小児の人工呼吸比率、15:2 を深掘りする

今から書く話は、主に医療従事者向けのBLSプロトコルです。市民向け救命法とは別の話なので、ご注意下さい。

さて、ヘルスケアプロバイダー(医療従事者や救命のプロ)向けの心肺蘇生法の中では、小児に関しては、30:2 ではなく、15:2 という胸骨圧迫と人工呼吸の比率がでてきます。

これはAHAガイドラインでは、思春期未満の子どもに対する二人法CPRの場合の圧迫対換気比です。

今日は、この 15:2 に着目して、掘り下げていってみようと思います。

小児の心停止の原因と、代謝による酸素消費量

まず、そもそも 30:2 に較べて、15:2 という胸骨圧迫と人工呼吸比率のメリットはなんでしょうか?

肺に送り込まれる空気の量が多い。

ということですよね。

そして、この比率が適応されるのは小児・乳児の場合だけです。

なぜ、子どもの場合は、人工呼吸の送気が多いのか?

理由は、皆さん、わかりますよね?

BLSコースのDVDでも言っているように、子どもの心停止の原因として呼吸のトラブルが多いからです。

BLSプロバイダーマニュアルG2015では、52ページに、「乳児や小児が心停止を起こした場合は、呼吸不全またはショックが認められ、心停止に至る前から血中の酸素濃度が低下していることが多い」と書かれているとおりです。

その他の理由としては、PALSプロバイダーマニュアルG2015にヒントがあります。

その114ページには次のように書かれています。

 

「小児は代謝率が高いため、体重1kgあたりの酸素需要量が多い。乳児の酸素消費量は6~8ml/kg/分であり、成人の3~4ml/kg/分よりも多い。」

 

子どもは大人に較べて、酸素の消費量が多いから、人工呼吸の比率が成人より高い、ということです。

このような理由から、子どもは酸素の供給量を上げてあげようということで、15:2 という比率が採用されています。

15:2 のメリット、デメリット

ここまでは納得いただけるかと思いますが、よく考えると、さらなる疑問が湧いてきます。

子どもの場合であっても、救助者が一人のときは大人と同じ 30:2 とされている。酸素の消費量が多いのが理由であれば、救助者人数で違ってくるのはおかしいのでは?

この点は、皆さんはどう考えるでしょうか?

 

ここは単純な小児の生理学だけの問題ではなさそうですね。

そこで、30:2 と 15:2 で何が違うのかを改めて考えてみると、、、

15:2 の方が胸骨圧迫の中断時間が長い、という見方もできませんか?

そうなんです。15:2 のデメリットは、胸骨圧迫の中断時間が多いため、累積で考えると、圧迫によって生まれる血流量が少ないとも言えます。

換気回数は多いため、肺胞に到達する空気(酸素)の量は多いですが、その後の組織への酸素運搬を司る血流量が少なければ、結局、心筋細胞や脳細胞へ到達する酸素量で考えたらマイナスになってしまう。これが 15:2 のデメリットです。

ましてや、一人法ですから、胸骨圧迫を終えたら、感染防護具を手にして、頭部後屈顎先挙上をし直してからの送気です。これには 10 秒弱がかかってしまいます。

一人法では胸骨圧迫の中断が長くなる

しかし、二人法の場合を考えてみて下さい。

胸骨圧迫の間、バッグマスクを顔に密着させて気道確保して構えているわけですから、15回の圧迫が終わったらすかさず送気。そうすれば中断時間 3-4 秒程度ですぐに血流を再開することができます。

つまり、一人法で 15:2 で実施した場合は、血液の酸素化までは良くても、その後の血流が低下するために組織への酸素化を考えたら効率が悪い。救助者二人で、圧迫と換気を分担した場合に限り、血液の酸素化と組織への酸素化が有効に行える、というわけです。

この点は、BLSプロバイダーコースのDVDにも、テキストにも書かれてはいませんが、組織の酸素化の理屈を考えてみると、導き出されるひとつの理解です。

漫然と 15:2 と覚えるのではなく、理由を考えてみると、記憶に残りやすいのではないでしょうか?

幼稚園・保育園、小学校職員向け研修で 15:2 を教える?

さて、これらを踏まえて、考えてみて下さい。

幼稚園や小学校からの依頼の救命講習では、30:2 に加えて、15:2 を教えるべきでしょうか?

学校等での事故を考えたら、救助者が1人だけ、とは考えにくく、必ず2人法となるはずですよね?

 

これ、けっこうありがちな話で、特にAHA-BLSインストラクターが指導に行く場合は、二人法の 15:2 を教えがち。

しかし、考えたいのは、学校の先生達が実施する人工呼吸のやり方、使う道具の問題です。

BLS横浜としては業務蘇生はポケットマスクかバッグバルブマスクを推奨してはいますが、日本の学校現場では、現実的にはQマスクやレサコなどの”フェースシールド”想定が多いのが現状。

これらの呼気吹き込みデバイスを使った場合、一人の先生が胸骨圧迫している間、人工呼吸担当の先生は気道確保をして口を子どもの口につけっぱなしにしているでしょうか?

少なくとも口をつけっぱなしはありえません。胸骨圧迫するたびに傷病者の口からは吐息(飛沫)が吹き出していますから。

この場合、二人法とはいえ、胸骨圧迫が終わってから、気道確保をして口を密着させて、フーフーと息を吹き込む形になります。

こうなると、動作の切り替えに時間がかかるという点で一人法と大差がなくなります。

つまり、酸素をより多く組織細胞に供給できるという 15:2 のメリットは、胸骨圧迫中も終始気道確保し、送気スタンバイできるバッグバルブマスクでないと出てこない、ということです。

JRC蘇生ガイドラインでもAHA蘇生ガイドラインでも、市民向けの小児BLSでは 15:2 が推奨されていないのも納得です。

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