現実を考えたら、人工呼吸はやっぱりポケットマスク

子どもの心肺蘇生や、水辺の事故を考えたら、人工呼吸は必須で欠かすことのできないものです。

そのため保育園での救命講習では人工呼吸練習に重点を置いた講習展開をするのですが、そこで使うのは、ポケットマスクです。

(ポケットマスクはレールダル社の商品名で、正確には「一方向弁付きフェイスマスク」というのかも知れませんが、ここでは類似商品を含めて広義でポケットマスクと表記します。)

一般市民向けの講習では、人工呼吸はしなくても良いと教えることもあるようですが、業務対応としてはそれはNGです。

また、フェイスシールドを使った mouth to mouth 人工呼吸であっても、救助者の心的ハードルの高さや、傷病者の口周りがあまり綺麗ではない状況を考えると、業務対応としては厳しいものがあります。

業務対応の救護はあらかじめ備えておくものですから、「愛と勇気」に依存するところは極力低くして、リスクを減らして無理なくできる体制と準備をすることが重要です。

そこで、結論としては人工呼吸は、ポケットマスク+ニトリル手袋、しかないと考えます。

ポケットマスクに初めて触れた保育士さんは

最近では厚生労働省が推進する保育士等キャリアップ研修でも救命処置の指導をさせてもらっていますが、ポケットマスクを初めて使った保育士さんは、口々に「これならできる!」とおっしゃいます。

それまでは、フェイスシールドしか知らなかったから嫌でもやらなくちゃいけないと思っていたところが気持ちが軽くなったという感想を聞くこともあります。

実はフェイスシールド人工呼吸がいちばん難易度が高い

講習指導としては、例えば ハートセイバーCPR AEDコース では、一人一体のマネキンを用意していますので、ダイレクトな口対口人工呼吸から始めて、フェイスシールド人工呼吸、ポケットマスク人工呼吸まで練習してもらっています。

3つのやり方を比べて、皆さんが苦戦するのは、ダントツでフェイスシールド人工呼吸です。

シートのせいで口との密着が甘くなってしまうからで、市民向けのもっとも標準的なやり方が、実はいちばん難しかったということが露呈する場面です。

人工呼吸を着実に実施してもらうには簡単・安心のポケットマスク

ポケットマスクのいいところは、mouth to mouth に比べて簡単なだけではなく、感染防護具としてしっかりしているという点が大きいです。実際に人工呼吸をした人の体験談として、吹き込んだ後に傷病者の吐息を吸い込んでしまい、自分が気持ち悪くなってしまったという話をよく聞きます。

そうです。吹き込んだら、当然、相手の肺の中の空気が吐く息として戻ってくるわけで、これがマネキン相手の練習とは違う部分です。

蘇生練習のマネキンは感染対策として、吐息は口に戻らず、マネキン内部に排出されるような仕組みになっています(レールダルのリトルアンの場合)。

ですから、mouth to mouth の人工呼吸では、吹き込んだら、一度口を離さないと匂いの混じった吐息を吸い込んで、むせこむことになります。

この点、ポケットマスクは吹き込み口の部分が一方向弁になっていて、傷病者の吐息が自分の口元には来ないしくみになっています。

これは感染防護として重要な部分です。

蘇生中に傷病者が嘔吐するケースは珍しくありません。この場合も一方向弁が有効と言えるでしょう。さらに、より確実に感染防護を考えると、ポケットマスクに標準でついているニトリル手袋も必ず併用することが重要です。

その他、傷病者の顔と自分の顔の間に距離をおけるというのも心理的な安心度が大きいと言えます。

なぜ日本の救命講習ではポケットマスク人工呼吸を教えないのか?

このような現実問題を考えた時に、業務対応の救護では、フェイスシールドのような雑貨ではなく、きちんとした感染防護具を備えておくのが望ましいわけですが、日本国内でポケットマスク人工呼吸を学べる場所・機会はほとんどありません。

ここが大きな問題です。

なぜポケットマスクを教える救命講習がほとんどないのか?

そもそも人工呼吸の重要性があまり認識されていないということもあるかもしれませんし、単純にポケットマスクという感染防具の存在を知らない人が多いということもあるでしょう。

しかし、救命法の指導員ともなれば、ポケットマスクの存在を知らないことはないでしょう。そしてその有用性も知っているに違いありません。

そうであっても指導に盛り込めないとすると、それはおそらくコストの問題があるのでしょう。

ポケットマスクは1つあたり4,000円程。

それを受講者人数分そろえると、例えば30人なら12万円。

練習用なら洗浄・消毒をして再利用は可能ですが、初期投資としてはバカにならない金額です。

しかし業務スキルを教える講習であれば市民向け講習とは違うわけで決してケチってはいけない部分です。

この問題は業務プロバイダー向け研修が法的にも規定されている米国でも切実。そこでアメリカでは交換用のポケットマスクをのバルブが安く手に入るようになっています。

例えばこんな感じです。

これはポケットマスクの交換用の一方向弁100個。

定価は1つあたり1.25ドル。

フェイスシールドと同じくらいの価格です。

これを人数分だけ用意しておけば、マスクの数はマネキンと同数だけで済むというのが現実的な運用法です。

残念ながら、ポケットマスク人工呼吸法がまったくもって浸透していないので、日本国内ではなかなか流通していません。

そこで、BLS横浜では米国から輸入しています。

輸入なので送料等でかなり割高になるため、実際の運用のうえでは洗浄・消毒の上で繰り返し使用していますが、そのおかげで医療系大学でのBLS演習や保育士キャリアアップ研修など、参加者数が100名を超える研修でも現実的なトレーニングが実施できています。

BLS横浜では、善意の救護のためのトレーニングと、業務対応としての救護トレーニングを明確に区別していますが、その違いの一つがポケットマスク人工呼吸を教えるかどうかです。

家族を救護するのに、感染防護という意味ではポケットマスクは不要でしょう。しかし、業務救護では少しでも不安要素を軽減させた実践トレーニングが必要なのです。

一言で心肺蘇生法講習といっても、それがプロユースに対応しているかどうかの違い。それを指導者側も吟味すべき部分です。

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