業務としての市民救急一覧

現実を考えたら、人工呼吸はやっぱりポケットマスク

子どもの心肺蘇生や、水辺の事故を考えたら、人工呼吸は必須で欠かすことのできないものです。

そのため保育園での救命講習では人工呼吸練習に重点を置いた講習展開をするのですが、そこで使うのは、ポケットマスクです。

(ポケットマスクはレールダル社の商品名で、正確には「一方向弁付きフェイスマスク」というのかも知れませんが、ここでは類似商品を含めて広義でポケットマスクと表記します。)

一般市民向けの講習では、人工呼吸はしなくても良いと教えることもあるようですが、業務対応としてはそれはNGです。

また、フェイスシールドを使ったMouth to mouth人工呼吸であっても、救助者の心的ハードルの高さや、傷病者の口周りがあまり綺麗ではない状況を考えると、業務対応としては厳しいものがあります。

業務対応の救護はあらかじめ備えておくものですから、「愛と勇気」に依存するところは極力低くして、リスクを減らして無理なくできる体制と準備をすることが重要です。

そこで、結論としては人工呼吸は、ポケットマスク+ニトリル手袋、しかないと考えます。

ポケットマスクに初めて触れた保育士さんは

最近では厚生労働省が推進する保育士等キャリアップ研修でも救命処置の指導をさせてもらっていますが、ポケットマスクを初めて使った保育士さんは、口々に「これならできる!」とおっしゃいます。

それまでは、フェイスシールドしか知らなかったから嫌でもやらなくちゃいけないと思っていたところが気持ちが軽くなったという感想を聞くこともあります。

実はフェイスシールド人工呼吸がいちばん難易度が高い

講習指導としては、例えば ハートセイバーCPR AEDコース では、一人一体のマネキンを用意していますので、ダイレクトな口対口人工呼吸から始めて、フェイスシールド人工呼吸、ポケットマスク人工呼吸まで練習してもらっています。

3つのやり方を比べて、皆さんが苦戦するのは、ダントツでフェイスシールド人工呼吸です。

シートのせいで口との密着が甘くなってしまうからで、市民向けのもっとも標準的なやり方が、実はいちばん難しかったということが露呈する場面です。

人工呼吸を着実に実施してもらうには簡単・安心のポケットマスク

ポケットマスクのいいところは、Mouth to mouthに比べて簡単なだけではなく、感染防護具としてしっかりしているという点が大きいです。実際に人工呼吸をした人の体験談として、吹き込んだ後に傷病者の吐息をすき込んでしまい、自分が気持ち悪くなってしまったという話をよく聞きます。

そうです。吹き込んだら、当然、相手の肺の中の空気が吐く息として戻ってくるわけで、これがマネキン相手の練習とは違う部分です。

蘇生練習のマネキンは感染対策として、吐息は口に戻らず、マネキン内部に排出されるような仕組みになっています(レールダルのリトルアンの場合)。

ですから、mouth to mouthの人工呼吸では、吹き込んだら、一度口を離さないと匂いの混じった吐息を吸い込んで、むせこむことになります。

この点、ポケットマスクは吹き込み口の部分が一方向弁になっていて、傷病者の吐息が自分の口元には来ないしくみになっています。

これは感染防護として重要な部分です。

蘇生中に傷病者が嘔吐するケースは珍しくありません。この場合も一方向弁が有効と言えるでしょう。さらに、より確実に感染防護を考えると、ポケットマスクに標準でついているニトリル手袋も必ず併用することが重要です。

その他、傷病者の顔と自分の顔の間に距離をおけるというのも心理的な安心度が大きいと言えます。

なぜ日本の救命講習ではポケットマスク人工呼吸を教えないのか?

このような現実問題を考えた時に、業務対応の救護では、フェイスシールドのような雑貨ではなく、きちんとした感染防護具を備えておくのが望ましいわけですが、日本国内でポケットマスク人工呼吸を学べる場所・機会はほとんどありません。

ここが大きな問題です。

なぜポケットマスクを教える救命講習がほとんどないのか?

そもそも人工呼吸の重要性があまり認識されていないということもあるかもしれませんし、単純にポケットマスクという感染防具の存在を知らない人が多いということもあるでしょう。

しかし、救命法の指導員ともなれば、ポケットマスクの存在を知らないことはないでしょう。そしてその有用性も知っているに違いありません。

そうであっても指導に盛り込めないとすると、それはおそらくコストの問題があるのでしょう。

ポケットマスクは1つあたり4000円程。

それを受講者人数分そろえると、例えば30人なら12万円。

練習用なら洗浄・消毒をして再利用は可能ですが、初期投資としてはバカにならない金額です。

しかし業務スキルを教える講習であれば市民向け講習とは違うわけで決してケチってはいけない部分です。

この問題は業務プロバイダー向け研修が法的にも規定されている米国でも切実。そこでアメリカでは交換用のポケットマスクをのバルブが安く手に入るようになっています。

例えばこんな感じです。

これはポケットマスクの交換用の一方向弁100個。

定価は1つあたり1.25ドル。

フェイスシールドと同じくらいの価格です。

これを人数分だけ用意しておけば、マスクの数はマネキンと同数だけで済むというのが現実的な運用法です。

残念ながら、ポケットマスク人工呼吸法がまったくもって浸透していないので、日本国内ではなかなか流通していません。

そこで、BLS横浜では米国から輸入しています。

輸入なので送料等でかなり割高になるため、実際の運用のうえでは洗浄・消毒の上で繰り返し使用していますが、そのおかげで医療系大学でのBLS演習や保育士キャリアアップ研修など、参加者数が100名を超える研修でも現実的なトレーニングが実施できています。

