感が、呼吸もしているという早合点につながったのかもしれません。

頭部から出血していたなどの複雑な要因はありますが、パルスオキシメーターを持ってきたことが、判断を誤らせた要因として否めない案件ではないかと考えています。

本来の救急対応手順に従えば…

今回の検証の中でも指摘されているとおり、意識不明の人がいたとき心肺蘇生法の手順に従って、「反応なし+呼吸なし」を確認し胸骨圧迫を行っていれば、心停止ではなかったとしても、結果的には窒息解除の手順(胸部突き上げ法)となり、気道異物による窒息を解除できた可能性はありえます。

傷病者の状態が悪いときは、パルスオキシメーターは使い物にならない点は医療従事者は知っています。しかし、市民からしたら「頼れる医療機器」として勘違いしてしまうリスクが露呈された事故ではないでしょうか。

血圧計やパルスオキシメーターを応急救護の備品として用意することのメリットとデメリット。

不慣れな人にとっては致命的なデメリットもあります。逆にメリットはなにかあるでしょうか?

使い方自体は簡単ですが、その解釈や精度の点では不利益も大きい。

あると使いたくなる人間の性を考えると、医療従事者以外は基本的にこうした医療機器は持たないほうがいい、と思います。

 

医療者にとっても、こういう事例を見ると、PEARSやPALSの体系的アプローチで、酸素飽和度の評価が呼吸の一番最後の項目になっている点が、納得いただけるのではないでしょうか?


質の高い人工呼吸とは

昨今、なにかと軽視されがちな人工呼吸ですが、子どもの救命や、水辺での救急対応には欠かせないという点は、皆様、ご理解いただけていると思います。

そこで、今日は、一歩踏み込んで 人工呼吸の質 という話をしたいと思います。

質の高い人工呼吸は、過剰な換気を避けること

吹き込んで胸が上がればいい!?

人工呼吸は、胸骨圧迫に比べると動作がやや複雑で、うまくできた / 失敗した、がはっきりわかる手技です。

そのため、吹き込んでマネキンの胸が上がればとりあえず「よし」としがちですが、それは一般市民向け講習での話。

医療従事者や、救護責務がある市民救助者向けの研修では、人工呼吸にも「質」が求められます。

High Quality CPR

High Quality CPR(質の高い心肺蘇生法)のポイントといえば、

・強く
・速く
・胸壁を元の高さに戻す
・中断を最小限に

ですが、これらは胸骨圧迫の話。人工呼吸に関しては、
 
・過剰な換気を避ける
 
ということが謳われています。

人工呼吸の空気は入れすぎないほうがいい

過剰な換気を避けるためのポイントは2つ。

・目で見て胸が上がる程度の量
・1回の吹込みは1秒かけて

目で見て胸が上がる程度の量

息を吹き込むと胸部が挙上して見えます。それが見える程度のギリギリの少ない量でいいですよ、という意味です。

イメージからすると、空気をたくさん吹き込んだほうが助かるような気がしますが、実は逆です。

空気を吹き込みすぎるとかえって蘇生率は下がります。

理由は2つ。
 

  • 胃膨満 → 嘔吐 → 人工呼吸継続困難
  • 胸腔内圧上昇 → 静脈還流低下 → 心拍出量低下

 

胃膨満の弊害

空気をたくさん吹き込みすぎて、肺から溢れ出た空気はどこにいくかを考えれば簡単です。

気管ではなく、食道の方に空気が流れ込んで「胃」に溜まっていくわけですね。

胃が最大限まで膨らんだらどうなりますか? 吐き出す、嘔吐をしそうな気がしませんか?

胃の内容物を吐かれてしまったら、人工呼吸はもちろん蘇生処置そのものが中断してしまいます。結果、助かる可能性が格段に下がるのは想像できるでしょう。

胸腔内圧上昇の弊害

こちらは直感的にはすこしわかりにくいかもしれません。

ざっくりとしたイメージですが、空気を入れすぎて肺がパンパンに膨らんだ状態を想像してください。肺が目一杯膨らむと、肺の間に挟まれた心臓がギュッと圧縮される気がしませんか?

