BLS(心肺蘇生法)一覧

【速報】AHA-BLS G2020で何が変わった !?

2020年10月21日に発表された新しい蘇生ガイドライン2020。

今回は、ガイドライン発表とともにBLSプロバイダーマニュアルも同日発表という異例の展開となりました。

さて、気になるのはAHA-BLSの改定で何が変わったのか?

プロバイダーマニュアルの変更点を速報でお伝えします。
 
AHA-BLSプロバイダーコースG2020 蘇生ガイドライン改定で何が変わった?

G2020-BLS テクニカルスキルに大きな変更はナシ 認知スキル部分は拡大

BLSの手順や内容については大きな変更はありません。基本的にはG2015講習のままで概ね対応できます。

ただ、BLSプロバイダーマニュアルに記載される学習範囲は大幅に拡大しました。

成人・小児・乳児の蘇生法や講習の練習内容や実技試験にはほぼ変わりがないものの、これまで「特殊なケース」とされていた妊婦の蘇生や溺水、アレルギー対応なども記載されるようになりました。

特に溺水に関しては通常のアルゴリズムとは完全に異なる内容が盛り込まれています。

実務面での変更は補助呼吸の秒数

アルゴリズムや手技の点で大きく変わったことはありませんが、強いて言えば補助呼吸、すなわち「呼吸なし、脈アリ」の場合の人工呼吸回数の頻度が整理されました。

G2015
成人への補助呼吸 5〜6秒に1回
小児への補助呼吸 3〜5秒に1回

G2020 NEW!
成人への補助呼吸 6秒に1回
小児への補助呼吸 2〜3秒に1回

妊婦の蘇生

これは昔からガイドラインには書かれていた点ですが、今回初めてBLSレベルで記述されるようになりました。(もともとはACLS-EPコースの範疇でした)

妊婦であってもCPRはすべきであるし、AEDも普通に使う(胎児に影響はない)という基本事項の確認に加えて、手的子宮左方移動(LUD)が紹介されています。

これは周産期では普通に知られている話ですが、妊婦が仰臥位になると大静脈が圧排されて静脈還流が悪くなります。ただでさえ不安の血流の1/4しか出せない胸骨圧迫下では、突き出た腹部を左側に引き寄せるようにして大静脈の圧迫を軽減させることが重要とされています。

具体的には2人以上の救助者がいる場合は、一人は妊婦の左側に位置して、両手で腹部を左側に引き寄せるようにした状態で、もうひとりが胸骨圧迫を行います。

心停止以外の緊急事態の記述が拡大

G2005以降、シンプル化の方向だったBLSプロバイダーコースですが、ここに来てG2000時代に戻ったかなように心停止以外の緊急事態の記載が増えました。

・心臓発作
・脳卒中
・溺水
・女性
・アレルギー(エピペンの使い方)

心臓発作と脳卒中は、以前のガイドラインでは記載されていましたが、溺水、女性、アレルギーというのはまったく新しい新項目です。

溺水についてはインパクトが大きいので別項で取り上げます。

女性の傷病者の場合の注意点としては、胸骨圧迫の段階では必ずしも服を脱がせなくてもよいという点が明記されたのと、AEDを装着する際は必ず服を脱がすこと、アクセサリー類はパッドにかからなければ外す必要はないことがはっきりと書かれるようになりました。

アレルギーについては、エピペンの使い方がかなり詳しく解説されていて、内容はハートセイバー・ファーストエイドコースとほぼ同程度です。

心臓発作と脳卒中もかなり詳しく書かれており、BLSの概念に心停止以外の緊急事態も盛り込まれてきたのはたいへん興味深いところです。

溺水の救助は人工呼吸が先!

溺水者の蘇生はC-A-Bではなく、A-B-Cが望ましいという点は、ガイドラインレベルでは言われていましたが、今回、これが更に発展した形でBLSプロバイダーコースに入ってきました。

この内容は衝撃的と受け止める方もいるのではないでしょうか?

溺水の救助手順として示されているのは下記のとおりです。

溺水の救助手順
呼吸確認・なし → 人工呼吸2回 → 脈拍確認・なし→ 30対2のCPR開始

プロバイダーマニュアルのレベルでは詳述はされていませんが、最初の人工呼吸2回は、酸素供給というだけでなく、喉頭痙攣などで喉が閉じているのを開放させるという意味合いがあるものと考えられます。

このあたりはこれまでもヨーロッパ蘇生協議会のBLS手順では溺水は人工呼吸が先、とされてきましたが、AHAもヨーロッパに寄せてきた印象です。(同じようなことは成人への胸骨圧迫の深さは6cmを超えないという記述の採用でも見られました)

CPRコーチという新しい概念

今回初登場した目新しい点として「CPRコーチ」という新しい概念があります。

これは主に病院内でのチーム蘇生に関して言われている点ですが、ACLSチームの全体リーダーとは別に、CPRの質管理を行う別のリーダーを配置するというものです。

日頃の病院の中での蘇生でも実際にそれに近い動きはなされているかと思いますが、これが明文化され、CPRコーチと命名されました。

CPRコーチの役割は、胸骨圧迫のための足台を準備したり、ベッドの高さを調整したり、蘇生の質に関してフィードバックを行うなど、チームリーダーが薬剤指示や原因検索に専念できるようにCPR部分の調整を図ります。

興味深いのは、CPRコーチの役割として具体的な指示を出すことが例示されていることです。例えば胸骨圧迫は100〜120回/分でしましょうというのではなく、110回で圧迫してください、と指示するように、など。

抽象的なガイドライン表記の先を超えた具体性にフォーカスされているのを強く感じます。

 
 

まとめ

全体的な所感としては、シンプル化の方向からの脱却、現実に目を向け始めたという印象です。

これまでは、救える命を救おうということで、目の前で卒倒した心室細動による心停止にフォーカスしてBLS全体がデザインされていました。

そんな潮流が2005年から続いていたわけですが、G2015からは現実社会に目を向けようということで、リアルが追求されるようになり、今回は心原性心停止以外の緊急事態までも内包する概念としてBLSが再構築された印象です。

