【速報】AHA-BLS G2020で何が変わった !?

2020年10月21日に発表された新しい蘇生ガイドライン2020。

今回は、ガイドライン発表とともにBLSプロバイダーマニュアルも同日発表という異例の展開となりました。

さて、気になるのはAHA-BLSの改定で何が変わったのか?

プロバイダーマニュアルの変更点を速報でお伝えします。
 
AHA-BLSプロバイダーコースG2020 蘇生ガイドライン改定で何が変わった?

G2020-BLS テクニカルスキルに大きな変更はナシ 認知スキル部分は拡大

BLSの手順や内容については大きな変更はありません。基本的にはG2015講習のままで概ね対応できます。

ただ、BLSプロバイダーマニュアルに記載される学習範囲は大幅に拡大しました。

成人・小児・乳児の蘇生法や講習の練習内容や実技試験にはほぼ変わりがないものの、これまで「特殊なケース」とされていた妊婦の蘇生や溺水、アレルギー対応なども記載されるようになりました。

特に溺水に関しては通常のアルゴリズムとは完全に異なる内容が盛り込まれています。

実務面での変更は補助呼吸の秒数

アルゴリズムや手技の点で大きく変わったことはありませんが、強いて言えば補助呼吸、すなわち「呼吸なし、脈アリ」の場合の人工呼吸回数の頻度が整理されました。

G2015
成人への補助呼吸 5〜6秒に1回
小児への補助呼吸 3〜5秒に1回

G2020 NEW!
成人への補助呼吸 6秒に1回
小児への補助呼吸 2〜3秒に1回

妊婦の蘇生

これは昔からガイドラインには書かれていた点ですが、今回初めてBLSレベルで記述されるようになりました。(もともとはACLS-EPコースの範疇でした)

妊婦であってもCPRはすべきであるし、AEDも普通に使う(胎児に影響はない)という基本事項の確認に加えて、手的子宮左方移動(LUD)が紹介されています。

これは周産期では普通に知られている話ですが、妊婦が仰臥位になると大静脈が圧排されて静脈還流が悪くなります。ただでさえ不安の血流の1/4しか出せない胸骨圧迫下では、突き出た腹部を左側に引き寄せるようにして大静脈の圧迫を軽減させることが重要とされています。

具体的には2人以上の救助者がいる場合は、一人は妊婦の左側に位置して、両手で腹部を左側に引き寄せるようにした状態で、もうひとりが胸骨圧迫を行います。

心停止以外の緊急事態の記述が拡大

G2005以降、シンプル化の方向だったBLSプロバイダーコースですが、ここに来てG2000時代に戻ったかなように心停止以外の緊急事態の記載が増えました。

・心臓発作
・脳卒中
・溺水
・女性
・アレルギー(エピペンの使い方)

心臓発作と脳卒中は、以前のガイドラインでは記載されていましたが、溺水、女性、アレルギーというのはまったく新しい新項目です。

溺水についてはインパクトが大きいので別項で取り上げます。

女性の傷病者の場合の注意点としては、胸骨圧迫の段階では必ずしも服を脱がせなくてもよいという点が明記されたのと、AEDを装着する際は必ず服を脱がすこと、アクセサリー類はパッドにかからなければ外す必要はないことがはっきりと書かれるようになりました。

アレルギーについては、エピペンの使い方がかなり詳しく解説されていて、内容はハートセイバー・ファーストエイドコースとほぼ同程度です。

心臓発作と脳卒中もかなり詳しく書かれており、BLSの概念に心停止以外の緊急事態も盛り込まれてきたのはたいへん興味深いところです。

溺水の救助は人工呼吸が先!

溺水者の蘇生はC-A-Bではなく、A-B-Cが望ましいという点は、ガイドラインレベルでは言われていましたが、今回、これが更に発展した形でBLSプロバイダーコースに入ってきました。

この内容は衝撃的と受け止める方もいるのではないでしょうか?

