依頼講習なのに「定形コース」じゃ、もったいない

ここ連日、ご依頼を頂いての市民向け救命講習が続いていました。

BLS横浜では、出張講習のご相談をいただくと、受講対象や想定される緊急事態、人数、時間などをお聞きして、その都度内容を企画させていただいています。

アメリカ心臓協会講習のような資格を発行する講習のアレンジは難しいこともありますが、それでもオプションとして対象に合わせたシミュレーションを追加したりして、極力、現場を意識した講習を行っています。

助ける対象の違い 子どもか大人か?

今回はいずれも市民向けの救命法研修でしたが、ひとつは小学生の親御さんたちのグループ、もうひとつは建築会社からの依頼でした。

どちらも2時間で、心肺蘇生法と応急手当ということでしたが、内容はかなり違ったものになりました。

心肺蘇生法の練習に使うマネキンが小児マネキンか成人マネキンかという違い以外にも、人工呼吸とAEDの扱いがまったく異なるのが小児BLSと成人BLSの違いです。

極端に書くと、こんな感じでしょうか?

 

子どもの救命法・・・・人工呼吸講習

大人の救命法・・・・・AED講習

 

子どもの救命法では、時間の関係でAED操作は割愛し、人工呼吸練習に重きを置きました。

子どもの心停止であってもAEDが届けばすぐに装着するのは大人と同じ。ただ、AEDは「ショックは不要です」という可能性が高いため、ショック不要となったら、まだ開始できていなければ感染防護具を用意して、人工呼吸を始めることが救命につながるという点でお伝えしています。

一方、建築現場を想定した大人の救命処置としては、心臓突然死について説明した後、胸骨圧迫とAED装着を優先した練習としました。

後述する高所からの転落や外傷性のショックを考えた場合は、人工呼吸も必要となる可能性も示唆しつつも、技術練習としては、絶え間ない胸骨圧迫と迅速な除細動を重点的に練習していただきました。

専門家としてニーズを探って、講習展開を提案する

ファーストエイド部分は、基礎となる「人が生きるしくみと命を落とすメカニズム」は成人でも小児でも共通ですが、そこを理解した上で、ご依頼者様のニーズに合わせた項目をピックアップし、原理原則と照らした対応法をお伝えしています。

建築会社からの依頼内容は、血が出た場合の処置を教えてほしいでした。

出血対応というと止血法を教えておしまいとなりがちですが、聞いてみると、建築現場だと高所からの転落などシビアな事故がありうるということで、外出血だけではなく内出血、また頭をぶつけた場合の生命危機の考え方をお伝えしておくことが必要かと判断し、講話の内容を、止血法、ショック、また頭部外傷による呼吸不全、とさせてもらいました。

現場への転用に踏み込めるのが依頼講習の醍醐味

特定の団体・集団から救命講習の依頼を受ける場合は、定型化された一般講習を行うだけでは、もったいないと考えています。

一般公募であれば、ゼネラルな一般的な内容にせざるを得ません。やや恣意的な言い方をすると、ほんわかとした浅い内容で妥協せざるを得ないということ。

しかし、受講者が実際に行動できるようになる、ということを考えると、依頼講習であれば、その母集団のニーズと特性に合わせてチューニングをした講習展開をすることができる、これはインストラクターとして願ってもないチャンスだと思いませんか?

決められたことを決められたとおりに教えるだけなら、ビデオ教材を見せて真似させるだけで十分かもしれません。

その講習アレンジを提案し、実行できるのが救命法インストラクターだと思うのです。

e-Learning全盛のこの時代に、あえて対面で講習を開催する意義というのを強く感じたこの数日間でした。


PEARS®プロバイダースキルは、看護師としての基礎能力(not 小児専門)

AHA-PEARSペアーズプロバイダーコースは成人患者にも使える生命危機アセスメントを学びます

アメリカ心臓協会のPEARS®プロバイダーコースの”P”は、Pediatric、つまり小児の意味ですが、そこで学ぶ内容を小児領域に限定してしまうのは、あまりにもったいない、というのがBLS横浜のスタンスです。

BLSやACLSは、看護師の世界でもそこそこ普及してきましたが、これらはあくまでの心臓が停まってからの対応。

 
ACLSプロバイダーコースでも言われているように、成人の領域でも、病院内での心停止の8割は、呼吸不全か循環不全のなれの果てであり、突発的なものではないという話が確立しています。

急変対応というと、CPRとAEDというイメージですが、病院内においては、AEDが「ショックが必要です」と判断するのはたった2割しかないという現実。

病院内の救急対応が、心原性心停止だけというのは、あまりにバランスの悪い話と言わざるを得ません。

 
 

つまり、病院職員における急変対応は心停止からでは遅いのです。

心停止の8割には予兆があると言われています。

その予兆の多くは、バイタルサインの変化として現れます。

生から死に急速に向かう場合、体の中で何が起きているのか、どんな症状として現れるのか?

