心肺蘇生CPR/BLS 傷病者の服をはだけるタイミング

ここ数日、女性に対してAEDの使用率が低いという話題が飛び交っています。

女性に対してはAED装着をためらう傾向がデータ的にはっきりしたわけですが、心停止に対する救命処置では、どうしても服をはだける、脱がす、はさみで切るなどの処置が必要となります。

さて、その服をはだけるタイミングですが、日米では少し違っています。

米国 胸骨圧迫を始めるとき
日本 AEDパッド装着のとき

もともと心肺蘇生法は米国から入ってきましたので、日本でも以前は胸骨圧迫の手の位置を乳頭間線としており、服をはだけて手の位置を確認すると教えていた時代もありましたが、いつしか「想像上の乳頭間線」ということで服の上から胸骨圧迫を行う方向にシフトしていきました。

日本国内でもメジャーなプログラムであるアメリカ心臓協会のBLSプロバイダーコースやハートセイバーCPR AEDコースでは、最新ガイドライン準拠の講習でも引き続き、服をはだけてから胸骨圧迫を行うようになっています。

蘇生ガイドラインは5年毎に改定されてきましたが、その歴史的推移をみると、AHA2010ガイドラインからは医学的な正しさより現実社会で実行できること(implementation)に重きを置く方向にシフトし、さらに最新のAHA-G2015では、実行性を高めるためには、講習の進め方にもreal life situationを重視する現実主義の方向性がより強化されるようになっています。

この流れの中で、呼吸確認のための気道確保を求めないことや、人工呼吸よりは胸骨圧迫を先に開始するC-A-B手順が導入されたりしました。

この機運からすれば、CPR開始のハードルを下げるという意味でAHA-G2010で胸骨圧迫のために服をはだけるという手順が是正されるかと考えていましたが、その他の大胆な改定とは裏腹に、いまも変わらず、胸骨圧迫のまえに胸をはだけるような手順が残ったままとなっています。

BLS横浜では、主に米国のAHAガイドライン準拠の講習を多く開催していますが、その指導の中では、胸骨圧迫のために服をはだけるようにという指導は行っていません。

DVD教材では、そのように言及していますので、ときどき受講者さんからは質問されます。

そんなときは、こんなふうに答えています。

「マネキンと違って、実際の人は服を1枚しか着ていないことはないし、前開きとも限りません。現実問題、できそうですか? 重要な概念として、心停止を認識したら10秒以内に胸骨圧迫を開始することが強調されていますが、10秒以内にできますか?」

地面に倒れた人の服をまくりあげて胸骨圧迫の部位を露出させるのを10秒以内に行うことは、どう考えても現実的ではありません。

それに、もともと「胸骨圧迫前に服をはだける」というのは指導マニュアル上の話であり、ガイドラインによって明確に規定されているようなものでもありません。もちろん、医学的根拠(エビデンス)もありません。

ですから、BLS横浜での講習指導の上では重視はしていません。

強いて言えば、傷害を防ぐために正しい手の位置を確認するという意味合いがあるものと思われますが、服の上から胸骨圧迫した場合と服をはだけた場合での誤差の違いや、胸骨圧迫開始までの時間の違い、そしてそれが患者アウトカムにどう影響するか、という点が研究されているわけでもありませんし、それほどこだわる理由もないというのが現実ではないでしょうか?

ということで、チームシミュレーション・トレーニングの中では、あえて何重にも服を着せて、簡単には脱がすことができないようにして、服をはだけるタイミングについては、受講の皆さんで考えてもらうようにしています。

現実的には、AEDが届いてパッドを貼るタイミングで、はさみで切るというのが確実な気がします。

答えがないことは、経験学習とデブリーフィングで学んでもらうのがいちばんです。

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