BLS横浜では、善意の救護のためのトレーニングと、業務対応としての救護トレーニングを明確に区別していますが、その違いの一つがポケットマスク人工呼吸を教えるかどうかです。

家族を救護するのに、感染防護という意味ではポケットマスクは不要でしょう。しかし、業務救護では少しでも不安要素を軽減させた実践トレーニングが必要なのです。

一言で心肺蘇生法講習といっても、それがプロユースに対応しているかどうかの違い。それを指導者側も吟味すべき部分です。


市民が行う応急的に行う医行為ーそのリスクの比較

もともと市民向けの救急法の中には、医療行為は含まれない、というのが原則でした。

しかし、気づけば今はがっつりと医行為が入り込んできています。

  • 除細動(AED)
  • アドレナリン筋肉注射(エピペン®
  • 緊縛止血(ターニケット)

止血帯(ターニケット)とAED、エピペン注射。どれも市民が行う医行為ですが、リスクと危険性は違います

 
いずれも救急車を待つのでは間に合わない緊急を要する処置であるため、特例的に「医師法違反」を問わないという行政見解が出されることで市民向けにも教育がされるようになったものです。

もともと医療行為を医師以外が行うことについては、極めて慎重な姿勢があったのがこの国の特徴でした。

例えば、救急救命士精度が導入されるときの喧々諤々を医療関係者なら覚えているかもしれません。

最近で言えば、看護師に特定行為として医療処置に関する業務拡大についても紆余曲折がありました。

救急救命士や看護師と言った医学教育を受けた専門職が前提であっても、自身の判断で医療行為を行うことはまかりならない、というのが本来の医行為の「重さ」だったわけです。

この本来のスタンスを医療従事者や救命法の指導員は忘れてはいけません。

AEDによる不要な除細動実施のリスク

一般市民がAEDを使えるようになったのは、「反復継続の意図がない」という行政による合議により、医師法違反は問わないという解釈が成り立ったからですが、その背景には、AEDは自動解析機能により、不要な除細動を排除できるという「安全機構の存在」がありました。

必要のない人に除細動を実施してしまうリスクは低いという点が、機械的に保証されていたことが大きいです。(ただし脈ありVTに対して不要な除細動をしてしまうリスクが無いわけではないため、救助者は心停止確認をしてからAEDを装着する必要があります)

エピペン®誤注射のリスク

時系列でみたときに次に市民による医行為として上ってきたのがエピペン®によるアドレナリン自動注射です。

こちらは自動解析機能のようなものはありませんので、注射をする、しないの判断は注射する当事者である一市民が行うことになります。

判断をAEDのコンピューターに丸投げできる市民による除細動と比べたときには、格段にリスクが大きいと言えます。

ただし、現時点、行政文書で言及されているエピペン®注射を行える一般人は学校教職員と保育所職員だけというのがミソです。どちらも施設で預かっている児童・幼児を想定しており、見ず知らずの誰かに対して注射するわけではありません。

注射判断は、当該児の保護者だったらいつ打つか、ということを綿密に確認した上で行われるはずです。

また当該児は、アナフィラキシー発症リスクが診断されているからエピペン®を持っているのであって、その子がこういう症状が出たら打つようにという保護者が医師から受けた指示に従うだけです。症状の理解等の医学的な判断が求められているわけではありません。

ある意味、条件反射的に使えるのが、学校教職員と保育所職員のエピペン®注射です。

つまり、「エピペン®を預かる」というプロセスが、安全機構のシステムにもなっており、誤注射の可能性低く担保されていると言えます。

ターニケット誤使用のリスク

市民が行う医行為として3番目に上ってきたのが、止血帯(ターニケット)による緊縛止血法です。

こちらは、2019年4月から市民普及が始まるところなので、実際のところどのように運用されるのかは、今は未知数のところがありますが、使用するかどうかの判断は機械任せではなく、現場にいる人間が行うという点ではAEDと違ってリスクがあります。

またエピペンと違うのは、使う相手が不特定多数であり、エピペン®のような使用すべき個別判断というものはありません。

救助者が、現場とケガの状況を見て、持っている知識や経験の中から判断し、決断しなければなりません。
 
 
止血帯(ターニケット)とAEDの危険性の違い

参考まで、こちらはBLS横浜のターニケット講習の際に示している表です。AEDと同じように止血帯の普及を! という意見を見聞きすることもありますが、AEDとターニケットを同列で語るには無理があるという点がおわかりいただけるかと思います。

拍動性の動脈出血=止血帯適応ではない

一般の人にとっては衝撃的な動脈からの拍動性の出血。見たことがない出血の様子に、止血帯適応と早合点するかもしれませんが、圧迫可能な創面であれば単純な圧迫止血で対応できる場合が多く、止血帯までは必要ない症例が多いでしょう。

例えば、大腿部の切断や、爆創や大型機械への巻込みなどで創面が複雑な場合など、客観的に止血帯が必要な状況というのをリストアップして、機械的な判断ができるようなガイドラインが作成されれば、また別かもしれません。

しかし、現時点では、ターニケットを使うためには、下記の項目を理解して、医学的な根拠をもって、現場でアセスメントして止血帯使用の有無を判断するようにということになっています。

  • 出血に関連する解剖、生理及び病態生理について
  • 止血法の種類と止血の理論について
  • ターニケットの使用方法及び起こりうる合併症について

医学的な理解を持って判断して、医療行為を行うように。

つまり「診断」が求められているという点が、これまでのAEDやエピペンとは決定的に異なる部分です。

市民に診断を求めるというターニングポイント【ターニケット】

「診断」という言葉の重み、医療従事者や福祉専門職にとっては身に染みて感じるところでしょう。

市民が行う医行為について、時系列で考えてきましたが、ターニケット緊縛止血が今までと決定的に違うのは、診断をした上で使うという、これまで市民救急法ではありえなかったことを市民に求めるようになってことにあります。