溺水の救助手順として示されているのは下記のとおりです。

溺水の救助手順
呼吸確認・なし → 人工呼吸2回 → 脈拍確認・なし→ 30対2のCPR開始

プロバイダーマニュアルのレベルでは詳述はされていませんが、最初の人工呼吸2回は、酸素供給というだけでなく、喉頭痙攣などで喉が閉じているのを開放させるという意味合いがあるものと考えられます。

このあたりはこれまでもヨーロッパ蘇生協議会のBLS手順では溺水は人工呼吸が先、とされてきましたが、AHAもヨーロッパに寄せてきた印象です。(同じようなことは成人への胸骨圧迫の深さは6cmを超えないという記述の採用でも見られました)

CPRコーチという新しい概念

今回初登場した目新しい点として「CPRコーチ」という新しい概念があります。

これは主に病院内でのチーム蘇生に関して言われている点ですが、ACLSチームの全体リーダーとは別に、CPRの質管理を行う別のリーダーを配置するというものです。

日頃の病院の中での蘇生でも実際にそれに近い動きはなされているかと思いますが、これが明文化され、CPRコーチと命名されました。

CPRコーチの役割は、胸骨圧迫のための足台を準備したり、ベッドの高さを調整したり、蘇生の質に関してフィードバックを行うなど、チームリーダーが薬剤指示や原因検索に専念できるようにCPR部分の調整を図ります。

興味深いのは、CPRコーチの役割として具体的な指示を出すことが例示されていることです。例えば胸骨圧迫は100〜120回/分でしましょうというのではなく、110回で圧迫してください、と指示するように、など。

抽象的なガイドライン表記の先を超えた具体性にフォーカスされているのを強く感じます。

 
 

まとめ

全体的な所感としては、シンプル化の方向からの脱却、現実に目を向け始めたという印象です。

これまでは、救える命を救おうということで、目の前で卒倒した心室細動による心停止にフォーカスしてBLS全体がデザインされていました。

そんな潮流が2005年から続いていたわけですが、G2015からは現実社会に目を向けようということで、リアルが追求されるようになり、今回は心原性心停止以外の緊急事態までも内包する概念としてBLSが再構築された印象です。

誰かを助けたいのではなく、目の前のこの人を救いたい。

そんなシフトチェンジを感じました。


10月21日 新しい蘇生ガイドライン2020が発表されました

10月21日、予告通りAHAから新しい蘇生ガイドライン2020が発表されました。日本時間では21日の夜中11時半過ぎから情報にアクセスできるようになりました。

うれしいことに蘇生ガイドライン改定のポイントをまとめた「ハイライト」が日本語でもリリースされています。公式には下記ページから公式にダウンロードできます。

https://cpr.heart.org/en/resuscitation-science/cpr-and-ecc-guidelines

英語サイトで、日本語版が見つかりにくいと思いますので、直リンクも貼っておきます。

下の画像をクリックすると32ページのPDFファイルが開きます。

 
また蘇生ガイドライン原本そのものは下記ページで章ごとにPDFファイルで無料ダウンロードできます。(英語版のみ)

https://professional.heart.org/en/science-news/2020-aha-guidelines-for-cpr-and-ecc


「窒息解除に掃除機はNG」を文脈学習で納得してもらう

救命講習を開催していると、うんざりするくらいに聞かれるのが「掃除機で吸引するのはどうなんですか?」という質問。

これは市民向け救命講習だけではなく、医療従事者向けのBLS講習でもよく尋ねられる定番の質問です。

とある精神科病棟勤務の方からは、実際に病棟で窒息解除用として掃除機を用意しています! という話を聞いたこともあります。

結論から言えば、「窒息解除に掃除機吸引は推奨しない」なのですが、TVで医師が掃除機を勧める発言をしていた事実もありますし、それで助かったという事例があることも事実。

なかなか受講者に理解してもらうのが難しいテーマでもあります。

救命法指導員の皆さんは、どのように説明していますか?

 

「ガイドラインに載っていません。つまり推奨されていません」

 

と事実を述べても、TVで医師が推奨しているのを聞いたことがある、と言われてしまったときには説得力は厳しいです。

そこで、これを教育工学でいうところの「文脈学習」的に対応したらどうなるか? という例をお示しします。
 
 

「掃除機で吸引するっていうのはどうなんですか?」
「良い質問ですね。みなさん、疑問に思うようです。じゃ、一緒に考えてみましょう。今、講習会場のここで私が喉につまらせたら、皆さん、どう行動しますか? 掃除機をどこに取りに行きます?」 
「1階の受付? でも1階の受付には掃除機はおいてないですよね。そこから掃除用具置き場に職員と一緒に取りに行って、エレベーターで7階のここに戻ってきて…」
「この部屋のコンセントはどこにありますか? 掃除機のノズルは私の口の中に入りそうですか?」
「さて、ここまでやるのに何分かかりそうですか? 5分?」
「皆さん、5分間息を止めて我慢できますか?」
「不確かな掃除機を探しに行くより、背中を叩くとか腹部突き上げ法とか、自分の身ひとつでできる処置をサクッとやった方がいい気がしませんか?」