心臓が押しつぶされた状態になっていると、静脈から戻ってくる血液が心臓に溜まる量が減ります。そうなると、胸骨圧迫によって駆出できる血液量も減るのは想像できるでしょうか?

心肺蘇生法の目的は、酸素化された血液を全身に巡らせることによって、脳や心臓などの重要臓器の細胞に酸素供給をすることにあります。

肺まで空気がたくさん入っても、その先の酸素の運搬媒体である血液の流れが滞ったら、終着点である細胞が受け取る酸素量は少なくなってしまいます。

つまり、空気を入れすぎると血液循環が悪くなって蘇生効率が下がる、というわけです。

(実際のところは、心臓が潰されるというよりは、静脈系の血管の影響なのですが、今回は大まかなイメージということで詳細は割愛します。)

1秒かけて吹き込む

これは、意味がわかりにくいと思いますが、ざっくりいうと、勢いをつけて吹き込むなという意味です。

勢いよく素早く送気してしまうと、口腔内の内圧があがって、ふだんは閉じている食道に隙間ができて空気が胃の方に流れ込んでしまうリスクが増えます。

だから、優しく1秒くらいかけて、ややじんわりと送気してくださいね、という意味です。

参考まで、ガイドライン2005までは、1回の送気に2秒かけるように指導していた時期があります。これは内圧を上げないための配慮だったのですが、その結果、胸骨圧迫の中段時間が伸びることが問題となり、2秒から1秒に改められた経緯があります。

また「1秒かけて」と翻訳された原語は over 1 second です。ときどきこれを1秒以上かけて吹き込むと誤訳しているケースもありますので注意してください。この場合の over は、1秒間に渡って送気を続ける、という意味です。

ですから、1秒かけて吹き込むと訳すのが正しいです。

胸骨圧迫で得られる循環血液量はふだんの1/3

人工呼吸の吹き込み量は思いのほか少ない量で十分なのですが、直感的にはなかなか納得しづらいかもしれません。

そこで、心停止中に胸骨圧迫で得られる循環血液量は、正常時の1/3〜1/4しかないということを知っておいてください。

血流が普段の1/3しかないところに普段の肺活量の空気を送り込んだところで、細胞に届く酸素量は限られます。

だから、あんなに少ない量であっても十分なのです。

人工呼吸で空気を入れすぎると蘇生率/救命率が下がる

まとめ

私達の直感とは裏腹に、人工呼吸で勢いよく多くの空気を入れてしまうと、嘔吐するリスクが上がり、血液循環が低下することで蘇生率は低下します。

人工呼吸で肺に空気が入ることは重要ですが、業務対応として人工呼吸を行う人は、入れ過ぎは良くないということを理解して、傷病者の体格に合わせて吹き込み量を調整できるような練習をしておきましょう。

以上、BLS横浜の ハートセイバーCPR AEDコース や、BLSプロバイダーコース に参加したことがある方はすでにご存知の内容かと思いますが、質の高い人工呼吸について解説しました。


服をはだけずにAEDパッドを貼れるか?

京都大学の研究結果で、女性へのAED使用率が低いとの報道されたせいか、今年はAED装着時のプライバシー保護に関する話題が多かったように思います。

この点は、救命法の指導員の間では昔から変わらず出てくる鉄板ネタのような話題で、服は完全に脱がさずに、襟元や裾からパッドを差し入れて貼ればいいという意見は昔からありました。

救命法の指導員の中には、実際にやってみてちゃんとできたとおっしゃる方もいますが、BLS横浜としては、このやり方は懐疑的に捉えています。

なぜかといえば、下の写真をご覧ください。

服の隙間からAEDのパッドを装着できるか?

練習パッドと本物のパッドの違い

本物のAEDパッドは粘着成分層が厚く重量感がありますから、手に取るとこのようにたわみます。

この質感は、パリッとした水平性を保つ練習用パッドとは違うと思いませんか?

