ファーストエイド一覧

「大丈夫ですか?」 傷病者への声かけの仕方を考える

「大丈夫ですか?」

救命法講習ではおなじみの第一声ですが、この意味について少し取り上げてみようと思います。

 

意識ではなく、反応の確認

心停止を想定したBLS系の講習では「反応の有無」を見るために、肩を叩くなどの刺激をしながら、「大丈夫ですか?」などと声を掛けるように教えています。

これは「反応の有無」の確認であり、「意識」の確認ではありません。

このケースでは、意識はなくても、反応があれば「よし」と考えるからです。つまり生きている最低限の証拠があればいい、ということです。

意識という言葉の定義にこだわるとややこしくなりますが、簡単に言えば、呼びかけに返事がなく、意識がないと判断される状況でも、刺激に対して顔をしかめるとか、口を開こうとするとか、なんかしらのリアクションが返ってくれば、死んではいない、と判断できる、と考えます。

心停止が想定される状況の中で、反応の有無を確認するのであれば、呼びかけの内容はなんでもいいと思います。

 
「大丈夫ですか?」
「わかりますか?」
「どうしましたか?」
 

反応(リアクション)を誘発するような文言と刺激であればなんでもいいわけです。(両肩を叩くとか、片方だけでかまわないとか、額に手を当ててとか、そのあたりはエビデンスはなにもないです)

ファーストエイド対応における声掛けは?

呼びかけの仕方はなんでもいい。

心肺停止状態が想起されるような状態であれば、そう言えますが、明らかに生きている状態、特に会話やリアクションが得られそうな状況における声掛けになると、もう少し考えた方がいいかもしれません。

よく言われることは、

「大丈夫ですか?」

という声かけは良くないのではないか? という点。

大丈夫です、という根拠のない拒絶を誘発しないために

皆さんが、もし繁華街で転んでしまった場合を想像してみてください。足をくじいて痛い。そこに知らない人から「大丈夫ですか?」と声をかけられたら、反射的に「大丈夫です」と答えませんか?

本当に大丈夫かどうかは別として、ある程度意識がある一般的な日本人なら、他人に迷惑をかけたくない、もしくは恥ずかしい、という思いから、大丈夫と答えるケースが圧倒的かと思います。

大丈夫、という言葉には、軽く拒絶の意味があります。それを誘発するような声掛けは、救助者側の本位からするとあまり良くないのでは、ということです。

じゃ、なんて言う?

「大丈夫ですか?」と声をかける側は、大丈夫じゃないと思って声をかけるわけですから、言い方は工夫したほうがいいかもしれません。

この点、英語での言い回しはよくできているなと思います。

 
May I help you?
 

直訳すると、お手伝いをしていいですか? といった感じでしょうか?

手助けする許可を得るという態度。これは応急救護の基本マインドとして、大事な点だと思います。

押し付けではなく、あくまでも一人の人間としての傷病者の意思を尊重するというスタンスです。

日本語でいうなら、「どうしましたか? 手を貸しましょうか?」といった感じでしょうか?

相手の状況によるでしょうけど、

「お困りのようですが、なにか出来ることはありますか?」

など、普通の会話としてケースバイケースで変わっていくはずです。

自己紹介は大事!


ただ、やっぱりいきなり知らない人に声を掛けられれば、遠慮が生じるのが日本人ですから、そのハードルを下げるために必要なのが、自己紹介かなと思います。

医療従事者であることを名乗れば、安心して頼ってくれるケースが多いですし、AHAハートセイバー・ファーストエイドコース では、ファーストエイドプロバイダーであることを名乗るように教えています。

英語では、ファーストエイド・プロバイダーと言えば通じますが、日本だと、しっくりくる言い回しがないのが残念なところです。

 

「ファーストエイドの訓練を受けています」
 
「応急手当の心得があります」

 

日本語としては、いまいちですが、なんかしらの自己紹介はしたほうがいいでしょう。

せめて、名前を名乗ることで、怪しいものではない、というPRは必須かと思います。

 
ということで、傷病者へのファーストタッチである声掛けについて、BLS前提とファーストエイド前提の違いで考えてみました。


ターニケット(止血帯)&血液感染講習 in 横浜

先週の金曜日、「ターニケット(止血帯)&血液媒介病原体」講習と題したオリジナル講習を開催しました。

この4月から、日本の救急法の中でも市民に向けて軍用ターニケットの指導が始まるということで、それに先駆けてファーストエイド指導員クラスの方たちと止血帯教育の課題と展望を考えようという企画。