 
本当はシミュレーションで体験してもらうと、確実に痛感してもらえるのですが、対話形式でも十分伝わります。

理屈をあれこれこねるより、実際にやったらどうか? を具体的にイメージするサポートをし、自分自身の判断で「現実的ではない」と理解してもらう方法です。

一般論で話を勧めると、言葉遊び的にあちこち飛んでしまう話題であっても、現実問題として真正面から向き合ってみれば、すっきりと帰着することがよくあります。

文脈学習、これは蘇生法教育と生存の関係性を語る上でも欠かせないポイントです。

ここではあまり詳しく説明することはできませんが、文脈学習の意義について、なんとなくイメージできたでしょうか?


蘇生ガイドライン2020ーインストラクターアップデートと暫定コース移行は2月1日まで

先ほど、AHAからメールが来て、新ガイドライン2020に向けての、インストラクターアップデートの指針が示されました。

AHA蘇生ガイドライン2020への移行期限のアナウンス

AHA蘇生ガイドライン2020は、2020年10月21日に発表されますが、それと同時にインストラクター向けのアップデート教材が e-Learning の形で利用できるようになるそうです。

すべてのAHAインストラクターは、2021年2月1日までにこのオンライン・アップデートを完了する必要があります。

また、併せて、

Interim Training Materials will also be available to Instructors and Training Centers through the AHA Instructor Network to show you where to incorporate the new science into your courses until you begin teaching with the new course materials.

と書かれていましたので、新しいテキストやコースDVDが出るまでの、つなぎの「暫定トレーニング教材」もインターネット経由で提供されるようです。

これを使った新ガイドラインコースに移行するまでの期限も、2021年2月1日までとなっています。

 
以上は、恐らく英語教材を前提に設定された期限だと思われます。

これらの資料の日本語化によるタイムラグも問題など、日本での展開については不透明な部分はありますが、思いの外、早く新2020蘇生ガイドライン準拠講習が始まりそうです。


AHA US-eCard のデザインがマイナーチェンジ

AHAプロバイダーカードのデザインがマイナーチェンジしたようです。

上が旧カード、下が新カード。

どこが変わったかわかるでしょうか?

AHA-US-eCardのデザインがマイナーチェンジしました

そう、ロゴマークがG2015の新デザインにかわっているんですね。

それとこれまでなかったeCardコードが記載されるようになりました。(eCardコードはこれまでは賞状型のFullサイズにしか記入されていませんでした)

eCard裏面の変更点は、、、少し残念

続いて裏面。右が旧カード、左が新カードです。

ハワイのeCardからはUSAの記載が消えてしまいました

資格を発行したトレーニングセンターの所在地を示す部分が大きく変更されています。

 

TC Adrress → TC City, State

 

住所の記載が、州と市に変わってしまったため、USA という表記がなくなってしまいました。

これはなんとなく残念。

HI というのがハワイ州を示す略語なのですが、日本人にはピンときません。

そこで USA という表記があるからこそ、日本の国際トレーニングセンター(ITC)ではなく、米国のナショナル・トレーニングセンターで取得した資格というのがわかりやすかったのですが、、、

これまでBLS横浜で受講くださった方には、「ハワイでACLS資格を取ってきた」と言ってもバレませんよ、なんて冗談半分に言っていたのですが、ちょっと通じにくくなっちゃったかなと。

 

カードの下のコピーライトの部分を見ると、2020年3月にカード仕様がマイナーチェンジされたみたいですね。

少々わかりにくいですが、Aiea, HI ということで、ハワイ州のアイエア市で発行された純正のUS-ACLSプロバイダー資格であるということは間違いありません。

BLS横浜で ACLS や BLS 資格を取得した方は、カード裏面の表記を見てみてください。

 
 
(現時点、ハートセイバー・ファーストエイドCPR AEDと、PALS/PEARS 資格はハワイではなく、日本の JSISH-ITC からの資格発行としております。日本国内の住所がローマ字表記で記載されています。)