AEDもエピペンも診断は必要なかったので、そのトレーニング(AED講習やエピペン講習)は、テクニカルな手技をトレーニングするだけでも成り立ちましたが、止血帯は、その適応判断という診断をも教えなければいけないのです。

 
医学の素養のない市民に診断を教える
 

ターニケット講習は、極めてハードルが高いものです。

問題としたいのは、そのカリキュラムだけではなく、指導員の知識と理解、認識です。

本稿を読んでくださっている方は、この先、ターニケットを市民に教えなければいけない立場の方が多いと思いますが、本稿を読み、どのように感じたでしょうか?

教えるだけの知識や理解を持ち合わせていますか?

もしくは指導員のための教育カリキュラムで、これらのことがきちんと伝えられていますか?

現時点、指導員のための伝達講習が進行形で、実際の市民向け教育はこれからかと思います。だからこそ、この時期にターニケット教育に関する情報を集中的に提供させていただいています。


中学校での心停止事案、人工呼吸を巡る裁判

救命処置を巡る訴訟に関する報道があったのでクリップしておきます。

心肺蘇生法において人工呼吸の省略の是非を問う裁判に関する報道記事

(NHK大分NEWS Web 2019年2月14日付)

 

2016年の人工呼吸省略に関する判例

争点のひとつとして「心臓マッサージだけで、人工呼吸は行わず、救命措置が十分でなかったなどの過失があった」としている点に注目しました。

これは2016年の仙台での判例として、11歳の子どもの救命処置に人工呼吸をしなかったのは過失であるとの判決が出たことと関係あるのかもしれません。

 

人工呼吸をしなかったことが過失と認定された裁判例

 

2016年のケースは、胸骨圧迫のみのCPRをしたのは診療所の看護師でした。

医療従事者と学校教職員では、責任の度合いが違うかもしれませんが、裁判長が引き合いに出した日本国内のJRC蘇生ガイドラインでは、小児BLSに関しては医療者と学校教職員は区別されていません。

この裁判結果を見たときに、近い将来、学校教職員に対する裁判でも人工呼吸の有無が争点化されるのではないかと予想していたところでした。

今回のケース:小児BLSなのか成人BLSなのか

今回のケースでは、中学3年生ということで、蘇生ガイドラインの区分で言ったときには、小児ではなく、成人として判断される可能性が高いのではないかと考えます。

蘇生科学の上では、成人と小児の境目は、思春期を迎えたか どうかで判断します。

思春期前の小児では、呼吸の未熟さが残っている故に呼吸原性心停止を疑います。そのため小児BLSでは人工呼吸の省略は推奨されていないのですが、今回は中学3年生です。

それに報道を見るかぎり「不整脈を起こした倒れ」とあり、心原性心停止が示唆されています。

このことから人工呼吸をしなかったことを過失とまで言えるのかは、ガイドライン的にも結果論としても難しいのではないかと考えます。

裁判所の判決が気になるところです。

 

体力テスト死亡訴訟で学校側争う

02月14日 12時18分

3年前、大分市にある私立中学校で男子生徒が体力テストの最中に倒れて亡くなった事故をめぐり、生徒の両親が、学校側には体調の確認を怠るなどの過失があったとして合わせて4800万円余りの損害賠償を求めた裁判が14日から始まり、学校側は争う姿勢を示しました。3年前、大分市にある私立岩田中学校の3年生だった柚野凜太郎さんは、体育の授業中に体力テストで走っていた際、突然、不整脈を起こして倒れ、心肺停止の状態で病院に運ばれましたが、2日後に亡くなりました。

これについて、柚野さんの両親は、担当教諭が体調の確認を怠ったほか、心臓マッサージだけで、人工呼吸は行わず、救命措置が十分でなかったなどの過失があったとして、学校と担当教諭に対し、合わせて4860万円余りの損害賠償を求める訴えを起こしています。

14日から大分地方裁判所で審理が始まり、学校側は訴えを退けるよう求めました。
詳しい主張については今後、書面を提出して明らかにするとしています。

この事故の対応をめぐって学校側が立ち上げた有識者の外部調査委員会は、報告書の中で、安全の配慮に問題があったと指摘した一方で、死亡との因果関係は不明だとしています。

NHKニュース:https://www3.nhk.or.jp/lnews/oita/20190214/5070003010.html


蘇生現場でポケットマスクを使った後の洗浄・消毒

人工呼吸用のポケットマスクは、一度使ったら再使用できるんですか?

そんな質問をよくいただきます。

ポケットマスクの洗浄・消毒と交換パーツ

ポケットマスクとは


家族相手ならいざしらず、職業的に救命処置にあたる人にとって、いくら救命のためとはいえ、口対口人工呼吸はありえません。(医療従事者が病院内でダイレクトなmouth to mouth人工呼吸をしてしまったら、それは感染事故です)

感染防護機能や、医療機器承認を受けているかという点では、現実的なところで人工呼吸をしようと思ったらポケットマスクが最低ラインと考えています。

そのため、BLS横浜では、保育士や学校教職員など職業人向け心肺蘇生法研修では、ポケットマスク を基本として練習して頂いています。

ポケットマスクは洗える部分と使い捨ての部分で構成されている

結論からいいますと、マスク部分は洗浄消毒可能、フィルターと一方向弁(マウスピース部分)は交換、というのがメーカーの推奨です。

フィルターは構造上、洗浄ができないので、再生使用はできません。無理やり洗うことはできるかもしれませんが、繊維状の部分の目が潰れてしまって通気が悪くなるので現実的ではありません。

