先日、ご依頼をいただき出張で開催したBLSプロバイダーコースでの一コマです。
AHA-BLSプロバイダーコースでは、チーム連携のトレーニングとして、3〜6名で10分間のCPRを行い、蘇生率に直結すると言われる胸骨圧迫比(CCF)を実測するというセクションがあります。
ここは胸骨圧迫の中断時間を減らして高いCCF値を打ち出すことに重きを置かれがちですが、蘇生ガイドラインを読み解くと、現場実践の実行性(implementation)を高めるためのシミュレーション訓練に主眼が置かれていることがわかります。
さて、今回は体育館内の階段の踊り場でうつ伏せに倒れている学生、という想定で、大学校の体育科の教員向けにシミュレーションを展開しました。
場所的に転落の可能性は否定できません。つまり頚椎損傷の可能性あり。
また場所が狭い。特に頭部側にスペースがありません。
写真は半身マネキンですが、シミュレーションの開始時はインストラクターがうつ伏せで倒れている状態から始めました。
顔色や脈の触れは演技では心停止は再現できませんので、その都度、言語情報として伝えましたが、呼吸の判断や体位変換は生身の人間相手に実施。
仰向けにして胸骨圧迫開始判断から先、マネキンに入れ替えました。
うまくやるのが目的ではない 〜 デブリーフィング
けっこう難易度が高いことをやっていますが、これはうまくやることが目的ではありません。
シミュレーションは、実践そのものよりも、終わった後の振り返り(デブリーフィング)にこそ学習の意図があります。
うまくできても、できなくてもどちらでもいいのです。やりながら考える、やってみて考える。
終わった後の受講者同士の振り返りで、何に気づき、分析し、まとめるか? つまり体験から何を学び取るか? こそがシミュレーションの目的。
このシナリオでのデブリーフィングのポイントをいくつか挙げると、、、
- うつ伏せ状態から仰向けにする判断とそのタイミング
- AEDとバッグマスクが届いた時点で救助者は2名。AEDとBVMの優先順位
- 狭い空間、無理な体勢でのCPR、環境整備の必要性
- お互いに声をかけあってCPRの質の管理ができるか?
- 交代のタイミングと交代要員の位置
- Tシャツを含めた3枚の服。AED装着のための役割分担
これらすべてを取り上げるわけではありませんが、シミュレーション終了後の自由なディスカッションの中でやってみての気付きとして、こんなことを考えてもらいます。
こうしたらもっとうまく行く、ということをあぶり出してもらうのですが、うまくできた部分も取り上げて、どうしてうまくいったのか、を分析してもらって、たまたまではなく、次は意図的に再現できるといいよね、という成功体験を振り返りに盛り込むことも重要です。
講習会場内で、「ここは階段の踊り場です」という「想定」でシミュレーショをすることも可能ですが、やはり臨場感と実際の環境の中での物理的制限など、「現場」でやってみると、本気度がぜんぜん違いますし、実際の気付きや学びもホンモノに近くなります。
公募講習では、なかなか難しいですが、学校や病院などの施設からの依頼研修の場合は、せっかく現場があるのですから、ちょっと場所を変えてみるだけで、ずいぶん違ってきます。
ぜひ、インストラクターの皆さんは、会場を飛び出した工夫をしてみてください。