それがわかれば、死の兆候に気づいて、手が打てます。

その手法を学ぶのが、PEARS®プロバイダーコース です。

 

成人領域で、そんな学習プログラムがあればいいのですが、残念ながらAHAは作らない(作れない?)と言っています。

頻度の差こそあれ、人が命を落とす原因は大人も子どもも基本は同じです。

そこで、ベットサイドにいて、患者の異変に気づける立場の看護職の皆さんには、診療科を問わず、PEARS®で、人が生きるしくみと死ぬしくみをきちんと学び、考える力、アセスメント力を鍛えることをおすすめしています。

PEARS®プロバイダーコースでどんなことを学ぶのか、興味をもってくださった皆様は、ぜひブログのPEARS®/小児救急関連の過去記事をご覧ください。

 

ブログカテゴリー
 ・PEARS®/PALS(小児救命) (58)
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意識・呼吸がある人には、AEDを使わない

ファーストエイド講習や、エピペン講習のシミュレーションでしばしば見受けられる場面ですが、「あなた119番! あなたAED!」というお決まりの台詞のあと、AEDが到着すると、苦しがっている模擬傷病者に対して、「念のためAEDを貼っておきましょう」という方向になりがちです。

心肺蘇生法講習の弊害というと言いすぎでしょうか? 

AEDを持ってきたら、相手がどんな状態であろうと、パッドを貼らずにはいられない条件反射に陥っているように思います。

AEDは心肺停止を確認した人にだけ装着する

2004年7月以降始まった日本でのAED講習、そこではAEDを装着する条件というのが教えられていたはずですが、いつしか心肺蘇生法講習といえばAED講習というくらいにあたりまえになった反面、AEDという機械の使用目的や、その特殊性への意識が薄れているように感じます。

AEDは、心肺停止の人に対して装着するように設計されている機械です。

救命講習を思い出してみてください。

AEDが現場に到着したときは、すでに胸骨圧迫が行われていたはずです。これが本来のあり方。

逆に言えば、胸骨圧迫を行う必要がない人には、AEDを貼る必要もないということです。

AEDは心停止の判断はできない

こう言うと驚かれるかもしれませんが、AEDは傷病者が心肺停止かどうかを判断することはできません。

AEDが解析しているのは、心電図で、傷病者が心停止であるという前提の下で、電気ショック(除細動)が必要な心停止か、それとも電気ショックが無効な心停止かを判断しているに過ぎないのです。

例えば心室細動というタイプの心電図波形(不整脈)であれば=心停止といえますが、心室頻拍という不整脈の場合は、心停止の場合もあれば、血圧が保てていて意識がはっきりしている場合もありますが、この違いをAEDは判断できません。

そのため、AEDは、その装着条件として、下記のように決められているのです。

AEDの添付文書

本装置を使用する前に、患者が以下の状態であることを確認してください。
1) 意識がない
2) 普段どおりの呼吸をしていない
3) 脈がない(熟練救助者のみ)

(中略)

非常にまれですが、除細動が不要と思われる心電図を除細動適応と判断することがあります。

AED誤動作のリスク

除細動が不要と思われる心電図をショック適応と判断してしまうというのは、機械の設計上、仕方ない部分です。

簡単にいうと、AEDは一例として心拍数180回以上で、Wide QRS(幅の広いQRS) という判定をもって心室頻拍(VT)を検出しますので、脈アリVT以外でも、例えば「脚ブロックがある発作性上室性頻拍」でも、ショック適応と誤判断する可能性があります。

このリスクを低減させる条件として、「反応なし+呼吸なし」など、心停止を確認した人だけに装着してください、という仕様となっているわけです。

これは極めてまれなケースとされていますが、胸がドキドキする、などの心臓の不調を訴える人がいて、その場にAEDがあったら装着されてしまう可能性は、今の日本社会通年の中では、現実としてありえる話です。

現実、そのようなケースが発生したことが日本でも2018年に報告されています。

症例報告:意識がある人にAEDで除細動をしたケース

意識があるのにAED?!

女子高校生が体育の授業中、動悸を訴えて保健室へ。

養護教諭は119番とAED手配をし、救急車を待つ間、会話が可能な状態だった本人の同意を得てAEDパッドを装着。

心電図解析をすると「ショックの適応です。患者から離れてください。ショックボタンを押してください」との音声アナウンスが流れた。

女子高生は不安そうに「先生、ショックされると私は痛いのかな?」と。

養護教諭は迷った末、「救命講習の時とは状況が違うけれども、AEDがショック適応です、とメッセージを発している以上、躊躇してはいけない、勇気をもってショックボタンを押そう」と考え、除細動を実行した。

 

 

電気ショック後の詳細は記されていませんが、心電図記録にショック直後から胸骨圧迫が開始されたということが記されていますから、除細動によって意識を消失したのかもしれません。