当初はBLS横浜の単独企画でしたが、開催の直前にオファーがあり、外部からターニケットの専門家2名を迎えて、10名の参加者の皆様と有意義な時間を作ることができました。

今回、サポートに来てくださったのはフランス陸軍で衛生兵として活躍されていた野田力さん。

ご自身のフランス軍での体験で著書もある有名な方です。Twitter(@NODA_Liki)でも情報発信されていて、日本国内でもターニケット講習や保安関係者向けの戦闘救護研修を開催しています。

もうお一人は米軍でファーストエイドなどの訓練教官をされている方。

フランス軍とアメリカ軍の立場から、お二人に戦場でのターニケットの使われ方や、戦地での状況をお話いただきました。

軍における止血帯を考える上では、止血帯で緊急止血をした後の衛生兵や軍医による2次治療と、その後の後方搬送のシステムがあってこそのもの、その救護システムの一部としてのターニケットの位置づけというのが見えてきます。

また「緊急」止血帯ということで、戦闘服の外にすぐ取れる位置に2つのターニケットを個人装備として常備しているということも、前提条件として重要な部分です。

軍としてのターニケットの教え方と、民間での使い方と教え方の違いがリアルに浮き彫りになったと思います。

その他、日本国内で止血帯普及に携わる立場の方の参加も複数あり、団体ごとの国内展開の内情と現状の一端も知ることができました。

現時点、詳説できない非公開情報もあるため、具体的な言及は避けますが、米軍、仏軍での実際や、ターニケットの歴史、ファーストエイドガイドラインの推移、日本国内の情勢、ターニケットの国内流通経路、医学的な知見、アカデミック・ポジション、政治的な問題などを総合してくると、どうしても不自然に見える日本でのターニケット教育の急展開、「いきなり感」の背後にあるものが見えてきたように思います。

ターニケット自体の有用性は疑いはないと思っています。

少なくとも以前に教えられていたような三角巾と止血棒を使ったようなやり方とは比べ物にならないくらい現実的です。

しかし、止血帯の使い方を誰が学ぶべきなのか? が問題です。

誰が使うのかが定義されなければ、教育展開できません。

器具としてのターニケットの巻き方を教えるだけなら簡単。しかし、それを使用するという意思決定のプロセスを習得させるためには心肺蘇生法とは比べ物にならないくらいの高度な医学的な教育が必要となります。

ターニケットで止血したあとの対応を、「システム」として考えたときに、状況・目的がはっきりしない人たちには教える必要がないというか、教えようがない、というのが現時点での私たちの理解です。

最後に軍関係の方たちも含めてのある程度の共通意見として上がっていた危惧について紹介して締めたいと思います。

「ファッションとしてターニケットを持ち歩く人たち。止血帯以前に心肺蘇生法はできるんだろうか?」


医療機器としてのターニケット(止血帯)を市民に教える上でのハードル

日本では、自衛隊でも東京消防庁でもCATと呼ばれるタイプのターニケット(止血帯)が正式納入されています。

これはもともと米軍の一般兵士用として戦地に置いて実績を上げてきた製品で、世界中でもっとも広く使われているものです。

軍用ターニケットCATの添付文書:医療機器承認

日本国内においてもCATは、一般医療機器として承認(PDF:別ウィンドウで開きます)を受けており、既成品としての止血帯は医療器具であるといって間違いありません。

軍用ターニケット止血帯

市民向け救急法講習で医療器具の使い方を教える

この4月から、日本赤十字社の救急法講習の中にも既成品としてのターニケットの使用法練習が含まれるということで、2005年まで教えていたような三角巾とボールペン等を使った手作り応急止血帯とは一線を画する新たなフェーズに突入したことになります。

一般市民に、医療機器の取り扱い方法を教えるという図式になるからです。

一般市民が医療機器を使って医療行為を行うことの妥当性と違法性の阻却理由。

本稿ではあえて結論は書きませんが、止血帯教育に関わる人であれば知っておかなければならない最重要事項と思います。

(医療者免許を持たない)消防職員がターニケットを使用する際の条件

考えるべき思考の入り口として、去年の3月に総務省消防庁が出したターニケット使用に関する通達文書を紹介しておきます。

消防職員によるターニケットを含む止血帯による圧迫止血について(PDF)