そのため、マネキン相手に練習する場合は、フィルターは外しておくことを推奨しています。BLS横浜で講習中に貸し出しているポケットマスクにフィルターがついていないのはそのためです。

一方向弁(マウスピース部分)については、マネキンでの練習の場合は、洗浄・消毒して再生使用することはできますが、実際の傷病者に対して使った場合は、なるべく交換する方向で考えたほうがいいかと思います。現実的にはフィルターをつけていれば、吐瀉物等が一方向弁まで及ぶことはないと思いますが。

ポケットマスクの洗浄方法


さて、マスク部分と一方向弁の洗浄についてですが、洗い方は家庭用の食器洗いと同じです。

スポンジなどに食器洗い洗剤をつけて普通にこすり洗いします。

一方向弁の内側については、哺乳瓶などの筒物を洗うときのブラシを使います。100円ショップなどで太さ違いのものがセットで手に入ります。

消毒前には洗浄が必要

外部の救命講習の手伝いに行くと、ポケットマスク使用後に洗わずに消毒液入りのバケツにボチャンと漬けているのを見ることがありますが、これは間違いです。

消毒前には、タンパク成分を落とすための洗剤での洗浄が必要です。消毒薬はタンパク成分を固着させる働きがあるからです。これは医療界の常識です。

ポケットマスクの消毒方法


洗剤をすすいだ後、0.5%の次亜塩素酸ナトリウム水溶液に10分間浸漬し、その後、水洗、自然乾燥 というのが正式な消毒方法になります。

次亜塩素酸ナトリウムというのは、家庭用の漂白剤と同じ成分です。キッチンハイターを薄めて作れます。

0.5%というのは恐らく米国のEPA勧告に従ったものと思われますが、実際のところかなり濃い目で、家庭で扱う上ではすこし危ない気もします。

そこで、ノロウィルス対策などでも一般的な0.1%の溶液に少し長めに漬けるというやり方でいいかと思います。

家庭用のキッチン用漂白剤の場合、濃度は6%程度ですので、500mlの水に対してペットボトルのキャップ2杯くらいです。

この濃度でも、服に跳ねると色落ちしますので、気をつけて。

ポケットマスクの交換パーツ


本来、ポケットマスクのフィルターと一方向弁は単回使用の使い捨てですから、製品として交換パーツも販売されています。

アップデートパック ということで、フィルターと一方向弁のセットのものが販売されていますが、価格は約2千円。

ポケットマスクは新品で買っても2700円程度ですから、実際に傷病者・患者に使って汚染されたのであれば、まるごと新品に変えてしまったほうが精神衛生上もいいのではないかと思います。

その他、フィルター だけを単体で買うと約700円。一方向弁(吹き込み口) だけだと約1600円。

いずれにしてもメーカー純正品は高いですね。

米国では練習用のサードパーティー品が多数あるので、ある程度数をまとめて購入するのであれば輸入のほうがおすすめです。


「エピペン&小児BLS」講習は応用力を鍛えるプログラム

今日は、湘南のインターナショナル・スクールで「エピペン&小児BLS」講習でした。

 

これは単に「エピペン講習」と「小児心肺蘇生法講習」をくっつけただけではなく、その間をシームレスにつなげたBLS横浜オリジナル講習です。

この2つの間をつなぐのが、「生命危機の評価と観察の視点」です。

アナフィラキシーを起こした子どもがどのように命を落としていくか、またそこに「介入」することで、どのようにして生に向かって転じていくかを知れば、エピペン注射や気道確保、人工呼吸と胸骨圧迫の意味と必要性が理解できます。

その過程で体に起こる変化を見て、好転しているのか、悪化しているのかを予測して、介入し、観察・記録して救急隊員に引き継ぐこと。

こんな、エピペン講習だけ/BLS講習だけではない、新たな価値観で両者をつなげたのがBLS横浜の工夫です。

結局、「エピペン&小児BLS」講習の中身はファーストエイド講習の本質部分にかなり食い込んでいると言えます。アナフィラキシー・ショックとCPRを例題にして、末端技術にとらわれないファーストエイド的思考の理解を促したと言えるかもしれません。

その証拠に、この研修の後、受講いただいたインターナショナル・スクールの先生たち(特別な医療の知識がある方たちではありません)にこんな質問をすると、教えたわけではないのに自分たちで考えて答えを導き出せました。

 

「子どもが突然けいれん発作を起しました。痙攣が停まった後、意識がなさそうです。なにを観察して、どう行動したらいいですか?」

 

人が生きるしくみと死ぬしくみを理解すれば、痙攣のファーストエイドを勉強していなくても、問題の本質を考え、対応できるようになるのです。

実際のところ、けいれん発作の原因は、てんかんかもしれませんし、低血糖かもしれませんし、熱中症かもしれませんし、突然の心停止かもしれません。

病名を探ろうとすると、思考停止に陥ります。医師ではない人間がわかるわけありません。しかし原因は何であろうと、今は目の前に意識がない子どもが倒れているのです。そんな本質に気づけば、簡単です。

  • 呼吸確認をする → 10秒でよくわからなければCPR開始と119番
  • 呼吸をしていれば、気道確保(体位と口腔内確認)と119番、呼吸が停まらないか観察を続ける。余裕があれば転倒時の外傷チェック等
  • 呼吸が停まれば、CPR開始

基本的な考え方を「理解」すれば、ファーストエイドはそれほど難しいものではありません。

幅広い知識より、この本質部分を伝えていきたいと思います。

 

※「エピペン&小児BLS」講習は、次回、公募で6月12日(火)に開催します。若干名残席あります。 → BLS横浜ホームページ


「パニックで人工呼吸できず」・・・業務上過失致死容疑送検|指導側の対策は?

