先日、とある消防団から依頼を受けて「心肺蘇生法の仕組みを理解する」というテーマでワークショップを開催させていただきました。
BLS横浜で12月に開催して同名無料セミナーに参加してくださった方が、ぜひうちの団員にも、ということで実現した企画です。
消防団の皆さんは、日頃から消防の応急手当普及員、応急手当指導員として心肺蘇生法の普及に務めています。受講者さんから質問に自信を持って答える糧になれば、ということで、日頃あまり語られることのない蘇生法の背後にあるサイエンスについて考えていただく機会としてみました。
参加者15名。皆さん、熱心にメモを取りながらの3時間でした。
消防団の皆さんは、総務省消防庁の枠組みの中で活動しています。消防の普通救命講習/上級救命講習の修了証は東京なら消防総監の名前で発行される、この業界では珍しい公的資格の一種です。
消防の講習は日本版ガイドラインを元にして作られた救急蘇生法の指針にもとづいて、策定されています。さらに具体的な指導法は、東京消防庁の然るべき部署から出された指導要録に従って指導されています。
なにもこれは消防講習に限った話ではないのですが、現場のインストラクターの立場からすると組織の上から通達された仕方に従って指導を行なっているのが現状です。その指導の中には、蘇生科学に基づいた重要なポイントもあれば、指導をしやすくするために考案した団体独自のやり方もあり、それらが渾然一体としているのが団体公認講習です。
不慣れな人を指導する上では、曖昧さがなく、きっちりと型を決めたほうが教える方も教わる方もやりやすい。それは事実です。しかし、作法が多すぎると、大事なポイントがぶれてしまう欠点もあります。
そこで指導員は、外してはいけない大事なポイントと、それほど強調しなくてもいいポイントを明確に理解しておく必要があります。つまり教える内容のウェイトを考えるということです。
なにが大事なポイントか? それは蘇生科学に根ざした根拠のあることに他なりません。
例を挙げれば、胸骨圧迫の時、肘を伸ばすことは本質ではありません。
「少なくとも5センチの深さで押せている」のが大事であって、きちんと押せているのであれば、肘が曲がっていようと、それは必ずしも修正するべき問題ではないのです。
そんな日頃皆さんが指導している上で、なぜ、そう指導しているのか? 本質的には何を目指してそう指導を行なっているのか? そんな点を考えてもらうことを目指してディスカッション形式でワークショップを進めました。
今回のワークショップのハイライトは、「ガイドライン2010時代のAED指導はどう変わるか?」というテーマだったんじゃないでしょうか?
これは、どこで話しても皆さん戸惑うポイントです。(AHAインストラクターの集まりで話をしたときも同じ反応でした)
今回、参加の皆さんには、まずAED指導で大事なポイントを3つ挙げてもらいました。
恐らく、現行の救命講習ではAEDに関して、かなり盛りだくさんな内容を教えているはず。その中でも特に大切なポイントを3つ。
そして、その3つのポイントは確実に受講者に伝わっているか? を考えてもらいました。結局、講習が終わってから受講者の中に残っているものはなんでしょう? という点です。
これは想像でしかありませんが、意外と「胸毛が濃い場合はパッドごと引き剥がす」がいちばん印象深く残ったりするんですよね。
そんなふうに大事だと考えるポイントが、日頃の指導の中で本当に強調して指導できているかを、各自で考えてもらいました。
この点、AHAの市民向け公認講習(ハートセイバーCPR AEDコースならびにファミリー&フレンズCPR)では、驚くべき英断をしています。
簡単にいえば、AED操作法は「教えない」「練習させない」という方策に打って出たのです。
これだけを聞くと、びっくりで「あり得ない!」という反応かもしれません。しかし、「自分たちでも考えている大事なポイントを受講者は確実に持って帰っているか?」を自問自答したときに、きっとAHAのやり方の意味と妥当性は理解いただけたのではないかと思います。
だからといって、AHA式にAEDを教えないことを推奨しているわけではありません。消防は消防の基準に則って動いているのですから。教えるべきことは教える。でもそのウェイトの置き方という点で、参考になれば幸いです、というのが私たちのスタンスです。
私たちが伝えたいのは、「考える蘇生」です。
市民救助者の行動レベルでは、条件反射でもいいと思いますし、その方がいいと思います。しかし指導員たるもの、その背後にあるものの意味を考えて、なにをどう伝えたらいいのか、判断できるようであってほしいと思っています。
それは必須スキルではないかもしれません。しかし、ステップアップしたいと願う救命法指導員さんには、数少ない学びの場として、私たちは所属団体に縛られない蘇生科学に根ざした学びの場を提供して行きたいと思っています。
ということで、こうした指導員のための勉強会を希望される方は、気軽にご連絡ください。
すでに都内の医大からの依頼セミナーが決まっており、春先には関西の医療系学生サークルからの打診もいただいています。