誰かを助けたいのではなく、目の前のこの人を救いたい。

そんなシフトチェンジを感じました。


子どもの心肺蘇生法 ー新型コロナウイルス感染疑いの場合

アメリカ心臓協会が発表した COVID-19(新型コロナウイルス感染症)感染対策を盛り込んだ心肺蘇生法のうち、今日は市民向けの小児CPRについて解説します。

こちらは、AHAが公開している “COVID-19 and Child and Infant CPR” というフライヤーを独自に日本語化したものです。(AHAの公式日本語版がでるまでの暫定公開です)

新型コロナウイルス感染症が疑われる子どもへの救命処置

 
もともと米国の市民向け小児蘇生を知っている人からしたら、どこにコロナウイルス対策が入っているんだ? と不思議に感じるかもしれません。これまであったら小児CPRとなんら変わるところがないからです。

成人の Hands only CPR のフライヤーでは、胸骨圧迫をする前に傷病者の口と鼻をマスクや布で覆うという「変更点」がありましたが、こちらにはなにも目新しいところがないのです。

子どもの救命にはやっぱり人工呼吸は外せない

結論からすると、COVID-19への危惧があったとしても、呼吸原性心停止を前提に考える子どもの救命の上では人工呼吸は欠かせない、成人CPRとは違って「人工呼吸は省略する」ことをデフォルトとはできない、との意思を見ることができます。

このフライヤーの中で、唯一、新型コロナウイルス感染への対策が感じられるのが、「あなたにその意志があり、可能であれば」という部分です。

原語では、if you’re willing and able となっています。

 

コロナウイルスに感染しているかもしれない子どもに対して、胸骨圧迫と人工呼吸をやろうとする意思があり、可能であれば、やってください。

(その意思がない、もしくは技術的に物理的に装備的に出来ないのであれば、やらなくてもいいですよ)

 

このかっこの中が本当のメッセージなのですが、それをあえて積極的には明言したくなかった、という姿勢が見て取れると思うのです。

CPRを開始しない場合の対応はどうなるのかというと、フライヤーの STEP 2 の前半部分まで、つまり心停止の可能性を探り、心停止が疑われれば 119番通報 するだけでもやってくださいね、ということになります。

フライヤーのタイトル下にある言葉を見てください。

 

それでも、あなたにできることがあります。
you can still help.

 

結局のメッセージはここなんだろうと思います。

こんなご時世、コロナウイルス感染が怖いから倒れている人には近づきたくない。そんな心理が広がりつつあります。

しかし、一目散に逃げるのではなく、意識状態と呼吸状態を分かる範囲で確認して、懸念があれば119番通報だけでもしてほしい。

それだけでも大きな助けとなるのだ、ということ。

立場によって違う if you’re willing and able

このフライヤーの真意を探る上で、同じく AHA が公開している Community FAQ: COVID-19 and Pediatric CPR (PDF) という資料が参考になります。

これを見ると、子どもの心停止対応の救助者は誰かと言ったら、まずは親や家族が想定されていることがわかります。

我が子であれば、感染リスクを考えるより、救いたいという意思が先に立つのは当然でしょう。

であれば、一律、人工呼吸はしなくてよい、とは書くべきではないのは理解できます。

まったく無関係な第三者であれば、119番通報だけでも、胸骨圧迫だけでも、何かのアクションを起こしてくれば、それは尊いこと。

しかし、これが注意義務を持って対応する職業人だった場合は、もう少し踏み込んだ対応が必要です。

 

if you’re willing and able

 

人工呼吸を含めたCPRをする willing (意思)はあるでしょう。しかし、それが able(可能)かどうか。それはひとえに「準備」にかかっています。

つまり、ポケットマスクやバッグマスクなどの感染防護機能が実証された人工呼吸器具を備えているか、そしてそれを使えるように訓練されているかどうか、ということです。

新興感染症罹患が懸念される今だからこそ、立場によっては【備える】ことが重要です。


コロナ感染疑い成人患者へのBLS 変更点の解説

2020年4月9日付で、アメリカ心臓協会の機関誌 Circulation に、Interim Guidance for Basic and Advanced Life Support in Adults, Children, and Neonates With Suspected or Confirmed COVID-19 というステートメントが掲載されました。

コロナウイルス感染症(COVID-19)患者や、その疑いがある人への心肺蘇生法をどうしたらいいのか、という点で、新しい心停止対応アルゴリズムが公開されています。

 
今回は医療従事者向けの成人BLSアルゴリズムの変更点を解説します。(ACLSについては後日取り上げます

一般市民のバイスタンダー対応については、昨晩アップした 「傷病者の口と鼻を覆ってから胸骨圧迫する【コロナ対策のCPR】 」 をご覧ください。

コロナウイルス感染疑い患者への【成人BLS】の変更点

ご存知のAHA-BLSアルゴリズムに、下記のように変更が加えられています。

新型コロナウイルス感染症疑い患者へのBLSの変更

太字で下線がついた部分が変更された箇所です。

日本語はBLS横浜の独自翻訳です。AHA公式のものではありませんが、AHA公式日本語版がでるまでは、高解像度で印刷可能なPDFファイルもダウンロードできるようにしておきます。

1.PPE装着と人員制限

傷病者に取り付く前の安全確認。ここに感染防護具PPE装着も含まれています。今までアルゴリズムとしては記載がなかったところがはっきり明記されるようになりました。(ファーストエイドを学ばれた方にとっては常識だったかもしれません)

業務中のプロであれば備えがありますよね?

少なくとも手袋は必須。昨今であれば業務中はマスクはしているでしょうからいいとして、もうひとつほしいのはアイシールド。目の粘膜からもウイルスは体内に侵入します。

特に人工呼吸担当者は吐息を浴びる可能性が否定できず、目からの飛沫感染リスクが高くなります。

目を保護できないうちは、この点に留意。

BLSアルゴリズムでは明記はされていませんが、市民向けの Hands only CPR のフライヤーによると、胸骨圧迫開始前に傷病者の口と鼻を覆うようにマスクを装着させるか、布でカバーしておくように書かれています。

 

また人員制限というのは、蘇生に関わる人数を減らして、病院組織としてのリスクヘッジをしようという話です。

BLSアルゴリズムには記載されていませんが、ACLS領域の変更点では、機械式の胸骨圧迫装置(LUCAS や AutoPulse 等)の使用が推奨されているのも、蘇生に関わる人を減らして交差感染リスクを少なくするための配慮です。

