人工呼吸のコツは「空気を入れすぎない」こと

昨今、市民向け救命講習では省略して教えるケースが増えているために、すっかり日陰者なイメージの人工呼吸。

しかし、家族を救う場合や、子どもの救命、水辺の事故、また医療従事者などにとっては、依然、重要な技術であることに変わりはありません。

心肺蘇生法BLSにおける人工呼吸は、空気を入れすぎると蘇生率が低下します。

質の高いCPR 人工呼吸の質とは?

質の高いCPRと言ったときに、

  • 強く
  • 速く
  • 絶え間なく
  • しっかり戻す

という胸骨圧迫の質については、皆さんよくご存知と思いますが、「質の高い人工呼吸のポイントはなんですか?」と尋ねると、はて? と考え込んでしまう人が多いようです。

そこで、今日は人工呼吸のクォリティ(質)について再確認しようと思います。

人工呼吸のコツといえば、ずばり、

 

過剰な換気を避ける

 

ことです。

空気の入れ過ぎはNG。

そこで、

  • 胸が上がる程度の送気
  • 1回1秒かける

と指導されます。

胸が上がる程度

胸が上がる程度というとすこし言葉足らずというか、少々かわかりにくいかもしれません。

これは胸が上って見えるギリギリくらいの量でいいですよ、というニュアンスが込められています。

胸ががっつり上がるまで吹き込め、というわけではない点、注意をしてください。

1回の吹き込みに1秒かける

この1秒というのも言葉だけではニュアンスがまったく伝わらない、やや罪作りな言葉です。

この1秒というのは、「勢いをつけずに吹き込む。ただし時間はかけすぎるな」ということを意味しています。

短く吹き込もうとすると、どうしても勢いよく吹き込んでしまい、気道内圧を上げてしまいます。そうすると気管ではなく食道の方に空気が入り込んでしまい、最終的には胃内容の逆流に繋がります。

それを避けるために優しく吹き込む、ただし胸骨圧迫の中断時間を短くするためには時間を掛けすぎるな、という意味での1秒です。

もともと英文では、これが “over 1 second” と書かれているため、日本語訳するときに「1秒以上かけて」吹き込むと誤訳されたこともあり、それが未だ誤解として残っている節も見られます。

この場合の over というのは、1秒間に渡って息を吹き込むという意味になります。

息を吹き込みすぎてはいけない理由

人工呼吸の質という点は、一般的な心肺蘇生法講習やBLS講習の中でもあまり強調されず、練習のときもほとんど言及されない部分なので、なぜ? という点は知らない人が多いのではないでしょうか?

人工呼吸の過剰な換気は血流低下を招き、救命率を下げる

理由1:胃膨満から嘔吐のリスク

人工呼吸の空気を入れすぎてはいけない理由のひとつめは、すでに言及しましたが、肺ではなく胃の方に空気が入り込み嘔吐してしまうリスクが増すからです。

思いっきり息を吹き込んで、肺の容量以上の空気が入ると、肺から溢れ出た空気が食道の方に入り込む、というのは想像できると思います。また、勢いよく思いっきり吹けば、普段はピタッと閉じている食道が開いて空気がいってしまうのもイメージできると思います。

蘇生中、腹部が膨らんでくるのが目で見てわかることもあります。胃がパンパンにふくらんで限界に達すれば、胃の内容物を伴って口の方に逆流。人工呼吸の継続は困難になってしまいます。

理由2:胸腔内圧の上昇から血流低下を招く

もう一つの理由は、空気を吹き込みすぎると、血流を妨げることになる、というものがあります。

これは少し機序が複雑ですが、簡単に言えば、肺がパンパンに膨らむと、心臓のあたりを圧縮する力が働いてしまい、静脈から戻ってくる血液が心臓に溜まりにくくなります。心臓に貯まる血液が少なければ、駆出する血液量も減ります。つまり血流低下を招いて、冠動脈に有効な血液がいかず、心拍再開の可能性が下がるということです。

過剰な換気は、理性で抑える

以上の理由から、人工呼吸の吹込みの量は、目で見て上がる程度に少なめでいい、ということはご理解いただけると思います。

しかし、実際の現場のバッグマスク換気を見ていると、かなり強めに、頻回に送気している様子が目に付きます。どうしても力が入ってしまったり、たくさん空気を送ったほうが助かるようなイメージが何となくあるのかもしれません。

