歯科業界での急変対応事情

昨日は、神奈川歯科大学でのBLSヘルスケアプロバイダーコースでした。
 
去年、学園祭実行委員会さんからの依頼で、学園祭でのBLSイベントのための心肺蘇生法指導員養成ワークショップを3回行わせていただきました。
 
それ以後、学生さんで希望者が集まると、随時BLSヘルスケアプロバイダーコースを開催させてもらっています。
 
同大学は、歯学部の他、附属短大で看護学科と歯科衛生士学科があります。
 
その中でも、今回ははじめて歯科衛生士の学生さんが参加してくれました。
 
 
病院文化の常識として、いわゆるBLSから始まって、ALS(二次救命処置)へ、というのは図式として確立していますが、歯科の世界では、病院のような大組織ではなく、歯科クリニックというこじんまりとした単位が多数かと思います。
 
そんな歯科業界での救急対応に対する意識・取り組みはどうなのでしょうか?
 
 
平成24年4月の診療報酬改定で歯科外来診療環境体制加算というのが制定されました。
 
詳細は割愛しますが、その加算をとるための条件の一部として、
 
 
(1) 偶発症に対する緊急時の対応、医療事故、感染症対策等の医療安全対策に係る研修を修了した常勤の歯科医師が1名以上配置されていること。
(2) 歯科衛生士が1名以上配置されていること。
(3) 患者にとって安心で安全な歯科医療環境の提供を行うにつき次の十分な装置・器具等を有していること。
ア 自動体外式除細動器(AED)
イ 経皮的酸素飽和度測定器(パルスオキシメーター)
ウ 酸素(人工呼吸・酸素吸入用のもの)
エ 血圧計
オ 救急蘇生セット(薬剤を含む)
カ 歯科用吸引装置
 
 
といったことが挙げられています。
 
つまり、歯科医院では、AEDを含めた急変対応資機材の準備と、それを扱うための研修が求められているということです。(研修に関しては、救急蘇生だけではなく、いわゆる医療安全という幅広い視座の中のひとつということですが)
 
BLSに関しては、ごくごく一般的な医療者向けBLS講習と同じでいいかと思いますが、問題はその先です。
 
病院内では、医師によりそのまま二次救命処置(ACLS)に移行していきますが、歯科業界ではどこまでの対応を現場で行うかという点です。
 
あまり知られていませんが、歯科医師は歯科診療上の必要があれば、医科の医師と同じように静脈路から薬剤投与をしたり、口腔内以外の皮膚を切開したり、縫合したり、外科的気道確保を行うこともできます。さらには全身麻酔をかけて、いわゆる全身管理を行うこともできます。
 
それは主に歯科口腔外科や歯科麻酔科という歯科医師の中でもやや特殊な分野を専攻した方の専門領域かもしれませんが、資格としては歯科医師免許でACLSなどの高度な救命処置も行うことができるという点です。
 
市中の個人クリニックであれば、AEDを用いたBLSを行いながら、救急隊員に引き継ぐというのが現実だと思いますが、可能性としては歯科であっても、二次救命処置がありえるのです。
 
いわゆる成人への二次救命処置(ACLS)では、「VFハンター」という言い方もあったように、心臓突然死を主なターゲットとしています。歯科治療中であっても、突発的な心室細動発症の可能性は一般と同じかもしれませんが、歯科で忘れてはいけないのはアナフィラキシーです。
 
局所浸潤麻酔でキシロカインを多用しており、これによる薬剤アレルギーの発症が一定数あると言われています。
 
そのため、突然の心室細動だけではなく、薬剤アレルギーによるアナフィラキシーショックも歯科急変の大事な危機管理のポイントになっています。
 
この場合、救命の要はAEDではなく、アドレナリン投与と気道確保、ショック対応です。
 
歯科大学病院などでは、当然こういった対応を現場の歯科医師や歯科衛生士が行うことになるのだと思いますが、小さなクリニックでは、そこまでを想定した準備を行うのか、それともBLS範疇にとどめて、救急車や近隣の医科に早期に委ねる方向で考えるのか、という点が問題となります。
 
アナフィラキシーショックの中でも、注射によるものは進行が速く、5分くらいであっという間に心停止に移行してしまう場合もあります。このあたり緊急度をどう考えるのか?
 
歯科医院から救命講習の依頼をいただくこともあり、講習展開にどこまで含めるのか、こんなあたりの話はいつも出てくるのですが、難しい問題だと感じています。
 
・歯科医師の意識と経験
・歯科クリニックのスタッフ構成(歯科医師人数、歯科衛生士の有無、歯科助手、事務スタッフ)
・厚生労働省が歯科クリニックに求めているもの
・歯科クリニック利用者が歯科医ならび歯科スタッフに求める急変対応への期待
 
そんなことをトータルで考えて、アドレナリン筋肉注射までを含めることもあれば、早期通報を徹底し、CPR訓練に留めることもあります。
 
 
歯科医からも、どこまでやるべきかという点で、率直な相談を受けることも多く、そんな時は日本口腔外科学会と日本救急医学会の有志で策定したDCLS(Dental Crisis Life Support 歯科診療危機初期対応)を紹介させてもらっています。
 
 
 
日本救急医学会のICLSをベースとしているため、スタッフ数の限られる小規模施設にはそぐわないとか、歯科医師は開催のためのディレクターになれない、公募開催がほとんどないなど、問題点もあるようですが、公式テキスト 「DCLSコースガイドブック―デンタル・クライシスの初期対応」も市販されており、歯科業界での急変対応を考える上ではフルサイズの指針として使えるのではないでしょうか。
 
 
 

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