新型コロナウイルス感染症患者との接触者人数を減らすために機械式胸郭圧迫装置の使用が推奨

2.人工呼吸はバッグバルブマスクで

今まではBLSプロバイダーはその職域に応じて、ポケットマスクやフェイスシールドなどの呼気吹き込み式の人工呼吸も許容されていましたが、新型コロナウィルス感染対策としては、バッグマスク使用に1本化されました。

一方向弁がついたポケットマスクも推奨されない、ということです。

新型コロナウイルス感染症患者にはポケットマスク人工呼吸は推奨されない

3.バッグマスクが使えない場合は受動換気による酸素化

バッグマスクがない、もしくはバッグマスク換気ができない場合は、成人傷病者には人工呼吸はしない、というのが基本方針。

しかし組織細胞の酸素化という救命の基本からしたら、ヘルスケアプロバイダーとしては人工呼吸をしないという選択肢はありえないわけで、苦肉の策としては受動換気による酸素化が浮上してきました。

これは気管挿管を前提で米国アリゾナ州の救急隊員向けプロトコルとしては昔から知られていたやり方ですが、胸骨圧迫による肺の圧縮・拡張効果で受動的に空気の出入りするのに期待しようというもの。

具体的にいうと、非再呼吸式の酸素マスク(リザーバーマスク等)で酸素を流しながら、胸骨圧迫のみを続けるということになります。

アルゴリズムの上では記載はありませんが、舌根沈下等で気道閉塞が起きていたら意味がありませんので、経鼻/経口エアウェイを挿入した上で実施すべきかもしれません。

なお、このやり方は成人BLSのみの適応です。今日は解説しませんが、小児・乳児のBLSでは、受動酸素化は推奨されておらず、バッグマスクによる陽圧換気が必要とされています。

これらは暫定ガイダンス

詳しくは冒頭にリンクした Curcuration 誌の本文をご覧ください。英文ですが、それほど長くはありませんし、無料PDFで全文読めます。

タイトルのとおり、この内容は Interim Guidance であり、この先、さらに変更・改善されていくかもしれません。

情報が刻々と刷新されていく新型コロナ関連ニュース、ぜひ最新情報を追いかけるようにしてください。


傷病者の口と鼻を覆ってから胸骨圧迫する【コロナ対策のCPR】

世界の救命シーンをリードしてきたアメリカ心臓協会 AHA が、COVID-19(新型コロナウイルス感染症)対策として数々の情報を提供してくれていますが、まずは、一般市民向けの Hands only CPR に関して紹介します。

感染経路を知って正しく畏れる

新型コロナウイルス感染拡大が深刻化している昨今、駅で人が倒れても手出しをしないほうがいい、という意見も散見するようになりました。

もともと救護活動は心的外傷の問題も含めてリスクがある行為ですから、備えのない一般人が無理する必要はなく、119番通報するだけでも立派なことです。

ただ、それが突発的な心停止であれば、その場で胸骨圧迫を開始するかどうかで生存確率が雲泥の差となるため、漠然とした不安ゆえの不着手判断ではなく、リスクヘッジをした上での行動ができる人が増えることが社会的な理想です。

AHAはシンプルに下記のような、COVID-19感染対策を含めたバイスタンダーCPRのフライヤー(PDF:英語)を発表しました。

新型コロナウイルス感染症COVID-19疑いの人への心肺蘇生法

(もともとは英語文書で、日本語はBLS横浜独自のものです。AHA公式日本語版ではない点、ご注意ください)

Hands only CPRですから、もともと人工呼吸はしないものではありましたが、ポイントは傷病者の口と鼻をマスクや布なのでカバーした上で胸骨圧迫を始める点。

これは不用意に触れないようにという接触感染を意識したものではなく、胸骨圧迫時に肺から押し出された呼気によってエアロゾルが発生することに備えるためのものです。

胸骨圧迫だけで飛沫が拡散する可能性がある

このあと、別項でとりあげますが、医療従事者等のヘルスケアプロバイダー向けのBLSアルゴリズムのコロナ対策改変では、バッグマスク人工呼吸が行えなければ、傷病者に酸素マスクをつけた上で胸骨圧迫を続けるように勧告されています。

これは胸骨圧迫によって肺が圧迫されるごとに受動的に空気が出入りすることが多少なりとも期待されているからです。(これが陽圧式の人工呼吸に変わるものとして有効であるとの確定はしていません)

つまり、胸骨圧迫するだけでも口・鼻から呼気が漏れ出て、飛沫となったウイルスが拡散する可能性があるということ。

ゆえに胸を押し始める前に、傷病者の口と鼻をカバーしてください、ということなのです。

救助者自身がマスクをすることは、今の時期、あたりまえとして、倒れている傷病者側にもマスクをさせるというのは、なかなか気づかない点かもしれませんね。

感染対策を意識した救助活動の例

この時期、救助者自身はマスクをつけていることが多いでしょうから、やるべきことはハンカチを折りたたんで倒れている傷病者の口と鼻の上に乗せること。(顔全体は覆わないようにしてくださいね。)

胸骨圧迫を始める前に傷病者の口と鼻をハンカチでカバーする:新型コロナウイルス感染対策の心肺蘇生法BLS/CPR

AHAは特に言及はしていませんが、胸骨圧迫は服の上からがいいと思います。手の位置の正確性はあまり細かいことは気にせず、だいたい胸の真ん中あたりに手の付け根を当てます。

AEDが到着したら胸部の素肌を露出させる必要がありますが、そのときもなるべく素肌に触れないように、まずはAEDケースの中に感染防護手袋が入っていないかを確認して、手袋装着を優先します。

傷病者の命よりも自分の身の安全の方が優先です。急ぎたい気持ちがあっても安全第一。

無理のない範囲で、できる限りのことをしていきましょう。(無理と感じる場合はせめて119番通報だけでも…)

 
 
なお、医療従事者が施設内で対応する場合のBLSアルゴリズムの変更点については、「コロナ感染疑い成人患者へのBLS 変更点の解説」をご覧ください。


救命講習|マネキンの洗浄・消毒法

新型コロナウィルスの関係で、日本の救命講習の多くが開催見合わせとなっているようですね。

1体のマネキンに対して、複数人が呼気吹き込み練習を行う心肺蘇生法トレーニング。ふつうに考えてリスクが高いといえると思います。

だからこそ、救命講習の指導員や指導母体は日頃から感染対策には敏感であったはずです。

コロナウィルスに限らず、冬場はインフルエンザにノロウィルスなど、感染症は毎年の問題であり、日頃から適切に対応していれば、新型コロナウィルだからと言って慌てることはないはず。

