世界の救命シーンをリードしてきたアメリカ心臓協会 AHA が、COVID-19(新型コロナウイルス感染症)対策として数々の情報を提供してくれていますが、まずは、一般市民向けの Hands only CPR に関して紹介します。
感染経路を知って正しく畏れる
新型コロナウイルス感染拡大が深刻化している昨今、駅で人が倒れても手出しをしないほうがいい、という意見も散見するようになりました。
もともと救護活動は心的外傷の問題も含めてリスクがある行為ですから、備えのない一般人が無理する必要はなく、119番通報するだけでも立派なことです。
ただ、それが突発的な心停止であれば、その場で胸骨圧迫を開始するかどうかで生存確率が雲泥の差となるため、漠然とした不安ゆえの不着手判断ではなく、リスクヘッジをした上での行動ができる人が増えることが社会的な理想です。
AHAはシンプルに下記のような、COVID-19感染対策を含めたバイスタンダーCPRのフライヤー(PDF:英語)を発表しました。
(もともとは英語文書で、日本語はBLS横浜独自のものです。AHA公式日本語版ではない点、ご注意ください)
Hands only CPRですから、もともと人工呼吸はしないものではありましたが、ポイントは傷病者の口と鼻をマスクや布なのでカバーした上で胸骨圧迫を始める点。
これは不用意に触れないようにという接触感染を意識したものではなく、胸骨圧迫時に肺から押し出された呼気によってエアロゾルが発生することに備えるためのものです。
胸骨圧迫だけで飛沫が拡散する可能性がある
このあと、別項でとりあげますが、医療従事者等のヘルスケアプロバイダー向けのBLSアルゴリズムのコロナ対策改変では、バッグマスク人工呼吸が行えなければ、傷病者に酸素マスクをつけた上で胸骨圧迫を続けるように勧告されています。
これは胸骨圧迫によって肺が圧迫されるごとに受動的に空気が出入りすることが多少なりとも期待されているからです。(これが陽圧式の人工呼吸に変わるものとして有効であるとの確定はしていません)
つまり、胸骨圧迫するだけでも口・鼻から呼気が漏れ出て、飛沫となったウイルスが拡散する可能性があるということ。
ゆえに胸を押し始める前に、傷病者の口と鼻をカバーしてください、ということなのです。
救助者自身がマスクをすることは、今の時期、あたりまえとして、倒れている傷病者側にもマスクをさせるというのは、なかなか気づかない点かもしれませんね。
感染対策を意識した救助活動の例
この時期、救助者自身はマスクをつけていることが多いでしょうから、やるべきことはハンカチを折りたたんで倒れている傷病者の口と鼻の上に乗せること。(顔全体は覆わないようにしてくださいね。)
AHAは特に言及はしていませんが、胸骨圧迫は服の上からがいいと思います。手の位置の正確性はあまり細かいことは気にせず、だいたい胸の真ん中あたりに手の付け根を当てます。
AEDが到着したら胸部の素肌を露出させる必要がありますが、そのときもなるべく素肌に触れないように、まずはAEDケースの中に感染防護手袋が入っていないかを確認して、手袋装着を優先します。
傷病者の命よりも自分の身の安全の方が優先です。急ぎたい気持ちがあっても安全第一。
無理のない範囲で、できる限りのことをしていきましょう。(無理と感じる場合はせめて119番通報だけでも…)
なお、医療従事者が施設内で対応する場合のBLSアルゴリズムの変更点については、「コロナ感染疑い成人患者へのBLS 変更点の解説」をご覧ください。