人工呼吸の練習をちゃんと受けた人は、大抵の場合、こんな少なくていいんですか? と意外そうな顔をします。

このギャップがまた、過剰な換気につながってしまうのでしょう。

そこでBLS横浜の講習では、人工呼吸の吹き込み量がこんなに少なくていいという理由を説明しています。

胸骨圧迫で生じる血流量は普段の1/3しかない

CPRの目的は、大気中の酸素を人体の中の細胞まで届けることにあります。特に心臓の心筋細胞に酸素を届けるのが最優先です。

そのための前半ステップが人工呼吸であり、後半ステップが胸骨圧迫です。

最終的には血液中のヘモグロビンにくっついた酸素が細胞に届いてほしいわけで、その量は胸骨圧迫によって生じる血流に依存することになります。

その血流が、普段の1/3しかないわけですから、人工呼吸で普段の肺活量と同じだけの空気を送り込んでも、余りますよね、ということ。

だから、人工呼吸の量も普段の呼吸量の1/3程度で十分なわけです。

だからこそ、こうした理屈を理解して、理性で質の高い人工呼吸をコントロールすることが必要ですね。


日本で混在する2つの蘇生ガイドライン(JRC/AHA)の謎

先日、2月18日に実施された第108回看護師国家試験のBLSに関する出題を巡って話題になっているようですね。

呼びかけに反応のない人に対するBLSはとして医療従事者として優先度の高いものはどれか?、ということで、気道確保、胸骨圧迫、人工呼吸、除細動が選択肢として挙げられています。
 
これを心停止ケースと仮定するか、現段階は意識障害と捉えるかで意見が別れているようです。
 
正解は開示されていないので予想の域を超えませんが、AHAガイドラインとJRCガイドラインの違いをついた絶妙な出題だったとの見方もあるようです。

出題者の意図はわかりかねますが、この件で、2つの蘇生ガイドラインの混在、という日本国内に潜んでいた問題が浮き彫りになったのは間違いないようです。

そこで今日は蘇生ガイドラインの成り立ちについて解説します。

「国際ガイドライン」というものは存在しない

蘇生ガイドラインは国際的なものと思われている節がありますが、実はそうではありません。蘇生ガイドラインは国ごとに違います。

日本の蘇生ガイドラインはJRCガイドラインと呼ばれています。日本蘇生協議会(Japan Resuscitation Council)のホームページ から PDF で無料閲覧できるほか、JRC蘇生ガイドライン2015 として書籍 でも出版されています。

一方、BLS横浜でも開催しているAHA講習は、American Heart Association が作ったアメリカ合衆国の蘇生ガイドラインに準拠した講習プログラムです。

アメリカ心臓協会AHA救急心血管治療とCPRのためのガイドライン2015アップデート   日本蘇生協議会JRC蘇生ガイドライン2015

日本の医療者の大半はアメリカの蘇生ガイドラインで学んでいる

現実問題として、日本国内で公募講習として開催されている医療従事者向けの救急対応トレーニングのほとんどは、アメリカ心臓協会 AHA の BLS と ACLS です。

つまり、日本の医療者の多くが、自国のJRCガイドラインではなく、外国のAHAガイドラインで学んでいるというのが現状です。

日本国内では、自国と他国の2つのガイドラインが共存しているという不思議な現象がおきています。

国際コンセンサスと各国ガイドラインの成り立ち

国際ガイドラインなるものは存在しないと書きましたが、国際コンセンサス CoSTR と呼ばれるものはあります。

これは、国際蘇生連絡協議会という、各国の蘇生委員会が集まる国際会議で決められる合意事項、ガイドラインの骨子となるエビデンスに基づいた勧告です。

この国際会議で5年毎に国際コンセンサスが改定され、それに基づいて各国が自国用の蘇生ガイドラインを作るのです。

日本のJRCの場合、国際コンセンサスとガイドラインがほとんど同じ部分もあったりするのですが、基本的には国際コンセンサスとガイドラインは別ものです。

コンセンサスはエビデンスに基づいた国際合意ですので、基本的にはエビデンスがないことに関しては記載がありません。

しかし、エビデンスがないといっても対応ルールは作らないと臨床では動けない。

そこでエビデンスがない、もしくは弱い、などでコンセンサスにない部分は各国が自国の事情に合わせて穴埋めする必要があります。

そうしてできたのが国ごとの事情が加味された各国ガイドラインです。

ですから、エビデンスが強い部分については、国が違っても大きく変わることがない場合が多いのですが、エビデンスが低い部分ほど差異ができやすいともいえます。

日本においては、JRC蘇生ガイドラインとAHAガイドラインが共存しており、内容は大筋では変わらないのですが、例えば呼吸確認の方法のようなエビデンスデータがないことに関しては、ちょっとした違いが出ています。