指導員の皆さんは、インストラクターコースでマネキンの肺の交換やフェイスの洗浄消毒法など教わっていると思いますが、この度、BLSマネキン製造メーカーとして有名なレールダル社が、ホームページのトップからマネキンメンテナンス法ページへのリンクを貼って、改めて衛生管理についてアナウンスをしてくれています。

ぜひ、下記をご覧いただきたいのですが、この正しい洗浄法の「なぜ?」をいくつか解説したいと思います。

レールダル社ホームページ
https://www.laerdal.com/jp/support/helpdesk-web/hygiene-and-cleaning-procedures-for-cpr-manikins/

マネキンフェイスは洗剤で洗ってから消毒する

病院内のAHAトレーニングサイトでも、たまに間違った洗い方をしているケースが散見されますが、マネキンフェイスやレンタル・ポケットマスクをいきなり次亜塩素酸ナトリウムのバケツに漬けるのはNGです。

これらは脂汚れが付着していると考えてください。手の脂や唾液、唇からの汚れ付着など。

これらの汚れを落とすのに界面活性剤、つまり洗剤による洗浄が必要です。

汚れを落とさないまま消毒液に漬けると、消毒剤は蛋白成分を固める働きがありますから、汚れがこびりついて落ちなくなります。しかもその汚れの内側には菌がいっぱい。

なので、消毒の前には温水と洗剤による洗浄が必要なのです。なぜお湯かという点は、冬場の食器洗いを考えてもらえばわかりますよね?

マネキンの顔の洗浄・消毒

マネキンのボディも洗剤で拭く

講習中はマネキンの胸部をウェットティッシュで拭くことが多いと思いますが、これも使用後のきちんとした洗浄としては洗剤を使うべきです。

ウェットティッシュの多くはアルコールが含まれています。汗や手の脂がついたマネキン胸部をアルコールで処理すると、、、、もうわかりますよね? 汚れがこびりつきます。

使い込んだマネキンの胸部は黒ずんでいることが多いですが、これはアルコール清拭だけで洗剤を使わないと起きやすいです。

この機会に講習の衛生管理の再考を

救命講習を介して病気がうつったという事態は避けたいものです。だからこそ、いわゆる救命法指導員養成の中にはマネキンメンテナンスが重要事項として扱われているわけです。

救命講習に関しては、マネキンメンテナンスだけではなく、受講者の行動まで完璧にコントロールすることは不可能で、感染リスクをゼロにすることはできませんが、闇雲に恐れる必要もないかと思います。

救命講習の開催見合わせをした場合、その再開時期の見極めはなかなか難しい気がします。

日頃、マネキンメンテナスにあまり注意していなかったところでも、これを機にマネキン整備と衛生対策を再考して再開の日に備えてはどうでしょうか?

AHA講習ではフェイスシールドの使用が禁止に

参考まで、世界の救命講習のフラグシップ団体であるアメリカ心臓協会が先日リリースした指針では、受講者毎にマネキンフェイスを交換する方法を推奨しており、フェイスシールドや直接の口対口人工呼吸は禁止となりました。

人工呼吸練習を行う場合は、ポケットマスクかバッグマスクのみが推奨されています。


胸骨圧迫だけで助かったとしたら、なぜ?

先日、埼玉で路上で 救命処置をしてくれた看護師を探しているというニュース がありましたが、本日の報道によると、看護師さん、見つかったみたいですね。

職場でそのニュースのことが噂になっていて、自分が探されていることに気づいたのだとか。

さて、今日はその報道の中から一部を切り抜いて考察してみたいと思います。

 

呼吸ない…偶然近くにいた看護師、妻の命救って立ち去る 夫が看護師探すと…看護師から連絡「無我夢中で」
 
 近づくと男性は電話片手に興奮した様子で助手席の女性の心臓マッサージをしていた。女性は呼吸がなく、脈も取れない状態。根生さんは「看護師なので代わります」と声を掛け、救命措置に当たった。

心臓マッサージを続けると、徐々に反応が戻り、弱いながらも脈が触れてきた。気道を確保して声を掛けると、女性は少しずつ言葉を発するようになってきたという。「会話ができるようになり、ちょっと安心した。救急車もすぐ来てくれた」と根生さん。

埼玉新聞 2019年12月17日より部分抜粋)

AEDも人工呼吸もせずに助かった

一言でいうと、心臓マッサージ(胸骨圧迫)だけで蘇生したケースと言えます。人工呼吸もAEDもしていない模様。

救命講習やBLS講習で教わる範囲でいえば、成人の心停止は心室細動の可能性が高いから胸骨圧迫だけではなくAEDが必要、と教えているのが一般的です。

そして、子どもの心停止は呼吸のトラブルの可能性が高いことから、胸骨圧迫だけではなく人工呼吸もきわめて重要、と教えています。

つまり、胸骨圧迫を軸足にして、AEDが奏功する場合と、人工呼吸が奏功する場合、という構図が垣間見れるわけですが、本件のように胸骨圧迫だけで助かったしたら、体の中ではなにが起きていたのでしょうか?

■ 心停止の基本類型 心原性と呼吸原性

まず、基本を整理します。

心原性心停止 心室細動

大人に多い心原性心停止の場合は、心臓のけいれん(心室細動)によって血流が駆出できていないのが心停止の原因。胸骨圧迫で血流を生み出すことは重要ですが、胸骨圧迫では心臓のけいれんは止まらないので、AEDなどによる電気ショックが必要とされています。

呼吸原性心停止 低酸素

子どもに多い呼吸原性心停止は、低酸素によって心臓の動きが遅くなっていって最後は止まってしまうというタイプの心停止です。ですから、胸骨圧迫だけではなく、体内に酸素を取り込ませるための人工呼吸が欠かせません。

■ 胸骨圧迫だけで助かるとしたら、、、迷走神経反射?

典型的な上記の2つだけを考えると、胸骨圧迫だけで助かるのは不思議に思えますが、実際のところ、胸骨圧迫だけで助かるケースは少なくない印象です。

これらは、結論からいうと、迷走神経反射による極端な血圧低下もしくは一過性の心停止だったのではないでしょうか?

