BLS横浜では、子どもの救命法教育に力点をおいて活動しています。
特に保育園からの依頼講習の数は多く、毎年約50施設で出張救命講習を開催しています。
また厚生労働省企画の「保育士等キャリアアップ研修」でも、年間100園以上の保育園の看護師や中堅保育士向けに、保健衛生の一環として保育園内での救急対応についてお伝えさせていただいています。
小児施設での救命講習は町中の一般講習とは別!
そんな保育所救命講習を専門とするBLS横浜として、強く言いたいのは、保育園で実施する救命講習は、巷で開催されている市民向け救命講習とはまったく違うという点。
・成人蘇生(心室細動前提)ではなく、小児蘇生(呼吸原性心停止)
・免責されるバイスタンダー向けではなく、業務対応のレスポンダー向け
2つの意味で、世間一般の救命講習とは違うわけですが、保育園からの依頼講習なのに、成人マネキンを持ってきて、人工呼吸は不要と言い切ってしまうような救命講習しかしてくれなかった、という疑問の声はよく聞きます。
特に、この疑問を抱くのは保育園看護師が多く、「子どもの蘇生を教えて下さい!」と言っても「大人も子どもも一緒ですよ」と言われてしまい、話にならなかったという愚痴を聞くことは珍しくありません。

特に人工呼吸はしなくていい! と救命法指導員という専門家に言われてしまうと、いくら保育園看護師が「子どもには必要なんです」と言っても、園長やスタッフは信じてくれない、そんな困った事態が頻発しています。
そこで、保育園、幼稚園、小学校が地元消防署等に救命講習を依頼する際には、きちんと打ち合わせをして共通認識を練り上げておくことが必要です。
本当はプロである救命法指導員側がこのコンサルトを行うべきなのですが、残念ながら小児BLSを知らなかったり、善意の救護と業務救護の違いを理解していない指導員が多いため、ここは保育園看護師や養護教諭が戦略を立てて、交渉していく必要があります。
論拠を持って説明する
ピンぼけ救命講習の原因のほとんどは、指導員側の不理解、勉強不足にあります。
・大人も子どもの蘇生法は同じ
・人工呼吸はしなくていい
・責任は問われない
日頃、町中の一般市民向けの普通救命講習で教えているような上記のことを、保育園/小学校で教えてしまうのは間違いなのですが、そのことに気づいていないので話が通じないわけです。
蘇生科学や法解釈を説明しても、にわかには信じてくれませんし、「へんなことを言ってる」みたいにあしらわれてしまったり。
そこで端的に示せる根拠を提示することが重要です。この点、BLS横浜にも問い合わせが多いので、ここにまとめておきます。
保育園の救命講習が一般市民向けではダメな根拠 ① 小児蘇生
2010年のJRC蘇生ガイドラインの改定で、「市民救助者が小児に対して心肺蘇生を行う場合は成人と共通の一次救命処置ガイドラインに従う」となりました。
つまり2005年ガイドラインまでは明確に分けられていた小児蘇生法と成人蘇生法の区別をなくして、市民には子どもの特性を踏まえた蘇生法は教えないことになったのです。
救命講習に来た消防職員が「大人も子どもも一緒」というのはここに端を発してます。

しかし、ガイドラインの記述には続きがあり、「ただし、市民のうち小児に関わることが多い人、すなわち保護者、保育士、幼稚園・小学校・中学校教職員、ライフセーバー、スポーツ指導者などは小児BLSガイドラインを学ぶことを奨励する。」と書かれているのです。
市民には小児蘇生法は教えなくなりましたが、医療従事者向けには引き続き小児BLSが残されています。つまり、保育士や小学校教職員は、一般市民向けに成人寄りにデフォルメされた救命法ではなく、医療者向けの小児専門救命講習で学ぶべき、としていたのです。
これを知らない指導者が多い!
医療者向けの小児BLS手順では、脈拍触知や15:2の比率などがあり、やや煩雑になりますので、そういった細かいところは抜きにして、少なくとも成人との違い、つまりAEDの電気ショックで助かる心原性心停止ではなく、人工呼吸で助かる呼吸原性心停止の流れで伝えるべきとされています。
JRC蘇生ガイドライン2010のオンライン版は現在は消えていますが、図書館に行けば確認できます。
また、ほぼ同じ文章が消防の公文書にも記載されていて、それは今でも総務省消防庁のWebサイトからPDFでダウンロード可能です。
https://www.fdma.go.jp/pressrelease/houdou/items/h23/2308/230831_1houdou/01_ryui.pdf
保育園の救命講習が一般市民向けではダメな根拠 ② 業務責任
日本で最も一般的な市民向け救命講習は、総務省消防庁の規定する普通救命講習 I です。
これは、各自治体の消防本部により「住民に対する応急手当の普及啓発活動」として行われているもので、業務トレーニングではありません。
困っている人がいたら手を差し伸べましょう、という性質のもので、業務用の内容、クオリティではない、ということです。
業務中に救急対応する学校教職員や保育士は、通りすがりのバイスタンダーではなく、呼ばれて駆けつけるレスポンダーです。
その実施内容には注意義務と責任が課されるという点で、立場がまったく違うわけです。責任を問われない一般市民と同レベルの講習でいいはずがありません。
この点も、理解していない救命法指導員が多く、ピンボケな救命講習が繰り広げられています。
この点を説明する根拠となるのが、JRC蘇生ガイドライン2015です。最新版のG2020には「法に関しては、この5年間に大きな進展はなかった」ということで、具体的な記述はなく、G2015が踏襲されています。(G2015版のオンライン版の公開は終了しているため、図書館等で成書をあたってください。)

悪意または重過失がなければ責任を問われないのは、「法的に義務のない第三者」、つまりバイスタンダーであり、「法的に義務のある当事者」である学校事故現場での教職員や保育士には当てはまらない、という点がわかります。
このあたりは法曹界では常識的な話で、救命法を巡る弁護士見解を解説する記事でも、一般市民と教職員やスポーツ指導者を区別して記載しているのは確認いただけると思います。
救命法において、市民というと医療従事者の対義語として捉えている救命法指導員が多いですが、市民の中でも免責される立場とそうでない立場を区別する必要があります。
救命法を依頼する前に入念な打ち合わせを
非常に残念なことですが、大人と子どもの蘇生法の違いや、注意義務や法的責任について無頓着な救命法指導員が少なくないのが今の日本の現状。
これは公務として教えに来る消防吏員や、病院勤務の救急救命士や救急医であっても同じです。
日本全体として2010年のガイドライン改定から子どもの蘇生を軽視する流れになっていることもあり、子どもの命を守りたいと思ったら、救命講習を外部依頼する際には入念な打ち合わせをすることを強くおすすめします。
- 子どものマネキンを使って練習したい
- 人工呼吸に重きをおいた子どもの蘇生を教えてほしい
- AEDでショックが不要という可能性が高いことをきちんと教えてほしい
- 難しいからやらなくていい、ではなく、きちんとできるようになるまで練習したい
- 業務責任という視点で、きちんと厳しく指導してほしい
「大人も子どもも蘇生法は同じ、学校教職員も一般市民で変わらない」
臆面もなくこんなことを言う指導員がいるのも事実。本記事を参考に論拠を固めてから、打ち合わせ。そうして実情にあった実りの多い救命講習が開催できることを願っています。
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