こうした違いがあると、どっちが正しいの? という議論になりがちですが、医学的な視点で言えばどっちでもいいというのが答えでしょうし、国の基準という点で考えれば、日本国内ではJRCガイドラインを優先すべきなのは言うまでもありません。

医療従事者国家試験においてはJRCガイドライン

医学的にはどっちでもいいところなので、治療方針に関して裁量権を持った立場である医師は自由に判断します。

その他の医療スタッフに関しては、ガイドラインの更に先にある病院内の対応マニュアルや方針に従った行動を取るべきでしょう。病院としてAHAガイドラインを採用しているであればAHAでいけばいいし、JRC準拠ならJRCといった具合です。

 

さて、今回の話の発端は看護師国家試験でした。

日本国の国家試験ですが、この場合、JRCガイドライン準拠で考えるべきでしょう。いくら巷でAHAガイドラインが優勢であったとしても日本がアメリカのガイドラインに従ういわれはこれぽっちもないわけですから、頭をJRCに切り替えないといけません。

今回の国家試験問題で医療関係者がざわついているのは、AHAガイドラインで考える故に迷路にはまり込んでいたり、そもそもガイドラインが複数あって自分が知っているものと国試で求めているものが違っていたという衝撃のようです。

ここは後で論じますが、日本の蘇生教育を考える上では、大きな落とし穴であり、学校教員や救命法のインストラクターの指導姿勢にも課題があることが露呈したのではないでしょうか?

臨床的には、つまり医学的にはどちらでもいいわけですが、医療系学生の国家試験対策としては、JRCとAHAの違いを認識して、学校の授業などはJRC準拠でいかないといけない、というなのでしょう。

なぜ日本では2つの蘇生ガイドラインが混在しているのか?

さて、今回の看護師国家試験で露呈した日本における蘇生ガイドライン混在の問題ですが、なぜこんなことになってしまったのでしょうか?

歴史的な推移を見ると仕方ない部分はあるのかもしれませんが、現状として、日本の蘇生ガイドライン準拠の講習が展開されていない、というのが問題の根源です。

日本には日本独自のガイドラインがあるのに、それに基づいた医療者向け講習会となると極めて限定的なのが現状です。

日本救急医学界のICLSが、JRCガイドライン準拠の医療従事者向け救命処置研修ですが、公開講座としてはあまり開講されず、ディレクター資格を持ったドクターが院内研修としてやっていることが多く、つてのない一般医療者が救命処置を学ぼうと思ったら、地域でオープンコースを開催しているAHAトレーニングサイトに頼るしかないのが現状です。

本稿ではこれ以上は言及しませんが、ガイドラインだけがあっても、それを普及するための媒体や手段がセットで用意されていないと、現実的な運用は難しいようです。

一方、市民向けの救命法教育で言えば、消防も日本赤十字社といった組織だった普及団体があるため、ほぼ完全にJRCガイドライン準拠で固まっているわけで、組織立った教育普及の重要性は明らかです。

せっかく立派なガイドラインがあるのに、それが広まらず、国家試験にも影響している現実、大きな課題です。


中学校での心停止事案、人工呼吸を巡る裁判

救命処置を巡る訴訟に関する報道があったのでクリップしておきます。

心肺蘇生法において人工呼吸の省略の是非を問う裁判に関する報道記事

(NHK大分NEWS Web 2019年2月14日付)

 

2016年の人工呼吸省略に関する判例

争点のひとつとして「心臓マッサージだけで、人工呼吸は行わず、救命措置が十分でなかったなどの過失があった」としている点に注目しました。

これは2016年の仙台での判例として、11歳の子どもの救命処置に人工呼吸をしなかったのは過失であるとの判決が出たことと関係あるのかもしれません。

 

人工呼吸をしなかったことが過失と認定された裁判例

 

2016年のケースは、胸骨圧迫のみのCPRをしたのは診療所の看護師でした。

医療従事者と学校教職員では、責任の度合いが違うかもしれませんが、裁判長が引き合いに出した日本国内のJRC蘇生ガイドラインでは、小児BLSに関しては医療者と学校教職員は区別されていません。

