喉にものが詰まることで生じる窒息。
窒息解除法も「救命処置」のひとつであり、心肺蘇生法と並んで、「救急車を待つのでは間に合わない」超緊急事態です。
そして、おそらく、心肺停止より遭遇する可能性が高い、リアリティを持って学び身に付けるべき処置と言えます。
しかし、そのやり方やバリエーションが、心肺蘇生法ほどシンプルではないので、正しい知識と技術が伝わっているかというと、CPR以上に厳しい現実があるように思えます。
そこで、いまさらではありますが、【乳児以外の全年齢】の窒息解除法(反応がある場合)のポイントを整理してみます。また、ガイドラインによる違いについても簡単に説明したいと思います。
窒息解除法は3種類
反応のある成人・小児に対する窒息解除法として、国際コンセンサスにより推奨されているのは、
・背部叩打法
・腹部突き上げ法
・胸部突き上げ法
の3つです。
米国では、腹部突き上げ法がメインで指導されており、妊婦や肥満により相手の腹部に両手がまわらない場合は、胸の真ん中(胸骨圧迫と同じ位置)を自分側に強く引き寄せる胸部突き上げ法が指導されています。
日本では、背部叩打法が中心に指導されており、腹部突き上げ法も併せて指導することが多いようです。反対に胸部突き上げ法はテキスト的に示されることはあっても口頭で指導する場面は少なくないようです。
この3つの方法が蘇生科学的に推奨されているわけですが、どの方法がよいのか、と誰もが気になる部分については勧告はありません。結論として書かれているのは、2つ以上の方法を試す必要があるかもしれないということだけです。
いくつか気になる研究データは示されており、腹部突き上げ法は致死的な合併症の報告があること、また腹部突き上げ法と胸部突き上げ法を比較した場合、胸部突き上げ法の方が強い気道内圧を得られるという点です。
だからといって、腹部突き上げ法より胸部突き上げ法が推奨されるということはなく、勧告に反映されるほどの根拠とはなっていないようです。
国際コンセンサスと蘇生ガイドライン
こうした根拠性は国際会議での論文ベースの検討によって国際コンセンサスとして示されます。
その国際コンセンサスを元にして国単位で作られるのが「蘇生ガイドライン」です。
そしてその各国ガイドラインにもとづいて、作られるのが、日本でいえば「救急蘇生法の指針」であり、各団体はそれに基づいて救命講習を立案しています。
ですから、ガイドライン作成団体で国ごとの着眼点や解釈の違いが生じますし、さらには各団体の指導要録の段階でも多少の差異が生じるというわけです。
日本で、純粋に日本版ガイドラインだけで教えられていればそんな苦労はないのですが、医療従事者の世界ではAHAガイドラインが標準となっている実態があり、結果的に日本では日本と米国のふたつのガイドラインが混在しているのが現状だからです。
救命法の指導員は、こうした国際コンセンサスレベルで理解をしておくことが望ましいのかなと思います。
このややこしい現状、どうにかしてほしいとは思うのですが、いろいろ難しい問題があるので、それについてはまた機会があったら書きます。