出血のファーストエイドと感染防護

命に関わる出血、数リットル単位の出血は、心肺停止に準じる緊急事態です。

すぐに止血処置をする必要があります。

時間との戦いと言って過言ではありませんが、胸骨圧迫とは違って、サクッと始められるようなものでもありません。

数リットルの出血している現場を想像してみてください。

血の海・・・動脈性の出血なら、文字通り血しぶきが吹いているかもしれません。

大出血の現場

安全確保できるまでは傷病者に取り付けない

血液は感染源、危険なハザードです。

安全確保をしない状態で近づいてはいけないというのが救急法の原則。

急いで止血のための駆け寄りたいという思いと、感染防護を着実にするまでは接触できないというジレンマ。

この意思決定と準備を抜きにして、圧迫止血や緊縛止血(ターニケット)の技術だけを教えるのはナンセンスです。

日本の市民向けファーストエイドとしては、手袋の装着と脱着でさえ、ほぼ浸透していない状況を考えると、無防備の市民が積極的に出血対応に入ろうとすること自体に無理があるのではないかという気すらします。

業務中のファーストエイド・プロバイダーのように、標準予防策を備えた状態でない限り、出血と対峙しようとすると感染事故が起きるのは必至と言っても過言ではないでしょう。

去年から市民への救急ターニケット教育が始まっていますが、動脈性の出血や数リットルに及ぶような大出血を想定したトレーニングでは、感染防護具(PPE)の脱着法も含めていないと、絵に描いた餅ですし、むしろリスクを生み出す危険な研修になってしまいます。

ターニケット使用にはどこまでのPPEが必要か?

標準レベルのファーストエイドであっても、手袋は必須です。そしてその正しい外し方ができるのは、米国労働安全衛生局OSHAでも法的に定められている最低ラインです。

まず、この時点でクリアしている日本のファーストエイド講習がどれだけあるでしょうか?

ターニケットを使うために必要な個人用感染防護具PPE

それに加えて、噴出する出血に立ち向かうわけですから、アイシールド(防護メガネ)とマスクは欠かせませんし、出血量を考えたら防護ガウンも必要です。命に関わる出血を想定する以上、自分の服を汚さずに処置できる可能性は限りなく低いです。

更には、床に倒れている傷病者の足にターニケットを巻く場面を想像してみてください。

救助者は膝をつくなどして、顔を下向きにしている姿勢をイメージしてください。

女性など、髪が長い場合、髪が垂れて血液がつく恐れはありませんか?

場合によっては、感染防護具としてのキャップ(帽子)も必要です。髪に血がついたら洗えませんし、乾燥した血液粉が目・口・鼻に入るリスクが生じるからです。

さらには血の海になった中に足を踏み入れていくわけです。靴に血がついたらどうなるか? 屋外ならまだいいですが、屋内だったら歩くたびに感染源を広げていくことになります。

病院の手術室で使っているようなシューズカバーの準備も決して大げさではありません。

そう考えると、テキスト通り、標準予防策を講じてターニケットを使おうとなると、手術室でのフル装備と同じレベルのPPEを装着しろ、ということになるわけです。

さらには医療従事者の感染対策研修でやるような、これらのPPEを安全に脱ぐ、外すためのトレーニングも欠かせないと思います。

標準予防策感染防護具PPEフル装備

フル装備の感染防護具(理想はマスクも)
AHA Heartsaver Bloodborne Pathogens student workbookより

ターニケットを使うことを想定している人は、そこまで考えて準備をしているでしょうか? ターニケット1本しか持っていないとしたら、完全に茶番です。

またターニケットの使用法を教えている指導員は、そこまでリアルに状況を考えていますか?


ファーストエイドの原則と、リアリティのある現実的な研修をマジメに行わないと危険なのが出血対応。

こうした感染防護の教育や準備ができない、というのであれば、素人は危険を冒さず、119番通報するという現実主義に根ざした対応を指導すべきでしょう。

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