ターニケット(止血帯)教育の課題

この4月から日本の市民向け救急法教育に止血帯(ターニケット)が導入されることが決まったことを受けて、BLS横浜では主に指導員相当の方を対象に止血帯に関する勉強会をなんどか開催してきました。

各方面で救命法指導に当たる方や軍関係者の方など多方面の方と意見交換を行ってきて見えてきた内容について書き留めておきます。

各回での皆様の意見で共通していたのは、

 
「なぜターニケットを教えることが決まったのかが、謎」
 

という点です。

教育団体の内部にいる方からしても、突然の決定指示で、それも性急な動きであり、組織内部でも理解がまったく追いついていないという現状を明かしてくれました。

AEDに関しては、あんなに慎重な動きがあったのに、AED以上に危険が大きく、誤使用のリスクが大きな医療行為なのに、ほとんど検討もないままトップダウンで降りてきたのは不思議というより不自然という印象を持つ方が多いようです。

このあたりはオフレコの内容も多かったので、詳述は避けますが、政治的な理由と国内販売事情が関係していると考えなければ、辻褄が合わないように思います。

教育によりリスクを減らすために

それでも日本で市民向けに教えることが決まってしまった以上、指導員としてはどのように教えていったら良いのかというのが次の課題となります。

この点は、消防庁が出している消防職員向けのターニケット教育に関する指針(テロ災害等の対応力向上としての止血に関する教育テキスト)が原典となっていくことになりそうですが、この文書はあくまでも消防職員向けです。

 

 

教育も責任も立場も、市民救助者とは一線を画するものですから、そのままでは使えません。

日本赤十字社の教本が4月にリリースされますが、その中で、これがどこまで市民向けにモディファイされているかが気になるところです。

ターニケットは簡単、と思われる講習は危険

BLS横浜でのターニケット関係の講習では、その使用判断の難しさと弊害、デメリットについてきちんとお伝えしています。

ターニケットを使えるようになりたいと思って来た方であっても、終了後には止血帯は怖くて使えない、とおっしゃるケースが多いです。

ターニケットは有用かもしれませんが、その使用判断は非常に重いもので、ターニケット止血は間違いなく人を痛めつける行為です。

確実に止血を得るくらいに締め付ければ激痛が走りますし、阻血痛は兵士であっても自ら勝手に解いてしまうくらいの痛みです。それでも心を鬼にして、締め付けなければならないという現状を理解してもらう必要があります。

締め上げることで、辞めてくれと叫ばれても続けることができるか?

そのためには、出血に関するアセスメントとターニケットが必要であるという判断と強い意志が必要です。

ターニケットを使うという選択肢を持っていることは、大型機械を扱う工場や、狩猟関係者、林業関係者など、職種によっては必要かと思います。しかし、そのテクニカルな使い方を知って「簡単じゃん」と思われるような講習展開であってはならないと考えます。

ターニケットは、AEDを含めこれまでの日本の救急法からしたら、ありえないほどのリスクをはらんだ危惧であり手法です。

その怖さをしっかり伝えて、それでも必要であると判断したときにはちゃんと使えるような講習であるべきです。

 
「教える側がそこまでわかっているならいいですけど、けっこう難しくないですか? わからない人が教える危険はないんですか?」
 

BLS横浜でのワークショップでは、そんな声も聞かれました。

おそらくカリキュラム的には、弊害やリスクについても説明するように書かれていることでしょうけど、「教えた」という指導員目線での事実ではなく、受講者にどう伝わったかが問題です。

今後、ターニケットに関する講習展開が始まったとき、受講者に怖さと覚悟が伝わっていないとするなら、大きな問題でしょう。

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