最近、Facebookで「米国では乳児へのAED使用は市民には教えない」という事実を紹介しました。
ご存知、日本の蘇生ガイドライン2010では、乳児へAEDが使えるようになったことを、変更点として市民向け講習でも教えていますが、米国では違うのです。
どちらも蘇生ガイドライン2010なのに、なぜ違うんですか? と疑問に思われた方も少なくなかったようです。
そこで、今日は蘇生ガイドラインとはなんなのか、その成り立ちについて説明しようと思います。
たまに間違って言われることがありますが、心肺蘇生法の世界に「国際ガイドライン」はありません。ガイドラインは国や地域単位で作られるものだからです。
今回の2010年版のガイドラインは、日本版JRCガイドライン、米国版AHAガイドライン、ヨーロッパ版ERCガイドライン、そしてオーストラリア・ニュージーランド版ガイドラインが広く知られています。
これらのガイドラインの大元になっているのが、国際コンセンサス=CoSTRです。
国際コンセンサスCoSTRは、世界蘇生連絡協議会(ILCOR)と呼ばれる国際会議で5年に一度作成される心肺蘇生法に関する世界的な合意事項です。
この国際コンセンサスを元に、各国の事情を加味して、具体的な蘇生法の指針に仕上げたものがガイドライン。
さらにそのガイドラインを元に指導方法、内容が作られ教育プログラムが出来上がる、という仕組みになっています。
蘇生に関する科学的な背景や理解はCoSTR 2010で統一されていますが、それをどう解釈してどう採用していくかは各国任せなのです。そのため、同じガイドライン2010と銘打っていても、国によって微妙な差異が生じるわけです。
現在、日本の公式な蘇生ガイドラインは、日本蘇生協議会が策定したJRCガイドライン2010で、日本国内では、これに準拠して蘇生が行なわれ、また心肺蘇生法教育が実施されるはずなのですが、、、、
実はそうはなっていないやや複雑な現状があります。
というのは、日本にはJRCガイドライン2010に準拠して、医療従事者に蘇生法、特に一次救命処置BLSを教える教育プログラムが存在しないのです。
いちおう去年あたり、日本救急医学会が制度的にはBLSコースというのを作りましたが、現実的にはほとんど開催されていないようです。
市民向けには消防や日本赤十字社がJRCガイドライン準拠として幅広く教えているのですが、ことに医療従事者向けのBLS教育となると、アメリカ心臓協会AHAの講習が中心というのが、現在の日本の状態です。
つまり市民向けにはJRCガイドライン、医療者向けにはAHAガイドラインと、完全に二極化しているという事態に陥っています。
根本的な部分では変わりませんので大きな問題ではないのですが、新しい蘇生法を学ぼうとしたときに、それがAHA準拠なのかJRC準拠なのかを把握していないと、もしかすると少し混乱する部分もあるかもしれません。