「あなたAED使えますか?」 謎の問いかけの意味を考えた

市民向け/医療者向けを問わず、救命講習やBLS講習の練習場面で「AEDを持ってきました!」となると、

「あなたAED使えますか?」

と言う方が、少なからずいらっしゃいます。

以前、どこかの救命講習で教え込まれたのが残っているのでしょう。

 

救命講習でのこんなやりとりは、珍しくありません。

胸骨圧迫しているところにAEDが届きました。

「あなた、AED使えますか?」
「いいえ、使えません」
「じゃ、胸骨圧迫を替わってください!」
「はい!」

今となっては、「なんでAEDの使い方を知らないのに心臓マッサージができるんだよ?」とツッコミどころ満載ですが、実はこれはAEDの市民使用が解禁された当初の事情が関係しています。

一般市民がAEDを使えるようになったのは2004年7月からです。それ以前の救命講習にはAEDは含まれていませんでした。

ですから、2005年前後の頃は、救命講習で胸骨圧迫を教わっていても、AEDのことは知らない人が多かったのです。

そんな時代の決まり文句が、「あなたAED使えますか?」だったというわけです。

 

2004年のAED市民解禁から早20年。

今では、救命法と言えば胸骨圧迫はしなくてもAEDだけは貼っておくみたいな認識の時代になっています。(それは間違った認識ではあるのですが)

そんな時代に「AED使えますか?」の問いかけは、ちょっとピント外れですよね。いまでもそんな教え方をしている救命法指導員がいるとしたら、完全に時代に取り残されています。

それでは、胸骨圧迫しているところにAEDが届いた場面ではどうしたらいいのでしょうか?

AED講習「あなたAED使えますか?」

AEDが届いたら言うこと:「AEDを開けて電源を入れてください」

AEDを使えますか? と尋ねることが間違いとはいいませんが、そう聞かれた人の気持ちを考えてみてください。

救命講習でAED練習機を触ったことがあっても「使えるか?」と聞かれて「はい!」と即答できる人がどれだけいるでしょうか?

「何年も前に救命講習で教わったけど、使い方ってどうだっけ?」

なんて考えてフリーズしてしまうのは想像できます。

マネキン相手に練習したことがあっても、それを持って「使えます!」と言い切れる人はたぶんいません。

「いいえ」と言われた場合、「それでは胸骨圧迫を替わってください」というのが、デフォルトになっていますが、20年前ならいざしらず、AEDが標準で講習に組み込まれるようになった昨今では、AEDの使い方を知らない=胸骨圧迫もできない、と考えて間違いないでしょう。

この場合、現実的には、第一救助者が胸骨圧迫を中断して、AEDを操作することになります。

AEDは、電気ショックの直前まで、できる限り胸骨圧迫を続けることが救命の要となりますので、やむを得ず救命率低下ということに。

であれば、「AEDを開いて電源を入れてください」「音声メッセージを聞いて、その通りにやってください」と言って、知らないまでも、できる限りAED操作をしてもらう方が合理的ではないでしょうか?

それを見守り、必要であれば胸骨圧迫を中断して介入する、という選択肢もあります。

そもそもAEDは、訓練を受けなくても使えるように設計されている機械です。

救命講習でも教わっている通り、AED操作で覚えておくべきことは2つだけ。

1.電源を入れる
2.音声メッセージを聞く。それに従う

これだけです。そんな簡単なことなのに「AED使えますか?」と問いかけることで、あえてハードルを上げる必要もないでしょう。

AEDパッドを貼る

救命講習の目的からの不自然な設定

一般市民向けの救命講習は、最低限必要なこと、ということで、一人で自己完結するやり方を教えています。

いわゆる「一人法CPR」の講習です。

そのため、AEDがあれば自分で使うという流れで練習をさせたいという指導者側の事情があります。今でも「あなたAED使えますか?」と言わせているとしたら、そんなことも関係しているのでしょう。

それにしても、AEDを使えない人が胸骨圧迫は上手にできるという設定は、現代においては無理があります。

もし、どうしてもAEDが届いたら圧迫を交代させたいのなら、胸骨圧迫の質維持という理由にしたほうが現実的です。例えば、

「疲れてます。替わってください」

というようなセリフ。

これは非常に現実的です。

AEDが現場に届くまで、普通に考えて数分はかかります。

救命講習やBLS講習で経験されていると思いますが、医療者であっても1分であっても胸骨圧迫を続けると、深さやテンポ、圧迫解除などの「質」が落ちることは実感できると思います。

疲労や質を考えると、AEDを持ってきた人は胸骨圧迫を代わった方がいいよね、という理由付けの方が、無理もなく現実に即しているのではないでしょうか?

現実とは明らかに違う救命講習でどこまでリアルを求めるのか、という課題はありますが、それでも、素人でも突っ込みたくなるような不自然さは避けたほうがいいですし、不自然なら不自然なりの理由の説明がないと、無意味なお作法教育で終わってしまいます。

つまらないことかもしれませんが、救命法の指導員は時代に合わせてやり方をアップデートしていく必要はあるでしょう。

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