これは、各自治体の消防を所管する総務省消防庁が出した公文書で、医療従事者免許を持たない消防職員が止血帯(ターニケット)を使う場合の条件を2つ挙げています。
 

  1. 傷病者を医療機関その他の場所に収容し、又は医師等が到着し、傷病者が医師等の管理下に置かれるまでの間において、傷病者の状態その他の条件から応急処置を施さなければその生命が危険であり、又はその症状が悪化するおそれがあると認められること。
     

  2. 使用者が、以下の内容を含む講習を受けていること。
    • 出血に関連する解剖、生理及び病態生理について
    • 止血法の種類と止血の理論について
    • ターニケットの使用方法及び起こりうる合併症について

 
逆説的に言えば、これらの条件に合致しない場合は、医師法違反に抵触する可能性があるということです。

さらに言えば、消防職員に関しては、メディカルコントロールによる事後検証の必要性も示唆されている点にも注目できます。

つまり、きちんと教育を受けた立場であっても、その使用の妥当性については事後審査されるということです。

ターニケット使用の妥当性を客観的に評価・判断できること

条件1については、当たり前のことしか書いていないように見えますが、かなり重い内容となっています。

生命危機を評価し、ターニケットを使う必要性が「認められる」ことが条件だと書かれているからです。これは救助者が主観的に必要だと思った、というだけでは不十分で、事後検証においても妥当性が判断されるような客観的な情報を認識し記録しておくことの必要を示唆しています。

なぜターニケットを使うと判断したのか? 大出血だと思ったから、では通用しません。

評価するのに必要な教育はどの程度?

そのために条件2のような教育が必要となるわけですが、条件1を満たすためには、ただ講習を受けて話を聞きました、というだけでは足りるものではないというのは当然です。責任を持った判断ができるようになることが規定されているわけです。

東京消防庁では、すでにターニケットの配備が終わり、実稼働しているわけですが、事後検証においてはターニケット使用が妥当とは判断されなかった事例が出てきているとも聞き及びます。

そんな訓練された立場の消防職員にとってもハードルが高い医療行為であるターニケット使用を、一般市民に指導するという方向性。それがこの4月から決定事項として始まります。

どんな教育がどの程度の時間をかけて、どの程度の習熟度をゴールとして実施されるのでしょうか?

そんな問題提起として、本稿は締めるさせていただきます。

今後の動向については、引き続き追いかけていきます。


気道異物の窒息解除法-意識を失った後の方が取れやすい?

今日はBLSの範囲内から、喉にモノが詰まったときの解除法についての話題です。

まずはおさらいです。

誰かが喉にモノを詰まらせて、苦しがっているのを見つけたら、どうするんでしたっけ?

反応がある窒息者に対する気道異物除去法

  • ハイムリック法(腹部突き上げ法)
  • 背部叩打法
  • 胸部突き上げ法

 

米国ではシンプル化のためにハイムリック法しか教えていませんが、蘇生ガイドラインを見ると、ハイムリック法に加えて背部叩打法と胸部突き上げ法も列記されていて、どれもエビデンス的には優劣はないということになっています。

そして、どれかひとつではなく、複数の方法を試す必要があるかも知れないという記載もありました。

乳児の場合は、肝臓損傷のリスクから、腹部突き上げ法は推奨されず、一般的には背部叩打法5回と、胸部突き上げ法5回を交互に実施するように教えられているかと思います。

さて、ここまでは、皆さん、よくご存知のところなのですが、この先、異物が取れず、意識を失って反応がなくなった場合の対応については、曖昧なところではないでしょうか?

反応がなくなった場合の窒息解除法

ハイムリック法や背部叩打法をしているうちに、ぐったりと意識を失ってしまったら、そのまま継続は困難ですから、まずは床に寝かせます。

周りに人がいれば119番をお願いしますが、もし誰もいなければ、通報より優先して次の解除ステップに移ります。

それはなにかというと、傷病者を寝かせた状態で行なう胸部突き上げ法です。

窒息解除の胸骨圧迫は心臓マッサージとは違う

こういう言い方をすると、怪訝に感じるかも知れませんが、傷病者を寝かせて行なう胸部突き上げ法とは、すなわち胸骨圧迫のことです。

テキスト的には、「胸骨圧迫からCPRを始める」と書かれていますが、窒息で意識を失った直後は、まだ心臓は動いていますから、胸骨圧迫は血流を生み出すのが目的ではありません。