この裁判結果を見たときに、近い将来、学校教職員に対する裁判でも人工呼吸の有無が争点化されるのではないかと予想していたところでした。

今回のケース:小児BLSなのか成人BLSなのか

今回のケースでは、中学3年生ということで、蘇生ガイドラインの区分で言ったときには、小児ではなく、成人として判断される可能性が高いのではないかと考えます。

蘇生科学の上では、成人と小児の境目は、思春期を迎えたか どうかで判断します。

思春期前の小児では、呼吸の未熟さが残っている故に呼吸原性心停止を疑います。そのため小児BLSでは人工呼吸の省略は推奨されていないのですが、今回は中学3年生です。

それに報道を見るかぎり「不整脈を起こした倒れ」とあり、心原性心停止が示唆されています。

このことから人工呼吸をしなかったことを過失とまで言えるのかは、ガイドライン的にも結果論としても難しいのではないかと考えます。

裁判所の判決が気になるところです。

 

体力テスト死亡訴訟で学校側争う

02月14日 12時18分

3年前、大分市にある私立中学校で男子生徒が体力テストの最中に倒れて亡くなった事故をめぐり、生徒の両親が、学校側には体調の確認を怠るなどの過失があったとして合わせて4800万円余りの損害賠償を求めた裁判が14日から始まり、学校側は争う姿勢を示しました。3年前、大分市にある私立岩田中学校の3年生だった柚野凜太郎さんは、体育の授業中に体力テストで走っていた際、突然、不整脈を起こして倒れ、心肺停止の状態で病院に運ばれましたが、2日後に亡くなりました。

これについて、柚野さんの両親は、担当教諭が体調の確認を怠ったほか、心臓マッサージだけで、人工呼吸は行わず、救命措置が十分でなかったなどの過失があったとして、学校と担当教諭に対し、合わせて4860万円余りの損害賠償を求める訴えを起こしています。

14日から大分地方裁判所で審理が始まり、学校側は訴えを退けるよう求めました。
詳しい主張については今後、書面を提出して明らかにするとしています。

この事故の対応をめぐって学校側が立ち上げた有識者の外部調査委員会は、報告書の中で、安全の配慮に問題があったと指摘した一方で、死亡との因果関係は不明だとしています。

NHKニュース:https://www3.nhk.or.jp/lnews/oita/20190214/5070003010.html


AHA eCard ー 日本とアメリカのデザインの違い

2019年に入って、日本国内のAHAトレーニングセンターでも修了証(プロバイダーカード)を電子認証の eCard に切り替えるところが増えてきているようですね。

AHA eCardデザインの日米の違い

BLS横浜は米国TCの eCard を発行しています


BLS横浜で2018年10月以降、BLSプロバイダーコースとACLSプロバイダーコースを受講いただいた方には 米国USトレーニングセンターの eCard で資格発行しており、米国の最新型のプロバイダーカードですよ、とご案内していました。

これまではカードの表面にQRコードがついているカードを見たら、日本国内ITCではなく、米国USトレーニングセンターで受講した証拠みたいな側面もありましたが、今後はそうは言えない状況になりつつあります。

そこで今日は、アメリカ合衆国で発行された eCard と日本の国際トレーニングセンター(ITC)が発行した eCard の違い、見分け方をご紹介します。

裏面に印字された発行トレーニングセンター名と住所

プロバイダーカードでもeCardでも裏面には、発行トレーニングセンター名と住所が記載されています。トレーニングセンター名は英語表記なのでパット見では分かりづらいかも知れませんが、住所を見れば JAPAN なのか USA なのかは一目瞭然です。

日付表記の違い

米国のTCでは、日付は数字で月/日/年の順に印字されます。例えば写真のような 2/1/2019 は2月1日を意味します。これが日本のITC発行の場合は、1 Feb. 2019 という表記になります。

発行日と有効期限表記

なぜかはわかりませんが、発行日と有効期限を示す英語表現が日米で違っています。

米国 Issue Date / Recommended Renewwal Date(発行日/更新推奨日)
日本 Date Completed / Expiraion Date(完了日/失効日)

おそらく資格としての位置づけが日米で違うことに関係しているのでしょうか?

eCardコードの記載

米国の eCard にはないのですが、日本のITC eCard には、eCardコードが印刷されています。

eCard Code は、eCard に固有の番号で、このコードをインターネット上の確認サイトに入力すると、雇用者などが資格の有無や有効期限をチェックできるという番号です。

カード型ではなく、賞状タイプのeCardには、このコード印字されているのですが、なぜか米国ではカードには記載されていません。

色の違い

写真を見比べてもらうとわかると思いますが、ハートマークの色味が少しだけ違っています。この2つは同じプリンタで印刷しているので、はっきりと違いがわかりますが、実際のところは色で違いを見分けることは難しそうです。