コロナ感染リスクと救命 日本の市民救命法指針が変更されました

2020年5月21日付で、新型コロナウイルス感染症を前提とした市民救命法指針の変更が発表されました。

厚生労働省のホームページで公示されています。

中身は、以前にお伝えした アメリカ心臓協会AHAの市民向けCPR指針 とまったく同じ内容です。

詳細は上記リンクから厚生労働省のウェブに飛び、PDFファイルをご覧ください。

 

人工呼吸省略は、成人心停止のみ。子どもにはやはり必要

要点をまとめると、下記のとおりです。

新型コロナウイルス感染症を踏まえた市民救命法のポイント

  1. 胸骨圧迫によりエアロゾル(ウイルスなどを含む微粒子が浮遊した空気)を発生させる可能性がある
  2. 新型コロナウイルス感染症が流行している状況においては、すべての心停止傷病者に感染の疑いがあるものとして対応する
  3. 胸骨圧迫を開始する前に、傷病者の口と鼻に、ハンカチかタオルをかぶせる
  4. 成人の心停止は、その意志があったとしても、呼気吹き込み人工呼吸は行わない(胸骨圧迫とAEDのみ)
  5. 小児の心停止は、人工呼吸を行う意思がある場合には、胸骨圧迫に人工呼吸を組み合わせる。
  6. 救急隊引き継ぎ後は速やかに手と顔を洗い、傷病者の顔のハンカチやタオルには手を触れない。

これは、厚生労働省が示している現時点での日本の公式な方針です。

感染対策という点では、人工呼吸はしない、ということで統一されると理解している方もいたかもしれませんが、子どもの心停止の場合は、原則的に人工呼吸は行う、とされている点にご注意ください。

指針の中では、その理由が下記のように説明されています。

 

子どもの心停止は、窒息や溺水など呼吸障害を原因とすることが多く、人工呼吸の必要性が比較的高い。

 

指針の中では、「感染の危険などを考えて人工呼吸を行うことにためらいがある場合には、胸骨圧迫だけを続ける。」との記載もあります。

感染防護具の持ち合わせがない「通りすがり」の立場であれば、この通りですが、小学校教職員、保育士、児童施設職員などは、常に子どもの安全対策を意識し、安全管理している立場ですから、感染防護手袋や一方向弁付きの人工呼吸補助具を準備し、決してためらうことがないように備えておくことがプロフェッショナリズムと言えるでしょう。

ポケットマスクのような一方向弁付きの感染防護具であってもためらいを感じるようなら、用手的に人工呼吸を行える バッグバルブマスクの準備・練習も検討すべき時代 になっていると考えます。


withコロナ時代の救命講習(市民小児編)-人工呼吸をどうするか?

afterコロナ、postコロナではなく、with コロナ(新型コロナウイルスとの共生)。

新型コロナウイルス感染症(COVID-19)出現以前の世の中にはもう戻らないとも言われています。

今後は新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)がいることを前提とした新しい生活をしていかないとするなら、業務上必要な救命講習の在り方も根本から考え直さなければいけません。

withコロナ時代の救命講習の在り方を、子どもの蘇生と大人の蘇生に分けて考えました。

今回は、その小児編をお届けします。

COVID-19リスクが拭えないこの先、心肺蘇生法のやり方も再考する必要があります。

1.心肺蘇生法(トレーニングを含む)の感染リスク

少なくとも1mの距離をあける、飛沫を浴びないように真正面で話さない、など、人との接触や距離感が問題となるコロナ時代。

これまでの救命講習の実際を思い浮かべてもらえば、救命講習は人同士の濃厚接触や、飛沫・接触感染リスクが極めて高い危険な状況であることは想像に難くありません。

特に問題となるのは人工呼吸練習でしょう。

日本で一般的な救命講習ではフェイスシールドと呼ばれるビニールと不織布でできたシートを介してマネキンに呼気を吹き込み、そのマネキンを受講者5-6人で交代しながら、練習を繰り返します。

不織布は水蒸気や唾液を透過させますので、ウイルスや細菌に対するバリア機能は期待できません。汚染されたマネキン・フェイスを介した感染拡大が想定されます。

受講者が交代するたびにマネキンのフェイスをアルコール清拭するなどの対策はできるかもしれませんが、フェイスシートを持つ手に唾液・飛沫が付着し、その手でマネキンの頭部や胸部にふれることでの接触感染の拡大も想像できます。