読売新聞2017年10月6日付でこんなニュースがありました。

無痛分娩死で院長「パニックで人工呼吸できず」 読売新聞

無痛分娩死で院長「パニックで人工呼吸できず」
大阪府和泉市の産婦人科医院「老木(おいき)レディスクリニック」で1月、麻酔で出産の痛みを和らげる無痛分娩(ぶんべん)をした女性が死亡した事故で、担当した男性院長(59)が府警の調べに、「人工呼吸をしようとしたが、パニックになりできなかった」と供述していることが、捜査関係者への取材でわかった。

府警は、救命に必要な処置を怠ったとして、6日に院長を業務上過失致死容疑で書類送検する。

無痛分娩を巡り、医師が書類送検されるのは異例。院長は容疑を認めている。

捜査関係者によると、女性は同府枚方市の長村千恵さん(当時31歳)。院長は1月10日、長村さんに局所麻酔を実施。長村さんが呼吸困難を訴えたのに、経過観察を怠って容体急変の兆候を見逃したうえ、急変後も人工呼吸を行わず、同20日、搬送先の病院で、低酸素脳症で死亡させた疑いが持たれている。

(2017年10月6日(金) 7:05配信 読売新聞

先日、耳鼻科クリニックで小児の心停止で、(胸骨圧迫のみで)人工呼吸をしなかったことが「過失あり」と認定された ケースを紹介 しましたが、医療機関内における救急対応でも、その中身や質が問われる時代になってきています。

いざという時は慌ててしまって、準備していたものが100%発揮できないというのは、人間としてありえることですが、それを押してでも対策を考えておかないといけないのかもしれません。

AHA蘇生ガイドライン2010で書かれていた点ですが、いざという時に対応できなかった理由の第一位は「パニックになった」(37.5%)でした。

そのため、次のように勧告しています。

「CPR訓練によってパニックの可能性に対処し、パニックの克服方法を考えるよう受講者に促すことは効果的である」 (クラスIIb LOE C)

救護義務と訴訟を考えたときに、まず問題とされるのは「体制」です。

つまり、きちんと訓練・準備されていたかどうか、です。

学校などでも、しばしば対応マニュアルがあったかどうかが問題とされるのはこの部分になります。

そして訓練をしていたかどうか?

先の耳鼻科クリニックの例に関して言えば、判決の中で医師はBLS訓練をしていなかったことも俎上に上がっていました。

そして仮に訓練がなされていたとしても、その中身が問われる時代になりつつあります。

この産科クリニックの例のようにパニックになってできないというのは、ある意味想定内のことです。

だったら、訓練の中でパニックに対応するようなトレーニングをしていたか、が問題となってもおかしくありません。

ここから、CPR訓練提供者であるインストラクター側の問題として考えていきますが、私たちは蘇生ガイドラインが勧告しているような「パニックの克服方法を考えるよう受講者に促す」ようなトレーニングを提供しているでしょうか?

ありきたりの技術練習に終わるのではなく、受講者が慌ててパニックに陥るようなシチューションを提示し、対応してもらう機会を作ることが重要だと言えます。

この点、AHA-BLSプロバイダーコースでは、2015年のコース改定で「パニックの克服方法を考えるよう受講者に促す」ための訓練とも言うべきものが導入されました。

それが、「ハイパフォーマンス・チームアクティビティ」と呼ばれる10分間のチーム蘇生を行う場面です。

受講者4~6名程度で、どう行動するかが試されるこの場面、シナリオ提示の仕方によっては、効果的なパニックガード訓練にすることができます。

これに限らず、リアルな状況を設定して、そこに予想外の展開を仕込むことによって、パニックを疑似体験させて、その後の振り返り(リフレクション/デブリーフィング)によって「パニックの克服方法を考えるよう受講者に促す」ことができます。

これは、時間が許す限り、どんなCPR講習の中でも、取り入れたい内容ですね。

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人工呼吸をしなかったことが過失と認定された裁判例

少々古い話になりますが、2016年に出た心肺蘇生に関する判決についてクリップしておきます。

女児救命措置に過失 診療所に6100万円賠償命令
女児救命措置に過失 診療所に6100万円賠償命令
仙台市泉区の診療所を受診後に死亡した宮城県内の小学5年の女児=当時(11)=の遺族が、診療所を運営する同区の医療法人に約6800万円の損害賠償を求めた訴訟の判決で、仙台地裁は診療所の過失を認め、約6100万円の支払いを命じた。判決は26日付。
大嶋洋志裁判長は「診療所は、救急蘇生のガイドラインで義務付けられた人工呼吸をしなかった。適切に蘇生措置をしていれば助かった可能性が高い」と述べた。
判決によると、女児は2011年8月、診療所で中耳炎の治療中に意識を失った。看護師は心臓マッサージはしたが、人工呼吸はしなかった。救急隊が人工呼吸を始めたが、女児は重い低酸素脳症を経て約3週間後に死亡した。医療法人の担当者は「弁護士に任せており、答えられない」と話した。河北新報
2016年12月28日水曜日
http://www.kahoku.co.jp/tohokunews/201612/20161228_13014.html

診療所での救命処置の中で人工呼吸を行わなかったことが、過失と判断されたという事案です。

この報道から考えたことを書き留めておきます。

皆さんは、この報道を目にして、どのように感じたでしょうか?