QRコードの密度

これはパット見でもわかる違いですね。

QRコードを読み取ると、eCard の証明ページに入れますが、日米で使っているシステムが違いますので、そのせいではないかと思います。

資格としての違いはありませんが…

これまでは、日本のITC発行でも、US-TC発行でもプロバイダーカード自体はまったく同じもので、裏面の発行元表記くらいしか見分けるポイントはありませんでしたが、eCard になってからは、完全に区別されるようになったみたいです。

だからといって資格としての意味合いは、少なくとも日本では変わらないと思いますが、ちょっとした珍しさ感ということで、BLS横浜の公募講習では、今後も基本的に US eCard を発行していきます。


ターニケット(止血帯)&血液感染講習 in 横浜

先週の金曜日、「ターニケット(止血帯)&血液媒介病原体」講習と題したオリジナル講習を開催しました。

この4月から、日本の救急法の中でも市民に向けて軍用ターニケットの指導が始まるということで、それに先駆けてファーストエイド指導員クラスの方たちと止血帯教育の課題と展望を考えようという企画。

当初はBLS横浜の単独企画でしたが、開催の直前にオファーがあり、外部からターニケットの専門家2名を迎えて、10名の参加者の皆様と有意義な時間を作ることができました。

今回、サポートに来てくださったのはフランス陸軍で衛生兵として活躍されていた野田力さん。

ご自身のフランス軍での体験で著書もある有名な方です。Twitter(@NODA_Liki)でも情報発信されていて、日本国内でもターニケット講習や保安関係者向けの戦闘救護研修を開催しています。

もうお一人は米軍でファーストエイドなどの訓練教官をされている方。

フランス軍とアメリカ軍の立場から、お二人に戦場でのターニケットの使われ方や、戦地での状況をお話いただきました。

軍における止血帯を考える上では、止血帯で緊急止血をした後の衛生兵や軍医による2次治療と、その後の後方搬送のシステムがあってこそのもの、その救護システムの一部としてのターニケットの位置づけというのが見えてきます。

また「緊急」止血帯ということで、戦闘服の外にすぐ取れる位置に2つのターニケットを個人装備として常備しているということも、前提条件として重要な部分です。

軍としてのターニケットの教え方と、民間での使い方と教え方の違いがリアルに浮き彫りになったと思います。

その他、日本国内で止血帯普及に携わる立場の方の参加も複数あり、団体ごとの国内展開の内情と現状の一端も知ることができました。

現時点、詳説できない非公開情報もあるため、具体的な言及は避けますが、米軍、仏軍での実際や、ターニケットの歴史、ファーストエイドガイドラインの推移、日本国内の情勢、ターニケットの国内流通経路、医学的な知見、アカデミック・ポジション、政治的な問題などを総合してくると、どうしても不自然に見える日本でのターニケット教育の急展開、「いきなり感」の背後にあるものが見えてきたように思います。

ターニケット自体の有用性は疑いはないと思っています。

少なくとも以前に教えられていたような三角巾と止血棒を使ったようなやり方とは比べ物にならないくらい現実的です。

しかし、止血帯の使い方を誰が学ぶべきなのか? が問題です。

誰が使うのかが定義されなければ、教育展開できません。

器具としてのターニケットの巻き方を教えるだけなら簡単。しかし、それを使用するという意思決定のプロセスを習得させるためには心肺蘇生法とは比べ物にならないくらいの高度な医学的な教育が必要となります。

ターニケットで止血したあとの対応を、「システム」として考えたときに、状況・目的がはっきりしない人たちには教える必要がないというか、教えようがない、というのが現時点での私たちの理解です。

最後に軍関係の方たちも含めてのある程度の共通意見として上がっていた危惧について紹介して締めたいと思います。

「ファッションとしてターニケットを持ち歩く人たち。止血帯以前に心肺蘇生法はできるんだろうか?」


「質の高いCPR」の評価指標 BLSとACLSの違い

今日は横浜で BLSプロバイダーコース でした。

受講者さんから質問があったのは、胸骨圧迫の深さについて。

BLSプロバイダーコースでは、基本的には成人傷病者の胸骨圧迫は「少なくとも5cm」と教えています。

大人であっても体格差はあるし、実際のところどうなのか? というのが質問の趣旨。

体格差があっても5cmでいいの?