迷走神経とは

迷走神経(副交感神経)は、交感神経と対になって血圧をコントロールしている神経で、迷走神経が過度に働くと、心拍数が低下+血管拡張により血圧が下がります。

心拍数が一気に20回/分などに落ち込み、血圧が低下すれば意識は保てなくなります。血圧がゼロにならなくても、(医療者向けプロトコルでは)頸動脈で触知できるほどの血圧がなければ心停止と判断し、胸骨圧迫を開始することになっています。

迷走神経反射は、強い痛みによって起きることがありますし、悪い知らせを聞いたときにも起こります。病院でありがちなのは採血によって意識を失ってしまう血管迷走神経反射など。

なんらかの原因で心拍数が上がるとそれを抑えようとして迷走神経が働き、それが極端に作用してしまうことで失神に繋がります。

迷走神経はいわゆる自律神経なので、日頃の疲れなどによってもうまく機能しなくなることがありがちです。朝の通勤電車で体調不良を訴える人の多くもこれに該当するものと思われます。つまり、けっこうありがちな出来事。

通常は一過性のものなのですが、迷走神経反射によって心静止(心電図がフラットになる状態)になることも報告されています。

多くの場合は、心静止まではいかずに徐脈性PEA(無脈性電気活動)か、そのもっと手前の「血圧低下」状態なのではないかと思います。

これらであれば、心静止であっても一過性のことが多いですし、血圧が低い原因が心臓のポンプ機能の一過性の低下であれば、胸骨圧迫によって血流をつなぎとめておけば、しばらくして血圧が戻って意識・呼吸が戻ってくることが期待できます。

つまり失神発作の重症例

迷走神経反射といえば、ファーストエイドを勉強したことがある人は、失神発作の原因のひとつとして理解されていることと思います。

失神なのか、心停止なのかという点ですが、そこはあまり深く考えなくていいと思います。

目の前で倒れたとか、倒れている人を見つけた場合は、反応(意識ではなく)を確かめて、普段どおりの呼吸をしていると10秒以内に確信が持てない場合は、セオリー通りAED手配と合わせて胸骨圧迫開始でOKです。

もし、血圧がある程度保てていて明らかに痛がる素振りがあれば圧迫をやめればいいし、明らかな反応がなければ、心停止だと確信して強く押し続ければ大丈夫です。

実際のところ、この場合は、血圧低下から心停止までは連続的に変化していくものなので、デジタル的な明確な境目はありません。ですから、疑わしければ胸を押せ! で大丈夫。

そのうち血圧があがってくれば徐々に痛みに刺激に反応するようになってくるかもしれませんし。

 
 

ということで、胸骨圧迫だけでも助かるケースがあるとしたら、どんな場合か、ということを考えてみました。

迷走神経反射に限らず、不整脈などほかにもいろいろな原因は考えられますが、比較的日常的にありがちで市民向けファーストエイドで教えられている失神と合わせてみると、見方が広がっていくのではないでしょうか?


パルスオキシメーターでは、呼吸の有無はわからない

パルスオキシメーター、最近は値段が下がって1万円以下でも買えるので、学校やスポーツ現場でも使われることが増えてきているようです。

学校の保健室にもパルスオキシメーターが置いてあるところもあるんじゃないでしょうか?

パルスオキシメーターは、れっきとした医療器具なので、使い方を誤ると危険な場合があります。特に、人間は道具があると使いたくなる、また頼ってしまう傾向があり、道具がない場合に比べてミスジャッジすることが増えがちです。

急変対応にパルスオキシメーターを使うと


意識不明の人が倒れていると呼ばれて行って、その時たまたまパルスオキシメーターを持っていたら、、、

呼びかけても返事がなかったので、すぐにパルスオキシメーターを着けました。結果、脈拍数110回/分と出たらどうでしょう?

なにを考え、どう行動しますか?

パルスオキシメーターでわかること、わからないこと

パルスオキシメーターは呼吸状態を確認する道具、というイメージが強いかもしれませんが、それでわかるのは指先の血流の有無と脈拍数、そして経皮的酸素飽和度だけです。

なんらかの数字が出れば、指先の血流はある、との判断はできますが、今現在、呼吸をしているかどうかはわからない、という点、注意が必要です。

SpO2の数値が出たとしても、呼吸をしていないケースはありえます。

あくまでも血中の酸素とヘモグロビンの結合割合を近似的に算出しているだけで、呼吸停止しても数値が下がるには時間がかかるからです。

つまり、パルスオキシメーターは呼吸をしているという前提で使うものであり、自発呼吸をしているかどうかを確認する道具ではないということです。

パルスオキシメーターの値が信用できない場合

寒冷やショックなどで抹消循環が悪い場合、パルスオキシメーターは正しい数字を示しません。エラーになればまだいいのですが、高めに数値が出てしまう場合非常に危険。

つまり、傷病者の状態が安定している条件下でないと信用できません。

こうした特性を知らない人がパルスオキシメーターを過信してしまうリスクが日常的になっています。あくまでも医療機器、中途半端な知識・理解の人が使うと危険という話。

このあたりの話は、詳しくはブログ過去記事もご参照ください。

実例:パルスオキシメーターの不適切使用

平成28年9月に大分の学校で起きた死亡事故では、意識不明の傷病者に対して目視による呼吸確認をせず、パルスオキシメーターの数字が出たことで「呼吸あり」と判断した結果、気道異物による呼吸停止(窒息)に気づかず死に至った可能性が指摘されています。

大分県立南石垣支援学校における事故調査報告書(令和元年7月)

大分県教育委員会(令和元年7月)


 

本件から学べる点は多々ありますが、今回特に着目いただきたいのは「5.前提となる事実 [PDFファイル/5.36MB]」の p.28 に書かれているパルスオキシメーターを装着したときの事実の描写と、同 p.39 にある学校側が保護者向けに説明した文書の中の下記の記述です。

「呼吸はあったか」という質問への答え
「呼吸、脈等はパルスオキシメーターで確認していましたが、血中酸素飽和度は正確な測定ができなかったということです。」
 
呼吸については、確認していませんでした。

後日指摘により訂正されたようですが、救護対応していた養護教諭らはパルスオキシメーターで脈拍数110回/分と表示されたことで、呼吸できていると誤認していた可能性が伺えます。

