服をはだけずにAEDパッドを貼れるか?

女性へのAED使用率が低いとの京都大学の研究結果が報道されたせいか、今年はAED装着時のプライバシー保護に関する話題が多かったように思います。

この点は、救命法の指導員の間では昔から変わらず出てくる鉄板ネタのような話題で、服は完全に脱がさずに、襟元や裾からパッドを差し入れて貼ればいいという意見は昔からありました。

救命法の指導員の中には、実際にやってみてちゃんとできたとおっしゃる方もいますが、BLS横浜としては、このやり方は懐疑的に捉えています。

なぜかといえば、下の写真をご覧ください。

服の隙間からAEDのパッドを装着できるか?

練習パッドと本物のパッドの違い

本物のAEDパッドは粘着成分層が厚く重量感がありますから、手に取るとこのようにたわみます。

この質感は、パリッとした水平性を保つ練習用パッドとは違うと思いませんか?

そして、練習パットと違って、粘着度はかなり強力です。以前は胸毛を粘着でむしり取ると言われていたくらいです。(実際はそんなきれいには抜けませんのであまり実用的な方法ではありませんが)

質感のイメージは、湿布薬に近いかもしれません。

服を来たまま襟元から湿布を自分の肩に貼ろうとして、失敗したことありませんか?

湿布のシートが折れ曲がって粘着面同士がくっついてしまったり、服に貼り付いてうまく伸ばせなかったりしますよね。

あそこまでペラペラではありませんが、それに近いような難しさがあります。

ダブダブのゆったりとした服ならうまくできるかもしれませんが、うまく行ったらラッキーくらいに思ったほうがいい不確実な方法です。

貼り損じたらどうなるか?

もし、失敗して服に貼り付いてしまったらどうなるか?

剥がして貼り直せばいいかもしれません。しかし粘着面には衣類の毛羽立った繊維がたくさん貼り付きます。これらは電気抵抗になりますし、繊維や毛玉などで微細な隙間ができてしまうと、その間に火花が飛んだり、発熱の要因となります。

もしパッドの粘着面同士が貼り付いてしまったら?

強力な粘着面、剥がすのは困難ですし、粘着成分にムラができることで、効率低下の懸念があります。

なにより、パッドが使えなくなってしまったら、予備パッドが入っているとは限りませんし、最近は最初からコネクタが接続されている機種が増えていますから、付け替えというイレギュラーなアクションがスムーズにできるかという問題があります。

生きるか死ぬかの瀬戸際であることを忘れてはいけない

AEDパッド装着時に女性の胸元をはだけてしまっていいのか? という羞恥心やプライバシーといった人権への配慮は大切なこと、前向きな議論に見えますが、はたしてそうでしょうか?

そもそもAEDを装着するのは「心停止」が前提です。

つまりAEDを装着する場面は、命の瀬戸際で生きるか死ぬかの問題に直面しているわけです。

そんなときに、死にかけている意識がない人の羞恥心への配慮と、着実・確実に救命処置を行うことを、天秤にかけるような問題でしょうか? 

意識がない死にかけている当事者は何を望んでいるのでしょうか?

そう考えると、AED装着時に羞恥心に配慮するというべきか? という命題自体が、あまりに他人目線で空想的なバカバカしいものに思えてきます。

不慣れだからこそ、確実性を

襟や裾の隙間からAEDパッドを貼るように教えるのであれば、実際に練習してもらう必要があると考えます。それも練習用パッドではなくホンモノを使って。

ただのAED講習でさえ、慌ててうまくできない人がいる中、襟元から貼るようにと難易度が高いやり方を指導するのであれば、説明だけではなく練習をさせなければ指導員としては無責任でしょう。

実際のところ、受講者からはよく質問されます。女性でも服を切って完全に胸を露出させてしまっていいんですか? と。

そんなとき、指導員は、「いいんです。そうしてください。」と自信を持って答えるべきです。

しかし指導員自身が、そこを不安に思っているから、服の隙間から貼ればいい、などと無責任なことを言ってお茶を濁している部分はないでしょうか?

医療従事者向けの教育ならいざしらず、不慣れな一般の方に教えるのであれば、確実堅実なやり方、つまり服ははだけるか、引きちぎるか、ハサミで切るなどして、確実に貼付部を露出させて貼るという原則通りのことを自信を持って指導するべきでしょう。


先日、「AED 対女性使用率向上を 体覆う特製シート考案」というニュースが流れました。(大阪日日新聞2019年10月17日)

AEDをためらわずに使ってほしい、という前向きな取り組みに見えますが、逆を言えば、救命処置よりもプライバシー保護が優先であるという世論の形成をさせることにもなり、救命法の普及という点でいえば全体的にはマイナスに働く懸念もあります。

傷病者の人権への配慮もあってしかるべきですが、業務対応する医療従事者ならいざしらず、それらを一般市民に求める風潮は好ましいとは考えません。

むしろ、緊急事態なんだから羞恥心なんて言ってる場合じゃない! というコンセンサスを形成するほうが健全なのではないでしょうか?

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