先週の金曜日、「ターニケット(止血帯)&血液媒介病原体」講習と題したオリジナル講習を開催しました。
この4月から、日本の救急法の中でも市民に向けて軍用ターニケットの指導が始まるということで、それに先駆けてファーストエイド指導員クラスの方たちと止血帯教育の課題と展望を考えようという企画。
当初はBLS横浜の単独企画でしたが、開催の直前にオファーがあり、外部からターニケットの専門家2名を迎えて、10名の参加者の皆様と有意義な時間を作ることができました。
今回、サポートに来てくださったのはフランス陸軍で衛生兵として活躍されていた野田力さん。
ご自身のフランス軍での体験で著書もある有名な方です。Twitter(@NODA_Liki)でも情報発信されていて、日本国内でもターニケット講習や保安関係者向けの戦闘救護研修を開催しています。
もうお一人は米軍でファーストエイドなどの訓練教官をされている方。
フランス軍とアメリカ軍の立場から、お二人に戦場でのターニケットの使われ方や、戦地での状況をお話いただきました。
軍における止血帯を考える上では、止血帯で緊急止血をした後の衛生兵や軍医による2次治療と、その後の後方搬送のシステムがあってこそのもの、その救護システムの一部としてのターニケットの位置づけというのが見えてきます。
また「緊急」止血帯ということで、戦闘服の外にすぐ取れる位置に2つのターニケットを個人装備として常備しているということも、前提条件として重要な部分です。
軍としてのターニケットの教え方と、民間での使い方と教え方の違いがリアルに浮き彫りになったと思います。
その他、日本国内で止血帯普及に携わる立場の方の参加も複数あり、団体ごとの国内展開の内情と現状の一端も知ることができました。
現時点、詳説できない非公開情報もあるため、具体的な言及は避けますが、米軍、仏軍での実際や、ターニケットの歴史、ファーストエイドガイドラインの推移、日本国内の情勢、ターニケットの国内流通経路、医学的な知見、アカデミック・ポジション、政治的な問題などを総合してくると、どうしても不自然に見える日本でのターニケット教育の急展開、「いきなり感」の背後にあるものが見えてきたように思います。
ターニケット自体の有用性は疑いはないと思っています。
少なくとも以前に教えられていたような三角巾と止血棒を使ったようなやり方とは比べ物にならないくらい現実的です。
しかし、止血帯の使い方を誰が学ぶべきなのか? が問題です。
誰が使うのかが定義されなければ、教育展開できません。
器具としてのターニケットの巻き方を教えるだけなら簡単。しかし、それを使用するという意思決定のプロセスを習得させるためには心肺蘇生法とは比べ物にならないくらいの高度な医学的な教育が必要となります。
ターニケットで止血したあとの対応を、「システム」として考えたときに、状況・目的がはっきりしない人たちには教える必要がないというか、教えようがない、というのが現時点での私たちの理解です。
最後に軍関係の方たちも含めてのある程度の共通意見として上がっていた危惧について紹介して締めたいと思います。
「ファッションとしてターニケットを持ち歩く人たち。止血帯以前に心肺蘇生法はできるんだろうか?」