BLS横浜は、もともとは一般公募講習から活動を始めましたが、気づけば企業や保育園、歯科クリニックからの依頼の救命講習が増え、いまや全体の1/5程度は依頼出張講習となりました。
新規の出張講習のご相談も年間10件以上あり、保育園などは毎年のレギュラー化することが多くなっています。
小学校のプール授業に備えて60名を1時間で、という依頼を受けたら
さて、今日は新規救命講習開催の相談をいただいたときの話。
例えば、小学校から「プール授業開始前に60名の教職員向け救命講習を1時間でお願いしたい」という依頼を頂いたとき。
このような人数・時間配分での講習オーダーは多いと思いますが、救命法の指導員さんはどう対応しているでしょうか?
人工呼吸練習を含めて1時間でできるか?
善意を前提とした一般市民向けであれば、胸骨圧迫のみでAED使用はグループの通し練習で数回程度、ということで開催できなくはありません。
しかし小学校からの依頼であれば呼吸原性心停止想定の小児BLS。特にプールでの事故に備えて、ということでしたら、人工呼吸練習は欠かせません。
フェイスシールドを使って呼気吹き込み練習をしてもらうとしたら、交代時のマネキンの消毒など、ハンドリングのロスタイムがあり、仮にマネキンを10体用意して6人交代制にしても時間的に厳しいです。
講習の質の問題
またなにより学校教職員向けであれば、普及啓蒙講習ではなく、業務トレーニングになります。
学校事故での救護を巡っては、民事裁判になることは珍しくないですし、書類送検されたケースもありますので、免責が前提の市民向け講習といっしょというわけにはいきません。
バイスタンダーと違って注意義務があり、責任を問われる職業人向けですから、形式的に体験してもらうだけではなく、きちんと練習をして、ある程度のレベルまで持ち上げる必要があります。
救命法指導員は救命コンサルタントとしての責任がある
このように、ふつうに考えて、業務対応レベルの小児BLS研修を1時間で60名というのはかなり無理がある話。
やってできなくはありませんが、それはクオリティを相当下げて、下手すると市民向けの入門講習以下の内容になることは必至です。
そもそもオーダーする側としては、人工呼吸は想定しておらず、胸骨圧迫とAEDの使い方を体験させればいいという程度に考えているのかもしれません。
また、医療従事者に対しての市民ということで、バイスタンダーと違って救護責務があることや注意義務があるという点を知らない、理解していない可能性があります。
このあたりはプロの救命法指導員として、
・小児BLSでは人工呼吸は必須
・溺水救護も低酸素が第一想定で人工呼吸は必須
・業務席員が問われる学校教職員には一般市民向救命講習では不十分
という点を説明し、誤解を払拭し正しい認識で再考することをサポートする責務があるのではないでしょうか?
語弊があるかもしれませんが、救命の素人が無知のままオーダーしてきた内容を、不適切と思いつつも受け入れるのはプロの仕事をなしていません。
問題は、
・人数
・マネキン数
・時間
の3要素。
例えば、1回あたりの受講者を減らして、その分、開催回数を増やすという質担保の方略を提案できます。
また、時間がFIXで変動の余地がないのであれば、マネキンの数を増やして交代回数を減らして練習時間を確保するという戦略も。
こちらはプロとしてのプライドを持って人の命に関わる重大事項をお伝えしているわけですから、プロとしてのプライドや誇りを守る必要があります。これは命に関わる倫理であり、責任です。
どう説明しても相手が、その必要性を理解してくれず、折れるとしたら、、、、
それは命に関わるプロとしての責任放棄、に他なりません。
人の命を左右する事柄を扱っているという重さを誰よりも感じているのは救命法指導員自身、そう信じています。