・人工呼吸はしなくてもいいと教わったけど?
・そこまで求めるのは酷だ
・こんな判決が出たら誰も手出しをしなくなってしまう

この報道が流れたのは2016年の年末。残念ながら、リアルタイムで目にしたわけではないのですが、当時、このような論調が多かったのではないかと想像します。

本件を考える上で、勘違いしてはいけない重要なポイントは次の2点です。

・傷病者は子ども
・診療中の出来事であり、医療従事者の対応であった

まずは、これが「子ども」の蘇生であったという点。これが世間の認識とは少し異なる判決となった要因です。昨今、「人工呼吸はしなくてもよい」という論調が多勢となっていますが、これは成人傷病者を前提とした市民啓蒙のための簡略化であり、医学的に人工呼吸が不要となったわけではありません。

そして次に、本件は医療機関内で免許を持った医療従事者に対する「業務上の過失認定」であるという点を正しく理解する必要があります。プロが行う仕事としての救命処置である、ということです。ですから、この判決が出たからと言って、通りすがりの立場で救護にあたる市民救助者が萎縮するような話ではありません。

この2点を、もう少し詳しく解説していきます。

1.子どもの蘇生法は大人とは違う

蘇生科学の世界では、一般的に子どもと大人では心停止になる要因が違うため、対応の優先順位が異なるとしています。

大人の心停止は心原性心停止が多く、心室細動に代表される心臓のトラブルによって、心臓が停まり、それとほぼ同時に意識消失ならびに呼吸が停まると考えられます。この場合、心肺が突然にほぼ同時に停まるため、倒れる直前までは普通に呼吸をしています。

そのため、血液中には酸素が十分に残っていますので、胸を押して血流を作り出すだけで、脳細胞や心筋細胞に酸素供給を続けることができます。

だからこそ、胸を押すことが優先され、倒れた直後であれば人工呼吸は必ずしも行わなくても良いと言われているわけです。

しかし、子どもの場合は、一般論として呼吸原性心停止が多く、呼吸のトラブルから、まず呼吸が停まり、その後、遅れて心臓が停まる、というケースが想定されます。

つまり、心臓が停まる原因は、呼吸停止により、血液中の酸素を使い切ったことによる酸素不足です。そんな状態で胸骨圧迫のみの蘇生をしたらどうでしょうか?

胸骨圧迫により、血液は巡りますが、血液中の酸素は使い切った状態ですので、心筋細胞と脳細胞に酸素を供給するというCPRの目的を達することはできません。

この場合、人工呼吸によって、大気中の21%の酸素(呼気にも17%の酸素が含まれます)を血液に溶け込ませるというステップが欠かせないというのは理解いただけると思います。

そのため、蘇生のガイドラインでは、子どもの蘇生に関しては、人工呼吸は重要で欠かせないものと位置づけています。感染防護等の準備ができ次第、ただちに人工呼吸を行うことを求めているのです。

さらには、可能であれば胸骨圧迫より、人工呼吸を先に開始することさえ提唱されています。

参考過去記事 → 「溺水の救命のポイントは人工呼吸

2.業務対応としての救命処置と、善意の救急蘇生は違う

子どもの蘇生では、人工呼吸が欠かせないという医学的な理由はご理解いただけたと思います。

人工呼吸は必須というと、体液・血液感染のリスクを負ってまでやらなくてはいけないのか、と疑問に思うかもしれませんが、このあたりは業務としての救命処置なのか、責任がない立場での偶発的な対応なのかが分かれ道です。

通りすがりでたまたま遭遇した子どもの急変に第三者的に関わるのであれば、胸骨圧迫だけでも119番通報するだけでも、自分の安全(感染の問題も含めて)を優先して、できる範囲のことを無理せず行えば十分です。

しかし、今回の事案は、診療所での診療中に起きています。

ですから、感染防護具が準備できずに人工呼吸ができなかった、という言い訳は成り立ちません。

そして、当事者は小児も扱う耳鼻科クリニックの医師と看護師であり、子どもの蘇生には人工呼吸が必要であるという判断ができる立場の人たちです。

ここが、人工呼吸をしなかったことが過失と判断されたポイントと思われます。

医療業務として、やるべきことをしなかった。

もしくは、救急対応ができてしかるべき診療所であるにも関わらず、人工呼吸のデバイスを準備していなかった、もしくは人工呼吸のトレーニングをしていなかったことが、システムの不備、注意義務違反と解釈されます。(参考まで、原告の訴えとしては静脈路確保とアドレナリン投与【二次救命処置】をするべきであったと主張してますが、それは却下されています。)

蘇生ガイドラインは5年ごとに改定されていますが、事案が発生した2011年当時の心肺蘇生法ガイドラインでも、そのひとつ前の2005年ガイドラインでも、子どもの心肺蘇生法では人工呼吸が必要であるという点はずっと変わらず言われている点です。

3.考察

昨今の心肺蘇生法に関する世の中の認識を見ていて感じるのは、市民向け、かつ心原性心停止前提の蘇生法の知識(胸骨圧迫+AEDこそがすべて、みたいな)が広がりすぎて、医療従事者をはじめたとした責任のある立場の人たちが心肺蘇生法について誤解しているのではないかという気がしてなりません。

今回の仙台の事案でも、被告側は、人工呼吸をしなかった正当性の理由のひとつとして「救急医療の専門家が行うものではない段階におけるCPRにあっては,胸骨圧迫のみによる蘇生が推奨された時期もある」という理由を挙げています。