救急隊員が『ショックボタンを押されたらドカンと衝撃がきた』という言葉を聞いたことが記されていますので、その後、程なくして意識は戻ったのでしょう。

心電図記録上では、除細動のショック後も発作性上室性頻拍は続いていましたが、病院到着時にはそれが自然消失しており、循環動態には問題はなかったということです。

不要な除細動、逆に心停止にさせてしまうリスク

このケースでは、たまたま何ごともなく「ドカンと衝撃を受けた」だけで済みましたが、二次救命処置 ACLS を勉強している人はご存知のとおり、発作性上室頻拍に対して非同期の除細動を掛けると、R on T によって心室細動を引き起こすリスクがあります。つまり生きている人間を心停止にさせてしまう危険がありました。

前述の報告書の中では、

「一般人に指導する際には、「AEDはあくまでも意識を消失した人に対して装着すべきもの」であることを強調しておくことが重要である。」

と結論づけています。

立場に合わせて教育精度を再考する時期に入っているのではないか?

これまでの救命講習は、救助行動の着手に重きを置き、細かいことはともかくAEDを使ってほしい、というスタンスが強く進められてきました。

そのため、ここでAEDの危険を書いたり、

明らかに意識がある人にはAEDは使わない。

というと、AED普及を阻害するといって反対される方もいるかもしれません。

しかし、これだけAEDが広まり、人が倒れたらAEDということが常識的になったこの時代、敷居を下げるために簡略化する方向性もそろそろ見直していいのではないかと考えます。

特に養護教諭のように、心停止ありきではなく、日頃から応急手当に関わる立場の人には一般市民向けの便宜優先よりは、やや原理原則寄りの教育スタンスでいてもいいのではないでしょうか?

この養護教諭の心の葛藤もわかりますが、心停止ありきのAED講習ではなく、非心停止対応も包括したファーストエイド教育の中できちんとAEDの位置づけを学んでいれば、また違った判断ができたかもしれません。

救急対応といえば心停止ばかりと思ってしまうのが、心肺蘇生法しか知らない人。しかし、養護教諭はそうではないはず。

リスクを低く見積もるよりは、オーバートリアージのほうがいいとは思いますが、それは現場判断の話。教育としては、養護教諭向けにはもうちょっと踏み込んだものがあってもよかったように思います。

日頃、応急処置を業務としている養護教諭であれば。

 
 

とりあえず、本来のプロトコル(お約束)を一般市民向けに、強いて簡略化するなら、下記のようにするとまだ誤差は少ないはずです。

迷ったらAED、ではなく、まずは胸骨圧迫!

それでも痛がる素振りが見られなければ、AED。


救急対応における記録の重要性

一般市民向けの救命講習と、救護責任がある人向けの救命講習が一緒ではいけないポイントは多々ありますが、今日は「記録」について取り上げます。

BLS横浜の業務プロバイダー向け講習、例えばBLSプロバイダーコースや、ハートセイバーCPR AEDコース、またはエピペン&小児BLS講習などに参加したことがある方は、時間という点が強く印象に残っているのではないでしょうか?

シミュレーションで実感する記録の重要性

これらの講習ではシミュレーション訓練を入れており、最終的には現場に到着した救急隊員に情報を報告して引き継ぐまでを行ってもらっています。

そこで救急隊員役に聞かれることが、時間です。

CPRを始めた時間、エピペン注射をした時間、AEDで除細動をした時間など。

救急隊員役に聞かれて、初めて誰も時間を気にしていなかったことに気づきます。またAEDを解析した回数、実際にショックした回数なども、ほんの10分程度の間の話なのに誰も覚えていないことに皆さん愕然とします。

シミュレーションの前には、業務対応としては記録を残すことが大切、という点を聞いて頭でわかっていても、記憶に頼るのは限界があることに気づく瞬間です。

 

一般市民と違って、対応は現場で終わるわけではない

通りすがりの一般市民であれば、足を止めて救護に手を貸してくれた、胸を押してくれた、AEDを使ってくれたというだけで、たいへんありがたい話で、時間の正確な記録がないということは問題にはなりません。(できれば除細動の時間と回数の情報はほしいですが)

しかし、学校現場や福祉施設など、注意義務と説明責任が問われる場においては、記録は極めて重要です。

・いつ、何が起きたのか?
・いつ、何を行ったのか?(その判断の根拠)
・その結果、どうなったのか?

事態は刻一刻と変化していきます。その変化は自然の流れかもしれませんし、場合によっては救助者が何かを行った結果かもしれません。

それが時系列で記録されていることが重要で、時系列がはっきりしないと、因果関係が逆になってしまったり、「謎」が生まれます。

暴言を覚悟で単純化して言うと、謎が多く、はっきりしないと、真実を明らかにしたいということで裁判にもつれ込むリスクが上がります。

記憶はあてにならない

人間の記憶は怪しいもので、隠すつもりはまったくなくても、時間が経つにつれて、自信が無くなってきたり、周りの話を聞く中で別の事実が合成されてしまうことは珍しくありません。良くない例ですが、冤罪事件のように記憶が捏造されてしまう例もあります。

だからこそ、学校や福祉施設での救急対応では記録が重要なのです。

エピペン注射や除細動の時間のように、救急隊や病院での処置に直結するような情報もありますが、事後のトラブル回避や、適切に対応したことの証拠としての側面を見過ごせません。

何を、誰が、どう書くか?