胸腔内圧を上げて、喉に詰まった異物を外に押し出そうとしているのです。

通常のCPRとの手順の違い

胸を押す目的は、窒息解除です。ですから30回押した後は、人工呼吸の前に口の中を覗いて、異物が目に見えるところまで上がってきていないかを確認しろという手順が追加されています。これが通常のCPRとは違う部分です。

異物が見えるところまで上がってきていなくても、30回も胸を押せば、それなりの空気圧がかかっていますから、異物が動いて気管内に隙間ができている可能性もあります。

ですから、その可能性にかけて、とりあえず人工呼吸の吹き込みをトライします。

少しでも隙間ができていて空気が入ればラッキーです。弱りかけて徐脈になっていた心臓に多少なりとも酸素を送り込めれば、心停止までの時間稼ぎができます。

空気が入らなければ入らないで、異物の位置がずれて隙間ができることを期待しつつ、また30回の胸部突き上げ(胸骨圧迫)を行っていきます。

通報と解除の試み、どちらが優先か?

2分の間、CPRと口腔内確認を続けてみても、奏功しない場合は、いちど手順をやめて119番通報を行い、あとは指令員の指示に従って救急隊到着まで、窒息解除の試みを続けることになると思います。

ここはAHAの小児BLSで教えている呼吸原性を疑った「目撃のない心停止」と同じで、通報よりも一刻も早い介入が優先されるところです。

119番をしたことがある人ならわかると思いますが、まずは住所を聞かれて、それから、何があったのかという状況を聞かれます。場合のよっては5分以上電話口に拘束されます。少なく見積もっても数分間。その間、息ができない状態が続いたらどうでしょうか? すでに意識を失うレベルまで酸素が減っている中で、さらに数分間放置したら、脳細胞のダメージがより深刻になります。

そこで、AHAガイドラインでは、呼吸原性が強く疑われる心停止や窒息の場合は、通報よりも窒息解除手順着手の方を優先しています。

この点で、日本のJRCガイドラインでは、いかなる場合でも通報が先と規定している点は、指導者レベルの人は知っておいて下さい。

反応がなくなってから、異物が除去できる可能性

さて、窒息解除法は、反応がある場合とない場合で2つのステップがあるのですが、もし目の前で窒息が発生した場合、どちらのステップの方が解除できる可能性が高いのでしょうか?

イメージ的には、意識を失う段階までいってしまったら、窒息解除も厳しいんじゃないかと感じるかも知れませんが、G2015版のBLSプロバイダーマニュアルには、興味深い記述が追加されています。

 

窒息状態にある傷病者が意識を失ったとき、咽頭の筋肉は恐らく弛緩状態である。これにより完全な/重度の気道閉塞が部分閉塞に変わる可能性がある。

BLSプロバイダーマニュアルG2015版、p.74

 

イメージできるでしょうか? 喉にモノが詰まって苦しがっているうちは全身がこわばっています。これにより喉のあたりもギュッと収縮する力がかかっているので、取れにくい状態です。

しかし、意識を失ってしまえば、ダランと脱力して筋肉が緩むため、異物が取れやすい状態になるのでは? ということなんです。

そのため、次のような文章が続いていきます。

 

さらに、胸骨圧迫により、少なくとも腹部突き上げと同程度の力が生み出され、異物の排出に役立つ可能性がある。

 

もしかしたら、意識を失った後のほうが、異物が取れやすいのかもしれない。

そう考えると、反応がなくなった後のCPRという窒息解除法もきちんと理解しておきたいですよね。

ということで、表題のようなタイトルにしてみました。

 

さらにワンポイントアドバイスをすると、窒息解除としてCPRを行なう場合は、胸骨圧迫から開始して下さい。

くれぐれも脈拍触知は行わないこと。

CPR開始というのを、心停止の認識から始めてしまうと、まだ脈がある可能性が大なので、肝心の胸骨圧迫ではなく、補助呼吸の手順に入ってしまう恐れがあるからです。

そのため、BLSプロバイダーマニュアルでも73ページの手順の中で、「胸骨圧迫からCPRをを開始する。脈拍は触知しない」とはっきり書いてあります。

 

