ウィルダネス・ファーストエイドの危険性

BLS横浜では、ウィルダネス・ファーストエイド Wilderness First Aid と呼ばれる野外救急法の推進活動も行っています。

これはアメリカ・カナダで発達した人里はなれた野外(ウィルダネス)を想定した特殊な救急法。

医療資格を持たない一般市民向けですが、病院にいくまでに何日もかかるような場所では、通常では医療者任せにするやや高度な判断や処置をしなければならないこともあります。

通常の救急法の範疇を越えて、救急隊未満くらいな感じでしょうか。

私たちの主要スタッフはアメリカ赤十字(American Red Cross)のウィルダネス&リモート・ファーストエイド Wilderness & Remote First Aid インストラクター資格を持っています。

日本では数少ないARC公認インストラクターとして、ウィルダネス&リモート・ファーストエイドを日本で広めるのは私たちの使命と考えていますが、諸事情によりアメリカ赤十字の公認ライセンスを発行する講習会の開催は控えています。

というのは、法律や前提条件の違うアメリカ合衆国の講習プログラムを日本にそのまま持ってきていいのか、という疑問があるからです。

一言で言うと、「日本でやったら医師法違反で逮捕される」ような処置も含まれている点が問題。

日本の救急法では、消毒も含めて薬を使うのはご法度です。

しかし、ウィルダネス・ファーストエイドでは、プロトコルにしたがって内服薬や、さらには注射薬を投与する場面がいくつかあります。

また、スパイン・テストといって、脊椎損傷の疑いがあるときの頭部保持を解除するための神経学的評価の項目もあります。

これは日本の医療従事者や救急隊からしたら信じられないようなシロモノで、救急救命士であってもそんなことは絶対にやらないというくらいの危険なものです。

救助がこない野外環境下では必要な場合があるという点は異論はないのですが、その意義と危険性(傷病者への危害と救助者の法律的な訴追の両方)の情報を正しく提供し、本当にそれを行うべきか、責任を負う覚悟ができているか、そんな判断ができるようになるまで援助をできる体制が、私たちにはまだ整っていません。

それゆえに、こうした日本では違法性が疑われる行為を教えることは控えている状況です。

そのため、現在は、オリジナル勉強会という形で、ウィルダネス・ファーストエイドのエッセンス、また傷病者評価(アセスメント)システムに関して講習展開をするにとどめています。

幸い、私たちは医師・看護師・救急救命士といった医療のエキスパートを含めて構成されています。医療監修がきちんと行える体制はあります。足りないのは法律的な解釈と説明。そこをフォローできる体制をつくり、日本で教えられる範囲と避ける範囲を明確にし、日本の風土・法的環境に適した野外救急法を確立することを目指しています。

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