何をしたのかという点はその場にいた人の記憶に比較的残りやすいので事後でも記録に起こせますが、大事なことは前後関係と時間です。

施設内の対応であれば、ある程度の救護者人数はいることでしょう。3人目、もしくは4人目がいたら何をしたらいいか、という点で記録係を設定する妥当性をシミュレーションの振り返りで検討してもらっています。

また、記録して何を書いたらいいかという点も実は問題で、結論からすれば、定形書式としての記録用紙を職員間で検討してAEDやファーストエイドキットに入れておきましょう、という結論にたどり着くようなファシリテーションを仕込んでいます。

記録をつけることは非現実的? 不要?

無我夢中でもいいから、目の前の人にCPRをしてくれたら御の字という「一般市民向け救命講習」と違って、施設職員向け、特に学校や福祉施設での救命講習は、救命処置を練習させるだけでは不十分で、その中身は危機管理・安全講習です。

やったこともない不慣れな心肺蘇生法だけで手一杯で記録まで教えるなんて非現実的という指摘も耳にしますが、現実問題、この記録の不備によって対応した職員たちは後々まで尾を引いてしまっているわけです。

ファーストエイド教育では普通に記録の仕方を教えている

市民向け救命講習では、記録をつけると概念はないかもしれませんが、それはおそらく一般市民向けのバイスタンダーCPRに話を限定しているからで、ファーストレスポンダー向けのファーストエイドでは記録を取ることを教えるのは普通ですし、その書式も医療機関と同じSOAP形式を取り入れていることも珍しくありません。

事故対応ガイドライン、事故検証報告書の提言

また、事故対応ガイドラインや危機管理に関するマニュアルに目を向ければ、正確な記録を、というのは極めて常識的な話です。

例えば、保育業界に大きなインパクトを与えた平成28年の葉山町での保育園死亡事故の事故検証委員会報告書でも、記録の必要性については随所に取り上げられています。

 

現状のマニュアルには、医療機関の受診に至る具体的な手順や目安が、明確に記載されていない。また、症状の判断として、時間経過の項目がない。(P.16)

4.事故報告と事後分析
(1)記録本事故では、記録の不備が目立った。記録の方法や引継ぎについて大きな課題があることがうかがわれた。
 1.紙面による記録の在り方
 ●課題事故については、具体的な内容や時間経過を残すことになっているが、(中略)
 ▲改善策小さい事故でも、必ず事故としての記録を残す。傷病連絡票(見守り記録)の作成を徹底する必要がある。また、時間経過を軸として、何をしたか手当や観察記録を書く。(p.18-19)

(6)記録の在り方
 1.どのような傷病でも、必ず記録を残す。
 2.記録用紙には傷病発生時の記録のみではなく、時間の経過を追った症状を記録する。
 3.記録により収集した情報を精査し、職場内で共有する。
 4.事故報告の内容には、保護者の思いや訴えも記録する。(p.26)

 

通りすがりの善意の救命では、その瞬間に目前のできることを精一杯やれば表彰されるくらいの話になりますが、施設内での事故となれば、その後の事後処理というやっかいな問題が待っています。

特に事後処理においては、時間を含めたなるべく正確な記録の有無がその後の事態の展開を運命づけるものにもなることをきちんと認識しておくことは重要です。

危機管理・事故対応という大枠の中で、救命処置の部分だけを、簡便だからと言って一般市民向け救命講習をはめ込んでしまうことの問題性を考える必要があります。

その端的な部分が、例えば「記録」の概念の有無だと思うのです。


服に火がついたらどうする? Stop Drop & Roll !

昨日、名古屋の中学校での「服に火がついて大やけどをした」という報道がありました。焼けただれた腕の写真が公開されていて、印象に残っている方も多いかもしれません。

やけどのファーストエイドといえば、水で冷やす、の一言につきますが、今回のケースのように服に火がついた場合は、どうしたらいいでしょうか?

熱傷を冷やす云々のまえに、火を消さなければなりません。

水をかければ一石二鳥ですが、そんなにすぐに水が用意できるわけもなく、その間もどんどん燃え広がっていきます。

米国の一般教養 止まれ!倒れろ!転がれ!

こんな場合に、自分本人やまたそれを発見した人がどうしたらいいか、という点は、米国では、幼稚園の段階で子どもたちに教え込まれています。

キーワードは、Stop Drop and Roll.