以上、BLSプロバイダーコース の中で受講者のみなさんと確認している窒息解除のメカニズムの話でした。

プロフェッショナル向けのBLS講習では、「なぜ?」という理解が重要ですね。


「エピペン&小児BLS」講習は応用力を鍛えるプログラム

今日は、湘南のインターナショナル・スクールで「エピペン&小児BLS」講習でした。

 

これは単に「エピペン講習」と「小児心肺蘇生法講習」をくっつけただけではなく、その間をシームレスにつなげたBLS横浜オリジナル講習です。

この2つの間をつなぐのが、「生命危機の評価と観察の視点」です。

アナフィラキシーを起こした子どもがどのように命を落としていくか、またそこに「介入」することで、どのようにして生に向かって転じていくかを知れば、エピペン注射や気道確保、人工呼吸と胸骨圧迫の意味と必要性が理解できます。

その過程で体に起こる変化を見て、好転しているのか、悪化しているのかを予測して、介入し、観察・記録して救急隊員に引き継ぐこと。

こんな、エピペン講習だけ/BLS講習だけではない、新たな価値観で両者をつなげたのがBLS横浜の工夫です。

結局、「エピペン&小児BLS」講習の中身はファーストエイド講習の本質部分にかなり食い込んでいると言えます。アナフィラキシー・ショックとCPRを例題にして、末端技術にとらわれないファーストエイド的思考の理解を促したと言えるかもしれません。

その証拠に、この研修の後、受講いただいたインターナショナル・スクールの先生たち(特別な医療の知識がある方たちではありません)にこんな質問をすると、教えたわけではないのに自分たちで考えて答えを導き出せました。

 

「子どもが突然けいれん発作を起しました。痙攣が停まった後、意識がなさそうです。なにを観察して、どう行動したらいいですか?」

 

人が生きるしくみと死ぬしくみを理解すれば、痙攣のファーストエイドを勉強していなくても、問題の本質を考え、対応できるようになるのです。

実際のところ、けいれん発作の原因は、てんかんかもしれませんし、低血糖かもしれませんし、熱中症かもしれませんし、突然の心停止かもしれません。

病名を探ろうとすると、思考停止に陥ります。医師ではない人間がわかるわけありません。しかし原因は何であろうと、今は目の前に意識がない子どもが倒れているのです。そんな本質に気づけば、簡単です。

  • 呼吸確認をする → 10秒でよくわからなければCPR開始と119番
  • 呼吸をしていれば、気道確保(体位と口腔内確認)と119番、呼吸が停まらないか観察を続ける。余裕があれば転倒時の外傷チェック等
  • 呼吸が停まれば、CPR開始

基本的な考え方を「理解」すれば、ファーストエイドはそれほど難しいものではありません。

幅広い知識より、この本質部分を伝えていきたいと思います。

 

※「エピペン&小児BLS」講習は、次回、公募で6月12日(火)に開催します。若干名残席あります。 → BLS横浜ホームページ


止血帯(ターニケット)使用トレーニング考

ガイドライン2015準拠日本語DVDが発売開始になって、ようやく本格稼働が始まった AHAハートセイバー・ファーストエイドコース 。米国のファーストエイド講習では、G2010に引き続いて止血帯の使用が解説されています。

ということで、今日は、止血帯(ターニケット)の話題を少々。

圧迫止血でコントロールできない四肢からの大出血の場合には、上腕部や大腿部をきつく締め上げることで、動脈を遮断して出血を停める止血帯法が米国では推奨されています。

日本でも以前は折り畳んだ三角巾と棒きれを使った止血練習が救急法講習で取り入れられていましたが、2005年の「救急蘇生法の指針」の改定で止血帯は非推奨となり、そのままJRCガイドライン2015までは救急法教育からは封印されてきました。

しかし、ここ最近の日本国内事情を見てみると、東京オリンピックのテロ対策として、東京消防庁が救急隊に軍用ターニケットを配備するなど、日本においても止血帯への注目が高まってきています。

聞くところによると、日本国内の応急手当普及団体の中でも講習プログラムの中に再び止血帯使用を盛り込んでいくことも検討されているとか、、、、

BLS横浜では、ハートセイバー・ファーストエイドコースの中で、軍用ターニケットの使用を皆さんに体験してもらっていますが、基本的なスタンスとしては、市民救護にターニケットは不要であり、むしろ危険である、という立場を取っています。

