今日は横浜で BLSプロバイダーコース でした。
受講者さんから質問があったのは、胸骨圧迫の深さについて。
BLSプロバイダーコースでは、基本的には成人傷病者の胸骨圧迫は「少なくとも5cm」と教えています。
大人であっても体格差はあるし、実際のところどうなのか? というのが質問の趣旨。
体格差があっても5cmでいいの?
このことを考える上で大切なのは、BLS はあくまでも Basic なレベルであるという点です。
標準化されている、つまりなるべく幅広く適応できるように平均化されたものであるという点を理解しておく必要があります。最大公約数的にこうしておけばいいんじゃない? という程度にまとめられています。
体重何キロ以上だと深さ何センチで、何キロ未満だったらどれくらい、という区分もできるのかもしれませんが、あえてそのようにはしていません。
BLSレベルでは、そのような細かなカスタマイズは期待されていない、とも言えます。
とりあえずは細かいことは考えずに、言われたとおりにやってくれればいい、というのが本質的なコンセプトです。シンプル化が優先。
胸骨圧迫の目的は冠動脈灌流圧を15mmHg以上に保つこと
しかし、体格差などの個別性に着目するのも大事です。ACLSプロバイダーコース では、そこも含めて学びます。
そもそも胸骨圧迫の目的は何なのでしょうか?
血流を生み出すため、です。
特に冠動脈灌流圧が心拍再開と相関していますので、第一義的には、冠動脈灌流圧を 15mmHg より高いレベルに保つのが、質の高い胸骨圧迫の要件となります。
そのための平均的な指標が、
- 少なくとも5cmの深さ
- 100〜120回/分のテンポ
- 胸壁を完全にもとに戻す(リコイル)
- 胸骨圧迫の中断を最小限に
というわけですが、上記は絶対的なものではなく、数字に関してはあくまでも平均的な指標です。
いま目の前でCPRを受けている傷病者にとって、本当にそれでいいのかどうかは、結局のところ蘇生中に冠動脈灌流圧を測ってみなければわかりません。
しかし、現実問題、冠動脈の血圧なんて測れない! そこで、ACLSプロバイダーコースの中では、冠動脈灌流圧が15mmHgに達していることを類推するための代理指標という考え方が出てきます。
冠動脈灌流圧 15mmHg の代理指標
- 大動脈拡張期圧 20mmHg
- 呼気終末二酸化炭素分圧 10mmHg
血圧のうち、拡張期圧が冠動脈灌流圧と相関することがわかっています。そこで A-Line の拡張期圧が 20mmHg あれば、冠動脈灌流圧も 15mmHg はあるだろうと考えられます。
また蘇生中の二酸化炭素排出量は循環に依存しています。そこで呼気中のCO2の値が10mmHg を超えていれば十分な灌流があると考えられるのではないか?
このように質の高い胸骨圧迫を、5センチとか100〜120回とかで判断するだけではなく、きちんと定量的にコントロールしていこうというのが二次救命処置の考え方です。
BLSインストラクターなら知っておきたいACLS
このあたりのことは、二次救命処置に関わる人以外であっても、BLSインストラクターは知っておいてもいいかもしれません。
一般にACLSプロバイダーコースは医師・看護師・救急救命士など、二次救命処置に携わる人以外は受講対象となっていませんが、BLSを教える立場の人であれば、学ぶ価値・意味はあるのではないかと考えています。