Youtubeで検索すると、トレーニング動画がたくさん見つかります。

例えば、こんな感じ。(英語が苦手な方は、先送りして1分10秒あたりから見てみてください)

 

STOP

服に火がつくと、逃げようとして走ってしまいがち。すると風を受けて燃え広がるので、まずは立ちどまること。

もし、火がついて走り回っている人を見つけたら、自分はまず安全圏に避難しつつ、遠くから、「止まれ!」と叫びます。

Drop

炎は上に向かって広がっていきます。

炎や熱気を吸い込んで喉の奥をやけどすると、腫れてきて、呼吸困難がおきます。上気道閉塞という致命的な状態。だから地面に倒れて、頭や顔のやけどを防ぎます。

Roll

次に、地面を転がって、燃えている部分を地面にこすりつけるようにして火を消します。

この段階になると、救助者が近づくことができますので、厚めの衣類で覆って空気を遮断して消火を試みたり、可能であれば水を掛けるなどの救助活動を始められます。

火が消えたあと

服についた火が消えたら、水をかけて冷やしますが、熱傷範囲が広い場合は、冷やし過ぎも禁物。

粗熱が取れたあとは全身をくるんで保温します。できれば毛羽立った毛布よりは、災害時に使うようなエマージェンシー・ブランケット(アルミ箔のシート)など、皮膚に張り付かないようなものが理想的です。

また指輪などのアクセサリーがあれば、早めに外します。

このあと、どんどん腫れてきて、外せなくなるからです。

全身やけどに近い状態だと、そこから死に至るとしたら、皮膚の体温調整機能が破綻したことによる低体温症、焼けただれた皮膚からの水分漏出によるショック、バリア機能の破綻した皮膚から感染することでおきる敗血症などです。

やけど=氷水以外の冷たい水で冷やし続ける、ですが、範囲の広いやけどでは、その限りではないという点も知っておいてください。

 
 
以上、BLS横浜の ハートセイバー・ファーストエイド講習 でお伝えしている内容でした。


心臓が停まっていない人に胸骨圧迫をしてもいいの?

心肺蘇生法の実施を躊躇させる原因はいろいろありますが、「本当に心停止なの? 生きてるんじゃない?」という疑心暗鬼は見逃すことができません。

結論から言えば、疑わしければ胸を押せ! なのですが、そうは言ってもなかなか納得しづらいと思いますので、今日は、心停止とはそもそもなんなのか? という話から、疑わしければ胸を押せ! の妥当性を考えたいと思います。

 

本稿をお読みいただくと、下記の点が説明できるようになります。

1.心停止とはなにか?
2.心臓が停まっていない人に胸骨圧迫をしてもいいのか?

 

1.心停止とはなにか?

心停止という言葉ですが、かなり罪作りな言葉にも思います。医療従事者でもかなりの人が誤解しています。

臨床的に言われている心停止の状態には、文字通り心臓の動きが停まっている場合もあれば、心臓が動いている場合もあるからです。

心停止と呼ばれる臨床状態は、決してひとつではなく、大きく次の3つのタイプに分けられます。

●心臓が震えている(心室細動)

皆さんもよくご存知の心室細動という不整脈。成人に多い心臓突然死の主要な原因とされる「心臓の不規則なケイレン状態」ですが、心臓の動きでいうと、停まってはいませんよね? 細かく震えている状態。でも、これも心停止と私たちは呼んでいます。

動いてはいるけど、血圧はゼロという状態。ポンプとしての機能を果たしていないからです。

これだけを考えても、心停止とは心臓の動きのことを言っているわけではないことがご理解いただけるかと思います。

●血圧が低すぎる場合(無脈性電気活動)

何らかの原因で心臓の収縮力が弱くなっていることを想像してください。血液を送り出すための絞り込む動きが弱く、回数(心拍数)が遅い状態。

心拍数が落ちてきて、仮に1分間に15回くらいしかなかったとしましょう。そんな状態だと、血圧は低いだろうなというのが想像がつくと思います。正常であれば110mmHgくらいはある血圧が、例えば20mmHgしかなかったら?

当然、脈が触れるほどの圧力ではありませんし、全身の細胞に必要な血流を供給するには足りません。

仮に血圧20mmHgと言ったらふつうの血圧計では測れませんので、通常は血圧はナシと現場判断されます。

この状態も心停止といいます。医学的には無脈性電気活動(PEA)と呼ばれるタイプの心停止です。

不整脈ではありませんし、心臓の震えでもありませんから、AEDは「ショックは不要」と判断します。つまりAEDの電気ショック(除細動)では救えないタイプの心停止です。

心電図上は正常っぽい波形がでていることもありますから、心電図モニターだけでは心停止とは判断できないという点に注意が必要です(医療従事者の場合)

●心臓がまったく動いていない(心静止)

これが一般的にイメージされる心停止の姿ではないでしょうか? 心臓が本当に動いていない状態です。心電図を付けた場合は、横にピーッと伸びていて縦軸方向にまったく振れていない状態。

終末のリズムと言われることもありますが、いくつかあるタイプの心停止の最後の成れの果ての姿とも言えます。

 

●動いている心臓が停まるまでの経過

心停止の3つのパターンを解説しましたが、最後に説明した「心静止」が突発的に発現することはあまりなく、通常は前に挙げた2つのタイプの心停止(心室細動と無脈性電気活動)を放置すると、段階的に心静止に移行していきます。