いわゆるHand Only CPRが世界に公表されたのは2008年で、当時は、人工呼吸の省略が許されるのは、「病院外で成人が目の前で卒倒した場合」に限定されており、さらに、子どもや溺水、薬物過量などが疑われるケース(つまり呼吸原性心停止疑い)には適応されず、人工呼吸も行うべきである点が強く強調されていました。

つまり、当時から医療従事者が業務中に行う蘇生に対してはHands only CPRは適応外であり、CPRといったら、人工呼吸+胸骨圧迫である点は、2017年の今に至るまで変わっていません。

医療従事者であっても、人工呼吸準備に時間をかけるなら、まずは胸骨圧迫を始めるというのは正しい判断ですが、その後、スタッフが集まってきて準備ができ次第、人工呼吸を開始するのは、大人であっても子どもあっても同じです。決して人工呼吸をしなくていいと言っているわけではないのです。

心肺蘇生法は、社会啓蒙としての蘇生と、業務としての蘇生では別の流れがあるのですが、この点を医療従事者が把握していないのは残念なことです。市民向けの情報番組を鵜呑みにするのではなく、きちんと医学的に学んでほしいところです。

口対口人工呼吸をしろと言っているわけではありません。

医療機関では然るべき人工呼吸のバリアデバイスを準備して、その使用方法は訓練しておく、というシステムの問題と捉える必要があります。

人工呼吸を試みたがうまくできなかったということが問われているのではなく、準備対策をしていなかったことが問題になっている点には注目すべきです。

この判例について、「厳しい」と感じる医療者の方もいるかもしれません。免許取得過程で小児の救命法を教わっていないというのも事実かもしれません。

しかし、市民の目からみたら、病院勤務の医療従事者であれば、然るべき対応ができると期待しているのは紛れもない事実です。

それに対して、自分の時代は教わっていないからできなくても仕方ない、と遺族に対して面と向かって言えるでしょうか?

然るべき対応とはなにかの判断基準が、判決でも取り上げられているように日本蘇生協議会のJRC蘇生ガイドラインです。今回は、そこに書かれているエビデンスレベルや推奨度も検討され、クリニックにおけるアドレナリン投与までは求めないものの、人工呼吸は行うべきであったと司法は判断しました。

このニュースを聞いて、少しでも心を揺さぶられるのを感じたのであれば、市民啓蒙のための簡略化された救命法ではなく、医療従事者向けの、そして小児BLSを学ぶことをおすすめします。

日本蘇生協議会のJRC蘇生ガイドラインはPDFで全文公開されています。

ぜひ、第1章 一次救命処置(BLS)と 第3章 小児の蘇生(PLS)だけでも目を通して見てください。

 

http://www.japanresuscitationcouncil.org/jrc蘇生ガイドライン2015/

 

そして、ご自身が勤務する施設に置いてある人工呼吸のためのデバイスを確認してください。

どこになにが置いてありますか?

そして、それを使うことはできますか?

もし、備品としてないのであれば、AEDと合わせて換気器具を配備することと、その訓練を提案してはどうでしょうか? AEDのように高価なものではありません。ポケットマスクなら3,000円程度、バッグバルブマスクでも、ディスポーザブルのものが1万円以下で買えます。

裁判官の判決にあった「適切に蘇生措置をしていれば助かった可能性が高い」という判断や、蘇生ガイドラインが義務であるという表現に引っかかりを感じる部分もあります。しかし、事例から私たちは未来をより良くする改善に目を向けたいと思います。

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幼稚園の救命講習 親向けと教職員向けの違い

先日、横浜市内の幼稚園で親御さん向けに「子どもと赤ちゃんの救急蘇生法」講習を開催させていただきましたが、同園では去年8月に教職員向けの「小児BLS&エピペン研修」を開催しました。
 

BLS横浜オリジナルの子どもCPRとファーストエイドのアルゴリズム

 
小児マネキンを使って、こども(1歳〜思春期まで)のCPRを教えるという点では同じですが、先生向けと親御さん向けで同じ展開をしたわけではありません。
 
それは幼稚園の先生と親御さんでは、立場がまったく違うからです。
 
例えば人工呼吸の方法が違います。
 
親御さん向けにはマウスtoマウスの人工呼吸を指導しますが、幼稚園の先生向けにはポケットマスクを使った人工呼吸で練習してもらいました。
 
唾液などへの接触によって病気が感染するリスクは高くはないとは言われていますが、子どもとは言え他人に口をつける動作を抵抗なくできる人はいません。
 
子どもの蘇生法では人工呼吸が特に大事と言われていますから、着実に人工呼吸をしてほしいと考えたら、フェイスシールド系のものではなく、やはりポケットマスクです。(園には2つ配備されています)
 
また幼稚園の教職員は、業務中の救急対応を想定していますから、一人法CPRだけではなく、胸骨圧迫の交代の仕方も含めて、二人法CPRの連携についても強調して練習してもらいました。

それに記録をつけておくことも重要ですね。119番通報を声を出して行ってもらうのはもちろん、シミュレーションの最後は、救急隊員への報告をしてもらうことで、時間経過や実施したことをきちんと記録に残すことの大切さを実感してもらえるような展開にしました。

学校で心停止時案ともなれば、その後、報告書をまとめることになります。なので時間記録はとても重要です。ここがはっきりしていないと訴訟に発展したりするのが一般市民とは違うところです。
 
また練習をする上での動機づけも、教職員は「救護義務がある」という点で親御さんとは決定的に違います。
 
いざとなったら救命処置を行わなければならないという責務を負っているのが学校教職員です。
 
ですから、職業意識やプロフェッショナリズムに根ざした動機づけや指導が必要です。中身も形だけの体験学習のようなものではなく、「しっかりと身につける」ためにはある程度の練習量と、それに見合ったマネキン配置、スタッフ配置、そして時間が必要となります。
 