そして、練習パットと違って、粘着度はかなり強力です。以前は胸毛を粘着でむしり取ると言われていたくらいです。(実際はそんなきれいには抜けませんのであまり実用的な方法ではありませんが)

質感のイメージは、湿布薬に近いかもしれません。

服を来たまま襟元から湿布を自分の肩に貼ろうとして、失敗したことありませんか?

湿布のシートが折れ曲がって粘着面同士がくっついてしまったり、服に貼り付いてうまく伸ばせなかったりしますよね。

あそこまでペラペラではありませんが、それに近いような難しさがあります。

ダブダブのゆったりとした服ならうまくできるかもしれませんが、うまく行ったらラッキーくらいに思ったほうがいい不確実な方法です。

貼り損じたらどうなるか?

もし、失敗して服に貼り付いてしまったらどうなるか?

剥がして貼り直せばいいかもしれません。しかし粘着面には衣類の毛羽立った繊維がたくさん貼り付きます。これらは電気抵抗になりますし、繊維や毛玉などで微細な隙間ができてしまうと、その間に火花が飛んだり、発熱の要因となります。

もしパッドの粘着面同士が貼り付いてしまったら?

強力な粘着面、剥がすのは困難ですし、粘着成分にムラができることで、効率低下の懸念があります。

なにより、パッドが使えなくなってしまったら、予備パッドが入っているとは限りませんし、最近は最初からコネクタが接続されている機種が増えていますから、付け替えというイレギュラーなアクションがスムーズにできるかという問題があります。

生きるか死ぬかの瀬戸際であることを忘れてはいけない

AEDパッド装着時に女性の胸元をはだけてしまっていいのか? という羞恥心やプライバシーといった人権への配慮は大切なこと、前向きな議論に見えますが、はたしてそうでしょうか?

そもそもAEDを装着するのは「心停止」が前提です。

つまりAEDを装着する場面は、命の瀬戸際で生きるか死ぬかの問題に直面しているわけです。

そんなときに、死にかけている意識がない人の羞恥心への配慮と、着実・確実に救命処置を行うことを、天秤にかけるような問題でしょうか? 

意識がない死にかけている当事者は何を望んでいるのでしょうか?

そう考えると、AED装着時に羞恥心に配慮するというべきか? という命題自体が、あまりに他人目線で空想的なバカバカしいものに思えてきます。

不慣れだからこそ、確実性を

襟や裾の隙間からAEDパッドを貼るように教えるのであれば、実際に練習してもらう必要があると考えます。それも練習用パッドではなくホンモノを使って。

ただのAED講習でさえ、慌ててうまくできない人がいる中、襟元から貼るようにと難易度が高いやり方を指導するのであれば、説明だけではなく練習をさせなければ指導員としては無責任でしょう。

実際のところ、受講者からはよく質問されます。女性でも服を切って完全に胸を露出させてしまっていいんですか? と。

そんなとき、指導員は、「いいんです。そうしてください。」と自信を持って答えるべきです。

しかし指導員自身が、そこを不安に思っているから、服の隙間から貼ればいい、などと無責任なことを言ってお茶を濁している部分はないでしょうか?

医療従事者向けの教育ならいざしらず、不慣れな一般の方に教えるのであれば、確実堅実なやり方、つまり服ははだけるか、引きちぎるか、ハサミで切るなどして、確実に貼付部を露出させて貼るという原則通りのことを自信を持って指導するべきでしょう。

 
 

先日、「AED 対女性使用率向上を 体覆う特製シート考案」というニュースが流れました。(大阪日日新聞2019年10月17日)

AEDをためらわずに使ってほしい、という前向きな取り組みに見えますが、逆を言えば、救命処置よりもプライバシー保護が優先であるという世論の形成をさせることにもなり、救命法の普及という点でいえば全体的にはマイナスに働く懸念もあります。

傷病者の人権への配慮もあってしかるべきですが、業務対応する医療従事者ならいざしらず、それらを一般市民に求める風潮は好ましいとは考えません。

むしろ、緊急事態なんだから羞恥心なんて言ってる場合じゃない! というコンセンサスを形成するほうが健全なのではないでしょうか?


