心臓が停まっていない人に胸骨圧迫をしてもいいの?

心肺蘇生法の実施を躊躇させる原因はいろいろありますが、「本当に心停止なの? 生きてるんじゃない?」という疑心暗鬼は見逃すことができません。

結論から言えば、疑わしければ胸を押せ! なのですが、そうは言ってもなかなか納得しづらいと思いますので、今日は、心停止とはそもそもなんなのか? という話から、疑わしければ胸を押せ! の妥当性を考えたいと思います。

本稿をお読みいただくと、下記の点が説明できるようになります。

1.心停止とはなにか?
2.心臓が停まっていない人に胸骨圧迫をしてもいいのか?

1.心停止とはなにか?

心停止という言葉ですが、かなり罪作りな言葉にも思います。医療従事者でもかなりの人が誤解しています。

臨床的に言われている心停止の状態には、文字通り心臓の動きが停まっている場合もあれば、心臓が動いている場合もあるからです。

心停止と呼ばれる臨床状態は、決してひとつではなく、大きく次の3つのタイプに分けられます。

●心臓が震えている(心室細動)

皆さんもよくご存知の心室細動という不整脈。成人CPRの主要な原因とされる「心臓の不規則なケイレン状態」ですが、心臓の動きでいうと、停まってはいませんよね? 細かく震えている状態。でも、これも心停止と私たちは呼んでいます。

動いてはいるけど、血圧はゼロという状態。ポンプとしての機能を果たしていないからです。

これだけを考えても、心停止とは心臓の動きのことを言っているわけではないことがご理解いただけるかと思います。

●血圧が低すぎる場合(無脈性電気活動)

何らかの原因で心臓の収縮力が弱くなっていることを想像してください。血液を送り出すための絞り込む動きが弱く、回数(心拍数)が遅い状態。

心拍数が落ちてきて、仮に1分間に15回くらいしかなかったとしましょう。そんな状態だと、血圧は低いだろうなというのが想像がつくと思います。正常であれば110mmHgくらいはある血圧が、例えば20mmHgしかなかったら?

当然、脈が触れるほどの圧力ではありませんし、全身の細胞に必要な血流を供給するには足りません。

仮に血圧20mmHgと言ったらふつうの血圧計では測れませんので、通常は血圧はナシと現場判断されます。

この状態も心停止といいます。医学的には無脈性電気活動(PEA)と呼ばれるタイプの心停止です。

不整脈ではありませんし、心臓の震えでもありませんから、AEDは「ショックは不要」と判断します。つまりAEDの電気ショック(除細動)では救えないタイプの心停止です。

心電図上は正常っぽい波形がでていることもありますから、心電図モニターだけでは心停止とは判断できないという点に注意が必要です(医療従事者の場合)

●心臓がまったく動いていない(心静止)

これが一般的にイメージされる心停止の姿ではないでしょうか? 心臓が本当に動いていない状態です。心電図を付けた場合は、横にピーッと伸びていて縦軸方向にまったく振れていない状態。

終末のリズムと言われることもありますが、いくつかあるタイプの心停止の最後の成れの果ての姿とも言えます。

●動いている心臓が停まるまでの経過

心停止の3つのパターンを解説しましたが、最後に説明した「心静止」が突発的に発現することはあまりなく、通常は前に挙げた2つのタイプの心停止(心室細動と無脈性電気活動)を放置すると、段階的に心静止に移行していきます。

心室細動 → 心静止

心室細動が発生すると心臓は不規則に震えているだけで、血流はありません。心臓の筋肉細胞に酸素や栄養素を供給する冠動脈の血流も停まっていますから、心室細動発生直後は大きく震えていた心臓も次第に動きが小さくなり、最後は動かなくなります。これが心室細動から心静止への移行です。

心室細動というタイプの心停止から、心静止というタイプの心停止になると、もう「細動」ではありませんから、AEDによる「除細動」は無効です。

無脈性電気活動 → 心静止

無脈性電気活動(PEA)はもう少し多彩となりますが、呼吸障害などの低酸素からPEAに移行した場合、最初のうちは弱いながら心臓は動いています。

しかし、心臓の筋肉に十分な酸素が届かないと、弱って心拍数はどんどん落ちていきます。そして最後はまったく動かない状態になります。

これがPEAから心静止に移行するパターンの例です。

2.心臓が停まっていない人に胸骨圧迫をしてもいいのか?

心停止には3つのパターンがあることはご理解いただけたでしょうか?

次に考えたいのは心停止をどう判断するか? という点です。

心室細動と心静止は血流がゼロという点で、心停止かそうでないかは、理論上区別しやすいかもしれません。

しかし、問題は無脈性電気活動(PEA)です。これは強引に言ってしまえば血圧が下がってゼロになる手前の状態ですから、心臓は動いていますし、血圧もわずかながらあります。

低血圧状態と無脈性電気活動をどこで区別するのか?

厳密に考えようとすると、迷路にハマってしまいますが、心肺蘇生法を思い出してもらえば、答えは簡単です。

反応なし+呼吸なし+脈なし

医療従事者向けプロトコルでは頸動脈で10秒以内に脈拍が触知できるかという判断基準が入っていますので、頸動脈ではっきりと拍動を感じるだけの血圧がなければ、心停止(無脈性電気活動)と判断してCPRを開始しなさい、となっています。

さらには、市民向けの判断基準は、米国でも日本でも、


反応なし+呼吸なし

ですので、低血圧という概念は含まれていません。

呼吸がなく、脳の活動を維持するだけの血流がなければ心停止と判断する、としています。

循環を肩代わりするのではなく、循環を補助するという考え方

ここまで理解すれば、冒頭の「心臓が停まっていない人に胸骨圧迫をしてもいいのか?」という疑問に対する答えも見えてくるのではないでしょうか?

そもそも心停止状態であっても、発見が早ければ、心臓はまだ動いています。(心室細動もしくは無脈性電気活動)

特に無脈性電気活動では、血圧が徐々に下がっていく過渡的な段階です。

それでも、反応なし+呼吸なし+(脈なし)であれば、胸骨圧迫をするように指導され、実際に実施されています。

血圧が低すぎるだけですから、ここでCPRを始めると、動いている心臓に対して胸骨圧迫をすることになります。自己心拍の力が弱いので、それを後押ししてあげる「補助循環」としての意味を持つことになります。

心臓自体が弱っていて、心筋細胞が十分な酸素を受け取れていないために心停止(無脈性電気活動)になっているとしたら、胸骨圧迫による血流サポートだけで、血圧が上がって状態が好転することもありえます。

つまり、胸骨圧迫は、心臓が停まっている人に対してだけ行うものではなく、心機能が不十分な人に対して行うもの、というのが真実です。

ですから、倒れている人が本当に心停止なのかどうかという点で、あまり思い悩む必要はありません。

呼びかけて反応がなく(意識ではなく)、胸から腹にかけて10秒弱見てもちゃんと息をしているかよくわからないと思ったら、胸を押していいのです。

もし、脳組織が機能できる程度の酸素供給ができるほどの血流があれば、胸骨圧迫の刺激によって痛がる素振りが見られます。それがなければ自信を持って強く速く押し続けます。

血圧が低いだけであれば、胸骨圧迫で血流がサポートされて血圧が上がるに連れて、痛み刺激に反応がでてくるようになるかもしれません。

これも、胸骨圧迫によって救命したと言っていいのではないでしょうか?

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