現在の形の心肺蘇生法が確立してから60年弱。これまで人工呼吸を通して疾病に感染したという報告は数えるくらいしかなく、リスクは低いとガイドラインに記載されていましたが、それが新型コロナウイルス時代には根底から覆された形になっています。

2.withコロナ時代の子ども救命法

子どもの心停止の原因で、まっさきに考えなくてはいけないのが、呼吸のトラブルから心停止に至るというケースです。

医学的に言えば、低酸素血症による心停止(無脈性電気活動→心静止)です。

大人の主要な心停止原因とは異なり、子どもの救命のためには一般に人工呼吸が欠かせません。胸骨圧迫とAEDだけではダメというのが蘇生ガイドラインのスタンスです。

これはwithコロナの時代でも揺らいでいないというのが悩ましいところです。

世界の蘇生シーンをリードするアメリカ心臓協会AHAは、いち早くCOVID-19が懸念される傷病者への蘇生法の変更点を市民向けと医療従事者向けに分けて公開しましたが、大人の場合とちがって子どもの救命処置では「人工呼吸はしなくてよい」と言い切ることはしていません。

この部分の詳細はブログ別記事をご参照ください。
→ 子どもの心肺蘇生法 – 新型コロナウイルス感染疑いの場合

アメリカ心臓協会が発表した COVID-19(新型コロナウイルス感染症)感染対策を盛り込んだ心肺蘇生法のうち、今日は市民向けの小児CPRについて解説します。 こちらは、AHA...

リスクがあれば人工呼吸はしなくてもよい。でも児童施設職員は?

救命にあたっては救助者の安全が優先されますので、リスクがあれば人工呼吸はしない、という選択肢も出てきますが、問題は救護義務がある施設職員や教職員などです。

児童施設職員にとっては、子どもの心肺蘇生は予期せぬインシデントではなく、注意義務・安全管理上、最悪の事態として普通に想定されているものですから、リスクに備えていなければいけない立場になります。

つまり、新型コロナ禍に関係なく、従前から感染リスクは想定内で準備ができていることが期待されるわけですから、準備がないから人工呼吸をできなかった、という言い訳は通用しづらいのが現実です。(実際にそういう趣旨の訴訟は起きています。)

となると、感染リスクを前提とした人工呼吸トレーニングが必要という話になります。

withコロナ時代の感染防護具の選択・再考

BLS横浜としては、救護義務がある医療者以外のチャイルドケア・プロフェッショナルには、フェイスシールド(一般雑貨扱い)ではなく、医療機器承認を受けたポケットマスクを前提としてトレーニングを展開してきました。

実務としては、with コロナ時代でもポケットマスクで構わないと考えていますが、集団でのトレーニングの状況を考えると、受講者同士の交差感染リスクでは厳しいものを感じます。

日頃の保育園集合研修などでは、ポケットマスクの消毒済みマウスピース部分を受講者ひとり1つ貸し出して、マスクとマネキンは4人程度で共有というスタイルを取っています。

他者の吐息(つまり飛沫)がかかった器具(マスクやマネキンのフェイス)に触れるリスクを考えると、ポケットマスクとはいえ、呼気吹き込み法練習は感染リスクとしては万全とは言えないのが苦しいところです。

 

  • 受講者の交差感染リスクを考えたら、呼気吹き込み式の人工呼吸練習はしたくない
  • 救命の原理を考えれば、子どもの蘇生には人工呼吸は着実に実施したい

 

となると、このふたつを両立させるためには、医療従事者が使うようなバッグバルブマスクを使うしかないのかな、という発想になります。

バッグマスク換気はフェイスシールド人工呼吸より簡単

BLS横浜では、日頃、一般市民から医療従事者まで幅広いレンジで救命法を指導しています。

人工呼吸法は立場に合わせて、ダイレクトな口対口から、フェイスシールド法、ポケットマスク法、バッグマスク、気管挿管まで指導していますが、実際のところ、イメージとは裏腹に バッグマスク人工呼吸はかなり簡単 です。

たぶん、気管挿管を除けば、いちばんむずかしいのが、フェイスシールド人工呼吸じゃないでしょうか?