意識・呼吸がある人には、AEDを使わない

ファーストエイド講習や、エピペン講習のシミュレーションでしばしば見受けられる場面ですが、「あなた119番! あなたAED!」というお決まりの台詞のあと、AEDが到着すると、苦しがっている模擬傷病者に対して、「念のためAEDを貼っておきましょう」という方向になりがちです。

心肺蘇生法講習の弊害というと言いすぎでしょうか? 

AEDを持ってきたら、相手がどんな状態であろうと、パッドを貼らずにはいられない条件反射に陥っているように思います。

AEDは心肺停止を確認した人にだけ装着する

2004年7月以降始まった日本でのAED講習、そこではAEDを装着する条件というのが教えられていたはずですが、いつしか心肺蘇生法講習といえばAED講習というくらいにあたりまえになった反面、AEDという機械の使用目的や、その特殊性への意識が薄れているように感じます。

AEDは、心肺停止の人に対して装着するように設計されている機械です。

救命講習を思い出してみてください。

AEDが現場に到着したときは、すでに胸骨圧迫が行われていたはずです。これが本来のあり方。

逆に言えば、胸骨圧迫を行う必要がない人には、AEDを貼る必要もないということです。

AEDは心停止の判断はできない

こう言うと驚かれるかもしれませんが、AEDは傷病者が心肺停止かどうかを判断することはできません。

AEDが解析しているのは、心電図で、傷病者が心停止であるという前提の下で、電気ショック(除細動)が必要な心停止か、それとも電気ショックが無効な心停止かを判断しているに過ぎないのです。

例えば心室細動というタイプの心電図波形(不整脈)であれば=心停止といえますが、心室頻拍という不整脈の場合は、心停止の場合もあれば、血圧が保てていて意識がはっきりしている場合もありますが、この違いをAEDは判断できません。

そのため、AEDは、その装着条件として、下記のように決められているのです。

AEDの添付文書

本装置を使用する前に、患者が以下の状態であることを確認してください。
1) 意識がない
2) 普段どおりの呼吸をしていない
3) 脈がない(熟練救助者のみ)

(中略)

非常にまれですが、除細動が不要と思われる心電図を除細動適応と判断することがあります。

AED誤動作のリスク

除細動が不要と思われる心電図をショック適応と判断してしまうというのは、機械の設計上、仕方ない部分です。

簡単にいうと、AEDは一例として心拍数180回以上で、Wide QRS(幅の広いQRS) という判定をもって心室頻拍(VT)を検出しますので、脈アリVT以外でも、例えば「脚ブロックがある発作性上室性頻拍」でも、ショック適応と誤判断する可能性があります。

このリスクを低減させる条件として、「反応なし+呼吸なし」など、心停止を確認した人だけに装着してください、という仕様となっているわけです。

これは極めてまれなケースとされていますが、胸がドキドキする、などの心臓の不調を訴える人がいて、その場にAEDがあったら装着されてしまう可能性は、今の日本社会通年の中では、現実としてありえる話です。

現実、そのようなケースが発生したことが日本でも2018年に報告されています。

症例報告:意識がある人にAEDで除細動をしたケース

意識があるのにAED?!

女子高校生が体育の授業中、動悸を訴えて保健室へ。

養護教諭は119番とAED手配をし、救急車を待つ間、会話が可能な状態だった本人の同意を得てAEDパッドを装着。

心電図解析をすると「ショックの適応です。患者から離れてください。ショックボタンを押してください」との音声アナウンスが流れた。

女子高生は不安そうに「先生、ショックされると私は痛いのかな?」と。

養護教諭は迷った末、「救命講習の時とは状況が違うけれども、AEDがショック適応です、とメッセージを発している以上、躊躇してはいけない、勇気をもってショックボタンを押そう」と考え、除細動を実行した。

 

 

電気ショック後の詳細は記されていませんが、心電図記録にショック直後から胸骨圧迫が開始されたということが記されていますから、除細動によって意識を消失したのかもしれません。