この点を解説していきます。

1.止血帯が非推奨から推奨に転じた背景

米国においても、2005年版のAHA/ARCファーストエイドガイドラインで推奨されなくなった止血帯ですが、5年後の2010年には、再び推奨に転じました。

急展開に見えましたが、その背後にあったのはアフガニスタンなど戦線激化による米軍兵士による使用実績増加でした。

米軍兵士への軍用ターニケットの標準装備が進み、軍事衝突の機会が増えたので使用実績があがり、その有用性が確立されたというわけです。

つまり、ガイドライン改訂に至った止血帯が有効であるという根拠は、「戦時下において訓練を受けた兵士が既製品を使った場合」という条件付きのものであったという点を理解しておく必要があります。

・既製品としての止血帯
・軍人としての訓練を受けている
・救護が受けにくい戦闘状況での使用

こうした条件は、極めて特殊なものと言わざるを得ません。

このことを持って、市民の応急救護においても有用であると言えるのか? という点は熟考する必要があります。

2.止血帯使用のリスクと教育

応急救護、ファーストエイドの基本ですが、何かの介入をする、すなわち処置や手当を行う以上、それには必ず潜在的なリスクが伴います。

BLS/CPRは例外で、この場合は心停止という究極の条件下になりますから、それ以上、悪化することは論理的にあり得ません。メリットとデメリットのうち、デメリットは無視できるのです。だから、何もしないよりは、多少間違ってもいい、なんでもいいからやりましょう、と言われているわけです。

しかし、出血対応も含めてファーストエイド介入は生きている人間に対して行うことですから、それによって状態が悪化させてしまう、別の傷害を与えてしまうというデメリットを考慮しなければなりません。

つまり、止血法の場合は、止血帯使用の弊害やそれによって引き起こされる有害事象について知らない、判断できない人が使うべきではないということです。

ここでは詳説はしませんが、止血帯の使用に際しては下記のような有害事象が考えられます。

・締め付けによる疼痛(兵士にとっても耐えられないほどの痛み)
・神経損傷
・中途半端な加圧による出血量増加(静脈閉塞、動脈開存)
・末梢虚血による組織壊死(切断のリスク)
・圧迫解除によるクラッシュ症候群(高カリウム血症による心停止)

これらのデメリットを理解した上で、止血帯を使用するメリットの方が勝るという判断があって、はじめて止血帯が適応となります。

大出血を見たら止血帯! というものではないということです。

この判断のためには出血という事象に対する理解も不可欠です。

そもそもどれくらいの出血だったら止血帯が適応となるのか?
それをどうやって判断するのか?

そのためには、人体にある血液がどれくらいあるのか? そして命に関わる出血があった場合の身体症状といった基礎的な理解も欠かせません。

これらが止血帯を使う上での必要な基礎教育に含まれているべきでしょう。

これがターニケット使用訓練を受けている、ということの意味です。

単に器具としての止血帯の操作方法がわかるというだけでは不十分です。それだけしか知らない人が使うとしたら、それはかえって危険であると言わざるを得ません。

これは今後広がっていくであろう止血帯講習の質のバロメーターにもなるかもしれません。受講後の感想として「簡単だった」と言われるような止血帯講習は、止血帯を正しく伝えていないと言えるはずです。

3.軍隊におけるターニケット使用教育

今、日本国内の救護情勢の中で止血帯といったら、既成の軍用ターニケットのことを指します。軍用品で、戦地での実績から来たものなので、その使用方法は軍での教育が参考にされているものと思われます。

そこで軍隊におけるターニケット教育はどのようなものなのかということで、某陸軍の新兵向け教育を知る機会がありましたが、そこではっきり感じたのは、日本の市街地で医療従事者以外が使うことを前提としたファーストエイド訓練としては適さない、という点でした。

最大の問題と感じたのは、軍隊教育では、止血帯が適応となる出血とそうでない出血を判断する評価という視点がなかったことです。

戦地においては四肢を打たれたら、打たれた人は条件反射的に自分自身にターニケットを巻ように教育されています。

傷の大きさとか出血量とか、そんな判断はせずに、とにかく打たれて血が出たらターニケットを1秒でも早く巻く。

弾丸が飛び交っている戦場を想定したターニケット使用教育は、いかにすばやく確実に巻くかであって、理屈抜きの条件反射、単なるセルフレスキューのためのテクニカルスキルのトレーニングなのです。

4.日本の市民向けファーストエイドで止血帯が必要か?

