学校で食物アレルギーを起こした子どもに対して、学校側が救命処置としてのアドレナリン自己注射器を使わなかったことが問題になっています。
重度なアレルギーへの救命処置:アドレナリン自己注射器エピペン
あまり知られていませんが、いま学校の先生たちは児童に対して「注射」をしていいということになっています。
最近の子どもたちにありがちな食物アレルギー、たとえばソバやピーナッツなど、体質によってはアレルギー反応を起こして、重篤な場合、顔や首が腫れ上がって呼吸ができず血圧が下がって命を落とすこともあります。
本当に重篤なアレルギー反応が起きた場合、発症から30分以内にアドレナリンという薬を注射しなければ助からない場合があります。
そのため、アレルギー体質を持った人は医師からエピペンという自己注射器を処方してもらい、いざというときのために持ち歩いている場合があります。
エピペンは決して難しい道具ではなく、キャップを外して自分の太ももに強く押し当てると針が飛び出して必要量の薬液が自動的に筋肉注射される仕組みになっています。
自己注射器というくらいですから、ひどいアレルギーが起きたと思ったら自分で打つのが原則ですが、子どもの場合難しいのが現実です。
そのため、学校教職員は自己注射器の使用を手伝ったり、場合によっては子どもに変わって自己注射器の使って注射をすることが、文部科学省の通達・ガイドラインで示されています。
今回のケースの場合、学校側がアドレナリン自己注射器「エピペン」を親から預かっていたにもかかわらず適正に使用できず、あわや、という事態になったというもの。
新聞記事にはいろいろ理由が触れられていましたが、それとは別の視点で、これはある意味やむを得ない部分もあるかと思いました。
というのは、「学校の教職員たちはエピペン使用の訓練を受けていない」からです。
文部科学省の通達は、医師・看護師という免許をもった人間以外が注射をしても良いという衝撃的な内容にもかかわらず、突然発表され、その後のアフターフォローもないまま今日まで来ているからです。
おそらく一番戸惑ったのは学校の先生たちでしょう。
使い方は難しくはないとは言え、いきなり「明日から必要があれば子どもに注射をしなさい」と言われて、できるわけがありません。
実はこの文部科学省の通達が出るまでの間、日本でエピペンの自己注射器を使えるのは、処方された本人とその家族、そして医師だけでした。現場に駆けつけた救急救命士でさえ、本人がエピペンを持っていたとしてもそれを替わって打つことは認められていませんでした。(現在は解禁になっています)
ましてや救急法の一環としてエピペンの使い方を指導する文化も日本にはまったくなく、医師を含め医療従事者であってもエピペンをはじめて手に取ったら、どう扱ったらいいかわからないというのが日本の現状です。
ですからこの事案も起こるべくして起こったと私はとらえています。
使っていい、使うべき、と定めておきながら、その具体的な指導やトレーニングを行わなかった文部科学省側の責任は大きいでしょう。
現在、日本で開講されている救急法・ファーストエイド講習の中で、エピペンの使い方実習が含まれるのは、実はアメリカ心臓協会のハートセイバーファーストエイド・コースだけです。
BLS-AED.net横浜も、もちろんハートセイバーファーストエイドコースを開講しています。
横浜や東京で開催するハートセイバー・ファーストエイド講習は、遠くから新幹線や飛行機で受講にいらっしゃる方も多く、皆さん、このエピペンの使い方を学びたかったとおっしゃる方が多いです。
通常は、針が付いていない練習用のエピペン・トレーナーで、実習をしてもらっていますが、必要があれば、薬液の入った本物のエピペンを手に取ってみてもらっています。(冒頭の写真です)
こうした報道があると、エピペン使用練習を含んだハートセイバー・ファーストエイドコースにも注目されそうですが、残念ながら、次回4月4日開催予定はすでに定員に達しており、キャンセル待ちの方が何名も控えている状況です。
5月の連休あたりに次回を計画しようかと考え中です。
ショック症状の児童、学校が自己注射薬使わず
兵庫県姫路市の市立小学校で1月、食物アレルギーの男児が給食を食べて急性反応・アナフィラキシーショックを起こした際、学校が保護者から預かっていた緊急用の注射薬を使わずに119番、搬送直前に駆けつけた母親の注射で回復していたことがわかった。
文部科学省は昨年、ショック状態の児童生徒には教職員が注射をしても医師法に触れない、との通知を出していたが、学校側には正しく伝わっていなかった。専門家は「学校の危機管理の問題。症状が重い場合は、ためらわずに教職員が注射を」と呼びかけている。
市教委によると、男児は1月15日の給食で脱脂粉乳入りのすいとんを食べた後、目の周りが赤くなる症状や頭痛、嘔吐(おうと)などを訴えた。学校は、症状を和らげる自己注射薬を保管していたが、「注射する取り決めを保護者と交わしていない」などとして使わず、119番。連絡で駆けつけた男児の母親が、学校を出る直前の救急車に乗って注射を打つと男児の症状は軽快し、2日間の入院で回復した。
自己注射薬は、円筒形容器の先端を太ももに強く押しつけると針が出て、薬剤が体内に入る仕組み。服の上からでも打てる。男児については、食育担当教諭と保護者が給食の献立表でアレルギー食材の有無を確認していたが、この日は脱脂粉乳が入っているのに気付かなかったという。
文科省は、アナフィラキシーショックで危険な児童生徒に対しては、教職員が自己注射薬を打っても医師法に触れない、として適切な対応を取るよう求める通知を出している。しかし、市教委は「通知は認識し、各校にも伝えていたが、注射は児童本人や保護者、搬送先の病院の医師らが使うものと考えていた」と説明。今後は研修会などで教職員に周知する。
同省によると、埼玉県内の小学校で2008年12月、発症した男児に養護教諭が注射をして回復している。また、東京都教委は教員向け手引に「児童生徒が自ら注射できない場合は、ためらわず注射して命を救う必要がある」と記している。
◆アナフィラキシーショック=体に入った異物に過剰に反応するアレルギー症状。ハチ刺されや食品、医薬品が原因となり、呼吸困難や血圧低下で意識を失うことがあり、死に至るおそれもある。文科省によると、児童生徒の有病者数は全国で約2万人とされる。