救急隊員が『ショックボタンを押されたらドカンと衝撃がきた』という言葉を聞いたことが記されていますので、その後、程なくして意識は戻ったのでしょう。

心電図記録上では、除細動のショック後も発作性上室性頻拍は続いていましたが、病院到着時にはそれが自然消失しており、循環動態には問題はなかったということです。

不要な除細動、逆に心停止にさせてしまうリスク

このケースでは、たまたま何ごともなく「ドカンと衝撃を受けた」だけで済みましたが、二次救命処置 ACLS を勉強している人はご存知のとおり、発作性上室頻拍に対して非同期の除細動を掛けると、R on T によって心室細動を引き起こすリスクがあります。つまり生きている人間を心停止にさせてしまう危険がありました。

前述の報告書の中では、

「一般人に指導する際には、「AEDはあくまでも意識を消失した人に対して装着すべきもの」であることを強調しておくことが重要である。」

と結論づけています。

立場に合わせて教育精度を再考する時期に入っているのではないか?

これまでの救命講習は、救助行動の着手に重きを置き、細かいことはともかくAEDを使ってほしい、というスタンスが強く進められてきました。

そのため、ここでAEDの危険を書いたり、

明らかに意識がある人にはAEDは使わない。

というと、AED普及を阻害するといって反対される方もいるかもしれません。

しかし、これだけAEDが広まり、人が倒れたらAEDということが常識的になったこの時代、敷居を下げるために簡略化する方向性もそろそろ見直していいのではないかと考えます。

特に養護教諭のように、心停止ありきではなく、日頃から応急手当に関わる立場の人には一般市民向けの便宜優先よりは、やや原理原則寄りの教育スタンスでいてもいいのではないでしょうか?

この養護教諭の心の葛藤もわかりますが、心停止ありきのAED講習ではなく、非心停止対応も包括したファーストエイド教育の中できちんとAEDの位置づけを学んでいれば、また違った判断ができたかもしれません。

救急対応といえば心停止ばかりと思ってしまうのが、心肺蘇生法しか知らない人。しかし、養護教諭はそうではないはず。

リスクを低く見積もるよりは、オーバートリアージのほうがいいとは思いますが、それは現場判断の話。教育としては、養護教諭向けにはもうちょっと踏み込んだものがあってもよかったように思います。

日頃、応急処置を業務としている養護教諭であれば。

 
 

とりあえず、本来のプロトコル(お約束)を一般市民向けに、強いて簡略化するなら、下記のようにするとまだ誤差は少ないはずです。

迷ったらAED、ではなく、まずは胸骨圧迫!

それでも痛がる素振りが見られなければ、AED。


服を切るトレーニング【AEDパッド装着】

今日は病院からの依頼でBLSプロバイダーコースを開催しています。

10分間のチーム蘇生では、いつもマネキンの服を3重くらいに着せて、いちばん内側は前開きにできないTシャツにしています。

いつもだと、皆さんは、なんとかシャツの裾をたくし上げてAEDパッドを貼ることが多いのですが、今日は、とまどっているのAED担当を見た胸骨圧迫役の方が「ハサミを探して!」と建設的な介入。AEDのケースの中にあったハサミを見つけて、サクッと服をカット。

襟元から少し切れ目を入れた後は、手で引き裂くという時短ワザ、すばらしかったです。

AEDトレーニングに必要な服を切るという練習

実際の現場を想定した練習、大切ですね。

胸骨圧迫中断の時間を短くし、CCF(胸骨圧迫比)を上げようと思ったら、着衣の人に対して服をはだけるか、ハサミで切るかの判断をさせて、実際にやってもらうトレーニングをしておかないと、実際の現場でハサミで服を切るという発想、ふつうの人にはありませんし、無理です。

今日のケースでは、ハサミを使うという判断はたいへんすばらしかったのですが、服の正中を切ったため圧迫の中断が生じてしまいました。

胸骨圧迫を続けながら、服を着るならどこにハサミをいれたらいいか?