心室細動 → 心静止

心室細動が発生すると心臓は不規則に震えているだけで、血流はありません。心臓の筋肉細胞に酸素や栄養素を供給する冠動脈の血流も停まっていますから、心室細動発生直後は大きく震えていた心臓も次第に動きが小さくなり、最後は動かなくなります。これが心室細動から心静止への移行です。

心室細動というタイプの心停止から、心静止というタイプの心停止になると、もう「細動」ではありませんから、AEDによる「除細動」は無効です。

無脈性電気活動 → 心静止

無脈性電気活動(PEA)はもう少し多彩となりますが、呼吸障害などの低酸素からPEAに移行した場合、最初のうちは弱いながら心臓は動いています。

しかし、心臓の筋肉に十分な酸素が届かないと、弱って心拍数はどんどん落ちていきます。そして最後はまったく動かない状態になります。

これがPEAから心静止に移行するパターンの例です。

 

2.心臓が停まっていない人に胸骨圧迫をしてもいいのか?

心停止には3つのパターンがあることはご理解いただけたでしょうか?

次に考えたいのは心停止をどう判断するか? という点です。

心室細動と心静止は血流がゼロという点で、心停止かそうでないかは、理論上区別しやすいかもしれません。

しかし、問題は無脈性電気活動(PEA)です。これは強引に言ってしまえば血圧が下がってゼロになる手前の状態ですから、心臓は動いていますし、血圧もわずかながらあります。

低血圧状態と無脈性電気活動をどこで区別するのか?

厳密に考えようとすると、迷路にハマってしまいますが、心肺蘇生法を思い出してもらえば、答えは簡単です。

 

反応なし+呼吸なし+脈なし

 

医療従事者向けプロトコルでは頸動脈で10秒以内に脈拍が触知できるかという判断基準が入っていますので、頸動脈ではっきりと拍動を感じるだけの血圧がなければ、心停止(無脈性電気活動)と判断してCPRを開始しなさい、となっています。

さらには、市民向けの判断基準は、米国でも日本でも、

 
反応なし+呼吸なし
 

ですので、低血圧という概念は含まれていません。

呼吸がなく、脳の活動を維持するだけの血流がなければ心停止と判断する、としています。

循環を肩代わりするのではなく、循環を補助するという考え方

ここまで理解すれば、冒頭の「心臓が停まっていない人に胸骨圧迫をしてもいいのか?」という疑問に対する答えも見えてくるのではないでしょうか?

そもそも心停止状態であっても、発見が早ければ、心臓はまだ動いています。(心室細動もしくは無脈性電気活動)

特に無脈性電気活動では、血圧が徐々に下がっていく過渡的な段階です。

それでも、反応なし+呼吸なし+(脈なし)であれば、胸骨圧迫をするように指導され、実際に実施されています。

血圧が低すぎるだけですから、ここでCPRを始めると、動いている心臓に対して胸骨圧迫をすることになります。自己心拍の力が弱いので、それを後押ししてあげる「補助循環」としての意味を持つことになります。

心臓自体が弱っていて、心筋細胞が十分な酸素を受け取れていないために心停止(無脈性電気活動)になっているとしたら、胸骨圧迫による血流サポートだけで、血圧が上がって状態が好転することもありえます。

つまり、胸骨圧迫は、心臓が停まっている人に対してだけ行うものではなく、心機能が不十分な人に対して行うもの、というのが真実です。

ですから、倒れている人が本当に心停止なのかどうかという点で、あまり思い悩む必要はありません。

呼びかけて反応がなく(意識ではなく)、胸から腹にかけて10秒弱見てもちゃんと息をしているかよくわからないと思ったら、胸を押していいのです。

もし、脳組織が機能できる程度の酸素供給ができるほどの血流があれば、胸骨圧迫の刺激によって痛がる素振りが見られます。それがなければ自信を持って強く速く押し続けます。

血圧が低いだけであれば、胸骨圧迫で血流がサポートされて血圧が上がるに連れて、痛み刺激に反応がでてくるようになるかもしれません。

これも、胸骨圧迫によって救命したと言っていいのではないでしょうか?


履修主義と習得主義の違いーAHA講習は習得主義です。

ちゃんとしたACLSコースは2日

1日コースはインチキ

 

というような意見をインターネット上で拝見しました。

BLS横浜では1日コースが基本なので、苦笑してしまいました。

1日とか2日とか、日数にこだわるのは極めて日本的だなと感じます。

端的にいうと、履修主義なのか、習得主義なのか、という違いなのでしょう。

日本社会は基本的に履修主義で動いています。

小学校・中学校では飛び級がありませんし、総務省消防庁の普通救命講習は3時間、応急手当普及員講習は24時間と、規定された時間をこなすことが絶対条件となります。

一方、習得主義は、ゴールに達することが目的なので、時間には拘泥しません。米国の飛び級というのはそういうことです。要はできればいいのです。

アメリカ心臓協会AHAの講習は、とうぜん後者、習得主義に立脚しています。

ですから、ACLSが1日で終わるなんてインチキだとか言われると、実に日本的な発想だなと思う次第です。

このあたりの教育背景は、教授システム学を勉強していただくとわかると思いますが、究極に言えば、「できる」人であれば、講習カリキュラムを受ける必要もなく、試験に合格すれば、資格を発行できる、というのがAHAの基本的な教育の考え方です。