このような背景を考えると、軍需から生じた止血帯のニーズを、日本の市民向けファーストエイド教育にそのまま入れ込むことは不適切と考えます。

戦場において、安全確保ができない状況下でのセルフレスキューとしてターニケットが発展してきました。

日本国内において、他者を救護する立場としては、直接圧迫止血法を試みるのが第一義なのは変わりません。他者が直接圧迫を続けることができれば、完全止血までは行かないとしても、ある程度は出血をコントロールできます。

出血をしながらも自力で、離脱しなければいけない状況ではないからです。

救急車が来れないような野外環境下などにおいては、ターニケットが適応となる場面もあるかもしれません。

しかし、そのための教育としては、軍隊式の「ターニケットありき」の教育をしたのでは、必要ないのにターニケットを使用して二次的な障害を負わせるという事故が多発するでしょう。

軍隊式の教育とは別に、市民向けに根本から再設計されたターニケット使用研修が必要です。

5.まとめ

日本では、米軍にならってかなり前から自衛隊員にもターニケットが配備されています。

そして去年になって、オリンピックのテロ対策という名目で東京消防庁の救急隊員にも軍用ターニケットが配備されるようになりました。

昨今ではコンバット・メディスン(戦闘救護)の官向け、民間向け研修も広がりを見せており、医療資格を持たない人に向けた止血帯使用トレーニングの機会も増えていくことが予想されます。

この点で、これまで当ブログで取り上げてきた ウィルダネス・ファーストエイドにおける医行為の問題 や、打ち方だけの練習で形骸化したエピペン講習と同じような、命と医療と救護の狭間のグレーゾーンな懸念材料が増えていくことを危惧しています。

使わなければ死んじゃうんでしょ?

そんな安直な考えに立脚した誤った正義感が、出血コントロールの問題にも広がっていかないように願っています。


止血法とショック、そして血液感染の正しい知識を!

ターニケット(止血帯)&血液媒介病原体 講習

ターニケットの使用方法だけにとどまらない出血のファーストエイド全般を扱うオリジナル講習を企画しました。血を浴びながら処置する可能性があるターニケット使用には、米兵に1年ごとに義務付けられている 米国OSHA基準に相当する血液媒介病原体 の知識が欠かせません。またターニケット使用が必要な状況であれば、ショックへの理解とファーストエイドも必須です。これらを2時間半にまとめました。


エピペン研修のシミュレーションネタとデブリーフィングツールを公開

今日は、千葉県の子育て支援事業として開催された保育所職員向けアレルギー・エピペン研修の講師で登壇させていただきました。

参加人数が120名と多かったので、ふだん横浜でやっているようなインストラクターによる傷病者の演技はできず、演技指示を紙に書いて、受講者に傷病者を演じてもらうことで対応しました。

今回は、県内の各保育園から集まってきた人たち。同じ職場の人はいないという学習環境です。

この場合の研修の目的は、参加して満足してもらうのではなく、トレーニング手法を各職場に持ち帰ってもらい、そこで身のある伝達研修をしてもらうことにあります。

120名を5人に分かれてもらい、アナフィラキシーを起こした園児役、119番指令員ならびに救急隊員役、その他3人の先生たちでエピペン注射と介助と記録と通報とを行ってもらいました。

全24組をインストラクター1名で管理するのはたいへん。

そこで、今回は紙の指示書を活用が、思いのほか、うまくいきました。

かなり盛り上がった(?)シミュレーションで、その後ブースごとの振り返りも非常に活発でした。

そのカラクリとなった指示書を公開します。

参加者の皆さんは、自主的に携帯で写真を撮ってる方が多いのが印象的でした。(その後、コピーを全員に配りました)

シミュレーションの進め方は詳説はしませんが、見てもらえばなんとなくわかるんじゃないかと思います。
エピペン研修を手がけている関係者の方の参考になると幸いです。

エピペン講習傷病者指示書

エピペン講習救急指令員指示書表面

エピペン講習救急指令員指示書裏面


ABCDEアプローチの順番-酸素の流れを追う

PEARS/PALS、ACLSでもおなじみのABCDEアプローチ。
 
これは救急医療で標準の考え方でもあります。
 
D(神経学的評価)とE(全身観察)の評価内容と介入の中身については、外傷系や神経系では若干の方言がありますが、根本的な考え方は変わりません。
 

ABCDEアプローチ【体系的アプローチ】

 
生命危機というゼネラルな考え方の中で特に重要なのは、大気中の酸素が体の中の細胞に届くまでの過程を追っているという点です。
 
その上ではABCDという順番を無視することができません。
 
傷病者がパット見で「意識障害あり」と判断された場合、ついつい神経系の観察を優先してしまいがちですが、その意識障害がショックや呼吸不全による脳細胞の酸素供給不足だとしたら、どうでしょうか?
 