このことを考える上で大切なのは、BLSはあくまでもBasicなレベルであるという点です。標準化されている、つまりなるべく幅広く適応できるように平均化されたものであるという点を理解しておく必要があります。最大公約数的にこうしておけばいいんじゃない? という程度にまとめられています。

体重何キロ以上だと深さ何センチで、何キロ未満だったらどれくらい、という区分もできるのかもしれませんが、あえてそのようにはしていません。

BLSレベルでは、そのような細かなカスタマイズは期待されていない、とも言えます。

とりあえずは細かいことは考えずに、言われたとおりにやってくれればいい、というのが本質的なコンセプトです。とにかく単純化しています。

胸骨圧迫の目的は冠動脈灌流圧を15mmHg以上に保つこと


しかし、体格差などの個別性に着目するのも大事です。ACLSプロバイダーコース では、そこも含めて学びます。

そもそも胸骨圧迫の目的は何なんでしょうか?

血流を生み出すため、です。特に冠動脈灌流圧が心拍再開と相関していますので、第一義的には、冠動脈灌流圧を15mmHgより高いレベルに保つのが、質の高いCPRの要件となります。

そのための平均的な指標が、


  • 少なくとも5cm
  • 100〜120回/分
  • リコイル
  • 中断を最小限に

 
というわけですが、上記は絶対的なものではなく、あくまでも平均的な指標です。

いま目の前でCPRを受けている傷病者にとって、本当にそれでいいのかどうかは、結局のところ蘇生中に冠動脈灌流圧を測ってみなければわかりません。

しかし、現実問題、冠動脈の血圧なんて測れない! そこで、ACLSの中では、冠動脈灌流圧が15mmHgに達していることを類推するための代理指標という考え方が出てきます。

冠動脈灌流圧15mmHgの代理指標


  • 大動脈拡張期圧 20mmHg
  • 呼気終末二酸化炭素分圧 10mmHg

 

血圧のうち、拡張期圧が冠動脈灌流圧と相関することがわかっています。そこでA-Lineの拡張期圧が20mmHgあれば、冠動脈灌流圧も15mmHgはあるだろうと考えられます。

また蘇生中の二酸化炭素排出量は循環に依存しています。そこで呼気中のCO2の値が10mmHgを超えていれば十分な灌流があると考えられるのではないか?

このように質の高い胸骨圧迫を、5センチとか100〜120回とかで判断するだけではなく、きちんと定量的にコントロールしていこうというのが二次救命処置の考え方です。

BLSインストラクターなら知っておきたいACLS


このあたりのことは、二次救命処置に関わる人以外であっても、BLSインストラクターは知っておいてもいいかもしれません。

一般にACLSプロバイダーコースは医師・看護師・救急救命士など、二次救命処置に携わる人以外は受講対象となっていませんが、BLSを教える立場の人であれば、学ぶ価値・意味はあるのではないかと考えています。


千葉県保育士等キャリアアップ研修「エピペン講習」H30年度後期

今日は、去年から担当させていただいている千葉県の保育士等キャリアップ研修の「食育・アレルギー対応」でした。

3回シリーズのうち、アレルギーの病態の部分とアナフィラキシーショックへの対応、つまりエピペン講習部分をBLS横浜で担当させていただいています。

教育工学に基づいた講習の組み立てをしているというだけなのですが、3時間の中でも学習の積み上げを意識した展開のおかげか、最後の集大成としてのシミュレーションは、これまでの学習経験の中でも印象的だったという感想をいくつもいただけました。

たった3時間で、エピペン注射を含めた救急対応ができるようになるわけではありません。特に保育園では職員の連携がなければ絶対にうまくいくわけがありません。

なので、この研修のゴールは、今回受講頂いた皆さんが「できるようになる」のではなく、受講者が園に帰ったときにファシリテーターとなって、園の救急体制を見直して、職員連携による実践訓練を行うリーダーになれること、にあります。

ここが一般的なエピペン講習とは違うところなのだと考えています。

そんな自分たちで学ぶための補助ツールと言うべきものが、下記のシナリオシートです。(以前に エピペン研修のシミュレーションネタとデブリーフィングツールを公開 で紹介したのと同じものですが、今回は印刷して使えるPDFも公開しています。)

エピペン講習傷病者指示書

受講者5人1チームになり、一人がアレルギー症状を起こした子どもの役、もうひとりは119番通報の指令員ならびに現場到着した救急隊員の役をしてもらいます。

エピペン講習救急指令員指示書表面

エピペン講習救急指令員指示書裏面

終わった後の振り返りの場が、学びのメインステージ。

そんな体験をしてもらい、それをご自身の保育園でもやってみてくださいね、というのがこの研修の趣旨になります。

これらのシナリオシートはPDFでも公開します。

どうぞご自由にお使いください。

 