技術的な難易度:
口対口 < ポケットマスク < バッグマスク < フェイスシールド

バッグマスクは医療者向けというイメージが強いかとは思いますが、技術としてはフェイスシールドより簡単ですし、感染面での安全性と実用性でいえば絶大です。

こんな話をすると、バッグマスクは医療器具だから医療者免許がないとダメだという意見も出てきます。

しかし、冷静に考えてもらえば、空気を人体に送り込むという行為で言えば、口対口でもバッグマスクでもなんら変わりません。人工呼吸によって有害事象が起きるとしたら、胃膨満 → 嘔吐とか、静脈還流低下の可能性ですが、そのリスクは口対口でもバッグマスクでも同じです。

日本国内状況:医療者以外もバッグマスクを使っている

日本社会の慣例から言えば、今は医療資格を持たないボランティアのライフセイバーでも、バッグマスクを使って救命を行っている現状があります。

平成31年から、日本ライフセービング協会は、ライフセーバーに対して、バッグマスク使用を推奨する方向に転じました。

一般財団法人とはいえ、社会的立場のある巨大組織の公式通達を考えれば、バッグマスクは「非医療者だからダメ」という単純否定されるものではない点はご理解いただけるのではないでしょうか。

参考:バッグバルブマスクの使用について(PDF 90kb)
(一般財団法人日本ライフセービング協会 会員通達)

救助者 → 傷病者への感染リスク

救助者の安全だけで考えたら、感染防護具を着用した上で、一方向弁になっているポケットマスクを使えば自分を守る対策はできていると言えますが、仮に救助者が不顕性の感染者だった場合、自分の持っているウイルスを傷病者に移してしまうというリスクも否定できません。

そう考えると、救助者と傷病者 双方 の安全を守った人工呼吸法としては、バッグマスク人工呼吸しかありえない、というのが論理的な答えになります。(だから平時であっても病院内の救命処置では呼気吹き込みではなくBVMしかありえないわけです)

3.小学校・保育園・幼稚園 withコロナ時代の救護体制

withコロナの時代では、これまでは軽んじられ気味だった「感染リスク」のプライオリティが上位にあがりますので、2019年までに見られたような「学校教職員が人工呼吸をしなかった」ことを過失とするような裁判は減るかもしれません。

しかし、医学的に考えたら、救うためには人工呼吸をするべき、というサイエンスは変わりませんので、現場の保育士や学校教職員はどうしたらいいか? と言ったら、安全に人工呼吸をするためにバッグマスク人工呼吸を標準にしましょう、というシステム改革が見えてきます。

保育園やバッグマスクを学校に配備して、職員(全員でなくてもいいかもしれません)にバッグマスク人工呼吸をトレーニングして、安全にフルサイズの救命処置ができるように備えるのです。

そこまでしなくても、救急隊が来てから人工呼吸を始めるのでもいいのでは? という意見もあるかと思います。

しかし、救急車が着くまでの全国平均が8分程度。あなたは8分間呼吸を停められますか? と言ったら、これは絶望的というのは感覚的にもわかるでしょう。

助けたいと思ったら、人工呼吸は欠かせない。となれば、今までは医療者以外がバッグマスクを使うなんて、という先入観をはずして、その妥当性をきちんと議論すべきだと思います。

研修再開までの対策と準備、情勢の見極め

バッグマスクのトレーニングであれば、飛沫を介した交差感染リスクは低いので、手袋を装着する、前後の手指衛生などの配慮をすれば、保育園スタッフ全員に練習してもらうことも現実的にできます。

そのためには保育園にバッグマスクを常備しておくという形になりますが、今はディスポーザブルのバッグマスクがポケットマスクと変わらないような値段で手に入りますので、あながち非現実的な話ではありません。

過密を避けるために、マネキンと受講者比率、一回あたりの受講者人数、会場の広さ、練習交代間のマネキンの消毒作業など、研修を開催すること自体への課題は残りますが、ここは現実的にやり方は見えています。

講習1回あたりの「効率」を落とす。参加人数を減らす、中間消毒などで時間が伸びるなどの、効率さえ妥協すれば、研修の実施自体はそう遠い話ではありません。

その時までに、施設内の救急対応体制を抜本から見直しておくべきでしょう。もとに戻るとは考えずに、新しいやり方を考えていくことが必要な時期になっています。


ACLS事前学習:よくある質問 1

今度 ACLSプロバイダーコース を受講予定の方からご質問を頂きました。無脈性電気活動(PEA)についてです。

PEA はなかなか飲み込みが難しいところなので、質問とその回答を皆様にもシェアします。

ACLSプロバイダーコース事前勉強の解説

 

Q1.無脈性電気活動(PEA)は心肺蘇生に加えて、根本的な原因治療を同時並行しないと救命は難しいのか?

