ウィルダネス・ファーストエイド&CPR合宿

この週末は、山梨のお寺をお借りして、ウィルダネス・ファーストエイド(野外救急法)&心肺蘇生法のトレーニング合宿でした。
 

山梨県忍野村の慧光寺にて野外救急法&心肺蘇生法トレーニング

 
日本で最もハイレベルなファーストエイドを学べるのがウィルダネス分野。日本でもいくつかの北米系の団体が2日〜8日くらいかけての本格的な講習を展開しています。
 
そんな本格的なファーストエイドを学んだ人たちを対象とした野外環境での実践トレーニング&補完講習が2013年のはじまりでした。
 
 
ウィルダネス・ファーストエイドの特徴はなんといっても、実際の屋外環境で行うシミュレーションが中心であるという点。
 
これはふつうの心肺蘇生法講習でも言えることですが、講習会場内での練習と、実際の現場の行動は呆れるくらいに違います。講習会場ではできたのに、現場ではうまくいかなかった、という話に暇はありません。
 
特に野外、斜面もあれば倒木などの障害物もあるような山の中で救護活動をするためには、その場に合わせた臨機応変な応用力が欠かせません。それは講習会場の中では培えません。だから実際の現場で想定訓練を行う必要があるのです。
 

ウィルダネス・ファーストエイド訓練  野外救急法訓練

 
今回集まった人たちは6名。
 
みんなウィルダネス系のファーストエイド講習を正規修了していますが、その時期や内容(レベル)はバラバラ。
 
自己紹介後、さっそく会場となったお寺の裏の森へ。二人一組で、傷病者役と救助者役に分かれてもらって軽いシミュレーションを開始。
 
最初のケースは、食事を取らずに強行軍で登山をしていた人が低血糖でぐったりしているという症例。もちろんそんな情報を救助者は知らないわけですから、傷病者の様子を観察して、話を聞きながら問題を探っていくわけです。
 
さすがみんな国内最高レベルのファーストエイドを学んでいるだけあって、サクサクと情報を取っていきます。傷病者の話の聞き方にもポイントがあります。そんなセオリーを知っているだけに話はスムーズ。つまり、ウィルダネス・ファーストエイドを学んでいる人は「傷病者アセスメント」ができるという点はとても大きいです。
 
この前提があるからこその今回の企画でした。
 
傷病者役と救助者役を交代して軽いシミュレーションを繰り返して計4本。
復習を兼ねた軽いジャブからスタートしました。
 
 
 
午後からはCPR練習。
 
実はウィルダネス環境下と呼ばれる救急隊などの応援が到着するまでに何時間もかかる場所で心停止になったらある意味おしまいです。AEDを携行していれば助かるケースもあるかもしれませんが、医療機関への引継ぎが出来ない限り、予後は芳しくありません。
 
そういった意味で野外救急法講習でのCPRのウェイトは驚くほど低いです。むしろ、CPRを開始しない条件や辞める条件について強調されるほど。
 
ですが、せっかく最高レベルのファーストエイド・プロバイダーの皆さんには、街なかでもぜひ活躍してほしいということで、この機会にCPR練習もみっちり。アウトドアに関していえば外傷が多いわけですから、今はまったくと言っていいほど教えられなくなった頚椎保護を意識した下顎挙上による口対マスク、口対口人工呼吸も練習してもらいました。
 
あとは、オリジナル講習プログラムであるAdvanced CPR講習の要素を取り入れて、街なかでありがちなCPR現場に集まる第三者への対応方法、またCPR講習受講経験がない人を蘇生に巻き込んで、その場で即興の指導を行う方法などをシミュレーションの中で考えてもらいました。
 
 
 
2日目は、傷病者一人を残りのみんなで助けるというやや複雑なシミュレーションへ。
 
手作りブランコから落ちての頭部外傷による意識障害+腹部強打による腹腔内出血(ショック)、首吊り企図による低酸素心停止の一歩手前状態、斜面での転倒で足関節骨折と手首の切創、キノコによるアナフィラキシー。

ウィルダネス・ファーストエイド。足関節の固定  アウトドアで役立つ野外救急法実践訓練

 
なにが問題か? その優先順位は?
 
処置をするまえにはアセスメントが必要です。足が変形しているからといって、条件反射的に固定をするのは間違い。他にもっと重篤な問題が隠れているかもしれないからです。
 
特に、山の中では不安定な状態で倒れている事がよくあります。斜面に頭を下向き、しかもうつ伏せで倒れていて、背中には大きなザックを背負っている、といったような。
 
楽な姿勢ではありませんし、危険。全身観察も出来ませんから。どうにか移動するべきですが、受傷機転を聞いて、脊椎損傷の可能性を考慮した上で、動かすか動かさないか、また、動かすならどう動かすかを決めなければなりません。
 
それは、その時の気温や天候、日没までの時間、安全な場所までの距離、その場にいる救助者の人数、装備品、倒れている場所の様子などによって、一定しません。
 
つまり原則を理解した上で、その応用はその都度考えるしかないのです。
 
これが野外環境下でなるべくリアルにシミュレーションすることの意義です。
 
つまり、ファーストエイドの実践には、こうした想定訓練とその反復が必須。そしてその実践練習の前段階として、ファーストエイドの原理・原則を理解する基礎講習が必要。
 
これが使える救急法を身につけるためのセオリーなんじゃないかと思います。
 
実は今回のイベントは、企画講習というよりは、ウィルダネス・ファーストエイドを着実に身に着けたいと考える人たちの自主訓練・自主トレーニングでした。
 
公認講習等で原理原則を学べば、あとは応用あるのみ。自分たちの手でスキルアップをしていけるのです。そんな学びの良い流れが屋外救急法分野では確立しつつあります。
 
このことが、野外救急法にかぎらず、使える救急法を身に着けたいと考えるすべての人のヒントになると幸いです。
 
 
 

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