服を切るトレーニング【AEDパッド装着】

今日は病院からの依頼でBLSプロバイダーコースを開催しています。

10分間のチーム蘇生では、いつもマネキンの服を3重くらいに着せて、一番内側は前開きできないシャツにしています。

いつもだと、皆さんは、なんとかシャツの裾をたくし上げてAEDパッドを貼ることが多いのですが、今日は、戸惑っているのAED担当を見た胸骨圧迫役の方が「ハサミを探して!」と建設的な介入。AEDのケースの中にあったハサミを見つけて、サクッと服をカット。

襟元から少し切れ目を入れた後は、手で引き裂くという時短ワザ、すばらしかったです。

実際の現場を想定した練習、大切ですね。

胸骨圧迫中断の時間を短くし、CCF(胸骨圧迫比)を上げようと思ったら、着衣の人に対して服をはだけるか、ハサミで切るかの判断をさせて、実際にやってもらうトレーニングをしておかないと、実際の現場でハサミで服を切るという発想、ふつうの人にはありませんし、無理です。

今日のケースでは、ハサミを使うという判断はたいへんすばらしかったのですが、服の正中を切ったため圧迫の中断が生じてしまいました。

胸骨圧迫を続けながら、服を着るならどこにハサミをいれたらいいか?

この部分は、シミュレーション後のデブリーフィングで皆さんで考えていただきました。

こういう体験をすると、忘れませんし、次回は実際に「できる」可能性も高まります。


血液感染&教育工学セミナー in 日本医療教授システム学会

先日、埼玉の越谷ラーニングスタジオで日本医療教授システム学会セミナーを2本立てで開催させていただきました。セミナーの全内容をお伝えすることはできませんが、概要をご紹介します。

救命法インストラクターのための教育工学ワークショップ&AHA血液媒介病原体講習

1.救命法インストラクターのための教育工学セミナー

教育工学セミナーは、今はなき AHAコア・インストラクターコース の内容をベースとしたワークショップとして企画しました。

今となっては古典的な印象もありますが、成人学習の基本を再確認する内容です。

日本医療教授システム学会の最近の話題はAI(人工知能)ですが、コースインストラクターの場合は、教材設計というよりは、それ以前の末端の指導スキルの方に関心があるだろうということで、学習意欲の促進や、デブリーフィングとフィードバック、現場への転用といった話題を、日頃の指導を振り返りながら考えていただきました。

また、ガイドライン改定の変遷を歴史的に追うことで、現行のガイドライン2015講習の本質を理解しようという話題も盛り込みました。

AHAガイドライン2015の教育の章を見てもらうとわかりますが、AHA講習はインストラクショナル・デザインに基づいて教材設計されています。

  • 認知スキル
  • 態度スキル
  • 運動スキル

この3つの統合が重要で、そのためには現実味のあるシミュレーションと、その振り返り(デブリーフィング)が欠かせません。

G2015 の BLS からは、10分間のチーム蘇生とデブリーフィングという革新的な新しいコンテンツが盛り込まれました。

これは、単に CCF(胸骨圧迫比)を高くするのが目的ではありません。CCF はチーム蘇生の有効性評価ファクターのひとつであって、シミュレーションは、認知スキル・態度スキル・運動スキルの統合を体験する場であり、講習会場での真似事を現実社会に転移させるための重要な教育手法なのです。

ガイドライン2015 での重要な変更点といえば、筆記試験でテキスト持込可能になったり、昔は禁止されていた一人法 BLS でもバッグマスクを使うことを解禁したり、かなり劇的な教材設計の変更がありました。

これらの変更には1本の筋が通っており、それが Life is why に象徴されているわけですが、そんな謎解きの4時間を過ごしていただきました。

近々控えた G2020 の教材改定にスムースに対応するためにも、ガイドライン改定の歴史を理解しておくことは重要です。

そんなインストラクショナル・デザインを専門分野とする日本医療教授システム学会AHA国際トレーニングセンターのインストラクターのための勉強会でした。

2.血液媒介病原体講習

ハートセイバー血液媒介病原体(Heartsaver Bloodborne Pathogens)コースは、AHAインストラクターなら誰でも開催できるプログラムですが、日本ではほとんど開かれていないのが現状です。

しかし、この4月から市民向けに、止血帯(ターニケット)までも含めた出血コントロールを教える教育がスタートしました。

AEDと並べて軍用ターニケットを語る論調が出てきているため、救命法の指導員としては血液感染対策についても正しく教えられるアビリティが必要になってきます。

そこで、改めてAHA公式の血液感染対策講習を体験してもらう機会を作らせていただきました。

 
 