テキスト38ページからの、ACLS一次サーベイと二次サーベイのあたりをよく考えていただくとわかるかもしれません。

結論から言うと、PEAの原因によります。例えば心停止の原因が低酸素なら、一次サーベイ(もしくはその手前のBLS)の時点で、 CPR によって酸素化されれば自己心拍再開 ROSC する可能性が考えられますよね?

また原因が循環血液量減少なら、BLSでは無理でも、ACLS一次サーベイで、アドレナリン投与により血圧が上がって ROSC が見られるかもしれません。

しかし、例えば、原因が気胸なら、脱気しないとたぶん無理です。

このように、「生理学的安定を図る一次サーベイをきっちりやる。それでも ROSC の兆しがなければ
二次サーベイで CPR を続けならが原因を探る。原因が特定できて対処を打てれば助かるかも」と理解してはどうでしょうか?

Q2.原因検索は、胸骨圧迫しながらエコーやX-Pを撮るということでしょうか? 救命の現場で実際行えるのでしょうか?

ここが、G2015の改定でACLSを一次と二次に明確に切り分けたポイントかなと思います。

一次介入をせずに、二次介入で原因検索に注力するのは本末転倒です。質の高い CPR を中断してまで原因検索の検査を実施する価値があるかどうか吟味する必要があります。

例えば、胸部不快感から心停止になった人に、胸骨圧迫を停めてまで12誘導心電図をとって梗塞部位がわかったとして、メリットがあるかどうか? 梗塞部位がわかったとしても ROSC しなければ、その後の治療には繋がりません。

胸骨圧迫を停めずにできる検査ということになります。

この原因検索の実際については、ACLSプロバイダーマニュアルにはほとんど記載がありませんが、実は学習範囲外であるという点もご承知おきください。原因検索の詳細と実際は、ACLS-EPコースという上級コースで学ぶことになっています。

ACLSプロバイダーコースの合否に関して言えば、原因を特定する必要はなく、いつまでも CPR とアドレナリン投与を続けるのではなく、原因を探る方向に意識が向いて、その言及があれば OK となっています。

Q3.PEA のアルゴリズムを行っているだけで自己心拍の再開はないのでしょうか?

できる場合もあります。先ほど循環血液量減少を例に上げましたが、たいていの場合の PEA は、循環不全 → ショック → 血圧低下 → PEA → 心静止という流れになります。

発見時、血圧がゼロではなく、低すぎて触知できないだけのこともありますので、そこにアドレナリンを投与すれば血圧が上がって脈が感じられる可能性があります。


子どもの心肺蘇生法 ー新型コロナウイルス感染疑いの場合

アメリカ心臓協会が発表した COVID-19(新型コロナウイルス感染症)感染対策を盛り込んだ心肺蘇生法のうち、今日は市民向けの小児CPRについて解説します。

こちらは、AHAが公開している “COVID-19 and Child and Infant CPR” というフライヤーを独自に日本語化したものです。(AHAの公式日本語版がでるまでの暫定公開です)

新型コロナウイルス感染症が疑われる子どもへの救命処置

 
もともと米国の市民向け小児蘇生を知っている人からしたら、どこにコロナウイルス対策が入っているんだ? と不思議に感じるかもしれません。これまであったら小児CPRとなんら変わるところがないからです。

成人の Hands only CPR のフライヤーでは、胸骨圧迫をする前に傷病者の口と鼻をマスクや布で覆うという「変更点」がありましたが、こちらにはなにも目新しいところがないのです。

子どもの救命にはやっぱり人工呼吸は外せない

結論からすると、COVID-19への危惧があったとしても、呼吸原性心停止を前提に考える子どもの救命の上では人工呼吸は欠かせない、成人CPRとは違って「人工呼吸は省略する」ことをデフォルトとはできない、との意思を見ることができます。