ですから、どんな場合でも、気道が開通していることと、呼吸機能が保てていること、循環機能が保てていることを、この順番で確認していくことが大切です。
 
 

 

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ファーストエイドのシミュレーション

昨日は、久々の開催となるハートセイバー・ファーストエイドコースでした。
 
心停止以外のあらゆる急病やケガへの対応を学ぶ米国労働安全衛生局(OSHA)規格のプログラム。
 
BLS横浜では、部分的にシミュレーション・トレーニングを取り入れて、救急対応を「しっかり学びたい人」向けの展開を行っています。
 
ファーストエイドは、失神への対応、やけどの対応、など、ミクロな視点でいくと、内容があまりに膨大すぎてとても覚えきれるものではありません。
 
そこで、「呼吸、循環、神経系」という生命維持の3大要素と、優先順位の考え方という原点に、すべての処置を帰着させることを強調した展開を行っています。
 
ハートセイバー・ファーストエイドのDVDでも、どの処置を見ても最後は「CPRの必要を確認する」となっています。これは結果的には、反応と呼吸の確認を常に行うことの必要性を言っています。
 
いわゆるファーストエイド処置は、実は行っても行わなくても生命という点ではそれほど重要な問題ではありません。どんな状態からでも、いつでも心停止に移行してしまうという可能性を意識してCPRに備えるというのが、根底にあることを忘れてはいけません。
 
例え軽症に見えたとしても、もしこの人が命を落とすとしたらどんな経路を取るか? それを想像しつつ、いつも最悪に備えて監視するというのがファーストエイドの本質です。
 
 
ファーストエイドコース終了後に1時間半ほどかけて行った複合シミュレーションでは、ありがちな落とし穴をたくさん仕込んでいたのですが、皆さん、そこには引っかからず、命に関わる優先順位の高い問題に着目して行動していたのが印象的でした。
 
意識障害と呼吸障害の両方があった場合、どっちを優先した対応を考えるか?
 
ケースバイケースで明確な答えを示すことは難しい状況でも、どこに原則を置いて考えるか、というノンテクニカルな思考の部分が少しでも伝わったのかなという、手応えが嬉しい講習会でした。
 
ご参加いただいた皆様、傷病者役としての迫真の演技、またシミュレーション後の活発な意見交換、ありがとうございました。
 
インストラクターも含めて、学びの多い8時間でした。
 
 
 

 
 

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幼稚園での「小児BLS&エピペン」研修

先日、幼稚園で「小児BLS&エピペン」研修を担当させていただきました。園の教職員ほぼすべての20名が参加してくださり、小児マネキンとポケットマスクを使った子どもの蘇生法とエピペンで2時間半で。
 

小児マネキンとポケットマスク

 
施設内の研修ですから、現実に即して日頃AEDが置いてある場所まで走って取りに行ってもらいました。ポケットマスクも現実的には日頃持ち歩くものではないので、まずは胸骨圧迫でCPRを開始して、AEDが到着したらポケットマスクで人工呼吸を開始、という流れで練習をしていきました。
 
講習会場で行う公募講習と違って、施設への出張講習では、シチュエーションを具体的に限定したトレーニングを行えるのが強みです。
 
エピペン研修では、BLS横浜得意のシミュレーション訓練で、119番通報の具体的なやり取りや、救急車の侵入経路の検討など、園としての救急対応全般について、全職員で同じ認識を持つことができました。
 
幼稚園や保育園、学校での救急法は個人技能ではありません。
 
システムとしての対応という視点が必要です。
 
救急法トレーニングは園を上げて行う防災訓練。
 
そんなメッセージが伝わったと確信を持てる感想を園長先生からいただけたのは、救命法インストラクターとしての喜びでした。
 
 
 

 
 

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