「窒息解除に掃除機はNG」を文脈学習で納得してもらう

救命講習を開催していると、うんざりするくらいに聞かれるのが「掃除機で吸引するのはどうなんですか?」という質問。

これは市民向け救命講習だけではなく、医療従事者向けのBLS講習でもよく尋ねられる定番の質問です。

とある精神科病棟勤務の方からは、実際に病棟で窒息解除用として掃除機を用意しています! という話を聞いたこともあります。

結論から言えば、「窒息解除に掃除機吸引は推奨しない」なのですが、TVで医師が掃除機を勧める発言をしていた事実もありますし、それで助かったという事例があることも事実。

なかなか受講者に理解してもらうのが難しいテーマでもあります。

救命法指導員の皆さんは、どのように説明していますか?

 

「ガイドラインに載っていません。つまり推奨されていません」

 

と事実を述べても、TVで医師が推奨しているのを聞いたことがある、と言われてしまったときには説得力は厳しいです。

そこで、これを教育工学でいうところの「文脈学習」的に対応したらどうなるか? という例をお示しします。
 
 

「掃除機で吸引するっていうのはどうなんですか?」
「良い質問ですね。みなさん、疑問に思うようです。じゃ、一緒に考えてみましょう。今、講習会場のここで私が喉につまらせたら、皆さん、どう行動しますか? 掃除機をどこに取りに行きます?」 
「1階の受付? でも1階の受付には掃除機はおいてないですよね。そこから掃除用具置き場に職員と一緒に取りに行って、エレベーターで7階のここに戻ってきて…」
「この部屋のコンセントはどこにありますか? 掃除機のノズルは私の口の中に入りそうですか?」
「さて、ここまでやるのに何分かかりそうですか? 5分?」
「皆さん、5分間息を止めて我慢できますか?」
「不確かな掃除機を探しに行くより、背中を叩くとか腹部突き上げ法とか、自分の身ひとつでできる処置をサクッとやった方がいい気がしませんか?」

 
本当はシミュレーションで体験してもらうと、確実に痛感してもらえるのですが、対話形式でも十分伝わります。

理屈をあれこれこねるより、実際にやったらどうか? を具体的にイメージするサポートをし、自分自身の判断で「現実的ではない」と理解してもらう方法です。

一般論で話を勧めると、言葉遊び的にあちこち飛んでしまう話題であっても、現実問題として真正面から向き合ってみれば、すっきりと帰着することがよくあります。

文脈学習、これは蘇生法教育と生存の関係性を語る上でも欠かせないポイントです。

ここではあまり詳しく説明することはできませんが、文脈学習の意義について、なんとなくイメージできたでしょうか?

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