この部分は、シミュレーション後のデブリーフィングで皆さんで考えていただきました。

こういう体験をすると、忘れませんし、次回は実際に「できる」可能性も高まります。


心肺蘇生CPR/BLS 傷病者の服をはだけるタイミング

ここ数日、女性に対してAEDの使用率が低いという話題が飛び交っています。

女性に対してはAED装着をためらう傾向がデータ的にはっきりしたわけですが、心停止に対する救命処置では、どうしても服をはだける、脱がす、はさみで切るなどの処置が必要となります。

さて、その服をはだけるタイミングですが、日米では少し違っています。

米国 胸骨圧迫を始めるとき
日本 AEDパッド装着のとき

もともと心肺蘇生法は米国から入ってきましたので、日本でも以前は胸骨圧迫の手の位置を乳頭間線としており、服をはだけて手の位置を確認すると教えていた時代もありましたが、いつしか「想像上の乳頭間線」ということで服の上から胸骨圧迫を行う方向にシフトしていきました。

日本国内でもメジャーなプログラムであるアメリカ心臓協会のBLSプロバイダーコースやハートセイバーCPR AEDコースでは、最新ガイドライン準拠の講習でも引き続き、服をはだけてから胸骨圧迫を行うようになっています。

蘇生ガイドラインは5年毎に改定されてきましたが、その歴史的推移をみると、AHA2010ガイドラインからは医学的な正しさより現実社会で実行できること(implementation)に重きを置く方向にシフトし、さらに最新のAHA-G2015では、実行性を高めるためには、講習の進め方にもreal life situationを重視する現実主義の方向性がより強化されるようになっています。

この流れの中で、呼吸確認のための気道確保を求めないことや、人工呼吸よりは胸骨圧迫を先に開始するC-A-B手順が導入されたりしました。

この機運からすれば、CPR開始のハードルを下げるという意味でAHA-G2010で胸骨圧迫のために服をはだけるという手順が是正されるかと考えていましたが、その他の大胆な改定とは裏腹に、いまも変わらず、胸骨圧迫のまえに胸をはだけるような手順が残ったままとなっています。

BLS横浜では、主に米国のAHAガイドライン準拠の講習を多く開催していますが、その指導の中では、胸骨圧迫のために服をはだけるようにという指導は行っていません。

DVD教材では、そのように言及していますので、ときどき受講者さんからは質問されます。

そんなときは、こんなふうに答えています。

「マネキンと違って、実際の人は服を1枚しか着ていないことはないし、前開きとも限りません。現実問題、できそうですか? 重要な概念として、心停止を認識したら10秒以内に胸骨圧迫を開始することが強調されていますが、10秒以内にできますか?」

地面に倒れた人の服をまくりあげて胸骨圧迫の部位を露出させるのを10秒以内に行うことは、どう考えても現実的ではありません。

それに、もともと「胸骨圧迫前に服をはだける」というのは指導マニュアル上の話であり、ガイドラインによって明確に規定されているようなものでもありません。もちろん、医学的根拠(エビデンス)もありません。

ですから、BLS横浜での講習指導の上では重視はしていません。

強いて言えば、傷害を防ぐために正しい手の位置を確認するという意味合いがあるものと思われますが、服の上から胸骨圧迫した場合と服をはだけた場合での誤差の違いや、胸骨圧迫開始までの時間の違い、そしてそれが患者アウトカムにどう影響するか、という点が研究されているわけでもありませんし、それほどこだわる理由もないというのが現実ではないでしょうか?

ということで、チームシミュレーション・トレーニングの中では、あえて何重にも服を着せて、簡単には脱がすことができないようにして、服をはだけるタイミングについては、受講の皆さんで考えてもらうようにしています。

現実的には、AEDが届いてパッドを貼るタイミングで、はさみで切るというのが確実な気がします。

答えがないことは、経験学習とデブリーフィングで学んでもらうのがいちばんです。


日本の医療従事者はBLSの半分しか知らない

最近では、看護大学など医療従事者の養成校でBLS教育がきちんと行われるようになり、病院に就職時の新人研修でもBLS練習があたりまえになって、「BLS、知ってます。できます」という人が増えてきました。

お蔭で BLSプロバイダーコース の指導も、皆さんの技術を補強する程度で済み、1からしっかり教えるということは少なくなってきました。

しかし、それでもやはり感じるのは、「日本の医療従事者はBLSの半分しか知らない」という点です。

医療者が基礎教育で教わっているBLSは、BLSではない

医療従事者が、その教育課程で教わっているBLSは、Basic Life Support(一次救命処置)というよりは、実は「AED講習」ではないでしょうか?

