ここのところ連日、新型コロナウイルス感染症患者への蘇生法を解説していますが、最後は二次救命処置 ACLS です。
情報ソースは2020年4月9日付で、アメリカ心臓協会のジャーナル Circulation に掲載された Interim Guidance for Basic and Advanced Life Support in Adults, Children, and Neonates With Suspected or Confirmed COVID-19 になります。
新型コロナウイルス感染症患者へのACLSの変更点
COVID-19患者ならびに疑い者向けに改定されたACLS心停止アルゴリズムは下記のとおりです。
黄色いボックスが追加された他、太字で下線がついた箇所が変更された部分です。
日本語はBLS横浜の独自翻訳です。AHA公式のものではありませんが、AHA公式日本語版がでるまでは、高解像度で印刷可能なPDFファイルもダウンロードできるようにしておきます。
COVID-19が疑われる/確定した患者に対するACLS心停止アルゴリズム
気管挿管の優先度が上がった
Prioritize oxygenation and ventilation strategies with lower aerosolization risk.
新型コロナウイルス感染症対策として、ACLS変更の最大のポイントは、気管挿管を優先するようになった、という点でしょう。
もともとACLSにおいては、バッグマスク換気が有効に行えていれば、気管挿管は急がないというスタンスでしたが、準備でき次第、カフ付きの気管チューブで気道を密封することを推奨しています。
なるべく早く閉鎖回路内での呼吸にすることで飛沫リスクを減らそうということです。
これまでは、蘇生中に挿管するとしてできるだけ胸骨圧迫を中断しないようにという点が強調されていましたが、今回は逆に「挿管のために胸骨圧迫を止める」ことが明示されています。
胸骨圧迫を続けたら、圧迫によって口から呼気が吐き出されて飛沫感染のリスクが高いというのは想像に難くありません。
気道のシール性でいったら、カフ付きの気管チューブが望ましいわけですが、挿管困難が予想される場合などは、声門上器具(ラリンジアルマスク等)も含めて、1発で決まるような器材を選ぶようにと書かれている点も興味深いです。
その他、HEPAフィルターをつける等、回路の閉鎖性とフィルタリングについても注意喚起されています。
蘇生に関わる人数を制限する
COVID-19患者の蘇生に携わる人は感染リスクにさらされているわけですから、その人数は少ないに越したことはありません。
そこで Lucas や AutoPulse のような機械的胸郭圧迫装置(MCCD:mechanical chest compression device)の積極的な使用を考慮するように書かれています。
本当に蘇生を開始するのか? 続けるのか?
Consider the appropriateness of starting and continuing
ということで、蘇生の開始と継続の適切性を検討するようにと言われています。
ステートメントの中で言われているのは、
- 蘇生活動によって他の患者へのケアが手薄となる
- COVID-19患者の心停止の転帰はまだ不明であるが、重症のCOVID-19患者の死亡率は高く、年齢や基礎疾患、特に心血管疾患の増加に伴って死亡率は増加する
そこで、COVID-19患者の蘇生の適切性を判断する際には、患者の状態だけではなく、他の患者へのリソース配分も考えるようにと記されています。
その他
上記の新しいアルゴリズムを見ると、抗不整脈薬としてアミオダロン以外にリドカインが載っている点も、皆さんのお手元にあるACLSプロバイダーマニュアルG2015とは違っている部分です。
ただ、これは COVID-19 患者だから、というわけではなく、2018年のACLSガイドラインアップデートで変更された部分です。
G2015以降は、AHA と ILCOR は5年毎の改定をやめて、その都度の小改定を繰り返す方針に転換しました。(日本のJRCガイドラインは従来どおり5年毎の改定としています)
2018年のACLSガイドライン変更については、下記のブログ記事をご参照ください。
→ AHA ACLS/PALSガイドライン2018アップデート
その他、COVID-19対策としてのBLSアルゴリズムと市民向け Hands only CPR に関する変更点の解説は下記記事をご参照ください。