日本では、自衛隊でも東京消防庁でもCATと呼ばれるタイプのターニケット(止血帯)が正式納入されています。
これはもともと米軍の一般兵士用として戦地に置いて実績を上げてきた製品で、世界中でもっとも広く使われているものです。
日本国内においてもCATは、一般医療機器として承認(PDF:別ウィンドウで開きます)を受けており、既成品としての止血帯は医療器具であるといって間違いありません。
市民向け救急法講習で医療器具の使い方を教える
この4月から、日本赤十字社の救急法講習の中にも既成品としてのターニケットの使用法練習が含まれるということで、2005年まで教えていたような三角巾とボールペン等を使った手作り応急止血帯とは一線を画する新たなフェーズに突入したことになります。
一般市民に、医療機器の取り扱い方法を教えるという図式になるからです。
一般市民が医療機器を使って医療行為を行うことの妥当性と違法性の阻却理由。
本稿ではあえて結論は書きませんが、止血帯教育に関わる人であれば知っておかなければならない最重要事項と思います。
(医療者免許を持たない)消防職員がターニケットを使用する際の条件
考えるべき思考の入り口として、去年の3月に総務省消防庁が出したターニケット使用に関する通達文書を紹介しておきます。
消防職員によるターニケットを含む止血帯による圧迫止血について(PDF)
これは、各自治体の消防を所管する総務省消防庁が出した公文書で、医療従事者免許を持たない消防職員が止血帯(ターニケット)を使う場合の条件を2つ挙げています。
- 傷病者を医療機関その他の場所に収容し、又は医師等が到着し、傷病者が医師等の管理下に置かれるまでの間において、傷病者の状態その他の条件から応急処置を施さなければその生命が危険であり、又はその症状が悪化するおそれがあると認められること。
- 使用者が、以下の内容を含む講習を受けていること。
- 出血に関連する解剖、生理及び病態生理について
- 止血法の種類と止血の理論について
- ターニケットの使用方法及び起こりうる合併症について
逆説的に言えば、これらの条件に合致しない場合は、医師法違反に抵触する可能性があるということです。
さらに言えば、消防職員に関しては、メディカルコントロールによる事後検証の必要性も示唆されている点にも注目できます。
つまり、きちんと教育を受けた立場であっても、その使用の妥当性については事後審査されるということです。
ターニケット使用の妥当性を客観的に評価・判断できること
条件1については、当たり前のことしか書いていないように見えますが、かなり重い内容となっています。
生命危機を評価し、ターニケットを使う必要性が「認められる」ことが条件だと書かれているからです。これは救助者が主観的に必要だと思った、というだけでは不十分で、事後検証においても妥当性が判断されるような客観的な情報を認識し記録しておくことの必要を示唆しています。
なぜターニケットを使うと判断したのか? 大出血だと思ったから、では通用しません。
評価するのに必要な教育はどの程度?
そのために条件2のような教育が必要となるわけですが、条件1を満たすためには、ただ講習を受けて話を聞きました、というだけでは足りるものではないというのは当然です。責任を持った判断ができるようになることが規定されているわけです。
東京消防庁では、すでにターニケットの配備が終わり、実稼働しているわけですが、事後検証においてはターニケット使用が妥当とは判断されなかった事例が出てきているとも聞き及びます。
そんな訓練された立場の消防職員にとってもハードルが高い医療行為であるターニケット使用を、一般市民に指導するという方向性。それがこの4月から決定事項として始まります。
どんな教育がどの程度の時間をかけて、どの程度の習熟度をゴールとして実施されるのでしょうか?
そんな問題提起として、本稿は締めるさせていただきます。
今後の動向については、引き続き追いかけていきます。