エピペン・シミュレーションシナリオシート(PDF:200kb)

 

その他、エピペン研修に関する情報は下記ページもご参照ください。

 

BLS横浜ブログ エピペン関連記事23編

 
エピペン&小児BLS心肺蘇生法講習


PEARS2015日本語インストラクターマニュアル修正

日本語版DVDを使って開催するPEARSプロバイダーコースに修正がありました。

インストラクターマニュアルに修正され、症例映像の解釈が変わりました。

これに伴い、筆記試験の正誤に関しても変更がなされています。

G2015日本語版を新規に受講いただく方には、問題はありませんが、過去にG2015版を受講し、試験を受けた経験がある方が復習参加や再受講された場合は、映像は同じでも、試験問題内容と答えが前回と違っている部分がありますので、ご留意ください。

なお、英語版DVDを使うコースに関しては、今回の修正は適応されず、旧来のままです。

BLS横浜の講習に復習参加された方で、この点、疑問があればインストラクターに個別にお尋ねいただけますようお願いいたします。


医療機器としてのターニケット(止血帯)を市民に教える上でのハードル

日本では、自衛隊でも東京消防庁でもCATと呼ばれるタイプのターニケット(止血帯)が正式納入されています。

これはもともと米軍の一般兵士用として戦地に置いて実績を上げてきた製品で、世界中でもっとも広く使われているものです。

軍用ターニケットCATの添付文書:医療機器承認

日本国内においてもCATは、一般医療機器として承認(PDF:別ウィンドウで開きます)を受けており、既成品としての止血帯は医療器具であるといって間違いありません。

軍用ターニケット止血帯

市民向け救急法講習で医療器具の使い方を教える

この4月から、日本赤十字社の救急法講習の中にも既成品としてのターニケットの使用法練習が含まれるということで、2005年まで教えていたような三角巾とボールペン等を使った手作り応急止血帯とは一線を画する新たなフェーズに突入したことになります。

一般市民に、医療機器の取り扱い方法を教えるという図式になるからです。

一般市民が医療機器を使って医療行為を行うことの妥当性と違法性の阻却理由。

本稿ではあえて結論は書きませんが、止血帯教育に関わる人であれば知っておかなければならない最重要事項と思います。

(医療者免許を持たない)消防職員がターニケットを使用する際の条件

考えるべき思考の入り口として、去年の3月に総務省消防庁が出したターニケット使用に関する通達文書を紹介しておきます。

消防職員によるターニケットを含む止血帯による圧迫止血について(PDF)

これは、各自治体の消防を所管する総務省消防庁が出した公文書で、医療従事者免許を持たない消防職員が止血帯(ターニケット)を使う場合の条件を2つ挙げています。
 

  1. 傷病者を医療機関その他の場所に収容し、又は医師等が到着し、傷病者が医師等の管理下に置かれるまでの間において、傷病者の状態その他の条件から応急処置を施さなければその生命が危険であり、又はその症状が悪化するおそれがあると認められること。
     

  2. 使用者が、以下の内容を含む講習を受けていること。
    • 出血に関連する解剖、生理及び病態生理について
    • 止血法の種類と止血の理論について
    • ターニケットの使用方法及び起こりうる合併症について

 
逆説的に言えば、これらの条件に合致しない場合は、医師法違反に抵触する可能性があるということです。

さらに言えば、消防職員に関しては、メディカルコントロールによる事後検証の必要性も示唆されている点にも注目できます。

つまり、きちんと教育を受けた立場であっても、その使用の妥当性については事後審査されるということです。

ターニケット使用の妥当性を客観的に評価・判断できること

条件1については、当たり前のことしか書いていないように見えますが、かなり重い内容となっています。

生命危機を評価し、ターニケットを使う必要性が「認められる」ことが条件だと書かれているからです。これは救助者が主観的に必要だと思った、というだけでは不十分で、事後検証においても妥当性が判断されるような客観的な情報を認識し記録しておくことの必要を示唆しています。

なぜターニケットを使うと判断したのか? 大出血だと思ったから、では通用しません。

評価するのに必要な教育はどの程度?

そのために条件2のような教育が必要となるわけですが、条件1を満たすためには、ただ講習を受けて話を聞きました、というだけでは足りるものではないというのは当然です。責任を持った判断ができるようになることが規定されているわけです。

東京消防庁では、すでにターニケットの配備が終わり、実稼働しているわけですが、事後検証においてはターニケット使用が妥当とは判断されなかった事例が出てきているとも聞き及びます。

そんな訓練された立場の消防職員にとってもハードルが高い医療行為であるターニケット使用を、一般市民に指導するという方向性。それがこの4月から決定事項として始まります。

どんな教育がどの程度の時間をかけて、どの程度の習熟度をゴールとして実施されるのでしょうか?