  • 胸骨圧迫
  • AED
  • (人工呼吸)

AEDの心リズム解析結果は常に「ショックが必要です」であり、除細動をすれば助かるという前提の研修ではありませんでしたか?

また人工呼吸の練習はきちんと行われていたでしょうか?

医療現場での業務対応ですから、口対口人工呼吸やフェイスシールド人工呼吸は論外です。ポケットマスクも医療従事者の通常業務では考えにくいので、バッグバルブマスク換気のトレーニングが必要です。

こう考えたときに、医療従事者が基礎教育や新人研修で習得する「BLS」なるものは、心臓突然死(心室細動)に焦点化した「AED講習」であって、心停止全般を見据えた Basic Life Support とはいい難いのが現状です。

看護師はBLSの半分しか知らない。教わっていない。

心停止には4種類ある

ご存知のとおり、心停止には4種類あって、AED(除細動)が有効な心停止と、除細動が無効な心停止の2種類に大別されます。

この両方の概念を内包して「心停止対応」といえるわけですが、AEDありきの対応しか知らないとなると、BLSの半分しか知らないのでは? というのが記事タイトルの意味です。

心臓突然死(突発性の心室細動)は、発生頻度が高く、適切な処置により救い得る可能性が高い病態なので、優先的に習得するべきものであるのは事実です。

ですから、市民向けの救命講習が、実質的にAED講習であることに異論を唱えるつもりはありません。

しかし医療従事者が習得すべき BLS としては、アンダースペックであると考えます。

電気ショック(除細動)不適応の心停止が多い

というのは、医療に従事している方はご存知の通り、病院内でも病院外でも、AEDが「ショックが必要です」というケースはあまり多くはありません。「ショックは不要です」と言われるケースが大半です。

つまり、4種類の心停止のうち、心静止/無脈性電気活動(PEA)が現実的に多いわけですから、AEDでは救命できない場合の理解と対応を含めた【フルサイズの一次救命処置】を学ぶ必要があります。

PEA/心静止の対応というと、二次救命処置ACLSの範疇になってしまいますが、BLSであっても小児のBLSをきちんと学んでいれば、それが除細動が無効なタイプの心停止として、心停止の総合理解に繋がります。

 

AHAの小児の救命の連鎖には、AEDが含まれません。

また、成人の救命の連鎖とは違って、通報よりもCPRが優先されます。

 

実は、これは小児に限った話ではありません。小児に多いAEDでは救えない心停止、すなわちPEA/心静止の理解そのものなのです。大人であっても病院内で多いとされる呼吸のトラブルやショックからの心停止の場合は、これに当てはまります。

BLSプロバイダーコースの内容は、あくまでも Basic なので、心静止や無脈性電気活動(PEA)というキーワードは出てきませんが、AEDではなく「人工呼吸を含めたCPRを優先する」べき場合があることを明示しているのは非常に大きいと言えます。

BLS総合理解のセルフチェック

BLSについて、正しく理解しているかどうかのセルフチェックとして、下記のクイズを考えてみてください。
 

  1. 人工呼吸を省略できるのはどのような場合ですか? 生理学的観点から説明してください。
  2. 呼吸不全から心停止に陥った人にAEDを装着したら、どんな判定になるでしょうか? それはなぜ?
  3. 除細動の後の2分後のパルスチェックで、AEDがショック不要と言ったとき、傷病者の生命状態としてどんな可能性が考えられますか? 2つないしは3つ挙げてください。

 

日本の医療者の大半は小児BLSを知らない ≒ BLSの半分しか知らない

医療従事者教育の中で、小児のBLSを学ぶ機会は十分とは言えません。医師や救急救命士教育の中では小児領域の学習も含まれますが、その他の医療専門職教育では、ほぼ皆無でしょう。