命に関わることをインスタントに終わらせてはいけない、そう考えています。
 
 
同じ幼稚園で、続けて2つの救命講習を企画させていただきましたが、そんな違いについて再認識した次第です。
 
 


幼稚園での「小児BLS&エピペン」研修

先日、幼稚園で「小児BLS&エピペン」研修を担当させていただきました。園の教職員ほぼすべての20名が参加してくださり、小児マネキンとポケットマスクを使った子どもの蘇生法とエピペンで2時間半で。
 

小児マネキンとポケットマスク

 
施設内の研修ですから、現実に即して日頃AEDが置いてある場所まで走って取りに行ってもらいました。ポケットマスクも現実的には日頃持ち歩くものではないので、まずは胸骨圧迫でCPRを開始して、AEDが到着したらポケットマスクで人工呼吸を開始、という流れで練習をしていきました。
 
講習会場で行う公募講習と違って、施設への出張講習では、シチュエーションを具体的に限定したトレーニングを行えるのが強みです。
 
エピペン研修では、BLS横浜得意のシミュレーション訓練で、119番通報の具体的なやり取りや、救急車の侵入経路の検討など、園としての救急対応全般について、全職員で同じ認識を持つことができました。
 
幼稚園や保育園、学校での救急法は個人技能ではありません。
 
システムとしての対応という視点が必要です。
 
救急法トレーニングは園を上げて行う防災訓練。
 
そんなメッセージが伝わったと確信を持てる感想を園長先生からいただけたのは、救命法インストラクターとしての喜びでした。
 
 
 

 
 

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保育士が書いた保育安全ガイドブック-「保育救命」

今日紹介するのは、「保育士が書いた応急手当の本」です。
 

 
珍しいかもしれません。
 
ふつう、救命法とか応急手当の解説書というと、医学的な内容なことから医師などの医療従事者が書くことが多い印象です。そのため、どうしても医療者目線の内容、どれも似通った切り口で書かれがち。
 
応急手当や救命への意識や目線が、医療従事者と一般の方では相当違いますので、市民向け本としてはすこしピントがずれているということもあります。
 
その点、保育士が保育士目線で書いた保育園での安全を考えた本ということで、現場の方にはドンピシャな内容なのではないでしょうか?
 
 
 
本屋で見かけたらぜひ手にとってほしいのですが、保育救命はただの応急手当のマニュアル本ではありません。応急手当という限局された視点ではなく、もっと広い範囲で上から見下ろすような、保育の現場での安全を俯瞰したガイドブックです。
 
 
 第1章 ハザードマップを作ろう
 第2章 保育現場で重大事故になりやすいトップ3
 第3章 保育現場で起こりやすいケガ・症状
 第4章 保護者対応と研修の大切さ
 
 
特に大切なのが第1章です。
 
筆者の遠藤登さんは、事故事例や、危ない!と思った「ひやりはっと」を書き留めて、職員で共有することを提唱しています。
 
室内で、園庭で、そしてお散歩の時など、どんなキケンがありそうかを地図に書き入れて、ハザードマップを作ることで、危険性を可視化していくのです。
 
その地図を職員に目立つところに貼っておいて、日々、情報を更新し、朝のミーティングなどで積極的に情報共有していくことが、事故を未然に防ぐ対策につながり、個々の意識づけになります。
 
応急手当というのは、起こってしまった後の対応であり、いわば最終手段であるという点を忘れてはいけません。
 
応急処置の勉強にのめり込んでしまうと、ケガした後どうしようという部分に視点が行きがちですが、一歩目線を引いいて考えれば、事故が起きてからの対応を学ぶよりも、事故を起こさないことを学ぶのが先、ということは熱心な人ほど意外な盲点になりがちです。
 
ちょっとした工夫で防げる事故も多いわけですから、まず取り組むべきは園全体の意識づけと共有で「防ぐ」取り組みなのです。
 
小児の救命の連鎖の最初の輪は、昔から「予防」です。
 
そんなことを思い出させてくれて、具体的に何をしたらいいかを提案してくれているという点でも、やはり現場の方が書かれた本なんだなと強く感じます。
 
 
まえがきで書かれていますが、筆者の遠藤登さんは、ご自身が保育園の園長をしていたときに、午睡中に子どもの心停止事案に直面したことがきっかけで、保育の救命救急や安全管理に関わる仕事をするようになったそうです。
 
その後、いろんなことと向き合い、考え、活動してきた中で辿り着いた、すべてのキケンを排除するのではなく、リスクと向き合いつつ学びを最大にしていく、という遠藤さんの理念が詰まったのがこの1冊です。
 
ただの応急手当のマニュアル本ではないところの所以です。
 
その他、特筆すべき点をあげるとすると、
 
・保育の現場では、「注意義務」があるという視点
・記録の大切さ
・手袋の使用や下痢・嘔吐の処理などの感染対策
・保護者対応
・ワークショップの開き方
 
などが、他にはない視点で非常に勉強になると思います。
 
保育士はもちろん、幼稚園や小学校の教職員にとっても参考になる情報源といえるでしょう。
 
保育園・学校現場の安全は、養護教諭や保育所ナースの個人的な力量に左右されるようなものではなく、全職員を含めた施設としてのシステムの問題です。誰か1人が意識が高いだけでは有効なパフォーマンスは発揮できません。
 
職員全体で共通認識を持つためにも、「保育救命」を施設の休憩所にいつでも読めるように置いておくというのもいいかもしれません。
 
 
 

 

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