そんな問題提起として、本稿は締めるさせていただきます。

今後の動向については、引き続き追いかけていきます。


蘇生現場でポケットマスクを使った後の洗浄・消毒

人工呼吸用のポケットマスクは、一度使ったら再使用できるんですか?

そんな質問をよくいただきます。

ポケットマスクの洗浄・消毒と交換パーツ

ポケットマスクとは


家族相手ならいざしらず、職業的に救命処置にあたる人にとって、いくら救命のためとはいえ、口対口人工呼吸はありえません。(医療従事者が病院内でダイレクトなmouth to mouth人工呼吸をしてしまったら、それは感染事故です)

感染防護機能や、医療機器承認を受けているかという点では、現実的なところで人工呼吸をしようと思ったらポケットマスクが最低ラインと考えています。

そのため、BLS横浜では、保育士や学校教職員など職業人向け心肺蘇生法研修では、ポケットマスク を基本として練習して頂いています。

ポケットマスクは洗える部分と使い捨ての部分で構成されている

結論からいいますと、マスク部分は洗浄消毒可能、フィルターと一方向弁(マウスピース部分)は交換、というのがメーカーの推奨です。

フィルターは構造上、洗浄ができないので、再生使用はできません。無理やり洗うことはできるかもしれませんが、繊維状の部分の目が潰れてしまって通気が悪くなるので現実的ではありません。

そのため、マネキン相手に練習する場合は、フィルターは外しておくことを推奨しています。BLS横浜で講習中に貸し出しているポケットマスクにフィルターがついていないのはそのためです。

一方向弁(マウスピース部分)については、マネキンでの練習の場合は、洗浄・消毒して再生使用することはできますが、実際の傷病者に対して使った場合は、なるべく交換する方向で考えたほうがいいかと思います。現実的にはフィルターをつけていれば、吐瀉物等が一方向弁まで及ぶことはないと思いますが。

ポケットマスクの洗浄方法


さて、マスク部分と一方向弁の洗浄についてですが、洗い方は家庭用の食器洗いと同じです。

スポンジなどに食器洗い洗剤をつけて普通にこすり洗いします。

一方向弁の内側については、哺乳瓶などの筒物を洗うときのブラシを使います。100円ショップなどで太さ違いのものがセットで手に入ります。

消毒前には洗浄が必要

外部の救命講習の手伝いに行くと、ポケットマスク使用後に洗わずに消毒液入りのバケツにボチャンと漬けているのを見ることがありますが、これは間違いです。

消毒前には、タンパク成分を落とすための洗剤での洗浄が必要です。消毒薬はタンパク成分を固着させる働きがあるからです。これは医療界の常識です。

ポケットマスクの消毒方法


洗剤をすすいだ後、0.5%の次亜塩素酸ナトリウム水溶液に10分間浸漬し、その後、水洗、自然乾燥 というのが正式な消毒方法になります。

次亜塩素酸ナトリウムというのは、家庭用の漂白剤と同じ成分です。キッチンハイターを薄めて作れます。

0.5%というのは恐らく米国のEPA勧告に従ったものと思われますが、実際のところかなり濃い目で、家庭で扱う上ではすこし危ない気もします。

そこで、ノロウィルス対策などでも一般的な0.1%の溶液に少し長めに漬けるというやり方でいいかと思います。

家庭用のキッチン用漂白剤の場合、濃度は6%程度ですので、500mlの水に対してペットボトルのキャップ2杯くらいです。

この濃度でも、服に跳ねると色落ちしますので、気をつけて。

ポケットマスクの交換パーツ


本来、ポケットマスクのフィルターと一方向弁は単回使用の使い捨てですから、製品として交換パーツも販売されています。

アップデートパック ということで、フィルターと一方向弁のセットのものが販売されていますが、価格は約2千円。

ポケットマスクは新品で買っても2700円程度ですから、実際に傷病者・患者に使って汚染されたのであれば、まるごと新品に変えてしまったほうが精神衛生上もいいのではないかと思います。

その他、フィルター だけを単体で買うと約700円。一方向弁(吹き込み口) だけだと約1600円。

いずれにしてもメーカー純正品は高いですね。

米国では練習用のサードパーティー品が多数あるので、ある程度数をまとめて購入するのであれば輸入のほうがおすすめです。