冷静に考えれば、酸素飽和度が表示されないことから、呼吸状態(この場合は特に気道開通)を疑うこともできたかもしれませんが、意識不明の傷病者を目の前にして、脈拍がある=心臓が動いている=生きている、という安心感が、呼吸もしているという早合点につながったのかもしれません。

頭部から出血していたなどの複雑な要因はありますが、パルスオキシメーターを持ってきたことが、判断を誤らせた要因として否めない案件ではないかと考えています。

本来の救急対応手順に従えば…

今回の検証の中でも指摘されているとおり、意識不明の人がいたとき心肺蘇生法の手順に従って、「反応なし+呼吸なし」を確認し胸骨圧迫を行っていれば、心停止ではなかったとしても、結果的には窒息解除の手順(胸部突き上げ法)となり、気道異物による窒息を解除できた可能性はありえます。

傷病者の状態が悪いときは、パルスオキシメーターは使い物にならない点は医療従事者は知っています。しかし、市民からしたら「頼れる医療機器」として勘違いしてしまうリスクが露呈された事故ではないでしょうか。

血圧計やパルスオキシメーターを応急救護の備品として用意することのメリットとデメリット。

不慣れな人にとっては致命的なデメリットもあります。逆にメリットはなにかあるでしょうか?

使い方自体は簡単ですが、その解釈や精度の点では不利益も大きい。

あると使いたくなる人間の性を考えると、医療従事者以外は基本的にこうした医療機器は持たないほうがいい、と思います。

 

医療者にとっても、こういう事例を見ると、PEARSやPALSの体系的アプローチで、酸素飽和度の評価が呼吸の一番最後の項目になっている点が、納得いただけるのではないでしょうか?


質の高い人工呼吸とは

昨今、なにかと軽視されがちな人工呼吸ですが、子どもの救命や、水辺での救急対応には欠かせないという点は、皆様、ご理解いただけていると思います。

そこで、今日は、一歩踏み込んで 人工呼吸の質 という話をしたいと思います。

質の高い人工呼吸は、過剰な換気を避けること

吹き込んで胸が上がればいい!?

人工呼吸は、胸骨圧迫に比べると動作がやや複雑で、うまくできた / 失敗した、がはっきりわかる手技です。

そのため、吹き込んでマネキンの胸が上がればとりあえず「よし」としがちですが、それは一般市民向け講習での話。

医療従事者や、救護責務がある市民救助者向けの研修では、人工呼吸にも「質」が求められます。

High Quality CPR

High Quality CPR(質の高い心肺蘇生法)のポイントといえば、

・強く
・速く
・胸壁を元の高さに戻す
・中断を最小限に

ですが、これらは胸骨圧迫の話。人工呼吸に関しては、
 
・過剰な換気を避ける
 
ということが謳われています。

人工呼吸の空気は入れすぎないほうがいい

過剰な換気を避けるためのポイントは2つ。

・目で見て胸が上がる程度の量
・1回の吹込みは1秒かけて

目で見て胸が上がる程度の量

息を吹き込むと胸部が挙上して見えます。それが見える程度のギリギリの少ない量でいいですよ、という意味です。

イメージからすると、空気をたくさん吹き込んだほうが助かるような気がしますが、実は逆です。

空気を吹き込みすぎるとかえって蘇生率は下がります。

理由は2つ。
 

  • 胃膨満 → 嘔吐 → 人工呼吸継続困難
  • 胸腔内圧上昇 → 静脈還流低下 → 心拍出量低下

 

胃膨満の弊害

空気をたくさん吹き込みすぎて、肺から溢れ出た空気はどこにいくかを考えれば簡単です。

気管ではなく、食道の方に空気が流れ込んで「胃」に溜まっていくわけですね。

胃が最大限まで膨らんだらどうなりますか? 吐き出す、嘔吐をしそうな気がしませんか?

胃の内容物を吐かれてしまったら、人工呼吸はもちろん蘇生処置そのものが中断してしまいます。結果、助かる可能性が格段に下がるのは想像できるでしょう。

胸腔内圧上昇の弊害

こちらは直感的にはすこしわかりにくいかもしれません。

ざっくりとしたイメージですが、空気を入れすぎて肺がパンパンに膨らんだ状態を想像してください。肺が目一杯膨らむと、肺の間に挟まれた心臓がギュッと圧縮される気がしませんか?

心臓が押しつぶされた状態になっていると、静脈から戻ってくる血液が心臓に溜まる量が減ります。そうなると、胸骨圧迫によって駆出できる血液量も減るのは想像できるでしょうか?

心肺蘇生法の目的は、酸素化された血液を全身に巡らせることによって、脳や心臓などの重要臓器の細胞に酸素供給をすることにあります。

肺まで空気がたくさん入っても、その先の酸素の運搬媒体である血液の流れが滞ったら、終着点である細胞が受け取る酸素量は少なくなってしまいます。

つまり、空気を入れすぎると血液循環が悪くなって蘇生効率が下がる、というわけです。

(実際のところは、心臓が潰されるというよりは、静脈系の血管の影響なのですが、今回は大まかなイメージということで詳細は割愛します。)

1秒かけて吹き込む

これは、意味がわかりにくいと思いますが、ざっくりいうと、勢いをつけて吹き込むなという意味です。

勢いよく素早く送気してしまうと、口腔内の内圧があがって、ふだんは閉じている食道に隙間ができて空気が胃の方に流れ込んでしまうリスクが増えます。

だから、優しく1秒くらいかけて、ややじんわりと送気してくださいね、という意味です。

参考まで、ガイドライン2005までは、1回の送気に2秒かけるように指導していた時期があります。これは内圧を上げないための配慮だったのですが、その結果、胸骨圧迫の中段時間が伸びることが問題となり、2秒から1秒に改められた経緯があります。

また「1秒かけて」と翻訳された原語は over 1 second です。ときどきこれを1秒以上かけて吹き込むと誤訳しているケースもありますので注意してください。この場合の over は、1秒間に渡って送気を続ける、という意味です。