このフライヤーの中で、唯一、新型コロナウイルス感染への対策が感じられるのが、「あなたにその意志があり、可能であれば」という部分です。

原語では、if you’re willing and able となっています。

 

コロナウイルスに感染しているかもしれない子どもに対して、胸骨圧迫と人工呼吸をやろうとする意思があり、可能であれば、やってください。

(その意思がない、もしくは技術的に物理的に装備的に出来ないのであれば、やらなくてもいいですよ)

 

このかっこの中が本当のメッセージなのですが、それをあえて積極的には明言したくなかった、という姿勢が見て取れると思うのです。

CPRを開始しない場合の対応はどうなるのかというと、フライヤーの STEP 2 の前半部分まで、つまり心停止の可能性を探り、心停止が疑われれば 119番通報 するだけでもやってくださいね、ということになります。

フライヤーのタイトル下にある言葉を見てください。

 

それでも、あなたにできることがあります。
you can still help.

 

結局のメッセージはここなんだろうと思います。

こんなご時世、コロナウイルス感染が怖いから倒れている人には近づきたくない。そんな心理が広がりつつあります。

しかし、一目散に逃げるのではなく、意識状態と呼吸状態を分かる範囲で確認して、懸念があれば119番通報だけでもしてほしい。

それだけでも大きな助けとなるのだ、ということ。

立場によって違う if you’re willing and able

このフライヤーの真意を探る上で、同じく AHA が公開している Community FAQ: COVID-19 and Pediatric CPR (PDF) という資料が参考になります。

これを見ると、子どもの心停止対応の救助者は誰かと言ったら、まずは親や家族が想定されていることがわかります。

我が子であれば、感染リスクを考えるより、救いたいという意思が先に立つのは当然でしょう。

であれば、一律、人工呼吸はしなくてよい、とは書くべきではないのは理解できます。

まったく無関係な第三者であれば、119番通報だけでも、胸骨圧迫だけでも、何かのアクションを起こしてくれば、それは尊いこと。

しかし、これが注意義務を持って対応する職業人だった場合は、もう少し踏み込んだ対応が必要です。

 

if you’re willing and able

 

人工呼吸を含めたCPRをする willing (意思)はあるでしょう。しかし、それが able(可能)かどうか。それはひとえに「準備」にかかっています。

つまり、ポケットマスクやバッグマスクなどの感染防護機能が実証された人工呼吸器具を備えているか、そしてそれを使えるように訓練されているかどうか、ということです。

新興感染症罹患が懸念される今だからこそ、立場によっては【備える】ことが重要です。


ダンスで学ぶ手洗い ジュネーブ大学病院編

コロナウイルス感染拡大で、手洗いの重要性がこれほどクローズアップされた時代はないというくらいに人々の衛生意識が高まっている今日このごろ。

あらゆる感染対策の中で最も効果的と言われるのが、手洗い です。

しかし、医療現場であっても、なかなか遵守率があがらない悩みの種でもありました。

私たちは、正しい手洗い法を幼稚園とか保育園の時期に教わっているはずです。しかし医療従事者に限って見ても、世界的な正しい手洗いの遵守率の平均は40%程度と言われています。

感染の経路と原因がわかっていて、対策もわかっているけど、守れない世界の医療者たち。

そんな中、数年前にジュネーブ大学病院が発表した「手洗いダンス」の動画が話題となりました。

医療者であれば、誰もが手洗いの必要性はわかっているのです。

でも、習慣化できない。

そこで、別の切り口で正しい手洗いを定着させようという取り組みです。

一処置一手洗い

医療現場では、過度な手洗いによって肌荒れを起こしてしまうのが問題となっており、目に見える汚れがないかぎりは、保湿成分が入ったアルコール製剤での手指衛生を勧めています。

その頻度は「一処置一手洗い」とも言われますが、患者に触れる前と触れた後。

遅滞なく手指衛生できるようにアルコール製剤のマイボトルを持ち歩くことが推奨されています。

基本に忠実であればいいだけ。

それだけなのですが、小さな頃から習慣化されたものを変えていくのは難しいようです。

 

この手洗いダンスを、医療現場でどのように広げていくか、という実践編の続編動画がこちら。

今回のコロナウイルス騒動で、医療者の間でも市民の間でも「正しい手洗い」がだいぶ定着してきたように思います。

コロナウイルスが収束した後でも、これが習慣として残っていくことを期待しています。