体育中に鉄棒から落ち重度まひ 男性と両親が福井県を提訴

学校での応急救護を巡る裁判のニュースがありました。

 

体育中に鉄棒から落ち重度まひ 男性と両親が福井県を提訴

福井新聞 2019年12月30日

 
鉄棒からの転落、動けない状態で頚椎損傷の可能性があったのに、「無理に体を起こした、首をもんだ、頭部を固定をせずに搬送した」ことで、現在は首から下が不自由で車椅子生活になっているとのこと。

体を起こしてしまう、頭部の固定をしない、というのは、知識がないバイスタンダー対応では現実によくあることで、直感的な対応ということで理解もできますが、「首を何度ももみ」というのはまったく謎です。

この部分を見るとうっかりミスという雰囲気には感じられません。

頭頸部外傷のファーストエイド

神経系のトラブルは、呼吸と循環についで優先度の高い重要項目です。

この場合のファーストエイドは、処置というよりは、観察の視点と判断・意思決定が重要です。(つまりテクニカルスキルではなく、ノンテクニカルスキルの部分です。)

一言で言えば、動かすか、動かさないか。

原則は、「動かさない、プロ(救急隊)に任せる」ですが、ちょっと頭をぶつけただけで119番なのかというと、現実問題困ってしまいます。

この線引は難しく、重症な場合は症状を例示できますが、軽症の判断が難しいところです。

動かさず、119番の場合

少なくとも下記のような症状があったら、極力動かさずに119番、とは言えると思います。

(転落等で頭頸部を強打した可能性がある場合で、かつ)

  • 気絶・反応なし
  • 意識障害(放心状態や錯乱)
  • 動けない
  • めまい
  • 吐き気、嘔吐
  • 頭痛
  • 痙攣
  • 物が二重に見えたり、閃光が見える
  • 手足にしびれや麻痺がある

クビより優先するべきもの

ただ、絶対に動かすな! ではない点、注意が必要です。

これは傷病者を評価するときの「体系的アプローチ(A-B-C-D-E 評価)」の話になりますが、神経系の優先順位は、気道、呼吸、循環の後であるという理解が重要です。

上記症状で嘔吐を上げていますが、天井向きで倒れていて、嘔吐してしまったら息がつまります(気道の問題)。

この場合は、頸(神経系)が懸念されても、気道確保のほうが優先されます。

症状がない場合

傷害を示す明らかな症状がない場合は、動かしていいのか? というと、これもまた難しい問題です。

手足のしびれがないということで神経症状がなかった場合、脊髄の損傷はないだろうとは考えられても、脊髄を覆うようにしてある骨(脊椎)に損傷がないとは言い切れないからです。

事故による脊椎損傷の多くは、事故そのもので発生するよりは、事故後の取り扱い(処置や搬送)によって起きるほうが多いとも言われています。

事故そのものでは脊椎損傷でとどまっていて、脊髄までは影響がなくても、無理に起こしたり動かすことで、折れた骨がずれて神経を傷つけてしまうことがあるということです。

そのため、「高エネルギー外傷」と考えられる場合は、症状がなくても背骨が傷ついていると考えて動かさないという原則があります。

なにをもって高エネルギー外傷と考えるか、ですが、ファーストエイド対応では、シチュエーションからの直感的な懸念ということになってしまうかもしれません。

明らかな転落、跳ね飛ばされた、背中から落ちた、頭をぶつけて大きな音がした、etc.

判断に自信がなければ、とりあえず動かさずにすぐ119番して指示を仰ぐ、ということに尽きるのかもしれません。(ただし自発呼吸があることと気道閉塞がないことは必ずチェック)

しかし、スポーツ指導員など、あらかじめ頭頸部外傷が強く想定される立場の人は、体系的アプローチを含めて、きちんとファーストエイドを勉強してある程度の判断ができるように備えておくことは必要と思います。

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