胸骨圧迫だけで助かったとしたら、なぜ?

先日、埼玉で路上で 救命処置をしてくれた看護師を探しているというニュース がありましたが、本日の報道によると、看護師さん、見つかったみたいですね。

職場でそのニュースのことが噂になっていて、自分が探されていることに気づいたのだとか。

さて、今日はその報道の中から一部を切り抜いて考察してみたいと思います。

呼吸ない…偶然近くにいた看護師、妻の命救って立ち去る 夫が看護師探すと…看護師から連絡「無我夢中で」

 近づくと男性は電話片手に興奮した様子で助手席の女性の心臓マッサージをしていた。女性は呼吸がなく、脈も取れない状態。根生さんは「看護師なので代わります」と声を掛け、救命措置に当たった。

心臓マッサージを続けると、徐々に反応が戻り、弱いながらも脈が触れてきた。気道を確保して声を掛けると、女性は少しずつ言葉を発するようになってきたという。「会話ができるようになり、ちょっと安心した。救急車もすぐ来てくれた」と根生さん。

埼玉新聞 2019年12月17日より部分抜粋)

AEDも人工呼吸もせずに助かった

一言でいうと、心臓マッサージ(胸骨圧迫)だけで蘇生したケースと言えます。人工呼吸もAEDもしていない模様。

救命講習やBLS講習で教わる範囲でいえば、成人の心停止は心室細動の可能性が高いから胸骨圧迫だけではなくAEDが必要、と教えているのが一般的です。

そして、子どもの心停止は呼吸のトラブルの可能性が高いことから、胸骨圧迫だけではなく人工呼吸もきわめて重要、と教えています。

つまり、胸骨圧迫を軸足にして、AEDが奏功する場合と、人工呼吸が奏功する場合、という構図が垣間見れるわけですが、本件のように胸骨圧迫だけで助かったしたら、体の中ではなにが起きていたのでしょうか?

■ 心停止の基本類型 心原性と呼吸原性

まず、基本を整理します。

心原性心停止 心室細動

大人に多い心原性心停止の場合は、心臓のけいれん(心室細動)によって血流が駆出できていないのが心停止の原因。胸骨圧迫で血流を生み出すことは重要ですが、胸骨圧迫では心臓のけいれんは止まらないので、AEDなどによる電気ショックが必要とされています。

呼吸原性心停止 低酸素

子どもに多い呼吸原性心停止は、低酸素によって心臓の動きが遅くなっていって最後は止まってしまうというタイプの心停止です。ですから、胸骨圧迫だけではなく、体内に酸素を取り込ませるための人工呼吸が欠かせません。

■ 胸骨圧迫だけで助かるとしたら、、、迷走神経反射?

典型的な上記の2つだけを考えると、胸骨圧迫だけで助かるのは不思議に思えますが、実際のところ、胸骨圧迫だけで助かるケースは少なくない印象です。

これらは、結論からいうと、迷走神経反射による極端な血圧低下もしくは一過性の心停止だったのではないでしょうか?

迷走神経とは

迷走神経(副交感神経)は、交感神経と対になって血圧をコントロールしている神経で、迷走神経が過度に働くと、心拍数が低下+血管拡張により血圧が下がります。

心拍数が一気に20回/分などに落ち込み、血圧が低下すれば意識は保てなくなります。血圧がゼロにならなくても、(医療者向けプロトコルでは)頸動脈で触知できるほどの血圧がなければ心停止と判断し、胸骨圧迫を開始することになっています。

迷走神経反射は、強い痛みによって起きることがありますし、悪い知らせを聞いたときにも起こります。病院でありがちなのは採血によって意識を失ってしまう血管迷走神経反射など。

なんらかの原因で心拍数が上がるとそれを抑えようとして迷走神経が働き、それが極端に作用してしまうことで失神に繋がります。

迷走神経はいわゆる自律神経なので、日頃の疲れなどによってもうまく機能しなくなることがありがちです。朝の通勤電車で体調不良を訴える人の多くもこれに該当するものと思われます。つまり、けっこうありがちな出来事。

通常は一過性のものなのですが、迷走神経反射によって心静止(心電図がフラットになる状態)になることも報告されています。

多くの場合は、心静止まではいかずに徐脈性PEA(無脈性電気活動)か、そのもっと手前の「血圧低下」状態なのではないかと思います。

これらであれば、心静止であっても一過性のことが多いですし、血圧が低い原因が心臓のポンプ機能の一過性の低下であれば、胸骨圧迫によって血流をつなぎとめておけば、しばらくして血圧が戻って意識・呼吸が戻ってくることが期待できます。

つまり失神発作の重症例

迷走神経反射といえば、ファーストエイドを勉強したことがある人は、失神発作の原因のひとつとして理解されていることと思います。

失神なのか、心停止なのかという点ですが、そこはあまり深く考えなくていいと思います。

目の前で倒れたとか、倒れている人を見つけた場合は、反応(意識ではなく)を確かめて、普段どおりの呼吸をしていると10秒以内に確信が持てない場合は、セオリー通りAED手配と合わせて胸骨圧迫開始でOKです。

もし、血圧がある程度保てていて明らかに痛がる素振りがあれば圧迫をやめればいいし、明らかな反応がなければ、心停止だと確信して強く押し続ければ大丈夫です。

実際のところ、この場合は、血圧低下から心停止までは連続的に変化していくものなので、デジタル的な明確な境目はありません。ですから、疑わしければ胸を押せ! で大丈夫。

そのうち血圧があがってくれば徐々に痛みに刺激に反応するようになってくるかもしれませんし。


ということで、胸骨圧迫だけでも助かるケースがあるとしたら、どんな場合か、ということを考えてみました。

迷走神経反射に限らず、不整脈などほかにもいろいろな原因は考えられますが、比較的日常的にありがちで市民向けファーストエイドで教えられている失神と合わせてみると、見方が広がっていくのではないでしょうか?

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