ですから、1秒かけて吹き込むと訳すのが正しいです。

胸骨圧迫で得られる循環血液量はふだんの1/3

人工呼吸の吹き込み量は思いのほか少ない量で十分なのですが、直感的にはなかなか納得しづらいかもしれません。

そこで、心停止中に胸骨圧迫で得られる循環血液量は、正常時の1/3〜1/4しかないということを知っておいてください。

血流が普段の1/3しかないところに普段の肺活量の空気を送り込んだところで、細胞に届く酸素量は限られます。

だから、あんなに少ない量であっても十分なのです。

人工呼吸で空気を入れすぎると蘇生率/救命率が下がる

まとめ

私達の直感とは裏腹に、人工呼吸で勢いよく多くの空気を入れてしまうと、嘔吐するリスクが上がり、血液循環が低下することで蘇生率は低下します。

人工呼吸で肺に空気が入ることは重要ですが、業務対応として人工呼吸を行う人は、入れ過ぎは良くないということを理解して、傷病者の体格に合わせて吹き込み量を調整できるような練習をしておきましょう。

以上、BLS横浜の ハートセイバーCPR AEDコース や、BLSプロバイダーコース に参加したことがある方はすでにご存知の内容かと思いますが、質の高い人工呼吸について解説しました。


服をはだけずにAEDパッドを貼れるか?

京都大学の研究結果で、女性へのAED使用率が低いとの報道されたせいか、今年はAED装着時のプライバシー保護に関する話題が多かったように思います。

この点は、救命法の指導員の間では昔から変わらず出てくる鉄板ネタのような話題で、服は完全に脱がさずに、襟元や裾からパッドを差し入れて貼ればいいという意見は昔からありました。

救命法の指導員の中には、実際にやってみてちゃんとできたとおっしゃる方もいますが、BLS横浜としては、このやり方は懐疑的に捉えています。

なぜかといえば、下の写真をご覧ください。

服の隙間からAEDのパッドを装着できるか?

練習パッドと本物のパッドの違い

本物のAEDパッドは粘着成分層が厚く重量感がありますから、手に取るとこのようにたわみます。

この質感は、パリッとした水平性を保つ練習用パッドとは違うと思いませんか?

そして、練習パットと違って、粘着度はかなり強力です。以前は胸毛を粘着でむしり取ると言われていたくらいです。(実際はそんなきれいには抜けませんのであまり実用的な方法ではありませんが)

質感のイメージは、湿布薬に近いかもしれません。

服を来たまま襟元から湿布を自分の肩に貼ろうとして、失敗したことありませんか?

湿布のシートが折れ曲がって粘着面同士がくっついてしまったり、服に貼り付いてうまく伸ばせなかったりしますよね。

あそこまでペラペラではありませんが、それに近いような難しさがあります。

ダブダブのゆったりとした服ならうまくできるかもしれませんが、うまく行ったらラッキーくらいに思ったほうがいい不確実な方法です。

貼り損じたらどうなるか?

もし、失敗して服に貼り付いてしまったらどうなるか?

剥がして貼り直せばいいかもしれません。しかし粘着面には衣類の毛羽立った繊維がたくさん貼り付きます。これらは電気抵抗になりますし、繊維や毛玉などで微細な隙間ができてしまうと、その間に火花が飛んだり、発熱の要因となります。

もしパッドの粘着面同士が貼り付いてしまったら?

強力な粘着面、剥がすのは困難ですし、粘着成分にムラができることで、効率低下の懸念があります。

なにより、パッドが使えなくなってしまったら、予備パッドが入っているとは限りませんし、最近は最初からコネクタが接続されている機種が増えていますから、付け替えというイレギュラーなアクションがスムーズにできるかという問題があります。

生きるか死ぬかの瀬戸際であることを忘れてはいけない

AEDパッド装着時に女性の胸元をはだけてしまっていいのか? という羞恥心やプライバシーといった人権への配慮は大切なこと、前向きな議論に見えますが、はたしてそうでしょうか?

そもそもAEDを装着するのは「心停止」が前提です。

つまりAEDを装着する場面は、命の瀬戸際で生きるか死ぬかの問題に直面しているわけです。

そんなときに、死にかけている意識がない人の羞恥心への配慮と、着実・確実に救命処置を行うことを、天秤にかけるような問題でしょうか? 

意識がない死にかけている当事者は何を望んでいるのでしょうか?

そう考えると、AED装着時に羞恥心に配慮するというべきか? という命題自体が、あまりに他人目線で空想的なバカバカしいものに思えてきます。

不慣れだからこそ、確実性を

襟や裾の隙間からAEDパッドを貼るように教えるのであれば、実際に練習してもらう必要があると考えます。それも練習用パッドではなくホンモノを使って。

ただのAED講習でさえ、慌ててうまくできない人がいる中、襟元から貼るようにと難易度が高いやり方を指導するのであれば、説明だけではなく練習をさせなければ指導員としては無責任でしょう。

実際のところ、受講者からはよく質問されます。女性でも服を切って完全に胸を露出させてしまっていいんですか? と。

そんなとき、指導員は、「いいんです。そうしてください。」と自信を持って答えるべきです。

しかし指導員自身が、そこを不安に思っているから、服の隙間から貼ればいい、などと無責任なことを言ってお茶を濁している部分はないでしょうか?

医療従事者向けの教育ならいざしらず、不慣れな一般の方に教えるのであれば、確実堅実なやり方、つまり服ははだけるか、引きちぎるか、ハサミで切るなどして、確実に貼付部を露出させて貼るという原則通りのことを自信を持って指導するべきでしょう。

 
 

先日、「AED 対女性使用率向上を 体覆う特製シート考案」というニュースが流れました。(大阪日日新聞2019年10月17日)

AEDをためらわずに使ってほしい、という前向きな取り組みに見えますが、逆を言えば、救命処置よりもプライバシー保護が優先であるという世論の形成をさせることにもなり、救命法の普及という点でいえば全体的にはマイナスに働く懸念もあります。

傷病者の人権への配慮もあってしかるべきですが、業務対応する医療従事者ならいざしらず、それらを一般市民に求める風潮は好ましいとは考えません。

むしろ、緊急事態なんだから羞恥心なんて言ってる場合じゃない! というコンセンサスを形成するほうが健全なのではないでしょうか?


意識・呼吸がある人には、AEDを使わない

ファーストエイド講習や、エピペン講習のシミュレーションでしばしば見受けられる場面ですが、「あなた119番! あなたAED!」というお決まりの台詞のあと、AEDが到着すると、苦しがっている模擬傷病者に対して、「念のためAEDを貼っておきましょう」という方向になりがちです。

心肺蘇生法講習の弊害というと言いすぎでしょうか? 

