ファーストエイド現場で脈を取る意味

救急現場に遭遇したら、大丈夫ですか? と声を掛けながら手首で脈を取る。
 
そんなイメージありませんか?
 
今は市民向けの心肺蘇生法でも、心停止の確認は「正常な呼吸があるかどうか」で判断することになっているので、脈を確認することは教えていません。
 
しかし心停止ではない、呼吸がある、意識があるという場合でも、なんとなく手首に手をあてて脈を確認する人が多いようです。
 
特に医療資格を持っている方にその傾向があります。
 
さて、意識がある人、つまり心停止ではない傷病者の脈を取ることにはどんな意味があるのでしょう?
 
 
 
 
結論から言います。
 
その場で1回だけ脈拍数を計っても、そこからわかることはあまりありません。
 
しかし、脈拍数がその後上がり傾向にあるのか、下がり傾向にあるのか、は体の中で起きていることを推察する上で重要なデータとなります。
 
ここで知りたいのは、その瞬間の心拍数の数字ではなく、この後の心拍数の変化の傾向、つまりトレンドです。脈拍を含めてバイタルサインを撮るとしたら、継続的に図って記録をとっていくことが大切なのです。
 
 
 
例えば、、、



交通事故発生が発生しました。車に横腹をぶつけられて跳ね飛ばされた人が地面で痛がってもがいています。見たところ出血や手足の骨折はなさそうです。安全確保をして、声を掛け、119番と110番通報は済ませました。
 
救急車を待つ間、お腹が痛いと訴える傷病者を励ましつつ何気なく脈拍を測ってみたら120回/分。
 
通常、成人は80回/分程度ですから、速いです。
 
しかし、これは問題でしょうか? 事故の直後、あせって心臓がドキドキしているのは、自然なことですよね? また、その人の基礎的な脈拍数がわからなければ、なんとも評価できません。
 
なので、事故直後の心拍数として120回/分というのを、この場のベース心拍数として記録しておきます。
 
5分後、相変わらずお腹を痛がっていますが、事故直後の興奮は収まってきた模様。ここで再び心拍数を図ったら90回/分に落ち着いていました。これは自然な流れですね。
 
最初に心拍数を図ったときから15分たちましたが、まだ救急車は来ません。傷病者はお腹の痛みが強くなっているといい、息が荒くなってきました。ここでもう一度脈拍を測ったら120回/分に上がっていました。
 
その5分後、130回/分に上がっていました。顔からは血の気が引いて弱々しい感じになっています。


 
 
さて、心拍数の変化をまとめますと、事故直後は120回/分で高かったけど落ち着くと90回/分に下がり、その後、時間とともに徐々に上昇して今は130回/分。
 
一つ一つの数字を見てもなんの意味も持ちませんが、この変化の傾向が重要です。
 
実は、この方は車に横腹をぶつけられたことで内臓損傷を起こしてお腹の中で出血しています。時間とともに出血量が増えて、体を巡っている血液が減ってしまって「ショック」状態が進行してきています。
 
血液が足りないから、酸素運搬能力が落ちているので、それを補うために心拍数を増やして補おうとしている、これが心拍数が上がってきている原因です。
 
お腹の中の状態は見えません。しかし心拍数の変化を見ることで、体の中の血液が足りなくなっているということを間接的に推察できる場合があるのです。
 
これがファーストエイド現場で脈拍を取ることの意義です。
 
非常に単純化して説明してみましたが、なんとなく伝わったでしょうか?
 
 
バイタルサイン(生命兆候)と呼ばれる脈端数、心拍数は、ファーストエイド現場では、その瞬間を写真のように記録してもそれだけではあまり意味を持ちません。動画のように時系列がわかるように記録して、初めて意味がでてきます。
 
街中の事故や急病の場合は、10分程度で救急車が着てくれる場合が多いでしょうから、経時変化の記録をする必要性はあまりないかもしれません。
 
しかし、時間がかかる場所にいる場合や、救急車を呼べない環境にいるときは、このことを知っていると、見えない体の中で起きていることを推察する上で有効です。
 
ファーストエイド・プロバイダーとして、更なるステップアップをしたい人にはぜひこんなフィジカル・アセスメントの勉強をお勧めします。
 
 
 
今度、開催する特別企画「WFAに学ぶ傷病者アセスメントの考え方」勉強会では、こんなバイタルサインの取り方と考え方を含めた、一歩踏み込んだファーストエイドのアセスメントを概説します。
 
『WFAに学ぶ傷病者アセスメントの考え方』
 日程:4月28日(土)12:30~14:30 
 会場:横浜市栄区 JR本郷台駅すぐ 地球市民かながわプラザ
 費用:500円(会場費用負担金、資料代金として)
 
お時間がある方はぜひご参加ください。
 
チャイルドライフェス横浜ウェブサイトから申込みを受け付けています。
 

 
 
 


 

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