医療従事者であれば感染対策は常識的に知っていると思いますが、それを市民向けに伝えようと思ったときには、文化背景がまったく違いますので、医療者教育とは別のアプローチが必要です。

市民向け血液感染対策講習は日本には存在しないため、医療者向けの教育方法との違いなどを感じていただけたことと思います。

併せて、軍用ターニケットの適応とその市民教育上の課題についても、触れさせていただきました。ハートセイバー・ファーストエイド講習では G2010 から軍用ターニケットの使用について言及されるようになりました。

今、日本では、既成品のターニケットは医療機器承認がされており、緊縛止血法は医行為とみなされています。

AEDやエピペンと同様、医行為を市民に教えるという図式となり、その指導員の責任は重いものと言えます。

現実、ファーストエイド指導を行っているBLSインストラクターは多くはない印象ですが、BLS、ACLS、PALSインストラクターの中で、いちばん指導範囲が広いのがBLSインストラクターです。

医療者向けBLSプロバイダーだけではなく、応召義務のある市民救助者向けの ハートセイバーCPR AEDコースハートセイバー・ファーストエイドコースHS血液媒介病原体コース小児ファーストエイドなど、実に幅広い指導が可能な資格です。

BLSインストラクターの皆様には、ぜひその資格を余すところなく活用して、施設や地域の安全に寄与していただけたらと思っております。


心肺蘇生CPR/BLS 傷病者の服をはだけるタイミング

ここ数日、女性に対してAEDの使用率が低いという話題が飛び交っています。

女性に対してはAED装着をためらう傾向がデータ的にはっきりしたわけですが、心停止に対する救命処置では、どうしても服をはだける、脱がす、はさみで切るなどの処置が必要となります。

さて、その服をはだけるタイミングですが、日米では少し違っています。

米国 胸骨圧迫を始めるとき
日本 AEDパッド装着のとき

もともと心肺蘇生法は米国から入ってきましたので、日本でも以前は胸骨圧迫の手の位置を乳頭間線としており、服をはだけて手の位置を確認すると教えていた時代もありましたが、いつしか「想像上の乳頭間線」ということで服の上から胸骨圧迫を行う方向にシフトしていきました。

日本国内でもメジャーなプログラムであるアメリカ心臓協会のBLSプロバイダーコースやハートセイバーCPR AEDコースでは、最新ガイドライン準拠の講習でも引き続き、服をはだけてから胸骨圧迫を行うようになっています。

蘇生ガイドラインは5年毎に改定されてきましたが、その歴史的推移をみると、AHA2010ガイドラインからは医学的な正しさより現実社会で実行できること(implementation)に重きを置く方向にシフトし、さらに最新のAHA-G2015では、実行性を高めるためには、講習の進め方にもreal life situationを重視する現実主義の方向性がより強化されるようになっています。

この流れの中で、呼吸確認のための気道確保を求めないことや、人工呼吸よりは胸骨圧迫を先に開始するC-A-B手順が導入されたりしました。

この機運からすれば、CPR開始のハードルを下げるという意味でAHA-G2010で胸骨圧迫のために服をはだけるという手順が是正されるかと考えていましたが、その他の大胆な改定とは裏腹に、いまも変わらず、胸骨圧迫のまえに胸をはだけるような手順が残ったままとなっています。

BLS横浜では、主に米国のAHAガイドライン準拠の講習を多く開催していますが、その指導の中では、胸骨圧迫のために服をはだけるようにという指導は行っていません。

DVD教材では、そのように言及していますので、ときどき受講者さんからは質問されます。

そんなときは、こんなふうに答えています。

「マネキンと違って、実際の人は服を1枚しか着ていないことはないし、前開きとも限りません。現実問題、できそうですか? 重要な概念として、心停止を認識したら10秒以内に胸骨圧迫を開始することが強調されていますが、10秒以内にできますか?」

地面に倒れた人の服をまくりあげて胸骨圧迫の部位を露出させるのを10秒以内に行うことは、どう考えても現実的ではありません。

それに、もともと「胸骨圧迫前に服をはだける」というのは指導マニュアル上の話であり、ガイドラインによって明確に規定されているようなものでもありません。もちろん、医学的根拠(エビデンス)もありません。

ですから、BLS横浜での講習指導の上では重視はしていません。

強いて言えば、傷害を防ぐために正しい手の位置を確認するという意味合いがあるものと思われますが、服の上から胸骨圧迫した場合と服をはだけた場合での誤差の違いや、胸骨圧迫開始までの時間の違い、そしてそれが患者アウトカムにどう影響するか、という点が研究されているわけでもありませんし、それほどこだわる理由もないというのが現実ではないでしょうか?

ということで、チームシミュレーション・トレーニングの中では、あえて何重にも服を着せて、簡単には脱がすことができないようにして、服をはだけるタイミングについては、受講の皆さんで考えてもらうようにしています。

現実的には、AEDが届いてパッドを貼るタイミングで、はさみで切るというのが確実な気がします。

答えがないことは、経験学習とデブリーフィングで学んでもらうのがいちばんです。