AEDを持ってきたら、相手がどんな状態であろうと、パッドを貼らずにはいられない条件反射に陥っているように思います。

AEDは心肺停止を確認した人にだけ装着する

2004年7月以降始まった日本でのAED講習、そこではAEDを装着する条件というのが教えられていたはずですが、いつしか心肺蘇生法講習といえばAED講習というくらいにあたりまえになった反面、AEDという機械の使用目的や、その特殊性への意識が薄れているように感じます。

AEDは、心肺停止の人に対して装着するように設計されている機械です。

救命講習を思い出してみてください。

AEDが現場に到着したときは、すでに胸骨圧迫が行われていたはずです。これが本来のあり方。

逆に言えば、胸骨圧迫を行う必要がない人には、AEDを貼る必要もないということです。

AEDは心停止の判断はできない

こう言うと驚かれるかもしれませんが、AEDは傷病者が心肺停止かどうかを判断することはできません。

AEDが解析しているのは、心電図で、傷病者が心停止であるという前提の下で、電気ショック(除細動)が必要な心停止か、それとも電気ショックが無効な心停止かを判断しているに過ぎないのです。

例えば心室細動というタイプの心電図波形(不整脈)であれば=心停止といえますが、心室頻拍という不整脈の場合は、心停止の場合もあれば、血圧が保てていて意識がはっきりしている場合もありますが、この違いをAEDは判断できません。

そのため、AEDは、その装着条件として、下記のように決められているのです。

AEDの添付文書

本装置を使用する前に、患者が以下の状態であることを確認してください。
1) 意識がない
2) 普段どおりの呼吸をしていない
3) 脈がない(熟練救助者のみ)

(中略)

非常にまれですが、除細動が不要と思われる心電図を除細動適応と判断することがあります。

AED誤動作のリスク

除細動が不要と思われる心電図をショック適応と判断してしまうというのは、機械の設計上、仕方ない部分です。

簡単にいうと、AEDは一例として心拍数180回以上で、Wide QRS(幅の広いQRS) という判定をもって心室頻拍(VT)を検出しますので、脈アリVT以外でも、例えば「脚ブロックがある発作性上室性頻拍」でも、ショック適応と誤判断する可能性があります。

このリスクを低減させる条件として、「反応なし+呼吸なし」など、心停止を確認した人だけに装着してください、という仕様となっているわけです。

これは極めてまれなケースとされていますが、胸がドキドキする、などの心臓の不調を訴える人がいて、その場にAEDがあったら装着されてしまう可能性は、今の日本社会通年の中では、現実としてありえる話です。

現実、そのようなケースが発生したことが日本でも2018年に報告されています。

症例報告:意識がある人にAEDで除細動をしたケース

意識があるのにAED?!

女子高校生が体育の授業中、動悸を訴えて保健室へ。

養護教諭は119番とAED手配をし、救急車を待つ間、会話が可能な状態だった本人の同意を得てAEDパッドを装着。

心電図解析をすると「ショックの適応です。患者から離れてください。ショックボタンを押してください」との音声アナウンスが流れた。

女子高生は不安そうに「先生、ショックされると私は痛いのかな?」と。

養護教諭は迷った末、「救命講習の時とは状況が違うけれども、AEDがショック適応です、とメッセージを発している以上、躊躇してはいけない、勇気をもってショックボタンを押そう」と考え、除細動を実行した。

 

 

電気ショック後の詳細は記されていませんが、心電図記録にショック直後から胸骨圧迫が開始されたということが記されていますから、除細動によって意識を消失したのかもしれません。

救急隊員が『ショックボタンを押されたらドカンと衝撃がきた』という言葉を聞いたことが記されていますので、その後、程なくして意識は戻ったのでしょう。

心電図記録上では、除細動のショック後も発作性上室性頻拍は続いていましたが、病院到着時にはそれが自然消失しており、循環動態には問題はなかったということです。

不要な除細動、逆に心停止にさせてしまうリスク

このケースでは、たまたま何ごともなく「ドカンと衝撃を受けた」だけで済みましたが、二次救命処置 ACLS を勉強している人はご存知のとおり、発作性上室頻拍に対して非同期の除細動を掛けると、R on T によって心室細動を引き起こすリスクがあります。つまり生きている人間を心停止にさせてしまう危険がありました。

前述の報告書の中では、

「一般人に指導する際には、「AEDはあくまでも意識を消失した人に対して装着すべきもの」であることを強調しておくことが重要である。」

と結論づけています。

立場に合わせて教育精度を再考する時期に入っているのではないか?

これまでの救命講習は、救助行動の着手に重きを置き、細かいことはともかくAEDを使ってほしい、というスタンスが強く進められてきました。

そのため、ここでAEDの危険を書いたり、

明らかに意識がある人にはAEDは使わない。

というと、AED普及を阻害するといって反対される方もいるかもしれません。

しかし、これだけAEDが広まり、人が倒れたらAEDということが常識的になったこの時代、敷居を下げるために簡略化する方向性もそろそろ見直していいのではないかと考えます。

特に養護教諭のように、心停止ありきではなく、日頃から応急手当に関わる立場の人には一般市民向けの便宜優先よりは、やや原理原則寄りの教育スタンスでいてもいいのではないでしょうか?

この養護教諭の心の葛藤もわかりますが、心停止ありきのAED講習ではなく、非心停止対応も包括したファーストエイド教育の中できちんとAEDの位置づけを学んでいれば、また違った判断ができたかもしれません。

救急対応といえば心停止ばかりと思ってしまうのが、心肺蘇生法しか知らない人。しかし、養護教諭はそうではないはず。

リスクを低く見積もるよりは、オーバートリアージのほうがいいとは思いますが、それは現場判断の話。教育としては、養護教諭向けにはもうちょっと踏み込んだものがあってもよかったように思います。

日頃、応急処置を業務としている養護教諭であれば。

 
 

とりあえず、本来のプロトコル(お約束)を一般市民向けに、強いて簡略化するなら、下記のようにするとまだ誤差は少ないはずです。

迷ったらAED、ではなく、まずは胸骨圧迫!

それでも痛がる素振りが見られなければ、AED。