看護師国家試験問題 乳児BLSの人工呼吸を深掘りしてみた

昨日、2024年2月11日に実施された看護師国家試験で、BLS 関連の出題があったみたいですね。

看護師国家試験 乳児BLS

看護大学等では、厚労省の看護師教育の技術項目と到達度の指針にあるため、成人の BLS に関しては演習を含めて教えていますが、子どもの蘇生法について教育しているところは少ないと思います。

よく考えてみれば、厚労省の指針での表記は「一次救命処置(Basic Life Support:BLS)」と記載しており、そこに成人とも小児とも指定はなく、全年齢層をカバーしたものだったのかもしれません。

この点を突かれた感じの設問だったのかなと考えました。

やっぱり、医療従事者は成人 BLS 以外に小児 BLS も知っているのが当然、という日本政府のスタンスを感じました。

答えが2つ? 不適切問題?

さて、この乳児 BLS を問う問題、一部では不適切問題なのでは? という見方もあるようです。

出題者が想定した正当は、2 の「乳児の反応確認は足底を刺激」なのだと思いますが、3 の「乳児への二人法 CPR は胸骨圧迫:換気比率は 30:2 」も間違いではないのではないか、という意見です。

SNS を巡回して見たところ、理由として上がっていたのは主に2つ。

  • 設問は医療者向け、市民向けを指定していない以上、市民救助者向けプロトコルの 30:2 も間違いとは言えない
  • 看護師であっても、医療施設以外(保育園等)では現場に合わせた標準で 30:2 で実施することもある

とは言え、これは看護師国家試験問題ですから、市民向けのプロトコルをあえて問うとは考えにくいです。普通に考えれば医療従事者向けの手順として 15:2 が正解であって、30:2 は誤りです。

保育園等での救命講習は、基本的には市民救助者前提で、一人法、二人法という区別はなく、一律 30:2 となっています。

そこで勤務する看護師も 30:2 で対応するべきかと言われたら、まあ、そうかなとは思います。

ただこれには一筋縄ではいかない、ややこしい問題がはらんでいます。

小児・乳児 BLS の 15:2 は「二人」だから、ではない

BLS プロバイダーコースの受講経験がある方や、医療者向けの BLS をきちんと学んできた人は、小児 BLS の二人法では胸骨圧迫と人工呼吸は 15:2 と教わってきたと思います。

小児BLSでは、心停止の原因として「低酸素」を想定しています。

そのため、心室細動などの心原性心停止を想定する成人BLSに比べて、酸素供給量を増やしたいという背景があります。また子どもは成長過程にあるため基礎代謝が大きく、酸素の需要量が多いということも関係しています。

しかし、30:2 か 15:2 かという本質的な理由は、ひとりかふたりか、ということではなく、胸骨圧迫の中断時間が最小限になる条件下であれば、ということにあります。

呼吸原性心停止想定とはいえ、ひとりで子どもを救う場合に 15:2 にしないのは、胸骨圧迫と人工呼吸の動作の切り替えに時間がかかり、胸骨圧迫の中断時間が長くなってしまうからです。

胸骨圧迫の中断が長いと、肺までは酸素が多く届けられても、血流低下を招き、血液中の酸素を全身の細胞に供給する効果が下がってしまいます。

小児 BLS を 15:2 でやるなら バッグバルブマスク が前提

胸骨圧迫の中断時間を 10 秒と言わず、数秒に抑えたい。

そのためには一人が胸骨圧迫している間にも、もうひとりは気道確保をしてバッグマスクを密着させ、いつでも送気できる状態でスタンバイしていることが必要です。

この状況を考えると、学校や保育園など「フェイスシールド」を使う想定だと、難しいと思いませんか?

呼気吹き込み(≒口対口人工呼吸)式だと、胸骨圧迫中に自分の口を相手の口にくっつけたままにしておくということはできませんし、おそらく、胸骨圧迫が終わってから、気道確保をして鼻をつまんで、口をつけて吹き込む、という動作になるのではないでしょうか?

それでしたら、結局一人法と同じ動作の切り替え時間を要することになって、酸素をより多く組織細胞に届けるという二人法のメリットが期待できません。

助かる確率を少しでも上げたいのであれば…

ということで、看護師であっても保育園や学校などでは、二人以上での救護に当たる場合は 15:2 ではなく 30:2 になるという妥当性はありますが、それは人工呼吸器具ゆえの制限。

そう考えると、医療機関ではないから、ではなく、看護師がいる小児施設であれば、より質の高い救命処置ができるようにバッグバルブマスクを配備しているべきなんでしょうね。

最善を尽くしたい、助かる可能性を少しでも上げたいと考えるのであれば、プロの医療者としての倫理としてどう考えるか?

呼気に含まれる酸素は17%。バッグバルブマスクが使えれば酸素濃度を21%まで上げられます。

せっかく今回、看護師の標準知識として成人とは違った小児BLSを知っているべき、という点が明確に打ち出されたわけなので、一人か二人かみたいな表面的な丸暗記ではなく、きちんと蘇生科学を理解して、行動を最適化できるようになりたいですね。

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