医療従事者の中で最大人口を誇る看護師の教育カリキュラムにも小児BLSは入っていません。ましてや二次救命処置レベルで、PEAや心静止について学ぶ機会もありません。

そう考えると、医療者の大半はBLSの半分しか知らないと言わざるを得ないのが、いまの日本の教育現状です。

BLSは知っている。

そう自認している医療者であっても、心停止の概念を正しく理解している人は極めて少ないのが現状ですし、医療者であっても人工呼吸はしなくても良いと誤って理解している人も少なくありません。

そう考えると、心停止初期対応の全体像を学べる機会は、残念ながら AHA-BLSプロバイダーコース しかないというのが、今の日本の現実と言わざるを得ないのが残念です。

医療従事者レベルのBLSとしては、下記の項目もぜひ知っておきたいところです。
 

  • 呼吸停止時の対応(補助呼吸+2分毎の再評価)
  • バッグバルブマスク換気
  • ポケットマスク(町中のAEDに付属している場合があるため)
  • 小児・乳児へのCPR
  • 呼吸原生心停止の機序と人工呼吸の意義の理解
  • 気道異物による窒息解除のメカニズム(特に反応がなくなった場合)
  • 2人法BLSの意義とチーム蘇生

まとめ

小児のBLSをきちんと学びましょう。成人にも使えるフルサイズの一次救命処置BLSの理解につながります。


九州にBLS横浜の新サテライトが誕生「EMS熊本」

九州・熊本に新しいAHA-BLSトレーニングサイトができました。

九州熊本でAHA-BLSプロバイダーコース、ハートセイバー・ファーストエイドCPR AEDコース受講ならEMS熊本

EMS熊本
https://ems-kumamoto.com/
 

EMSという言葉は病院関係者には少し馴染みが薄いかもしれませんが、Emargency Medical Service(救急医療サービス)の略。

米国においては救急車運行業務を意味することが多いですが、広義で言えば、業務対応として健康面における緊急事態に対応するファーストレスポンダーから救急隊、そして病院での初療までを意味します。

プレホスピタルであるバイスタンダー救護から、救急隊員、さらには病院における救命処置や治療まで、救急全般に関した教育・トレーニング展開を行っていく組織として設立されました。

いまのところ5月31日(金)に プレホスピタル版のAHA-BLSプロバイダーコース が予定されていますが、今後は学校教職員や業務対応プロバイダーとしての市民救助者向けのAHAハートセイバー・ファーストエイドや、ハートセイバーCPR AEDコース の展開も予定しています。

九州地区はPEARSプロバイダーコースの盛り上がりなど、救急に対する熱量が多い地域な印象がありますが、市民向けの教育に関しては意外と未開発な気がします。

特にファーストエイドに関しては、九州での展開はほとんど見かけません。(わざわざ横浜まで受講にいらっしゃる方がときどきいます)

実際に使う頻度で言ったら、心肺蘇生法よりもファーストエイドなわけですし、医療従事者教育だけではなく、地域から病院までの救命の連鎖を幅広く扱う教育組織というのは、あるようで、実はほとんど見かけません。

救命法の指導・普及団体は公的機関・民間団体を含めて多くありますが、市民向け教育から医療従事者教育までを一貫して実施している組織は多くはありませんが、でも、その連携が、実際には重要な部分です。

その点でも、EMS熊本の九州地区での存在意義は大きいと思います。

BLS横浜では、地域の要請や、時代や世相からニーズを読み取り、ファーストエイドの日本国内定着やPEARSの普及、エピペン講習の在り方、最近では止血教育や血液感染教育、さらには implementation を意識した救命法指導員養成や、教育工学の応用など、独自の取り組みをしてきました。

それらを評価いただき、毎回驚くような遠方からも受講に来てくださっていますが、今後は九州地区でも同種の講習が受けられる場となりそうです。

既存の概念にとらわれない、地域に合わせた実のある教育の新たな風を起こしてくれる組織として【EMS熊本】に大いに期待しています。