台風が通り過ぎていった今日、横浜で「PEARSフォローアップセミナー」でした。
AHA-PEARSプロバイダーコースを修了した人たちを対象とした勉強会。
PEARSの体系的アプローチを臨床で活用するために、シミュレーションで経験値を上げる目的で開催しました。
PEARSを受講したトレーニングサイト/トレーニングセンターは不問の公募講習だったため、BLS横浜での修了生以外からもご参加いただけました。
当初は、医師への報告と指示受け、介入のシミュレーションをひたすら繰り返す展開にしようとも思っていましたが、「呼吸障害とショックの理解」へのニーズが高いことに気づき、前半でこの部分に時間をかけました。
PEARSは思考を養うプログラム ー 理解が重要
PEARSプロバイダーコースは、BLSやACLSとは違って、アルゴリズムで機械的に動くことを教える研修ではありません。
白黒つけがたい事象にどう立ち向かっていくという、「思考」を養うプログラムです。
そのためには病態の理解は欠かせません。
テキストにはいちおう説明は書されているのですが、非常に端的にコンパクトにまとまって書かれているため、サラッと読み過ごしてしまって、きちんと腑に落ちる形で理解できるかというとなかなか難しいものがあります。
講習中は非常にタイトな時間枠で進むため、理解は事前学習で求める部分であり、講習会場でフォローアップするのは困難です。
例えば、
・呼気喘鳴と呼気延長はなぜ起きる? なぜそれが下気道閉塞の兆候なの?
・なぜ上気道閉塞では吸気時喘鳴が起きるの?
・循環の評価で、脈拍の触れを中枢と抹消の2箇所で確認するのはなぜ?
・呻吟はなぜ起きる?
・ショックで橈骨動脈の触れが弱くなるのはなぜ?
・血液分布異常性ショックでは手が温かいことがあるのはなぜ?
・神経学的評価で、瞳孔径と対光反射、血糖を測定して、それをどう活用する?
などなど。
今回のフォローアップセミナーでは、こうした「なぜ?」をじっくり掘り下げて考えてみました。
例えば、小児の肺組織病変(肺炎など)を判定するポイントとして出てくる「呻吟(しんぎん)」。
テキストには、
呻吟は小児が声帯が半ば閉じた状態で息を吐いた結果生じる。呻吟することで気道内圧が上昇して末梢気道や肺胞を開いた状態に保つことができる。酸素化や換気を改善するための努力なのである。
PEARSプロバイダーマニュアル p.32
と書かれています。
これを見て、なるほど! と合点できる受講者は多くはありません。
このことを理解するためには、肺組織病変(肺炎)によって、肺胞周囲がどのような状態に陥ってしまっているのかイメージできていなければなりません。
肺実質(つまり肺胞周囲)が炎症を起こして水っぽくなって、肺胞から完全に空気が抜けて虚脱すると、ぺたっと張り付いてしまって、表面張力で張り付いて、次の吸気時に開きにくくなって呼吸がしにくくなる。
それがわかっていれば、テキストの言葉も理解できるかもしれません。
しかし、さらには、炎症を起こすとどうして水っぽくなるのか? という炎症の病理を理解していないと、これも難しいかもしれません。
そこまで基礎の基礎に立ち返って説明している時間はありません。かといって、テキストを読むだけの事前学習では到底フォローできないこの部分。
実はBLS横浜のPEARSプロバイダーコースでは、この部分もある程度解説はしているのですが、日頃の講習の中ではあまり時間を割けないという事情もあり、悩ましいところでもありました。
今回、このあたりを時間をかけてディスカッションすることができ、これはこれで、PEARSとは切り分けた「生命危機の病態生理」というテーマの対話型セミナーにしてもいいのかもしれないと感じました。
参加者の声として、きちんと病態生理に立ち返って学べる意義という点はいくつも聞かれたことから、今後、検討していきたいと思っています。
SBARの論理構造を理解すると違う
体系的アプローチのシミュレーションに関しては、日頃のPEARSでも「報告」にフォーカスを当てているのですが、報告ツールSBARについては、もともとはAHA教材の守備範囲でないため、それほど時間をかけた解説や練習はしていません。
そこを、今回は、第一印象による介入から導入してみました。
バックグラウンド(B)で何を伝えるのか、この言葉尻からだとわかりにくいのですが、SBARの論理構造を理解すれば、スッキリ明快です。(このあたりの話は ブログの過去記事 で詳しく書きました)
そうしてやってみると、感じるのは、SBARは報告ツールであると同時に、思考ツールであるという点です。
報告して医師に何をしてもらいたい、どんな指示をしてほしいという点が明確になりますので、手順に従って漫然とアセスメントをするのではなく、意図をもったアセスメントになるのです。
PEARSプロバイダーコースは、もともとがかなり盛りだくさんな内容。
こうしたフォローアップセミナー以外にも、PEARSの事前学習会のようなものも企画して、この価値ある学びを形にするためのサポートはもっと積極的に行っていく意義がある、そんなことを感じた勉強会でした。