意識・呼吸がある人には、AEDを使わない

ファーストエイド講習や、エピペン講習のシミュレーションでしばしば見受けられる場面ですが、「あなた119番! あなたAED!」というお決まりの台詞のあと、AEDが到着すると、苦しがっている模擬傷病者に対して、「念のためAEDを貼っておきましょう」という方向になりがちです。

心肺蘇生法講習の弊害というと言いすぎでしょうか? 

AEDを持ってきたら、相手がどんな状態であろうと、パッドを貼らずにはいられない条件反射に陥っているように思います。

AEDは心肺停止を確認した人にだけ装着する

2004年7月以降始まった日本でのAED講習、そこではAEDを装着する条件というのが教えられていたはずですが、いつしか心肺蘇生法講習といえばAED講習というくらいにあたりまえになった反面、AEDという機械の使用目的や、その特殊性への意識が薄れているように感じます。

AEDは、心肺停止の人に対して装着するように設計されている機械です。

救命講習を思い出してみてください。

AEDが現場に到着したときは、すでに胸骨圧迫が行われていたはずです。これが本来のあり方。

逆に言えば、胸骨圧迫を行う必要がない人には、AEDを貼る必要もないということです。

AEDは心停止の判断はできない

こう言うと驚かれるかもしれませんが、AEDは傷病者が心肺停止かどうかを判断することはできません。

AEDが解析しているのは、心電図で、傷病者が心停止であるという前提の下で、電気ショック(除細動)が必要な心停止か、それとも電気ショックが無効な心停止かを判断しているに過ぎないのです。

例えば心室細動というタイプの心電図波形(不整脈)であれば=心停止といえますが、心室頻拍という不整脈の場合は、心停止の場合もあれば、血圧が保てていて意識がはっきりしている場合もありますが、この違いをAEDは判断できません。

そのため、AEDは、その装着条件として、下記のように決められているのです。

AEDの添付文書

本装置を使用する前に、患者が以下の状態であることを確認してください。
1) 意識がない
2) 普段どおりの呼吸をしていない
3) 脈がない(熟練救助者のみ)

(中略)

非常にまれですが、除細動が不要と思われる心電図を除細動適応と判断することがあります。

AED誤動作のリスク

除細動が不要と思われる心電図をショック適応と判断してしまうというのは、機械の設計上、仕方ない部分です。

簡単にいうと、AEDは一例として心拍数180回以上で、Wide QRS(幅の広いQRS) という判定をもって心室頻拍(VT)を検出しますので、脈アリVT以外でも、例えば「脚ブロックがある発作性上室性頻拍」でも、ショック適応と誤判断する可能性があります。

このリスクを低減させる条件として、「反応なし+呼吸なし」など、心停止を確認した人だけに装着してください、という仕様となっているわけです。

これは極めてまれなケースとされていますが、胸がドキドキする、などの心臓の不調を訴える人がいて、その場にAEDがあったら装着されてしまう可能性は、今の日本社会通年の中では、現実としてありえる話です。

現実、そのようなケースが発生したことが日本でも2018年に報告されています。

症例報告:意識がある人にAEDで除細動をしたケース

意識があるのにAED?!

女子高校生が体育の授業中、動悸を訴えて保健室へ。

養護教諭は119番とAED手配をし、救急車を待つ間、会話が可能な状態だった本人の同意を得てAEDパッドを装着。

心電図解析をすると「ショックの適応です。患者から離れてください。ショックボタンを押してください」との音声アナウンスが流れた。

女子高生は不安そうに「先生、ショックされると私は痛いのかな?」と。

養護教諭は迷った末、「救命講習の時とは状況が違うけれども、AEDがショック適応です、とメッセージを発している以上、躊躇してはいけない、勇気をもってショックボタンを押そう」と考え、除細動を実行した。

 

 

電気ショック後の詳細は記されていませんが、心電図記録にショック直後から胸骨圧迫が開始されたということが記されていますから、除細動によって意識を消失したのかもしれません。

救急隊員が『ショックボタンを押されたらドカンと衝撃がきた』という言葉を聞いたことが記されていますので、その後、程なくして意識は戻ったのでしょう。

心電図記録上では、除細動のショック後も発作性上室性頻拍は続いていましたが、病院到着時にはそれが自然消失しており、循環動態には問題はなかったということです。

不要な除細動、逆に心停止にさせてしまうリスク

このケースでは、たまたま何ごともなく「ドカンと衝撃を受けた」だけで済みましたが、二次救命処置 ACLS を勉強している人はご存知のとおり、発作性上室頻拍に対して非同期の除細動を掛けると、R on T によって心室細動を引き起こすリスクがあります。つまり生きている人間を心停止にさせてしまう危険がありました。

前述の報告書の中では、

「一般人に指導する際には、「AEDはあくまでも意識を消失した人に対して装着すべきもの」であることを強調しておくことが重要である。」

と結論づけています。

立場に合わせて教育精度を再考する時期に入っているのではないか?

これまでの救命講習は、救助行動の着手に重きを置き、細かいことはともかくAEDを使ってほしい、というスタンスが強く進められてきました。

そのため、ここでAEDの危険を書いたり、

明らかに意識がある人にはAEDは使わない。

というと、AED普及を阻害するといって反対される方もいるかもしれません。

しかし、これだけAEDが広まり、人が倒れたらAEDということが常識的になったこの時代、敷居を下げるために簡略化する方向性もそろそろ見直していいのではないかと考えます。

特に養護教諭のように、心停止ありきではなく、日頃から応急手当に関わる立場の人には一般市民向けの便宜優先よりは、やや原理原則寄りの教育スタンスでいてもいいのではないでしょうか?

この養護教諭の心の葛藤もわかりますが、心停止ありきのAED講習ではなく、非心停止対応も包括したファーストエイド教育の中できちんとAEDの位置づけを学んでいれば、これとは違った判断ができたかもしれません。

救急対応といえば心停止ばかりと思ってしまうのが、心肺蘇生法しか知らない人。しかし、養護教諭はそうではないはず。

リスクを低く見積もるよりは、オーバートリアージのほうがいいとは思いますが、それは現場判断の話。教育としては、養護教諭向けにはもうちょっと踏み込んだものがあってもよかったように思います。

日頃、応急処置を業務としている養護教諭であれば。

 
 

とりあえず、本来のプロトコル(お約束)を一般市民向けに、強いて簡略化するなら、下記のようにするとまだ誤差は少ないはずです。

迷ったらAED、ではなく、まずは胸骨圧迫!

それでも痛がる素振りが見られなければ、AED。

タイトルとURLをコピーしました